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出会い編
吹雪の中 6
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暖炉からぱちぱちと火が爆ぜる音がする。
それから、雪の吹きすさぶ轟という音が斜めに館めがけて迫る音。
合間に――互いの息遣いが隙間を埋めるように、落ちていく。
「冷たいか」
「……すこしだけ」
「それは悪いな」
くつくつと笑いながら毛布を床に敷布のようにして、アルフレートはカイルをゆっくりと押し倒した。
「……っ」
まだ冷たい指がほおをなぞって首筋をくすぐり、ぞくりとする。
身をよじって逃げようとするのを逃さないとばかりに口付けられる。何度も。
唇が寄せられて慈しむみたいに目尻に落とされる。
髪に指が潜ってぐしゃりと乱されるその心地よさに、おもわず息を吐いた。
「髪を撫でられるのは好きか?」
カイルは逡巡した挙句、白状した。
「あんたの……アルフの指だけだよ」
言ってから、自分でも赤面するのがわかってそっぽを向いてしまう。
アルフレートが、軽く笑ってわざと音を立ててこめかみに口付ける。可愛いなと言われた気がするが、それは無視して受け流す。
断じて、可愛くはない。
「ヒロイと身を寄せ合いながら、このまま凍死したら後悔が一つあるなと思っていた」
「ひとつだけ?意外に欲がないよな」
「茶化すな」
「……ん」
顎を強くつかまれて、舌が性急に口腔を侵す。
くちゅくちゅと音が聞こえるのが羞恥を煽る。丹念に舌で口内を蹂躙されて、はぁ、と息が漏れた。粘膜がじわりと痺れるのが気持ち良くてぼんやりとするのを、耳元で名前を呼ばれて揺り戻される。
「カイル」
「うん」
アルフレートの指がシャツを脱がせて胸元を這う。尖ったそこを親指の腹で押さえつけられて、その冷たさで一瞬震える。
「最後にお前に一目でいいから会いたいと、そう思った」
「おおげさだ」
「本心だ」
口づけが重ねられるごとに、着衣剥ぎ取られていく。剥き出しになった肩に顔を埋めたアルフレートの緋色の髪の先を指でぎゅ、と掴んでカイルは……言うべきでないと思いながらも、口にした。
「俺も、思ったよ。これで……この旅から戻ったら、アルフはいなくなるかもって。だったら、最後に役に立ちたいって……」
ん?とアルフレートはカイルから唇を離して首を傾げた。
向かい合う形にカイルの半身を起こしてから、アルフレートはちょっと目を細めた。
「さっきから、どうも話が噛み合わないが。私がいなくなるというのはなんだ?」
「はっ?」
カイルは間抜けな声を上げた。
ははあ、とアルフレートがにやつく。
乱れた前髪を片手でかき上げて、カイルを実に面白そうにみた。
「――この前の、縁談か」
「……そうだよ。結婚して、北部に帰るって」
くっくっ、とアルフレートはカイルを引き寄せた。
「いっておくが。俺は団を辞めるつもりはないぞ。婚約も破談になったしな」
「――はぁっ?」
全く色気のない声を上げたカイルを引き寄せて、アルフレートはなおも笑った。
「先方にまあ、……支障があってな?」
「支障?」
「いろいろと」
にっこりと笑ったのでこれ以上は聞くなという事なのだろう。
呆然とするカイルに、アルフレートは続けた。
「支障がなくても断るつもりだったがな」
「どうして。美人で優しそうな人じゃないか」
「私は、お前のことを罪深いと評する女性を優しいとは思わない」
静かな口調でキッパリと言われてカイルは思わず、俯いた。
アレを、聞かれていたのか。
アルフレートは俯いたカイルの顎を持ち上げた。
「初めて会った時から、お前の瞳は綺麗だと思っているよ。混じり気のない紅玉みたいだ。こんなふうに、ずっと触れたいと思っていた」
「気障すぎだろ」
「なんとでも言え。……しかし、そうか。どうも最近、逃げないと思っていたらーーずいぶん私に都合のいい勘違いをしていたわけだな。なあ、カイル。いくら私でも婚約者のいる身で、お前を口説いたりはしないし……この前みたいに、ここに触れたりもしない」
悪戯な指が素肌に直に触れてやんわりと握り込む。
カイルは耳まで赤くなって呻いた。
出立の直前に与えられた刺激を身体はしっかりと覚えていて、期待ですぐに硬くなる。
カイルは青くなって彼を押し返した。
つまり、つまりーー自分はアルフレートがいなくなると馬鹿な勘違いをして、一人でから回っていたということか!!
