69 / 97
出会い編
吹雪の中 4
しおりを挟む
アルフレートが面食らった顔で雪玉を食らった顔面をおおった。
カイルはもう一個雪玉を作って投げつけると声を荒げた。
「おまえ、どうしてここに」
「アルフを探しに来たに決まってんだろ!王女が行方不明だからって、団員ほっぽいて頭自ら無茶しに行くやつがあるかよ!」
「――ヒロイしか飛びたがらなかった」
「俺がいたでしょうが!なんでも自分でやろうとすんなっての。なんで俺に命じなかったんだよ」
「こんな吹雪になるとは予想していなかった」
「どれだけ皆が心配してるか!」
アルフレートは口ごもった。
カイルがもう一度雪玉作ろうとすると「待て、雪はもういい、寒い!」とアルフレートが珍しく慌てて両手でカイルを静止した。
カイルはそれもそうか、と思って雪玉は捨てる。
「――王女殿下は?」
「見つかった」
経緯を話すとアルフレートはそうか、と安堵した。
その身体が僅かに震えて、服がまだ乾いていないのにカイルは気づいた。文句を言うのは体を十分に温めてさせながらにしようと判断する。
「今まで館のどこにいたんだ、アルフ?」
「玄関ホールと寝室は壊れて雪が吹き込んでいるが、広間は無傷だ。そこで休んでいた」
こっちだと言われてカイルはニニギとヒロイを玄関ホールに待たせて、広間へ向かう。
「なんで連絡をしなかったんだよ」
向かいながら質問すると、アルフレートは胸元から割れた水鏡を取り出し、ヒロイの方を振り返った。
「連絡しようとしたつもりが、俺が落として、ヒロイが踏みつけた」
『わざとじゃないぞ!落としたアルフレートが悪い』
カイルは、ヒロイの言い草に笑ってしまった。カイルがちょっと首を傾げて相棒を見る。
「――ヒロイはなんだって?」
「アルフが悪いって。俺もそう思うよ。――とりあえず火を起こすから、そこにいて。着替えも持ってきている。その間に、アルフはテオドールに連絡を」
水鏡を放るとアルフレートはそれはきちんと受け取った。
「……投げるな、危ない。落としたらどうする」
「アルフがそこまで間抜けじゃないといいな、と思って。期待に応えてくれて嬉しいですよ、副団長」
いつもなら生意気なとお小言が返ってくるが、分が悪いと踏んだのかアルフレートは苦虫を噛み殺したような表情を浮かべて沈黙した。
カイルは肩を竦めて笑って、広間の暖炉に向き合った。
火を起こし、壁にかけられたランタンに火を入れる。暗かった室内がほんのりと橙の灯に照らされて、ようやく、カイルはほっと脱力した
「ああ、カイルにあった。私もヒロイもニニギも無事だ」
その背後で、アルフレートは水鏡でテオドールに連絡をとっているーー。
テオドールの怒っている声とアルフレートが珍しく歯切れ悪く言い訳をしている。存分に絞られたらいいんだと思いつつ部屋をあたためて、ついでに暖炉に入れた火で持ってきた飲料を温める。
通信を終えたアルフレートがさすがにバツの悪そうな様子でソファに座っている。
温かいカップを渡して、カイルは座ったアルフレートを見下ろして、尋ねた。
「飲む前に、なんかいうことないか?」
「―――……」
アルフレートがうっと顔をしかめて、ややあってボソボソと言った。
「心配をかけて、悪かった……」
珍しい謝るアルフレート副団長、をしげしげと眺めたカイルはーー
ややあって、ふはっ、と破顔する。それからソファに座るアルフレートの前に行儀悪く座り込んで、極まり悪げに髪をかきあげる白皙の美青年を見上げた。
「ん。すごい心配したけど、アルフが無事でよかった」
アルフレートは言葉を失ったようにカイルを見つめて、テーブルにカップを置く。
その手がそっと伸びてきてカイルの髪に触れる。いつものように、心地よく。
「お前が来ることはなかったんだ。こんな吹雪の中よく飛べたな」
「ニニギが連れてきてくれたし。よくわかんないけど同調できた」
「同調?」
「あとで話すよ。それより寒くないか、もっと暖炉に寄った方がいいんじゃないか」
アルフレートがそうだなと笑って暖炉の前に移動し、クッションをそこに敷き詰め毛布を羽織るとカイルを手招いた。
「隣が寒い。来い、カイル」
偉そうだよな、と思いつつも冷えた身体が心配で大人しく従うと左手で引き寄せられる。
アルフレートの身体が思ったより冷えているのに驚いてカイルは思わず隣を見た。
「冷たい」
「もう少ししたら温まるさ。お前は温かいな」
「あー、体温高いなってたまに言われる」
「それは、誰にだ?」
アルフレートの声音が拗ねたように少し低くなって、暖炉のなかで、ぱち、と火が爆ぜた。
