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永遠を君に誓う

永遠を君に誓う-2

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「イオエ殿は……。姉君は優しいな」

 クリスティナの婚儀から五日余り。
 ようやく様々な行事から解放された辺境伯アルフレートは珍しくソファにぐったりと身を横たえながらつぶやいた。五日ぶりに会うカイルが何をしていたのかを知りたがる嫉妬深い恋人の頭を膝に乗せ、カイルがオリビエのことを話すと、彼はふむ、と顎に指を添えて感想を漏らした。イオエは優しい、と。

「イオエが?」
「そうだ」

 アルフレートが身を起こして、カイルの髪の毛に指をくぐらせる。髪を弄ぶ指を心地いいなと目を閉じて味わいながらも聞き返すと、ああ、とアルフレートが頷く。
 カイルを引き寄せたアルフレートは音を立てこめかみに口づけた。その体勢のまま、アルフレートがつらつらと語る。
 カイルに聞かせるというよりも、いつものように己の思考を整理する作業のようだ。

「私が辺境の表舞台から退いたら、テオドールはクリスティナの側近になる。他の側近たちは、クリスティナの結婚式のあとの夜会には妻を伴っていた。案外、妻たちの社交というのは政治では重要だ。オリビエは最初の社交ができなかったことに引け目を感じて、結婚式の日は落ち込んでいただろうな……」

 カイルはたおやかな女性の顔を思い出した。彼女は落ち込んでいる様子は見せなかったが、十分あり得る話だろう。カイルは政治のことには疎く、それに思い至らなかった自分の不明を恥じる。

「ユアンもだが、イオエ殿が訪問してくれてオリビエも心強く感じただろう」

 イオエは魔族の里からの賓客だ。
 皆彼女と話をしたがって縁を結びたがっていたのは知っている。魔族の里の姫と懇意になって、ドラゴンや他の貴重な産物を仕入れたいと思っている貴族も少なくはないはず。
 だが、異母姉は貴族たちにひと通り挨拶あいさつをするとオリビエの見舞いに行った。そしてオリビエの双子には、イオエが直々に選んだ魔猫の守護がついている。

「魔族の姫と親しいオリビエを、誰も粗末には扱えない……」

 カイルはいつも気ままな姉の顔を思い浮かべた。無邪気な顔をしつつも、いろいろと考えている人だ。アルフレートの推察は、そう外れていないだろう。

「オリビエ様と双子を気に入っているんだな、イオエ……」

 それもあるだろうが、とアルフレートは顔を上げた。

「お前のためだ、カイル」
「俺の?」
「お前がキトラ殿とイオエ殿に言ったのだろう? 辺境伯領で一番世話になったのはテオドールとユアンだ、と。だからイオエ殿は、テオドールにも恩を返さねばならんと思っているようだぞ」

 魔族の里にいる間、確かにそんな会話を交わしたような気もする。

「『自分の代わりに弟を大事にしてくれた者に、恩を返さねば』だそうだ」
「……イオエがそんなことを?」
「私にぽろりと言っていた。大事にされているな、竜騎士殿」

 揶揄からかいつつ、アルフレートはカイルに優しく口づけた。

「……うん」

 なんだか照れてしまってカイルは言葉少なに頷いた。
 異母姉兄きょうだいと自分が出会ったのは、ほんの数年前。会えなかった期間をめ合わせるように、彼らはカイルに甘い。ありがたく感じると同時に、ずかしくもある。

「しかし、お前と一番親しいのは私ではないか? なのに、どうして私には優しくないんだ、二人とも」

 アルフレートの眉間のしわが深くなって、カイルは思わず噴き出してしまった。
 仲が最悪だというわけではないが、異母兄キトラ異母姉イオエもカイルの恋人を何かと目の敵にしている。
 アルフレートのいうところの「小姑、キースが二人増えた」というのもあながち間違いではない。
 目の前でアルフレートとカイルが仲良くしようとすると、イオエとキトラの機嫌が急降下するので、賓客として二人が来ている間は、おおっぴらにれ合えない。
 くつくつとカイルが喉を鳴らすと、笑うな、とアルフレートがカイルにのしかかる。シャツの下をう指のくすぐったさにカイルは身じろぎした。

