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うちの子は反抗期ですか?
うちの子は反抗期ですか? 2
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びっくりした。
気付いたら、TOKYOシティ(笑)へ帰る車の中だったからだ。
あの日から、なっちゃんは私の前に姿を見せなかった。
怒られると思って逃げているのだろうか。いやいや、怒ってないよ。ただ、びっくりしちゃっただけだよ。わかるわかる。キスとか興味を持つ時期よね。まあ、この体にとってはファーストキスだったけど。
──まあ、こども同士の唇の接触がキスかと言われたら、ね、うん。
また会ったら、怒ってないよって言うつもりだった……いや。やっぱり、何事も無かった風に誤魔化しちゃうかなぁ。まあ、もう車に乗ってしまって、なっちゃんとの夏の時間は終わってしまったんだけれど。
FMラジオから流れるヒット曲メドレーと、高速の渋滞情報を流し聞きしながら目を閉じた。
なっちゃんと知り合ってから、もう何年も経ったのに今更気付いてしまった。今までなっちゃんと毎日会えてたのは、なっちゃんが追いかけてきてくれていたからだということに。
どこにいてもすぐ現れたから行動範囲が似てるのかと思ってたけど、ここまで全然会わないとは思わなかった。
──なんだかんだ、いつも隣にいた子がいないのは寂しいものだった。
今年の夏の終わりは充実感じゃなく、少し物足りない気分だ。
とにもかくにも、大ちゃんを見つけた夏はこんな感じで幕を閉じた。
*
季節はめぐり、また夏になった。
いよいよ私も中学三年生。受験戦争の前線に送り込まれる歳になった。
そして予定通り、今年の夏はTOKYOシティ(笑)で始まった。
せっかくの都会でのサマータイム。でもでも私は夏期講習。朝から晩までコンクリートの入れ物に閉じこもっている。こんなに不健全な夏があっていいのだろうか。
ただ今の時刻は夏期講習終わりの二一時過ぎ。
今日は疲れた。ホントニツカレタ。体と頭は疲れているのに楽しみ足りない気分が続いている。
ふっふっふ。しかし!でも、でも、でも!
今日は! 帰り道のコンビニで買ってきた新製品の炭酸ジュースがあるのだ!
説明しよう。我が家はほんのり健康志向な家庭なのだ。厳格な決まりでは無いが、家の中では甘い清涼飲料水や菓子類が禁止なのである。過去のおやつはサツマイモだったり、ミカンだったりした。現代社会を生きる子どもがそれで満足すると思っているのだろうか。笑止千万。笑わせてくれる。
私の人生において、現代社会に流通しているものとは適度な距離感で付き合っていきたい(平たく言えば、お菓子などを普通に楽しみたい。禁止されると余計に気になる)私は知恵を絞った。──そう、家の裏手にある公園でサッと飲んでしまい証拠は隠滅して何食わぬ顔で帰宅。ブラボー。ミッションコンプリート。完全犯罪である。
既に何度か成功している隠密行為を今宵も決行するべく、もはや私のベンチと化していた場所に向かった。
が、今日は先客がいた。
隠密行動中の私は先客に気取られないように身を潜め、二度見した。いや、三度見かもしれない。
なんと、高校の制服を着て……タバコを吸っているではないか!
けしからん!
しかも、その制服は私の志望校である中央学院(小中高大院までの一貫校。私立。学費も学力も制服代も高い)のものではないか!
益々けしからん!
私の夏を奪いし悪の組織(志望校)の手先(生徒)め!
その面、拝んでくれるわ!!
と、物陰からこっそりのぞき込むと
タバコを物憂げにふかす不良のお坊ちゃんは、去年からまた少し大人に近づいた大ちゃんだった。
──はぁぁああ!?!?
バサリ。
暗がりからの急な物音に驚いたのか、大ちゃんの明るい瞳がこちらに向き、「夫」によく似た目が大きく開かれた。
物陰から飛び出し、大ちゃんのところまで一直線に走り寄り、勢いよくタバコを叩き落とす。
大ちゃんのもう無駄な肉がついていない頬を両手で挟み、目を覗き込んだ。
「こら!! ダメでしょ!!?」
大ちゃんは驚いて動けないのか、目を見開いたままポカンとしている。この怒られている時の表情は昔と同じものだ。でもね大ちゃん。お母さん怒ってるよ!!
