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小噺集

ハインツ→カイルの小話(飛竜騎士団時代)

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コミカライズにちらっとハインツさん出てきた記念に小話です。
コミカライズ、すごく素敵なので読んでくださいませ~


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その日。
テオドールが参加するはずだった任務に代理として投入されたのは、ハインツだった。
この冬、騎士になったばかりのカイル・トゥーリは団長から名前を呼ばれて、本日の任務の面子をみてこっそりとため息をついた。

顔なじみの人間ばかり五人ではあるが、責任者は副団長そしてその補佐はハインツだ。
裕福な貴族の息子で、カイルが懇意に……ではなく、目をかけてくれているアルフレートと仲の悪い男。
魔族が嫌いで、さらに言うならカイルに何かと当たりが強いのは周知の事実だった。

任務自体は簡単なものだ。
隣国から訪問した高貴なご令嬢の外出の護衛で、ほんの半日で終わる。
カイルと同じく任務に就く同僚のカノが、ぶるりと震えた。

「テオドールは厳しいけど、ハインツは怖いんだよな……」
「……たしかに」

どうせまた任務中に嫌味と皮肉を言われるだろうな、とカイルはため息をついた。
何を言われても、はむかえば、孤児のカイルに分が悪い。
無反応でいようと心に決める。

ご令嬢は騎士に護衛をされながら楽し気に市中を散策していく。
令嬢はハインツが気に入ったようで(確かに、険はあるが優男と言えなくもない)腕を組んで歩く。
おかげでカイルはハインツから話しかけられることもなく。

どうやら任務が無事に終わりそうだ、と安堵していたところ――

「騎士になったばかりなのに、ずいぶんといい獲物をもっていやがるな」

ご令嬢がほんの少しばかり装飾品店で店員と話し込んでいる間。
カイルとカノが店の前で立っていたところに、ハインツがゆったりとした足取りでやってくる。
舌打ちしたい気分だが、カイルは平の騎士だ。無視するわけにもいかず、ぺこり、と頭を下げた。

「ありがとうございます……ご令嬢の側にいなくていいんですか、ハインツさん」
「俺よりも宝石の方がいいんだろう。それで?その剣はどうした」
「……アルフレート卿にいただきました」

じろり、と灰色の目で腰に差した剣を見られる。
咎められた気分になってカイルは背筋を伸ばした。
飛竜騎士団では剣は騎士になれば一振り支給される。だが、大抵は皆、それ以外の剣を自前で買うものだ。
裕福な家の子弟か貴族の子が九割を占めるこの団にあって、支給品をつかっていたのはカイルくらいのもので……。

見兼ねたアルフレートが「出世して返せよ」とくれたものだった。

「はっ。――相も変わらず、可愛がられているなあ?」

手袋をした指で、くぃ、と顎を持ち上げられる。
視線を外すことが出来ずにまっすぐ見つめ返すとハインツはなぜか上機嫌に口の端を歪めた。

「……期待に応えられるよう、精進します」
「腕にそぐわない、無駄にいいものを貰ったもんだ!」

馬鹿にしたような顔で言い放ち、指が離れていく。
カイルは腰に差した剣を見た。
私のおさがりだから気にするなとアルフは言ったが、やっぱり、いいものだったのか。

見せてみろ上官命令だとハインツに言われて、いやいやながらも渡すと、ふうんと剣を観察した騎士はカイルに剣を投げて返した。

カイルは、じっとハインツを見上げてから、質問してみた。

「無駄にいいもの、って。ハインツさんは剣に詳しいんですか」
「刃先を見ればわかるだろう?それに軽さだ。――身幅にしては軽い。よく鍛えた鉄は重くなくてもよく斬れる……それはきっと北部リガ鉱山で採掘された……」

説明をしようとした自分に気付いたのだろう、ハインツは舌打ちして止めて、ぽかんとしているカイルを睨む。

「何をみてやがる。俺が――剣に詳しいのがおかしいか……!」
「え」
「商人だと侮るつもりか?」

ぶんぶん、とカイルは首を振った。
そういえば、ハインツの実家は商会だったと聞いたことがある。

「そんなこと思わない。――やっぱり、見る目があるんだなって、……じゃない、あるんですね」

小さなことから優れたモノに触れている貴族は強いと思う。
カイルは上流階級の生活を騎士団に来るまで覗いたこともなかったので、とかく――知識も経験も足りない。
鉄の産地だなんて考えたこともなかった。

「あんた、すごいな」
「……ッ!」

カイルにしてみれば素直な感嘆を述べたにすぎなかったのだが、ハインツは酸っぱいものでも食べたような表情になって、動きをぎこちなく止めた。

「なにか?」

カイルが小首をかしげると、ハインツは盛大に舌打ちした。

「……!剣の良しあしくらい、自分で判断できるようにするんだなっ!クソガキがっ」

迷ったような手が乱暴に胸倉をつかみ、壁にドンと押しやられる。
それからほんの一瞬だけ頭を叩かれて、

――まるで撫でられたような形になった。

ハインツ様、ハインツ様、とご令嬢が店の中から呼ぶ声がする。
令嬢の方角を、殺気立ったまま見つめたハインツはすこしばかり逡巡して、やるせないため息をつくと、渋々といった形で店内へ戻っていく。

「なんだったんだ、今の……」

カイルは呆然とその背中を見送り、釈然としない気分で呟く。

店の外にはイマイチ何が起きたのか理解できていないカイルと、今の今までずっと壁と同化して気配を殺していた、こちらは何が起きたか十分理解して冷汗をかいている同僚のカノだけが残された。


おしまい
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