「……イオエは今夜、テオドールの屋敷に招かれたから帰って来ないよ、アルフ」

 恋人の首にかじりついて甘えるように囁くと、アルフレートはカイルをソファに押し倒した。

「知っている。歓声をあげたい気分だ」

 軽口をたたく唇をカイルは塞いだが、主導権はあっという間に奪われる。
 息ができないくらいに濃厚に口づけられ麻痺していく思考を楽しみながら、アルフレートの頭を抱き寄せる。素肌を合わせて微塵の恥じらいもなく足を絡ませると、アルフレートは蒼い目を細めてカイルの目元を指ででた。

「……ずいぶん、積極的だな」
「久しぶりだから。早く欲しい」

 前戯を丁寧に施されるよりも、今夜は一刻も早くつながって、揺さぶられたい気分だ。己の腹を上から下になぞってねだる。

「……仰せのままに」

 そう言って笑ったアルフレートはカイルの下肢に手を伸ばす。内腿をいやらしくでられて、それだけで背に甘いしびれが走る。
 指はカイルの望むままに後ろに辿り着きもぐっていく。

「んっ……んぅ……」

 指で解されている間も早く欲しくて、もっと大きなもので満たされたくて思わず腰がれる。自分で前をさわり、アルフレートの指に合わせて上下に動かすと、この半月余り熱を持て余していた身体は簡単に快感を拾う。ぐじゅぐじゅと前か後ろか、どちらの音かわからない卑猥な音が響く合間に、カイルは切れ切れのあえぎ声を漏らした。
 背中を起こされ、向かい合う形になったせいで、カイルが自分の体重でアルフレートの陰茎を飲み込んでいく。

「あ、あ、あ……うっー……」

 いいところを雁首がこすれていく瞬間の良さに内壁が震え、呻くような声が出る。その悦さを拾いたくてカイルは腰を持ち上げて、下ろし、胎の中で硬くなっていく感覚を何度も味わった。
 もどかしいな、と苦しげに眉根を寄せたアルフレートがカイルの腰を掴んで、ぐっと奥まで押し込む。ずん、と重い動きで叩きつけられて、カイルは背中をしならせた。
 眠いような感覚に頭から胎まで支配されて、なじみのある甘い熱が結合部に集中する。溶けてしまいたい。どうか、このまま。

「ああっ……うう」

 呆気なく達したカイルをアルフレートは笑って抱き起こし、二人してもつれながらベッドになだれ込む。足にだらしなく引っかかっていた下着ははぎ取られ、投げるようにして床に散らされた。

「――あーっ、あ、あ。待って、ちょっと息、整え、たいっ……イッてる、まだっ……っ」
「知っている。だが、その時のお前の中が熱くて、いい」

 うつぶせにされて、まだひくつく孔に容赦なく熱いものが突き立てられる。
 嫌だやめてまだ無理だ、痛い、熱い、だめだ、と喚くカイルの甘い泣き言は一切無視されて一気に貫かれる。へあ、と妙な声が出てしまう。
 後ろを刺激されたせいで立ち上がったカイルの陰茎は、アルフレートが抽送を繰り返すたびにさわり心地のいい敷布にすられて、むず痒い快感に包まれる。穂先からは、だらだらと絶え間なく蜜が垂れて、白い布を濡らしてしずくのように滲んでいく。

「カイル……っ」
「……んっくぅ……」

 苦しげに耳元で名前を呼ばれるだけで嬉しくて、反射的にアルフレートを咥え込んでしまう。

「膝をつけるか?」

 問われてはいるものの、これは命令に近い。
 コクコクと頷いたカイルが膝をついて腰を高くすると、アルフレートは角度を変えて深く隘路を分け入ってきた。先ほどよりもより深く入ってきたものが執拗に臍の裏あたりを突くたびに、カイルは苦しさと期待で敷布を握りしめた。