「タバコなんて吸って悪ぶったつもりか!? ダサい! ダサすぎる! その制服は中央学園でしょう! 制服代●万! 入学金●万! 授業料は一年で●万! なんと三年間で●万!!! その他、夏用の制服、指定鞄に靴ワイシャツ靴下小物類、教科書、運動着、昼食代、交通費、課外活動費……それに寄付金! いっくらかけて!! その制服着てると思ってるの!」
前世でも自分の学費は奨学金でまってもらえたけど、制服代を捻出するのに苦労した。そして、大ちゃんが大きくなった時の学費を貯めるのに電卓を叩いては不安になった。
「そのお金は保護者が人生の時間を費やして稼いだ血と涙の結晶なのよ! まだわからないかもしれないけど、お金を稼ぐって大変なのよ!」
今世、私は親からもらった中央学園のパンフレットを見て腰を抜かしたよ! 東京に居を構え、中央学園に子どもを通わせる選択肢があるって。前世ではどうしても選べなかった将来を選べる幸運が目の前にあって。私には腐っている時間が無い。
大ちゃんにも、今、その制服を着ているということは。前世の「私」が用意してあげられていた頃よりも、未来の選択肢が増えているということだ。ここで腐っている理由も気になるけれど、どうしても感情が抑えられない。その感情は前世の「私」のものなのか、今世の私のものなのかわからないけど。
「──それに、大ちゃんの努力の上に今の学校に通えているのよ。中央学園はお金だけじゃ通えない。学力も必要だって知ってる。あの日の努力を! たかだかタバコで全てを無駄にするのか! そんなに吸いたかったら家でこっそりやりなさい! 人に見せるための悪ぶったアピールならさっさと捨てなさい!」
大ちゃんは、まだ私の手の中で目を見開き固まっていた。
「返事は!」
「……はい」
うむ。素直でよろしい。
一拍間があって、そろりと手を頬から離す。そういえばちょっと距離感が近かったわね。さっきまで触れていた大ちゃんの頬は、あのムニムニほっぺじゃなくなっていたことに気づき、また少し寂しくなる。
「あー……その、手は、大丈夫か?」
大ちゃんは気まずそうにタバコの火を踏み消した。
むむ。そう言えば手がジンジンする。
手のひらを自分の方へ持ち上げた瞬間に、大ちゃんに手を取られた。
「バカ! 火傷してんじゃねえか! 待ってろ」
大ちゃんは私の手を見るなり、どこかへ素早く走っていった。なんて身軽なの……。
しばらくして戻ってきた大ちゃんは、濡れたハンカチと冷たい缶を私に差し出してきた。
あ、冷やせってことね。
優し……え、まって。うちの子優しすぎない? え? お母さん、感激…ッ
感激して固まった私に焦れたのか、大ちゃんは私の手をとるとハンカチで手を巻き、冷たい缶を握らせた。
最初から最後まで照れてるのかムスッとした顔だけど、やってることは紳士ですから! 優しさが私ごと地球を包むわ……?
「ありがとう……ッ、ございます。大地さん」
「おう……ってお前、誰だ」
……あ!?
そうよね、そうよ。私、突然物陰から襲って説教したのよね!?
ってことは、急に襲ってきた相手にも火傷大丈夫か? って手当てしてくれたの? いや、混乱するわ。優しすぎて五臓六腑に染み渡るわ。
「──大塚海帆です。あの、去年の夏、▲県の川で会った……」
「……おー! お前、あの時の黒ずくめのやつか。今日は普通なんだな」
大ちゃんは去年のことを覚えてくれていた! 嬉しい!
「あの装備は日中だけなので……」
「今もアレなのか。お前すげえな」
「日頃の対策が大事なんですよ」
そう。田舎の紫外線も、都会の紫外線も私にとっては等しく敵なのだ。許し難し。
それにしても大ちゃんがタバコを吸うとはね。これが反抗期ってやつなのかしら。まぁ、ちょっと悪ぶってみたいお年頃よね。わかるわ。ダメだと言われると余計にやりたくなるわよね!
「……さっきも言ったけど、制服を着てこんなところでタバコなんて吸っちゃダメです。タバコごときに全てを台無しにされちゃもったいないです! 誰も見てないところ……お家とかで吸うとかなら……まだ……」
でも家具やら壁紙にタバコの匂いが染みついちゃうし、掃除が大変だわ(思考が主婦)
「……もう吸わねえよ」
「吸わないならいいんです」
横並びでベンチに座る。
なんとなく、私が飲もうとしてた新製品の炭酸ジュースは大ちゃんにあげた。
私は大ちゃんの買ってきてくれた冷たい缶ジュースを飲むのだ。
うむ。美味しい。
照れくさいようなムズ痒い空気のまま、ふと公園の時計を見ると時刻は二一時四八分を指していた!
