半魔の竜騎士は、辺境伯に執着される

矢城慧兎@中華BL完結しました

文字の大きさ
上 下
89 / 97
番外小話 (書籍部分より後の時系列です)

小咄 3 帰るところ

しおりを挟む
「俺も、辺境伯領に住むことになったから。よかったな、カイル」
「はっ?なんで?」

ーーアルフレートと共に辺境伯領に行こうと思う。

カイルが幼馴染に告げたのはキトラたち北の魔族が王都を去ってから数日後のことだった。
王都に未練はない。しかし、故郷の孤児院とキースについては……一人だけ逃げるような気がして、どうしたらいいかわからない、といささか緊張した気持ちで言ったのだが。
幼馴染はやっとかよ、と呆れたように言った後。
あ、とまるで明日の予定でも告げるような気軽さで言った。

「……キースも辺境伯領に、いく?え?なんで?」

幼馴染はソファに身を沈めて、長い足を組み替えた。

「上司から勅命。神殿もちょーーーーっと魔族のえらい奴らと仲を深めたいんだとさ。辺境伯領に神官の配置増やして連絡係にしたい、とさ。その一人に優秀だから選ばれたと」
「……ええ……?」
「んだよ、俺様の優秀さに何か疑問が?」

いや、ないが。
キースがなんでもできる優秀な神官だということは知っている。
幼馴染の欠点は性格だけだ。
しかしキースの神殿での立ち位置がカイルにはよくわかっていないのだ。
本人も話さないし。あまり気にしたことがなかった。

キースは呆気にとられているカイルに、手をひらひらと振った。

「安心しろよ。孤児院のみんなは全員まとめて辺境伯領に引っ越し、だ。ユアン卿経由でイルヴァ辺境伯にも許可をもらった」

相変わらずの手際の良さにカイルは頭をかいた。
というか。ユアンもアルフレートも教えていてほしい。そうすれば悩まずにすんだのに!
キースはふんぞりかえって鼻を鳴らした。

「んだよ、感動で声も出ないか。よかったな、俺が新居近くにもいて」
「……なんでいつもそう偉そうなんだよ、お前は」
「偉そうじゃねえ。えらいんだよ」
「言ってろ、ばーか」

呆れつつも、嬉しさの方が勝る。
ーー自分が寂しがり屋な自覚はあるのだが、見知らぬ土地にキースがいる、と思うだけで安心してしまう。
キースはクク、と笑いながら憎まれ口を叩いた。

「誰が馬鹿だ、自己紹介か?……ま、お前も実家がそばにあると安心だろ?」
「実家?」

キースがニヤリと笑う。

「お前の実家は俺のとこだろ。ーー旦那と喧嘩したら逃げ帰ってこいよ。小姑としていびり倒してやるからよ」

カイルはキースの言い方に呆れた。
ーーーカイルが心配というより、アルフレートを弄って楽しみたいだけなのかもしれない。多分、絶対そうだ。

ーーー実家か。

カイルはややあってくつくつと笑い、幼馴染の隣に自らもどさりと座った。


「とりあえず」
「ん?」
「ーーむかつくけど、嬉しいや。むかつくけどな。……これからもどうぞよろしく?相棒」

キースはニヤリと笑い、「あったりまえだろ」と。
カイルをこづいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



近況ボードにお知らせがありますので、一読くださいませー。
しおりを挟む
感想 400

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。