余孽之剣 日緋色金─発動篇─

不来方久遠

文字の大きさ
上 下
7 / 10
アザマロ譚

七 豺狼

しおりを挟む
 五月雨が続いていた。
 剣の形をした葉を持ち、白くて紫のぼかしの中心に黄色い可憐な花を開いた、
シャガが咲いていた。
 アザマロは、覚?城の造営に気が付かなかった。
 朝廷軍の兵が攻めて来る様子については、事前に把握する術もあったが、同属
の蝦夷が働いている所には注意を向けていなかったのだ。
 建築現場で作業する夷俘に紛れて、アザマロは柵の周りを探った。
 その規模に危機を感じて、俘囚だった頃に伊治城で面識があったイサセコの館
を訪れた。
 京の交易により財を成したらしく、京の建物を模した造りであった。
 イサセコは、突然のアザマロの訪問に驚きながらも、かつては朝廷に帰順して
いたよしみから敷居を跨がせた。
 室内には、数々の京の調度品が飾られて並んでいた。
 風折り烏帽子に狩衣・指貫を着用したイサセコの姿は、まるで恵比須を思わせ
る風貌でその京ぶりをうかがわせた。
 アザマロは、壁に貼られた柵の完成図を指差した。
「柵の事か。金を採る人足のために、数十人が宿営する場だ。争うよりは、良か
ろう」
 イサセコは、悠然と構えて京言葉で答えた。
「築柵に従事する者は収入が得られ、働きに応じて豊かになれる」
 詭弁がましく説明するイサセコを、アザマロが軽蔑の表情で見詰めた。
 イサセコ自身、納入した材木や卯木の量から考えても、ただの柵ではない事を
薄々は勘付いていた。
 見て見ぬ振りをしていただけであった。
「……どうせよと」
 多少の罪悪感はあったようだった。
 イサセコが、観念して折れてきた。
 アザマロが、短剣を抜いて柵の図面に突き刺した。
「城を潰すと。あそこは同胞が多く働いている。今、刃向かったら仕事を失った
上に、皆殺しになる」
 イサセコが語る事を、黙ってアザマロは聞いていた。
「手立ては、あるのだな」
 短い沈黙の後、イサセコがポツリと口にした。
 アザマロは、静かに頷いた。
 イサセコは、アザマロの強い覚悟を感じた。
 三千の帝の兵を相手に、たった独りで戦ったアザマロならやるのであろう。
「柵の人足には、他の地域の者も混じっている。和賀のモロシメ(諸絞)をはじ
めとして、気仙のヤソシマ(八十嶋)や稗貫のオトシロ(乙代)らにも話を通し
ておかねばなるまい」
 根回しの必要性を、イサセコは説いた。
 この頃、中央政府による蝦夷に対する同化政策が強化され始め、イサセコにと
っても日高見まで朝廷軍の支配が及ぶ事には危惧していた。
 だが、交易による富も捨て難く、イサセコはある考えを持っていた。
 商人の気質があるイサセコは、稼げるだけ稼いだ後、柵を取り壊してくれるア
ザマロを利用する魂胆だった。
 無論、アザマロもそれを承知していた。
 そうでなければ、イサセコが話に乗る筈も無い。
 裏切り者と謗られたアザマロの心中にも、イサセコには同情するものがあった。
 京からやって来て実力行使する者に対して、俘囚の烙印を捺されて生きる事は
無駄に血を流さない処世術だった。
 同時に、蝦夷と蔑まれて生き長らえる恥辱より、北の民としての誇りを胸に戦
う姿勢にも共感できた。
 その狭間で生きるアザマロには、一種憧憬にも似た思いを抱いていた。
 ずるいようではあるが、自身は安全な場所に身を置きつつも、陰ではアザマロ
を支援する事で、葛藤する心に折り合いを付けた。
 俘囚として隷属した振りをしながら朝廷軍の北進を阻むという、二枚舌の外交
で古佐美の思惑を出し抜く腹積もりだった。
 イサセコとて、蝦夷の血が流れている。
 各地の蝦夷の長を説き伏せて、アザマロに賭けてみる事にした。
 彼もまた、心を決めた。