「……ひぐ……いぐっ……」

 ばちゅばちゅと肉がぶつかる音を聞くたびに、開きっぱなしの口から、だらしなく声が漏れる。

「……っ」

 低くうめいてアルフレートがカイルの中で身を震わせる。じわりと熱が広がってカイルは心地よさにぎゅっと目をとじた。
 潤滑油とすでに内部で出されたアルフレートの精液のせいで、胎の中は絶妙な具合に緩んでいる。彼に暴かれるまでは、決して知ることがなかった内臓の奥にアルフレートの陰茎が、ごぷ、と辿り着いたのがわかって、カイルは内腿を震わせた。ぴたりと背中におおいかぶさってきたアルフレートの肌は、しっとりと汗ばんでいる。人肌の心地よさにカイルは、吐息を漏らす。

「こっちが寂しくないか?」

 アルフレートは笑って背後から乳首をつねった。

「馬鹿、そこはもう、いいって……!」

 嫌がるとアルフレートは面白がって両方の突起を甘くつまむ。
 本当はこうじゃなかった。そんなところをさわられたって気持ちよくなんかなかったのに、今では焦らされていじめられるたびに嬉しくて胎の中をきゅうきゅうと締めつけてしまう。

「悪いな。ここをいじめると、中が締まって……っ、気持ちがいい」
「ばっ……んうっ、あ、あ、やだ……ああ」

 口にしかけた文句は、片方の手がカイルの陰茎に伸びてしごき始めたせいで、哀れな嬌声に変わる。後ろも前も、それから胸も攻められてカイルはあえいだ。

「カイル、締めつけられるのも気持ちがいいが……、力を抜いてくれ」

 結合した部分の縁を爪で引っかかれると、どうしようもなく気持ちがいい。胎の中の熱さが増していくのに比例して、四肢の力は抜けていく。
 せり上がってくる何かをこらえようと深く息をしたカイルの尻たぶを、アルフレートの指がぐっとわけ開いて、ぐぷぐぷと浅いところで遊んでいた陰茎がぐっと押し込まれる。

「お――ア゛っ………う゛あ゛っ……。お……ぐ、ああ、イっ……いや……だ」
「嫌じゃなくて、奥が好きだろう?」

 ――締めつけが良すぎて、長くはもちそうにない、と煽られてカイルは羞恥で固く目を閉じる。
 どうしようもなく呻き声が喉から零れて、唾液と汗と共に敷布に落ちる。ごちゅごちゅと乱暴に押し開かれて、逃げたいのに逃げられない。

「カイル」

 アルフレートの指が、入り込んだ位置を確かめるかのように腹の上を辿る。ぐっと上から押されて同時に中も押し込まれ、カイルはひゅっと息を呑んだ。視界がぼやける。

「アルフ、目、閉じてっ……見ないでくれ……」
「無理だな」

 何度も晒した醜態なのに、一番奥に突き立てられて溺れる姿を見られるのは慣れない。それでも腹から下が溶けるような暴力的な快感には抗えなかった。

「ああ、っ。あ、あ、あ、あ、……来るっ――だめ、アアっ……いぐっ」

 カイルが高く鳴いて身体を震わせた刹那、アルフレートもカイルの奥に精を放つ。
 まっさらだった敷布をぐちゃぐちゃにして、もつれ合う。空が白むまで、何度もお互いの形を確かめ合った。


 眠い、と欠伸をしながらカイルは朝食を用意した。
 現在、二人が住んでいるのは領都にある辺境伯邸の一つだ。本邸をクリスティナに明け渡してから半年経つ。徐々に荷物を減らしていて、アルフレート自身も身軽になっているようだった。
 広めの庭には厩舎があって、そこにはいつもはヒロイがいる。石畳のテラスに木製の小さなテーブルと椅子が設置されていて、そこでヒロイも交えて朝食をとる、というのが最近のルーティンだった
 カイルは眠気とだるさを払うように、ううんと背伸びをする。
 久々にアルフレートと会ったせいで無理をしすぎたな、と反省する。――はじけすぎた翌日は頭の中に花が咲いているような浮ついた状態になってしまい、己は全く役に立たない。
 ちら、とアルフレートを見ると、彼は常と変わらず涼しい顔なので、若干恨みがましい気持ちになる。受ける身の負担が大きいのか、ただ単に基礎体力の差か。
 ……両方な気がする。
 腰をトントン、と軽く叩きつつカイルはアルフレートの前に座った。パンに干し肉を挟んだだけの軽食だが、アルフレートは礼を言って茶を手ずから淹れてくれる。

