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君を大切にするよ
しおりを挟む『────クリスティーナ嬢。クロッシェン侯から聞いたと思うが、私とあなたが婚姻することになった』
『ジョエル様……』
『私の名を知ってくれていたんだね、嬉しいよ。
クリスティーナ嬢は正直、このまま殿下と婚姻するのだとばかり思っていたが……』
『……私は貴族の娘です。お父様に顔も知らぬ相手や異国へ明日嫁げと告げられても嫌はございません。お優しい旦那様であればいいとは思っておりましたが……ジョエル様と聞いて安心しました』
『安心、か』
『ええ。なにせ、クリフから毎日のようにジョエル様の自慢話を聞いておりましたので。私までジョエル様に詳しくなってしまいました』
『それは弟に感謝をせねば』
『ふふ』
『……君は覚えていないだろうが、私は君のことを皇宮や公爵家で何度か見かけたことがあってね。いつもそばには弟がいた』
『……そうでしたでしょうか』
『今回、相手が私で申し訳ないと──』
『ジョエル様、それ以上は。
私とクリフは”友人”です。それ以上も、それ以下でもありません。
……私は今回のお話しをお受けして、ここにいるのです。未来の旦那様にそのようなことを口にされては、立つ瀬がないではありませんか』
『……あぁ、そうだね。すまない。
なんだか君の目を見ていると落ち着かない気持ちになって、余計なことを口にしてしまう』
『まぁ』
『ああ、また、違うんだ!嘘をつけないというか、誤魔化せないというか、正直でありたいとそういう意味で……とても綺麗な瞳をしているから』
『ふふふ、そうやっておだてても目を逸らしたりしませんよ』
『……あぁ、こうして君がこちらを見ているのは不思議な感覚だな』
『────クリスティーナ・クロッシェン嬢。私は君を大切にするよ。絶対に後悔なんてさせない。
私とあなたの縁は政略かもしれないが、君とは心を通わせた夫婦となりたいと願っている。
私と、結婚してもらえるだろうか』
そう言って私の右手を取ると、金の鎖のブレスレットをつけた。
『今はただの鎖だが、二人で一つ新しい年を迎えるごとに私たちの石を足していこう』
そういってジョエル様は私の手に口づけを落とした。
その日から。私は旦那様との未来を見たのだ。
二人の未来を。
『石をどんどん足していったら、きっと重くなって右手が持ち上げられなくなりますわね』
『そんなに大きい石にするつもりなの?』
クスクスと2人で笑いあった日は
あれは…
遠くを見ていた意識を戻し、またひと撫でした。
自分を落ち着けるように、何もついていない鎖を撫でた。
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