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別離編

歌劇場 3

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銀色の髪の美女と戯れるカイルをやや離れた場所から見ながら、飛龍騎士団のギュンター・メルダースは舌打ちをした。

「恋人同士でもないのに、距離が近すぎではないか?くそ!平民同士、せいぜい馴れ合えばいい!」
「……以前、副団長はイリーナに惚れていた気がしますが?」

ハインツが皮肉るとギュンターは眉間にシワを寄せた。

「仕方ないだろう!私は音楽の信奉者なんだ!下品で美しく残酷なあの女は……あの声は天使だ……うう、イリーナ……君は天使だ……」

まだ未練たらたらでベタ惚れじゃねえかとハインツは呆れたが、他人のことは言えない。
久々に近くでみた半魔の竜騎士は、イリーナの見立てあって清廉な色香が滲み出ていて、数秒の間ハインツはただ、見惚れた。
生意気そうな瞳も、困ったときにそっぽを向く、形のいい横顔も、背は高いがガッチリとした印象のない、魔族特有のしなやかな身体つきも……。
今宵、カイルはどの貴族の青年より人目を引いた。
少なくともハインツにとっては。
三年の間に、とっくにカイルはアルフレートに組み敷かれただろうが、それは別に構わない。

カイルが飛龍騎士団を訪れたとき、初めてあった時、ハインツにも無邪気に笑いかけた事をカイルは少しも覚えていないだろうが……。
二度とあんな風に微笑みかけられなくても構わない。ただ側におきたい。――どうしてもあれが欲しいと未だに恋々とする己の愚かさに笑うしかない。

それが叶わないなら。いいや、決して叶うまい。ならばせめてアルフレートと引き離してやりたい。

しかし、とハインツは先ほどまで話し込んでいた男爵夫妻を目で探した。
一瞬、カイル様子がおかしかった気がするのは気のせいか……。

「ああ、さっきの男爵か?商売に失敗して金策に忙しいのさ!ばかめ……」
「歳の離れた妻だったが……」

ギュンターの実家の伯爵家は商会も営む。各家の情報にも詳しい。
ギュンターは鼻で笑った。

「傷モノなのさ。あの後妻は。若い頃に火遊びして二束三文であの老人に売られたと聞いているぞ……。しかし、ハインツ、君も懲りないな」
「何がです?」
「あの女は、トゥーリとよく似ている。つくづくあの手の顔が好みなんだな」

馬鹿をいうなと笑いかけ、ハインツは動きを止めた。それから、自分でも頭がおかしいと思うような考えが一瞬、胸を過ぎる。
ふん、と顎に手をあてて、ハインツはギュンターに話しかけた。

「なあ、ギュンター。俺の懐はいま、あたたかい。さっきの男爵夫妻に金を貸してやっても構わない……。連絡先がわかりますか?」
「なんだ、君が善行を施すとは気持ち悪いな。連絡先はすぐわかるが……」
「――ひどいな。俺だって、たまにはそういう気分になる時もありますよ。見返りを求めないわけじゃないが」

ハインツは軽く笑って目を伏せた。







歌劇を鑑賞して、イリーナを屋敷まで送り届けて、隊服に着替える。
カイルが騎士団に戻るとすっかり日は暮れていた。いつもなら皆くつろいでいる時間帯だが、何やら騒がしい。
カイルが何事かと思っていると、同僚のカノがカイルを見てあっ、声を上げた。

「カノ、騒がしいな、どうしたんだ?」
「カイル!!」

カノはカイルを見てわずかに逡巡したが、驚くなよと前置きしていった。


「―――イルヴァ辺境伯が。アルフレートの父上が急死なさった。兄君も一緒だ」
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