しい」

 カイルが喜ぶと、美貌の辺境伯は目を細めた。

「テオに茶の淹れ方をみっちり仕込まれたからな。『自分はあなたについていけないから、淹れ方を覚えてくださいよ』と。あいつはなかなか厳しい教師だ」

 テオドールの淹れてくれる茶は確かにだ。長年腹心としてアルフレートに仕えていた彼は、当初の予定通りクリスティナの補佐を務めるから離れることになる。
 テオドールはたまにカイルにも茶を淹れてくれていた。離れるときっとその味が恋しくなるだろうなと思う。
 しんみりとしていると、アルフレートがふと目線を上げた。

「そういえば、ヴィヴィエッタとフランツの洗礼式がもうすぐだな。私が領都を離れる前だといいが……」
「洗礼式……!」

 カイルが繰り返すと、アルフレートはそうだ、と頷いた。
 ニルス王国では子供が三歳になると神殿で洗礼を受ける。その儀式を経て、初めて「信徒」として認められるのだ。
 庶民の場合は誕生月に両親が子供を連れて神殿へ赴き、神官かあるいは神官見習いが額にれて簡単に祝福して終わりである。一方、貴族の場合は親しい者を呼んで神殿内で祝いの席を設けるのが通常だ。
 ひと昔前までは子供は三歳までに亡くなることが多かったため、正式なお披露目の意味合いもあったのだろう。

「テオの子供たちの洗礼式を考えるようになるとは……、想像もしていなかったな。時間が経つのは早い」

 アルフレートが優しい声音でそう告げる。
 彼が結婚したのは、アルフレートが辺境伯位を継いで一年経った頃。

「オリビエは身体が弱いから子供は特に望まない、と言っていたんだ。無事に双子が生まれて、あんなに大きくなって、……よかった」
「そういえば、結婚式もしなかった、って聞いたけど」

 ああ、とアルフレートはカップをテーブルに置いた。

「結婚の時期にはもう父たちの喪は明けていたんだが、中継ぎの辺境伯の側近が浮かれていると見られるのはよくない、とテオが余計な気を遣ったんだろう。テオはともかく、オリビエには悪いことをしたな。――結婚式は、一生の記念だろうに……」

 カイルはそうだね、と同意する。

「二人の結婚式、見たかったな。美男美女でれいだったろうな」
「結婚式で祝えなかった分、双子の洗礼式は盛大に祝ってやりたい」

 クリスティナたちの結婚式も豪奢で見ごたえがあったが、二人の式にも参列したかった。
 もしも数年前、カイルが紆余曲折を経ずにアルフレートと共に辺境伯領に来ていたならば、テオドールの負担も少しは軽くなって、結婚式をすることもできたのだろうか、などと埒もあかないことを考える。
 すると。

「何やら聞き捨てならないな。双子の洗礼式⁉ それは血縁者以外も出席していい式なのか、辺境伯‼」

 空中から元気な声が聞こえてきて、二人は、ん? と顔を上げた。

『ただいまあ、アルフ‼ カイルーっ‼ 姫を連れて帰ってきたよぉ‼』

 ばっさばっさと翼をはためかせる大きなドラゴン――ヒロイがいて、彼の背の上では類まれな美少女が仁王立ちになっている。

「姉さん、お行儀が悪いぞ」

 つい、妹に言うかのようにカイルが注意すると、イオエは素知らぬ顔で、屋根ほどの高さからストンと飛び降りた。どこも痛めた様子が全くないのは、さすが魔族と言うべきだろう。