大変だ。母に怒られてしまう。これは緊急事態だ。ルールを破ると監視の目が厳しくなってしまう。これでは私の隠密ライフに影響が出てしまう!
「ああごめんなさい! 私、帰ります! ジュースありがとうございました!」
「お、おう……」
気を付けて帰れよ、なんて言われたような気もするが振り返って別れの挨拶をする余裕もない。そのまま急いで家へ駆けこむと、今世の私の母であるバリバリキャリアウーマンの大塚るみさんは激怒していた。
悪いのは私ではない。すべては神の思し召しなのである。
そして、こういう時には言い訳をしてはならない。怒られたくないのならば、相手の想定を超える謝罪が必要なのだ。これで私はなんどか雷を回避したことがある。今回も私の謝罪が火を噴くわ!
──まぁまぁ怒られた。
ポジティブな見方をすれば、これぐらいで済んでよかったとも言える。だってお小言で済んだからね!
さっきは大ちゃんに説教をして、今度は母から説教を受けて、私の頭の中にはサークルオブライフが壮大に流れていた。
「──そういえば、おじいちゃんのところの品川さんの夏樹くんから葉書が来てたわよ」
「え! なっちゃんから? どこどこ?」
なっちゃんの名前が耳に届き、サバンナから意識が戻ってきた。
なっちゃんから手紙が来るなんて初めてのことだ。あのスーパー小学生は手紙も書けるのか。えらい。さすがは神の愛し子。格が違う。
なっちゃんから届いた葉書は向日葵の絵葉書だった。そして、とても綺麗な文字で宛名が書かれていた。でも、メッセージ部分は白紙だった。
ふふふ。かわいいやつめ。
私はコスモスの絵葉書で返事を書いた。
夏期講習のこと。夏にやりたかったこと。色々書いた。
大ちゃんとのことはなんとなく書かなかった。なんて言ったらいいかわからないし。
気付いたら、TOKYOシティ(笑)へ帰る車の中だったからだ。
あの日から、なっちゃんは私の前に姿を見せなかった。
怒られると思って逃げているのだろうか。いやいや、怒ってないよ。ただ、びっくりしちゃっただけだよ。わかるわかる。キスとか興味を持つ時期よね。まあ、この体にとってはファーストキスだったけど。
──まあ、こども同士の唇の接触がキスかと言われたら、ね、うん。
また会ったら、怒ってないよって言うつもりだった……いや。やっぱり、何事も無かった風に誤魔化しちゃうかなぁ。まあ、もう車に乗ってしまって、なっちゃんとの夏の時間は終わってしまったんだけれど。
FMラジオから流れるヒット曲メドレーと、高速の渋滞情報を流し聞きしながら目を閉じた。
なっちゃんと知り合ってから、もう何年も経ったのに今更気付いてしまった。今までなっちゃんと毎日会えてたのは、なっちゃんが追いかけてきてくれていたからだということに。
どこにいてもすぐ現れたから行動範囲が似てるのかと思ってたけど、ここまで全然会わないとは思わなかった。
──なんだかんだ、いつも隣にいた子がいないのは寂しいものだった。
今年の夏の終わりは充実感じゃなく、少し物足りない気分だ。
とにもかくにも、大ちゃんを見つけた夏はこんな感じで幕を閉じた。
*
季節はめぐり、また夏になった。
いよいよ私も中学三年生。受験戦争の前線に送り込まれる歳になった。
そして予定通り、今年の夏はTOKYOシティ(笑)で始まった。
せっかくの都会でのサマータイム。でもでも私は夏期講習。朝から晩までコンクリートの入れ物に閉じこもっている。こんなに不健全な夏があっていいのだろうか。
ただ今の時刻は夏期講習終わりの二一時過ぎ。
今日は疲れた。ホントニツカレタ。体と頭は疲れているのに楽しみ足りない気分が続いている。
ふっふっふ。しかし!でも、でも、でも!
今日は! 帰り道のコンビニで買ってきた新製品の炭酸ジュースがあるのだ!
