星に願いをかけるのはいいけれど~リテイクお願いします!~

コーヒー牛乳

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盗み聞き

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たぶん、恐らく、自惚れじゃないと……思うんだけど、遠藤君からの、いわゆる好感度が高いような気がしている。はっきりと聞いた訳では無いので断言出来ないし、確かめたところで気持ちを返せるわけでもないので「そんな気がする」という程度で止まっている。

入学初日の自己紹介の時に助け舟を出してくれた遠藤君。
斗真と階段で話していた時に助けてくれた遠藤君。
ダイエットで飢えた時におにぎりを分けてくれた遠藤君。

そんな心優しい遠藤君が、寝ている(ふりをしている)私の頬を撫でている。

これは、「そんな気がする」の根拠が強くなってしまった。これはLOVEの温度で好感度が高いとみて間違いない気がする。

私のどこをどう見てそんな温度になったのかはわからないが、ただ優しいだけでは寝ている異性の頬を撫でることはしないだろう。いや、するのか? もしかして、遠藤君は【女子に触れてみたかった】という好奇心で寝ている私に触れてみただけだったりするのか? んんん??

これは新たな可能性に気付いてしまった。危なかった。つい調子にのってモテ期が来たのかと思っちゃった。
そうだよね、だって好かれようと行動してないのに好かれる訳が……

と、現実逃避気味に思考を飛ばしていたら

また保健室の扉が開く音が聞こえ、頬に触れていた指が跳ねて離れていった。
どうしたらいいのかわからず居心地の悪い思いも、これで終わると思ったのに。本当に逃げたくなるのはこれからだった。

「春ちゃん……?」

澄んでいて、柔らかそうで、可愛らしい声が耳に届いた。
その声の主に気づいて、私の体も跳ねてしまいそうになる。

上履きのグリップ音がどんどん近づいてくる。

「ごめん、星野はまだ寝てて……」

キュッと遠藤君の上履きが床を擦り、次にカーテンレールの中で留め具が隣同士ぶつかる音がして、遠藤くんが来訪者に向かって小声で返事をした。声の主が誰なのか確認したのか、『あ……』と小さく呟いた。

耳の奥で脈打つ血管の音がうるさい。

「あっ、ごめんね?人がいたんだ……えっと、なに君?」
「星野と同じクラスの遠藤です。あの、ほ、星野先輩ですよね」

遠藤君、お姉ちゃんのこと知ってたんだ。
緊張しているのか普段より声が上擦っているようだ。そんな遠藤君の様子に、なんでか少しがっかりしている自分に気づいた。

改めて高校一年生をやり直すことになって、前回と比べて全くと言っていいほど姉の話題も出なかったし、姉がこちらのクラスにやってくることも無かったから忘れてた。”星野ユキ”は美人で学年を超えて有名なのだから、知っていてもなにもおかしくないのに

なぜか、今までの遠藤君の優しさも裏があったように感じてしまった自分が情けなかった。

「そう、エンドウ君ね。あの、妹が保健室に運ばれたって聞いて心配で来ちゃったんだけど……寝てるのかな?」
「あ、はい、まだ寝てるみたいで……わ、本当にキョウダイ……あ、や、姉妹なんですね」

小さな足音と共に姉の声が近づいて来たが、近くに寄る気配は無くこちらを覗いただけで終わったらしい。またカーテンが閉じられた音が鳴り、ほっと息を吐いた。二人はまだすぐそこにいる。寝たふりをしたばっかりに、二人の話を聞かされることになった。

「──それで、エンドウ君が春ちゃんの彼氏なのかな?」
「いや!違います」
「そうなの……なんだかごめんね?」

遠藤君の様子はわからないが、姉のクスクスと鈴を転がすような小さな笑い声だけは漏れ聞こえる。
笑い声が収まると一転、言いにくいことでも打ち明けるかのように声を潜めて姉が話を切り出した。

「──エンドウ君は春ちゃんと同じクラスなんだよね? あのね、ちょっと聞きにくいんだけど心配なことがあって……相談、していいかなぁ。春ちゃんのことで……」

トロリ、と耳に絡みつくような声だった。

相談っすか、と戸惑う声も自然と小さく潜められていく。

「春ちゃん、クラスで友達出来たかな? いじめられてたりしない?」

「は? いじめっすか」

いじめ? なんで急にそんなこと?
聞こえてきた内容に驚き、つい目を開けてしまった。カーテンは隙間無く閉じられていたのが救いだった。

「春ちゃんはね、大人しそうに見えるけど結構、怖いっていうか……内弁慶、な子だし皆に迷惑かけて無いかなって……良い子なのに誤解されやすいから、ちょっと心配で」

姉の不安気な声が保健室に落ちた。
私が怖いって、内弁慶って、みんなに迷惑をかけるかもと思われていて、良い子なのに誤解されやすい?は?

今、姉がそうやって私を表したことで新しく誤解を生んでいるような……

驚いている私を置いたまま、話は進んでいく。

うーん、と遠藤君の唸る声が聞こえた。彼は姉の心配する気持ちをちゃんと受け止めたのか、長考した。時間にすればいくらもかかっていないが、私はこの話がどう転んでいくのか不安で泣いてしまいそうだった。最悪の展開を想像し、準備する癖はなかなか抜けないらしい。

心の準備も整わないうちに、遠藤君のゆっくりと落ち着いた声が返された。

「全然そんなことないっすよ。星野は普通に良いヤツだし、クラスで仲の良いヤツもいるし……星野の良いところ、ちゃんとみんなに伝わってます」

だから大丈夫っすよ、と紡がれたのは不安気な相手を気遣うような優しい声だった。
それは姉に向けられたものだったが、私にも確かに届いていた。



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