カイルはもう一個雪玉を作って投げつけると声を荒げた。
「おまえ、どうしてここに」
「アルフを探しに来たに決まってんだろ!王女が行方不明だからって、団員ほっぽいて頭自ら無茶しに行くやつがあるかよ!」
「――ヒロイしか飛びたがらなかった」
「俺がいたでしょうが!なんでも自分でやろうとすんなっての。なんで俺に命じなかったんだよ」
「こんな吹雪になるとは予想していなかった」
「どれだけ皆が心配してるか!」
アルフレートは口ごもった。
カイルがもう一度雪玉作ろうとすると「待て、雪はもういい、寒い!」とアルフレートが珍しく慌てて両手でカイルを静止した。
カイルはそれもそうか、と思って雪玉は捨てる。
「――王女殿下は?」
「見つかった」
経緯を話すとアルフレートはそうか、と安堵した。
その身体が僅かに震えて、服がまだ乾いていないのにカイルは気づいた。文句を言うのは体を十分に温めてさせながらにしようと判断する。
「今まで館のどこにいたんだ、アルフ?」
「玄関ホールと寝室は壊れて雪が吹き込んでいるが、広間は無傷だ。そこで休んでいた」
こっちだと言われてカイルはニニギとヒロイを玄関ホールに待たせて、広間へ向かう。
「なんで連絡をしなかったんだよ」
向かいながら質問すると、アルフレートは胸元から割れた水鏡を取り出し、ヒロイの方を振り返った。
「連絡しようとしたつもりが、俺が落として、ヒロイが踏みつけた」
『わざとじゃないぞ!落としたアルフレートが悪い』
カイルは、ヒロイの言い草に笑ってしまった。カイルがちょっと首を傾げて相棒を見る。
「――ヒロイはなんだって?」
「アルフが悪いって。俺もそう思うよ。――とりあえず火を起こすから、そこにいて。着替えも持ってきている。その間に、アルフはテオドールに連絡を」
水鏡を放るとアルフレートはそれはきちんと受け取った。
「……投げるな、危ない。落としたらどうする」
「アルフがそこまで間抜けじゃないといいな、と思って。期待に応えてくれて嬉しいですよ、副団長」
いつもなら生意気なとお小言が返ってくるが、分が悪いと踏んだのかアルフレートは苦虫を噛み殺したような表情を浮かべて沈黙した。
カイルは肩を竦めて笑って、広間の暖炉に向き合った。
火を起こし、壁にかけられたランタンに火を入れる。暗かった室内がほんのりと橙の灯に照らされて、ようやく、カイルはほっと脱力した
「ああ、カイルにあった。私もヒロイもニニギも無事だ」
その背後で、アルフレートは水鏡でテオドールに連絡をとっているーー。
テオドールの怒っている声とアルフレートが珍しく歯切れ悪く言い訳をしている。存分に絞られたらいいんだと思いつつ部屋をあたためて、ついでに暖炉に入れた火で持ってきた飲料を温める。
通信を終えたアルフレートがさすがにバツの悪そうな様子でソファに座っている。
温かいカップを渡して、カイルは座ったアルフレートを見下ろして、尋ねた。
「飲む前に、なんかいうことないか?」
「―――……」
アルフレートがうっと顔をしかめて、ややあってボソボソと言った。
「心配をかけて、悪かった……」
珍しい謝るアルフレート副団長、をしげしげと眺めたカイルはーー
ややあって、ふはっ、と破顔する。それからソファに座るアルフレートの前に行儀悪く座り込んで、極まり悪げに髪をかきあげる白皙の美青年を見上げた。
「ん。すごい心配したけど、アルフが無事でよかった」
アルフレートは言葉を失ったようにカイルを見つめて、テーブルにカップを置く。
その手がそっと伸びてきてカイルの髪に触れる。いつものように、心地よく。
「お前が来ることはなかったんだ。こんな吹雪の中よく飛べたな」
「ニニギが連れてきてくれたし。よくわかんないけど同調できた」
「同調?」
「あとで話すよ。それより寒くないか、もっと暖炉に寄った方がいいんじゃないか」
アルフレートがそうだなと笑って暖炉の前に移動し、クッションをそこに敷き詰め毛布を羽織るとカイルを手招いた。
「隣が寒い。来い、カイル」
偉そうだよな、と思いつつも冷えた身体が心配で大人しく従うと左手で引き寄せられる。
アルフレートの身体が思ったより冷えているのに驚いてカイルは思わず隣を見た。
「冷たい」
「もう少ししたら温まるさ。お前は温かいな」
「あー、体温高いなってたまに言われる」
「それは、誰にだ?」
アルフレートの声音が拗ねたように少し低くなって、暖炉のなかで、ぱち、と火が爆ぜた。
129
お気に入りに追加
9,262
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。