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ずっと一緒よ

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ミア視点
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「ジョシィ……来てくれたのね、寂しかったわ。やっと会えてとっても嬉しい!
「ミア。待たせたね」

私に用意された別宅は王都の端で、夜中まで明かりがついていると不審者を呼んでしまうらしい。だからジョシィが来るとわかっていても、別宅の中の光は最小限に抑えられていた。

その薄暗い部屋に溶け込むほど暗い色の外套を身にまとったジョシィが、部屋に滑り込んできた。この部屋まで案内したメイドは頭を下げると素早く退出して行った。

ジョシィが来るまで雑な仕事しかしなかったメイドも、これでやっと新しい主人にちゃんと従った方が良いと理解しただろう。

ほらね、ジョシィはちゃんと私のところまで来た。
やっぱり、まだジョシィは私のことを忘れたわけじゃなかったんだ。
嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!

ジョシィがここにいるってことは、今、あの女は一人寝をしているんだろうか。

もしかして、あの騎士様とよろしくやっていたりして。あぁ、そうだったら……この後ジョシィと一緒に見に行くのもおもしろそう。

ジョシィの腕にもたれながら、楽しい計画を思いついてしまった。想像するだけでワクワクしてしまう!
あの女はジョシィに見られたら、どんな顔をするだろうか。
みっともない顔で言い訳でもするだろうか。
それとも騎士様に無理やりされたのだと騒ぐだろうか。

あぁ、それでこう言ってやろう。「娼婦みたいに喜んでたくせに」って。
楽しくってゾクゾクしちゃう。

まぁ、それよりもまずはこっちよ。
ジョシィの冷たい手を握り、温めるように手のひらに頬を寄せた。

「ジョシィと会えなくて、あまりにも寂しくて冷たくなってしまったわ。ジョシィも手が冷えてる。一緒に温まりましょう? 今、ジョシィの好きなハーブティーを淹れるわ」

ジョシィは大人しく手を引かれ、ソファーに腰かけた。

少し待っていてね、と声をかけティーポットを傾ける。

ワクワクする心を抑えられず、ジョシィによく聞かせるメロディを歌ってしまう。

貴族が好みそうなティーカップに、ゆっくりと魔法のハーブティーを淹れた。

愛情をたっぷりといれて。

華やかな香りが部屋の空気を染め、肺を満たす。

「はい。これで温まるわ」

「あぁ」

ジョシィは慣れたように貴族的な、お上品な動作でティーカップを口へ運ぶ。
ほんと、街の人たちとは大違い。

ジョシィのこういうお上品な仕草を見ていると、たまに「私は元々貴族令嬢だった」が口癖だった母を思い出すことがある。
もしかしたら、あれは母の妄想じゃなくて事実だったのかもなんて。

だとしても、母と私は違う。迎えに来てくれると狂ったように信じて信じて、狂ったまま死んでいった母。
私はただ待つなんて、信じて待って狂って惨めで”可哀想”な死に方はしない。

だって、ほら。

ジョシィは私のところにいるもの。


歌を口ずさみながらジョシィの頬を撫で、外套を肩から滑り落とす。
明かりをつけていないせいでジョシィの表情はわからないけれど、窓から入る月の明かりを受けたジョシィの金の髪がサラリと輝いた。

馬車の中から徐々に触れられるようになったものの、邸の中では見張られていて膝の上に乗ろうとしただけで使用人に邪魔されて二人になれなかった。

ジョシィからなら文句はないだろうと誘ってみても、「お腹の子に障るから」だとか……私の身体を大切にしてくれるのは変わらない。

それって、魔法を使っていても本質は同じってことでしょ?

「今日はあの、アデルって子はいないのかしら。手配をお願いしていた荷物があるんだけど」

「アデルは別室で待たせてる。今は早く二人きりになりたかったから」

「ふふ、嬉しい」

だから、これもジョシィの本音ってこと。

───魔法使い様の言った通り、夢が現になった。

私の歌に耳を傾けているのか、添えている手のひらで感じ取っていたジョシィの反応が止まった。

二人の未来のため、まず最初にやらないといけないことがある。
懐に隠していた魔法使い様からもらった"魔法"を口に放り込み、噛み砕く。

「旦那様、ごめんなさい」
「……ティーナ」

ジョシィがピクリと反応した。
初めてジョシィの口からあの女の愛称を聞いた。暫く会えなかったせいね。
不愉快だけど、まぁ許してあげる。許してあげるのが愛だから。

少しづつ、少しづつ、あの女の声に乗せて。
いつものように”毒”を注ぐ。

「旦那様にも好きな人が出来たのね。その方と一緒にいる時の旦那様は……とても幸せそうだわ」

ジョシィの頬をゆっくりと撫でる。
あの女の口調は何度も何度も練習した。

「旦那様がその方を選ぶというなら仕方ないわ……寂しいけれど、旦那様が幸せなら」

お上品で、お綺麗で、つまらない、本当に嫌な女。

「私はクリフと幸せになります。こんな時だけれど、幼い頃から秘めていた想いが叶って幸せを感じてしまうの。だからご心配なさらないで。私たちは、あるべきところに収まったのです」

笑いがこみ上げてくる。あの女も! あの騎士様も! ジョシィも! 本当に可哀想な人たち。素直になればいい。欲しいものは欲しいと言えばいいのに。

ジョシィは黙ったまま、動かない。

そろそろ口の中の魔法が消える。


「旦那様。寂しいですが、お幸せに」


口の中に、あの女の声が残っているような気がして手早くハーブティーを流し込む。

軽く歌いながら調子を戻す。
あぁ、よかった。私の声だ。

歌を口ずさみながらジョシィの頭を抱え、薄暗くても輝く金の髪に指を通し梳く。
ゆっくりと耳に言葉を送り込んだ。

「可哀想なジョシィ……奥様に裏切られるなんて。でも、記憶にない奥様なんて……最初からいなかったも同じよね。ジョシィには私がいるもの。大丈夫。ずーっと一緒よ。ずーっとね」



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