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光が差し込む出口

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「眠ったよ」

鉄と酷い臭いのする地下牢から、その場には到底似つかわしくないオーラを放つ人物が出て来た。

「本件は、さっき話した通り"西からの間者"で進めてくれ。ティーナにも同じ説明で頼む」
「はい」

別室にいた”クピド”と名乗る男を思い出す。
どことなく父に似ているような気もするが、顔つきにもう原型もなく血と汚れで固まった髪の中に自分と同じ暗い金髪が一部だけ残っていたことを覚えている。

”弟”の存在までは知らなかったのか、俺をジョエルだと勘違いして色々わめいていたが
哀れなやつだなと、ぽつりと思った。

領地に下がった父を案じ定期的に手紙や贈り物を送ることを欠かさないティーナには、一連の汚いことは伝えないというのが俺たちの総意だった。

きっとティーナはそれを知れば悲しむから。
俺たちの分だけではなく、アデルやあの女やクピドの分まで。

王太子の顔をしたマクシミリアンは手早く指示を出して、ぴたりと足を止めた。

「そういえば、結局ジョエルは浮気してなかったってティーナには教えた?」

「……は?」

振り向いた顔は幼馴染の”マックス”のもので。

「だっていつもの『大丈夫』って強がっちゃって、かなりしょげてたし。俺は今でもこの機会に押せば良いと……なんて、冗談冗談。子どもはいなかったから死んでも傷ついている子どもはいないって教えてあげればってね。じゃあ、ティーナによろしくね」

と、言い残し去って行った。

後姿を見送り、懐から小袋を出した。
あの日、あの女からもらった"魔法"だ。




結局、あの日
俺は使わなかった。

ティーナの幸せはティーナが掴むものだから。

あの日のティーナの表情を思い出し、自然と頬が緩んでいた。

その魔法の小袋を、地下牢に明かりを灯す松明の中へと放り込み、地下を後にする。



光が差し込む出口を目指して、足を進めた。







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