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出会い編
吹雪の中 4
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アルフレートが面食らった顔で雪玉を食らった顔面をおおった。
カイルはもう一個雪玉を作って投げつけると声を荒げた。
「おまえ、どうしてここに」
「アルフを探しに来たに決まってんだろ!王女が行方不明だからって、団員ほっぽいて頭自ら無茶しに行くやつがあるかよ!」
「――ヒロイしか飛びたがらなかった」
「俺がいたでしょうが!なんでも自分でやろうとすんなっての。なんで俺に命じなかったんだよ」
「こんな吹雪になるとは予想していなかった」
「どれだけ皆が心配してるか!」
アルフレートは口ごもった。
カイルがもう一度雪玉作ろうとすると「待て、雪はもういい、寒い!」とアルフレートが珍しく慌てて両手でカイルを静止した。
カイルはそれもそうか、と思って雪玉は捨てる。
「――王女殿下は?」
「見つかった」
経緯を話すとアルフレートはそうか、と安堵した。
その身体が僅かに震えて、服がまだ乾いていないのにカイルは気づいた。文句を言うのは体を十分に温めてさせながらにしようと判断する。
「今まで館のどこにいたんだ、アルフ?」
「玄関ホールと寝室は壊れて雪が吹き込んでいるが、広間は無傷だ。そこで休んでいた」
こっちだと言われてカイルはニニギとヒロイを玄関ホールに待たせて、広間へ向かう。
「なんで連絡をしなかったんだよ」
向かいながら質問すると、アルフレートは胸元から割れた水鏡を取り出し、ヒロイの方を振り返った。
「連絡しようとしたつもりが、俺が落として、ヒロイが踏みつけた」
『わざとじゃないぞ!落としたアルフレートが悪い』
カイルは、ヒロイの言い草に笑ってしまった。カイルがちょっと首を傾げて相棒を見る。
「――ヒロイはなんだって?」
「アルフが悪いって。俺もそう思うよ。――とりあえず火を起こすから、そこにいて。着替えも持ってきている。その間に、アルフはテオドールに連絡を」
水鏡を放るとアルフレートはそれはきちんと受け取った。
「……投げるな、危ない。落としたらどうする」
「アルフがそこまで間抜けじゃないといいな、と思って。期待に応えてくれて嬉しいですよ、副団長」
いつもなら生意気なとお小言が返ってくるが、分が悪いと踏んだのかアルフレートは苦虫を噛み殺したような表情を浮かべて沈黙した。
カイルは肩を竦めて笑って、広間の暖炉に向き合った。
火を起こし、壁にかけられたランタンに火を入れる。暗かった室内がほんのりと橙の灯に照らされて、ようやく、カイルはほっと脱力した
「ああ、カイルにあった。私もヒロイもニニギも無事だ」
その背後で、アルフレートは水鏡でテオドールに連絡をとっているーー。
テオドールの怒っている声とアルフレートが珍しく歯切れ悪く言い訳をしている。存分に絞られたらいいんだと思いつつ部屋をあたためて、ついでに暖炉に入れた火で持ってきた飲料を温める。
通信を終えたアルフレートがさすがにバツの悪そうな様子でソファに座っている。
温かいカップを渡して、カイルは座ったアルフレートを見下ろして、尋ねた。
「飲む前に、なんかいうことないか?」
「―――……」
アルフレートがうっと顔をしかめて、ややあってボソボソと言った。
「心配をかけて、悪かった……」
珍しい謝るアルフレート副団長、をしげしげと眺めたカイルはーー
ややあって、ふはっ、と破顔する。それからソファに座るアルフレートの前に行儀悪く座り込んで、極まり悪げに髪をかきあげる白皙の美青年を見上げた。
「ん。すごい心配したけど、アルフが無事でよかった」
アルフレートは言葉を失ったようにカイルを見つめて、テーブルにカップを置く。
その手がそっと伸びてきてカイルの髪に触れる。いつものように、心地よく。
「お前が来ることはなかったんだ。こんな吹雪の中よく飛べたな」
「ニニギが連れてきてくれたし。よくわかんないけど同調できた」
「同調?」
「あとで話すよ。それより寒くないか、もっと暖炉に寄った方がいいんじゃないか」
アルフレートがそうだなと笑って暖炉の前に移動し、クッションをそこに敷き詰め毛布を羽織るとカイルを手招いた。
「隣が寒い。来い、カイル」
偉そうだよな、と思いつつも冷えた身体が心配で大人しく従うと左手で引き寄せられる。
アルフレートの身体が思ったより冷えているのに驚いてカイルは思わず隣を見た。
「冷たい」
「もう少ししたら温まるさ。お前は温かいな」
「あー、体温高いなってたまに言われる」