「や、やっぱやめる」
及び腰になったカイルをアルフレートが睨んだ。
「ばか、逃すか」
「ちょっ……!離せって!」
「冗談じゃない。お前がーーその気になるのをどれだけ待っていたと思う。こればかりは彼女に感謝してもいい」
アルフレートはカイルを背後からはがいじめにすると、逃げるなよと笑って首筋に噛み付いた。
それから、雪の吹きすさぶ轟という音が斜めに館めがけて迫る音。
合間に――互いの息遣いが隙間を埋めるように、落ちていく。
「冷たいか」
「……すこしだけ」
「それは悪いな」
くつくつと笑いながら毛布を床に敷布のようにして、アルフレートはカイルをゆっくりと押し倒した。
「……っ」
まだ冷たい指がほおをなぞって首筋をくすぐり、ぞくりとする。
身をよじって逃げようとするのを逃さないとばかりに口付けられる。何度も。
唇が寄せられて慈しむみたいに目尻に落とされる。
髪に指が潜ってぐしゃりと乱されるその心地よさに、おもわず息を吐いた。
「髪を撫でられるのは好きか?」
カイルは逡巡した挙句、白状した。
「あんたの……アルフの指だけだよ」
言ってから、自分でも赤面するのがわかってそっぽを向いてしまう。
アルフレートが、軽く笑ってわざと音を立ててこめかみに口付ける。可愛いなと言われた気がするが、それは無視して受け流す。
断じて、可愛くはない。
「ヒロイと身を寄せ合いながら、このまま凍死したら後悔が一つあるなと思っていた」
「ひとつだけ?意外に欲がないよな」
「茶化すな」
「……ん」
顎を強くつかまれて、舌が性急に口腔を侵す。
くちゅくちゅと音が聞こえるのが羞恥を煽る。丹念に舌で口内を蹂躙されて、はぁ、と息が漏れた。粘膜がじわりと痺れるのが気持ち良くてぼんやりとするのを、耳元で名前を呼ばれて揺り戻される。
「カイル」
「うん」
アルフレートの指がシャツを脱がせて胸元を這う。尖ったそこを親指の腹で押さえつけられて、その冷たさで一瞬震える。
「最後にお前に一目でいいから会いたいと、そう思った」
「おおげさだ」
「本心だ」
口づけが重ねられるごとに、着衣剥ぎ取られていく。剥き出しになった肩に顔を埋めたアルフレートの緋色の髪の先を指でぎゅ、と掴んでカイルは……言うべきでないと思いながらも、口にした。
「俺も、思ったよ。これで……この旅から戻ったら、アルフはいなくなるかもって。だったら、最後に役に立ちたいって……」
ん?とアルフレートはカイルから唇を離して首を傾げた。
向かい合う形にカイルの半身を起こしてから、アルフレートはちょっと目を細めた。
「さっきから、どうも話が噛み合わないが。私がいなくなるというのはなんだ?」
「はっ?」
カイルは間抜けな声を上げた。
ははあ、とアルフレートがにやつく。
乱れた前髪を片手でかき上げて、カイルを実に面白そうにみた。
「――この前の、縁談か」
「……そうだよ。結婚して、北部に帰るって」
くっくっ、とアルフレートはカイルを引き寄せた。
「いっておくが。俺は団を辞めるつもりはないぞ。婚約も破談になったしな」
「――はぁっ?」
全く色気のない声を上げたカイルを引き寄せて、アルフレートはなおも笑った。
「先方にまあ、……支障があってな?」
「支障?」
「いろいろと」
にっこりと笑ったのでこれ以上は聞くなという事なのだろう。
呆然とするカイルに、アルフレートは続けた。
「支障がなくても断るつもりだったがな」
「どうして。美人で優しそうな人じゃないか」
「私は、お前のことを罪深いと評する女性を優しいとは思わない」
静かな口調でキッパリと言われてカイルは思わず、俯いた。
アレを、聞かれていたのか。
アルフレートは俯いたカイルの顎を持ち上げた。
「初めて会った時から、お前の瞳は綺麗だと思っているよ。混じり気のない紅玉みたいだ。こんなふうに、ずっと触れたいと思っていた」
「気障すぎだろ」
「なんとでも言え。……しかし、そうか。どうも最近、逃げないと思っていたらーーずいぶん私に都合のいい勘違いをしていたわけだな。なあ、カイル。いくら私でも婚約者のいる身で、お前を口説いたりはしないし……この前みたいに、ここに触れたりもしない」
悪戯な指が素肌に直に触れてやんわりと握り込む。
カイルは耳まで赤くなって呻いた。
出立の直前に与えられた刺激を身体はしっかりと覚えていて、期待ですぐに硬くなる。
カイルは青くなって彼を押し返した。
つまり、つまりーー自分はアルフレートがいなくなると馬鹿な勘違いをして、一人でから回っていたということか!!
「や、やっぱやめる」
及び腰になったカイルをアルフレートが睨んだ。
「ばか、逃すか」
「ちょっ……!離せって!」
「冗談じゃない。お前がーーその気になるのをどれだけ待っていたと思う。こればかりは彼女に感謝してもいい」
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