「おかえりなさいませ、姉君。滞在の期限までテオドールの屋敷にいてくださってもよかったのだが……」

 アルフレートが茶を口に含み、渋面になる。ふん、とイオエは鼻を鳴らした。

「そなたのような可愛げのない弟は、私にはいない。――私が監視していないと、そなたはすぐにカイルに無体を働くからな。見張らねば……」

 心当たりがありすぎるので、二人は沈黙して、別々の方向に視線をらした。
 その様子に、チッとイオエが舌打ちする。

「まあいい、それで? どうなのだ」
「双子の洗礼式ですか? テオドールたちが許せば、大丈夫だと思いますよ。参加してもいいか、と聞いてみてはどうでしょう? ……というか洗礼式があるとしても、二月ふたつきは先だと思いますが……また来るんですか……」
「弟に会いに来て何が悪いのだ!」

 イオエはアルフレートをどやしていたが、急に下を向いた。もじもじとスカートの裾をつかんでカイルを上目遣いに見上げた。

「……参加はしたいが、私が行ってもいいものなのか、それは? 私が直接聞いたら、オリビエは優しいから許可してくれるに決まっている」
「イオエ……」
「私は魔族の王の姉で、権力者だ……だから断れないだろう。それに、今はともかく、神殿では我々は悪しき存在なのだろう? その行事に私が参加するのは……オリビエは、不快ではないだろうか……」

 こんなに自信なさげなイオエの顔を見るのは初めてで、カイルは戸惑った。背の小さな姉をぎゅっと抱きしめて背中をトントンとたたく。

「イオエが行けない場所なんて、この世のどこにもないよ」
「……そうかな」
「あなたはれいで強くて優しい。どこに行っても羨望と称賛の的だ。俺の大好きな自慢の姉だよ」
「うん」

 イオエの可愛らしい指が、ぎゅっとカイルの服をつかむ。
 形の良い爪にはれいな飾りが施されていて、それはオリビエがイオエにしてくれたものだ、とカイルは知っている。
 家に籠ることの多いオリビエは刺繍や爪の装飾などが上手なのだ、とテオドールから聞いた。

「イオエから直接尋ねるのが怖いなら、俺がテオドールにそれとなく確認してみるよ」
「……うん」

 姉弟のいささか感傷的な抱擁を、アルフレートがあきれて眺めている。

「姉君の杞憂でしょう。――いくら賓客とはいえ、妻が好まない人間をあのテオが子供たちに何度も会わせて、しかも家になど泊めるものですか。……私だって泊まったことなどないのだ……」
「うるさい、黙れ、辺境伯。私はお前と違って繊細なのだ。友達に嫌われるのは怖い!」

 ぷんぷん怒る姉の肩をカイルはよしよしとでた。
 アルフレートはイオエの怒りを無視して、「どうして私を泊めてくれないんだ、テオ……?」と謎の懊悩を募らせている。
 カイルはあきれた。辺境伯を家に泊めるとあってはその警護も大変だろうし、テオドールばかりを贔屓していると口さがない連中を刺激しかねないからに決まっている。アルフレートもわかってはいるのだろうが、親友のテオドールが自分より先にイオエを家に泊めたので、拗ねているに違いない。
 ともかく、洗礼式は楽しく……と思いを馳せたカイルは、ふとあることを思いつく。

「洗礼式はどうするのかテオに聞いてみるか。……カイル?」
「なあ、アルフ。貴族の洗礼式って神殿でやるんだよな?」

 カイルの質問に、うん? とアルフレートが首をかしげた。

「屋敷で行うこともあるが、大体は神殿だろうな」
「結婚式も、そうだよな」
「そうだが……カイル?」

 カイルは姉と恋人を順番に眺めた。

「……じゃあ、やっちゃだめかな。結婚式」
「誰の? 私とお前のか」

 馬鹿、とカイルは恋人を小突いた。今の流れでどうしてそうなるのか。

「やらなかった、っていうテオドールたちの結婚式。洗礼式と一緒にやったらだめかな……」

 カイルがひかえめに提案すると、アルフレートとイオエが同じタイミングで目をぱちくりとさせて顔を見合わせた。それから示し合わせたかのように同じ動きで、頷く。

「それは」
「――いい考えなんじゃないか?」

 二人の賛同に、だよな、とカイルは頷いた。


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