説明しよう。我が家はほんのり健康志向な家庭なのだ。厳格な決まりでは無いが、家の中では甘い清涼飲料水や菓子類が禁止なのである。過去のおやつはサツマイモだったり、ミカンだったりした。現代社会を生きる子どもがそれで満足すると思っているのだろうか。笑止千万。笑わせてくれる。
私の人生において、現代社会に流通しているものとは適度な距離感で付き合っていきたい(平たく言えば、お菓子などを普通に楽しみたい。禁止されると余計に気になる)私は知恵を絞った。──そう、家の裏手にある公園でサッと飲んでしまい証拠は隠滅して何食わぬ顔で帰宅。ブラボー。ミッションコンプリート。完全犯罪である。
既に何度か成功している隠密行為を今宵も決行するべく、もはや私のベンチと化していた場所に向かった。
が、今日は先客がいた。
隠密行動中の私は先客に気取られないように身を潜め、二度見した。いや、三度見かもしれない。
なんと、高校の制服を着て……タバコを吸っているではないか!
けしからん!
しかも、その制服は私の志望校である中央学院(小中高大院までの一貫校。私立。学費も学力も制服代も高い)のものではないか!
益々けしからん!
私の夏を奪いし悪の組織(志望校)の手先(生徒)め!
その面、拝んでくれるわ!!
と、物陰からこっそりのぞき込むと
タバコを物憂げにふかす不良のお坊ちゃんは、去年からまた少し大人に近づいた大ちゃんだった。
──はぁぁああ!?!?
バサリ。
暗がりからの急な物音に驚いたのか、大ちゃんの明るい瞳がこちらに向き、「夫」によく似た目が大きく開かれた。
物陰から飛び出し、大ちゃんのところまで一直線に走り寄り、勢いよくタバコを叩き落とす。
大ちゃんのもう無駄な肉がついていない頬を両手で挟み、目を覗き込んだ。
「こら!! ダメでしょ!!?」
大ちゃんは驚いて動けないのか、目を見開いたままポカンとしている。この怒られている時の表情は昔と同じものだ。でもね大ちゃん。お母さん怒ってるよ!!
「タバコなんて吸って悪ぶったつもりか!? ダサい! ダサすぎる! その制服は中央学園でしょう! 制服代●万! 入学金●万! 授業料は一年で●万! なんと三年間で●万!!! その他、夏用の制服、指定鞄に靴ワイシャツ靴下小物類、教科書、運動着、昼食代、交通費、課外活動費……それに寄付金! いっくらかけて!! その制服着てると思ってるの!」
前世でも自分の学費は奨学金でまってもらえたけど、制服代を捻出するのに苦労した。そして、大ちゃんが大きくなった時の学費を貯めるのに電卓を叩いては不安になった。
「そのお金は保護者が人生の時間を費やして稼いだ血と涙の結晶なのよ! まだわからないかもしれないけど、お金を稼ぐって大変なのよ!」
今世、私は親からもらった中央学園のパンフレットを見て腰を抜かしたよ! 東京に居を構え、中央学園に子どもを通わせる選択肢があるって。前世ではどうしても選べなかった将来を選べる幸運が目の前にあって。私には腐っている時間が無い。
大ちゃんにも、今、その制服を着ているということは。前世の「私」が用意してあげられていた頃よりも、未来の選択肢が増えているということだ。ここで腐っている理由も気になるけれど、どうしても感情が抑えられない。その感情は前世の「私」のものなのか、今世の私のものなのかわからないけど。
「──それに、大ちゃんの努力の上に今の学校に通えているのよ。中央学園はお金だけじゃ通えない。学力も必要だって知ってる。あの日の努力を! たかだかタバコで全てを無駄にするのか! そんなに吸いたかったら家でこっそりやりなさい! 人に見せるための悪ぶったアピールならさっさと捨てなさい!」
大ちゃんは、まだ私の手の中で目を見開き固まっていた。
「返事は!」
「……はい」
うむ。素直でよろしい。
一拍間があって、そろりと手を頬から離す。そういえばちょっと距離感が近かったわね。さっきまで触れていた大ちゃんの頬は、あのムニムニほっぺじゃなくなっていたことに気づき、また少し寂しくなる。
「あー……その、手は、大丈夫か?」
大ちゃんは気まずそうにタバコの火を踏み消した。
むむ。そう言えば手がジンジンする。
手のひらを自分の方へ持ち上げた瞬間に、大ちゃんに手を取られた。
「バカ! 火傷してんじゃねえか! 待ってろ」
大ちゃんは私の手を見るなり、どこかへ素早く走っていった。なんて身軽なの……。
しばらくして戻ってきた大ちゃんは、濡れたハンカチと冷たい缶を私に差し出してきた。
あ、冷やせってことね。
優し……え、まって。うちの子優しすぎない? え? お母さん、感激…ッ
感激して固まった私に焦れたのか、大ちゃんは私の手をとるとハンカチで手を巻き、冷たい缶を握らせた。
最初から最後まで照れてるのかムスッとした顔だけど、やってることは紳士ですから! 優しさが私ごと地球を包むわ……?