「それは、誰にだ?」
アルフレートの声音が拗ねたように少し低くなって、暖炉のなかで、ぱち、と火が爆ぜた。
カイルはもう一個雪玉を作って投げつけると声を荒げた。
「おまえ、どうしてここに」
「アルフを探しに来たに決まってんだろ!王女が行方不明だからって、団員ほっぽいて頭自ら無茶しに行くやつがあるかよ!」
「――ヒロイしか飛びたがらなかった」
「俺がいたでしょうが!なんでも自分でやろうとすんなっての。なんで俺に命じなかったんだよ」
「こんな吹雪になるとは予想していなかった」
「どれだけ皆が心配してるか!」
アルフレートは口ごもった。
カイルがもう一度雪玉作ろうとすると「待て、雪はもういい、寒い!」とアルフレートが珍しく慌てて両手でカイルを静止した。
カイルはそれもそうか、と思って雪玉は捨てる。
「――王女殿下は?」
「見つかった」
経緯を話すとアルフレートはそうか、と安堵した。
その身体が僅かに震えて、服がまだ乾いていないのにカイルは気づいた。文句を言うのは体を十分に温めてさせながらにしようと判断する。
「今まで館のどこにいたんだ、アルフ?」
「玄関ホールと寝室は壊れて雪が吹き込んでいるが、広間は無傷だ。そこで休んでいた」
こっちだと言われてカイルはニニギとヒロイを玄関ホールに待たせて、広間へ向かう。
「なんで連絡をしなかったんだよ」
向かいながら質問すると、アルフレートは胸元から割れた水鏡を取り出し、ヒロイの方を振り返った。
「連絡しようとしたつもりが、俺が落として、ヒロイが踏みつけた」
『わざとじゃないぞ!落としたアルフレートが悪い』
カイルは、ヒロイの言い草に笑ってしまった。カイルがちょっと首を傾げて相棒を見る。
「――ヒロイはなんだって?」
「アルフが悪いって。俺もそう思うよ。――とりあえず火を起こすから、そこにいて。着替えも持ってきている。その間に、アルフはテオドールに連絡を」
水鏡を放るとアルフレートはそれはきちんと受け取った。
「……投げるな、危ない。落としたらどうする」
「アルフがそこまで間抜けじゃないといいな、と思って。期待に応えてくれて嬉しいですよ、副団長」
いつもなら生意気なとお小言が返ってくるが、分が悪いと踏んだのかアルフレートは苦虫を噛み殺したような表情を浮かべて沈黙した。
カイルは肩を竦めて笑って、広間の暖炉に向き合った。
火を起こし、壁にかけられたランタンに火を入れる。暗かった室内がほんのりと橙の灯に照らされて、ようやく、カイルはほっと脱力した
「ああ、カイルにあった。私もヒロイもニニギも無事だ」
その背後で、アルフレートは水鏡でテオドールに連絡をとっているーー。
テオドールの怒っている声とアルフレートが珍しく歯切れ悪く言い訳をしている。存分に絞られたらいいんだと思いつつ部屋をあたためて、ついでに暖炉に入れた火で持ってきた飲料を温める。
通信を終えたアルフレートがさすがにバツの悪そうな様子でソファに座っている。
温かいカップを渡して、カイルは座ったアルフレートを見下ろして、尋ねた。
「飲む前に、なんかいうことないか?」
「―――……」
アルフレートがうっと顔をしかめて、ややあってボソボソと言った。
「心配をかけて、悪かった……」
珍しい謝るアルフレート副団長、をしげしげと眺めたカイルはーー
ややあって、ふはっ、と破顔する。それからソファに座るアルフレートの前に行儀悪く座り込んで、極まり悪げに髪をかきあげる白皙の美青年を見上げた。
「ん。すごい心配したけど、アルフが無事でよかった」
アルフレートは言葉を失ったようにカイルを見つめて、テーブルにカップを置く。
その手がそっと伸びてきてカイルの髪に触れる。いつものように、心地よく。
「お前が来ることはなかったんだ。こんな吹雪の中よく飛べたな」
「ニニギが連れてきてくれたし。よくわかんないけど同調できた」
「同調?」
「あとで話すよ。それより寒くないか、もっと暖炉に寄った方がいいんじゃないか」
アルフレートがそうだなと笑って暖炉の前に移動し、クッションをそこに敷き詰め毛布を羽織るとカイルを手招いた。
「隣が寒い。来い、カイル」
偉そうだよな、と思いつつも冷えた身体が心配で大人しく従うと左手で引き寄せられる。
アルフレートの身体が思ったより冷えているのに驚いてカイルは思わず隣を見た。
「冷たい」
「もう少ししたら温まるさ。お前は温かいな」
「あー、体温高いなってたまに言われる」
「それは、誰にだ?」
アルフレートの声音が拗ねたように少し低くなって、暖炉のなかで、ぱち、と火が爆ぜた。
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