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番外小話 (書籍部分より後の時系列です)
小咄 3 帰るところ
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「俺も、辺境伯領に住むことになったから。よかったな、カイル」
「はっ?なんで?」
ーーアルフレートと共に辺境伯領に行こうと思う。
カイルが幼馴染に告げたのはキトラたち北の魔族が王都を去ってから数日後のことだった。
王都に未練はない。しかし、故郷の孤児院とキースについては……一人だけ逃げるような気がして、どうしたらいいかわからない、といささか緊張した気持ちで言ったのだが。
幼馴染はやっとかよ、と呆れたように言った後。
あ、とまるで明日の予定でも告げるような気軽さで言った。
「……キースも辺境伯領に、いく?え?なんで?」
幼馴染はソファに身を沈めて、長い足を組み替えた。
「上司から勅命。神殿もちょーーーーっと魔族のえらい奴らと仲を深めたいんだとさ。辺境伯領に神官の配置増やして連絡係にしたい、とさ。その一人に優秀だから選ばれたと」
「……ええ……?」
「んだよ、俺様の優秀さに何か疑問が?」
いや、ないが。
キースがなんでもできる優秀な神官だということは知っている。
幼馴染の欠点は性格だけだ。
しかしキースの神殿での立ち位置がカイルにはよくわかっていないのだ。
本人も話さないし。あまり気にしたことがなかった。
キースは呆気にとられているカイルに、手をひらひらと振った。
「安心しろよ。孤児院のみんなは全員まとめて辺境伯領に引っ越し、だ。ユアン卿経由でイルヴァ辺境伯にも許可をもらった」
相変わらずの手際の良さにカイルは頭をかいた。
というか。ユアンもアルフレートも教えていてほしい。そうすれば悩まずにすんだのに!
キースはふんぞりかえって鼻を鳴らした。
「んだよ、感動で声も出ないか。よかったな、俺が新居近くにもいて」
「……なんでいつもそう偉そうなんだよ、お前は」
「偉そうじゃねえ。えらいんだよ」
「言ってろ、ばーか」
呆れつつも、嬉しさの方が勝る。
ーー自分が寂しがり屋な自覚はあるのだが、見知らぬ土地にキースがいる、と思うだけで安心してしまう。
キースはクク、と笑いながら憎まれ口を叩いた。
「誰が馬鹿だ、自己紹介か?……ま、お前も実家がそばにあると安心だろ?」
「実家?」
キースがニヤリと笑う。
「お前の実家は俺のとこだろ。ーー旦那と喧嘩したら逃げ帰ってこいよ。小姑としていびり倒してやるからよ」
カイルはキースの言い方に呆れた。
ーーーカイルが心配というより、アルフレートを弄って楽しみたいだけなのかもしれない。多分、絶対そうだ。
ーーー実家か。
カイルはややあってくつくつと笑い、幼馴染の隣に自らもどさりと座った。
「とりあえず」
「ん?」
「ーーむかつくけど、嬉しいや。むかつくけどな。……これからもどうぞよろしく?相棒」
キースはニヤリと笑い、「あったりまえだろ」と。
カイルをこづいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
近況ボードにお知らせがありますので、一読くださいませー。
「はっ?なんで?」
ーーアルフレートと共に辺境伯領に行こうと思う。
カイルが幼馴染に告げたのはキトラたち北の魔族が王都を去ってから数日後のことだった。
王都に未練はない。しかし、故郷の孤児院とキースについては……一人だけ逃げるような気がして、どうしたらいいかわからない、といささか緊張した気持ちで言ったのだが。
幼馴染はやっとかよ、と呆れたように言った後。
あ、とまるで明日の予定でも告げるような気軽さで言った。
「……キースも辺境伯領に、いく?え?なんで?」
幼馴染はソファに身を沈めて、長い足を組み替えた。
「上司から勅命。神殿もちょーーーーっと魔族のえらい奴らと仲を深めたいんだとさ。辺境伯領に神官の配置増やして連絡係にしたい、とさ。その一人に優秀だから選ばれたと」
「……ええ……?」
「んだよ、俺様の優秀さに何か疑問が?」
いや、ないが。
キースがなんでもできる優秀な神官だということは知っている。
幼馴染の欠点は性格だけだ。
しかしキースの神殿での立ち位置がカイルにはよくわかっていないのだ。
本人も話さないし。あまり気にしたことがなかった。
キースは呆気にとられているカイルに、手をひらひらと振った。
「安心しろよ。孤児院のみんなは全員まとめて辺境伯領に引っ越し、だ。ユアン卿経由でイルヴァ辺境伯にも許可をもらった」
相変わらずの手際の良さにカイルは頭をかいた。
というか。ユアンもアルフレートも教えていてほしい。そうすれば悩まずにすんだのに!
キースはふんぞりかえって鼻を鳴らした。
「んだよ、感動で声も出ないか。よかったな、俺が新居近くにもいて」
「……なんでいつもそう偉そうなんだよ、お前は」
「偉そうじゃねえ。えらいんだよ」
「言ってろ、ばーか」
呆れつつも、嬉しさの方が勝る。
ーー自分が寂しがり屋な自覚はあるのだが、見知らぬ土地にキースがいる、と思うだけで安心してしまう。
キースはクク、と笑いながら憎まれ口を叩いた。
「誰が馬鹿だ、自己紹介か?……ま、お前も実家がそばにあると安心だろ?」
「実家?」
キースがニヤリと笑う。
「お前の実家は俺のとこだろ。ーー旦那と喧嘩したら逃げ帰ってこいよ。小姑としていびり倒してやるからよ」
カイルはキースの言い方に呆れた。
ーーーカイルが心配というより、アルフレートを弄って楽しみたいだけなのかもしれない。多分、絶対そうだ。
ーーー実家か。
カイルはややあってくつくつと笑い、幼馴染の隣に自らもどさりと座った。
「とりあえず」
「ん?」
「ーーむかつくけど、嬉しいや。むかつくけどな。……これからもどうぞよろしく?相棒」
キースはニヤリと笑い、「あったりまえだろ」と。
カイルをこづいた。
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