「ありがとう……ッ、ございます。大地さん」
「おう……ってお前、誰だ」
……あ!?
そうよね、そうよ。私、突然物陰から襲って説教したのよね!?
ってことは、急に襲ってきた相手にも火傷大丈夫か? って手当てしてくれたの? いや、混乱するわ。優しすぎて五臓六腑に染み渡るわ。
「──大塚海帆です。あの、去年の夏、▲県の川で会った……」
「……おー! お前、あの時の黒ずくめのやつか。今日は普通なんだな」
大ちゃんは去年のことを覚えてくれていた! 嬉しい!
「あの装備は日中だけなので……」
「今もアレなのか。お前すげえな」
「日頃の対策が大事なんですよ」
そう。田舎の紫外線も、都会の紫外線も私にとっては等しく敵なのだ。許し難し。
それにしても大ちゃんがタバコを吸うとはね。これが反抗期ってやつなのかしら。まぁ、ちょっと悪ぶってみたいお年頃よね。わかるわ。ダメだと言われると余計にやりたくなるわよね!
「……さっきも言ったけど、制服を着てこんなところでタバコなんて吸っちゃダメです。タバコごときに全てを台無しにされちゃもったいないです! 誰も見てないところ……お家とかで吸うとかなら……まだ……」
でも家具やら壁紙にタバコの匂いが染みついちゃうし、掃除が大変だわ(思考が主婦)
「……もう吸わねえよ」
「吸わないならいいんです」
横並びでベンチに座る。
なんとなく、私が飲もうとしてた新製品の炭酸ジュースは大ちゃんにあげた。
私は大ちゃんの買ってきてくれた冷たい缶ジュースを飲むのだ。
うむ。美味しい。
照れくさいようなムズ痒い空気のまま、ふと公園の時計を見ると時刻は二一時四八分を指していた!
大変だ。母に怒られてしまう。これは緊急事態だ。ルールを破ると監視の目が厳しくなってしまう。これでは私の隠密ライフに影響が出てしまう!
「ああごめんなさい! 私、帰ります! ジュースありがとうございました!」
「お、おう……」
気を付けて帰れよ、なんて言われたような気もするが振り返って別れの挨拶をする余裕もない。そのまま急いで家へ駆けこむと、今世の私の母であるバリバリキャリアウーマンの大塚るみさんは激怒していた。
悪いのは私ではない。すべては神の思し召しなのである。
そして、こういう時には言い訳をしてはならない。怒られたくないのならば、相手の想定を超える謝罪が必要なのだ。これで私はなんどか雷を回避したことがある。今回も私の謝罪が火を噴くわ!
──まぁまぁ怒られた。
ポジティブな見方をすれば、これぐらいで済んでよかったとも言える。だってお小言で済んだからね!
さっきは大ちゃんに説教をして、今度は母から説教を受けて、私の頭の中にはサークルオブライフが壮大に流れていた。
「──そういえば、おじいちゃんのところの品川さんの夏樹くんから葉書が来てたわよ」
「え! なっちゃんから? どこどこ?」
なっちゃんの名前が耳に届き、サバンナから意識が戻ってきた。
なっちゃんから手紙が来るなんて初めてのことだ。あのスーパー小学生は手紙も書けるのか。えらい。さすがは神の愛し子。格が違う。
なっちゃんから届いた葉書は向日葵の絵葉書だった。そして、とても綺麗な文字で宛名が書かれていた。でも、メッセージ部分は白紙だった。
ふふふ。かわいいやつめ。
私はコスモスの絵葉書で返事を書いた。
夏期講習のこと。夏にやりたかったこと。色々書いた。
大ちゃんとのことはなんとなく書かなかった。なんて言ったらいいかわからないし。
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