 伊治城。
 古佐美が柵の建設を指揮していた頃、俊哲は伊治城に常駐して陰陽師と会って
いた。
「鷹を生け捕れば、アザマロは必ず現れましょう」
 俊哲が、策を述べた。
「……」
 陰陽師は、黙して聞いていた。
「一息に呪い殺す事は出来ませぬのか」
「陰陽博士が施した方術は強力で、他の術師の技など容易に受け付けぬ。簡単に
解ける術ならば、アザマロが苦しむはずがない」
「これは、したり」
「が、我とて陰陽師の端くれ。そちの願い、聞き入れようぞ」
 術を行なうには、最良の時期というものがある。
 時期は、この月に雨量が少ないと稲穂が育たないので、豊作を天に願う雨乞い
の祭礼を行なう水無月の、月が満ちる望月の夜と決まった。
「お願いいたしまする」
「但し、条件がある」
 俊哲が呪術を頼むと、陰陽師はそう答えた。
「誰にも知られずに、我の前に連れて来るというのならば」
 陰陽師は計画を実行するための仕込みに入った。
 それには、アザマロと会う必要があった。
 密かに、入れ智恵しつつ俊哲を利用するつもりであった。
「分かり申した」
「鷹に印を付けるのは請け負うが、見付けた
として、いかように鹵獲する」
「手なずけた夷俘の犬使いがおりまして」
 ヒトの姿のアザマロに手を焼くなら、狼になっているアザマロを追えばいい。
 獣には獣に狩らせるのが良策だと、俊哲は考えていた。
「なるほど…」
 陰陽師は、納得した。望月の丑寅の刻限だった。
 それまでうるさかった、蟇蛙の鳴き声がピタリと止んだ。
 陰陽師が独り、鷹の羽毛を使って邪な呪術を行なっていた。

 他の鷹に追われながら西日を遮るようにして、鷹の姿のナギがアザマロの肩め
がけて舞い降りた。
「ッ?」
 アザマロは、驚いた。
 いつも通り毛づくろいをしている鷹の羽毛が新雪のように、真っ白になってい
たのだ。
 その日の夕刻であった。
「わあああああ」
 ヒトの姿に戻ったナギが、顔を洗おうと小川のせせらぎに映った自身を見て悲
鳴を上げた。
 黒かった髪と、さらに眼球さえも、白子のように全身真っ白になっていた。
 その昔、隔世の劣性遺伝により黒色系統のメラニン色素が極端に欠乏して、皮
膚の色が白くなって産まれた児を白子と呼んだ。
 瞳孔さえ白い異常な白皙から不吉とされ、また身体的にも弱く短命であったの
で、人目を避けるように死ぬまで座敷牢に軟禁された哀しい定めがあった。
 ナギは、有り得ない事態に一晩中泣き腫らしたまま、旭日を浴びて化身してい
った。
 真夜中になると、狼となったアザマロが、月夜の湖面に映る自らの姿を見てい
た。
 その眼に白い牙が見えた。
 牙と同様に、体毛も白くなっていた。
 白鷹から感染したのであった。
 〝ワオォォォォン〟
 望月に向かって、白狼は咆えた。

 大勢の兵を率いて敗退した紀古佐美の愚行を教訓に、俊哲は少数精鋭の地元の
蝦夷を使う事を考えた。
 山に棲み慣れた同じ蝦夷の方が、探索し易い筈である。
 不幸にも、マタギと呼ばれる特殊な伝承を持つ猟師の長である老齢な夷俘に、
白羽の矢が立てられた。
 熊狩りで名うてのマタギは、豺という獰猛な山犬を連れた犬使いであった。
 狼に似て痩せ、性質も乱暴な山犬のサイは日本の固有種であるが、日本狼同様
に絶滅種となっている。
 自然の神々を抹殺する引き換えに、ヒトは文明を築いていったのかもしれない。
 狼に比べると、ヒトに懐く習性が残るサイの群れが野に放たれた。
 滅多にヒトに近付かず、賢く用心深い狼の習性を知るマタギは、単独でサイの
群れを連れて深山に入って行った。
〝白い鷹を捕らえろ〟
 それがマタギに下された命だった。
 マタギの年老いた母と、病弱な妻が人質に捕られた。
 白鷹を生け捕れば、妻を国府にいる医者に診せてくれると言われた。
 断われば、一家根絶やしにするとも…自分の置かれた境遇に観念したマタギは、
猟師仲間に手分けをして白い鷹を探させた。
 梅雨の長雨が過ぎて、一月が経っていた。
 モクモクと、澄み切った梅雨明け空に、炭を燃やした合図の狼煙が上がった。
 経験から辺りを付けた要所に配置した仲間の一人が、目的のモノを見付けたら
しい。
 マタギの長は、七頭のサイを連れて、黒い煙の立つ方角に向かった。
 遠目の利く犬使いのマタギは、遠く空に白い鷹が山から吹き降ろす上昇気流に
乗って、ゆっくりと飛んでいるのを発見した。

 アザマロは、白子となった自身の姿に驚愕した。
 何が、起きたのか分からなかった。気が動転していたせいもあり、狼に変身す
る夕闇迫る直前まで、空に上がる黒煙には気が付かなかった。

 ねむの木が、房のような淡い紅色の小花を開いている。
 鷹を追って行く内に、辺りが暗くなり、マタギが松明を灯して野営の仕度をし
た。
 長い期間、獲物を追って季節を跨ぐ事も稀ではないマタギにとっては、野宿な
ど日常茶飯事であった。
 〝ヲォンヲォンヲォンヲォンッ〟
 急に、サイの群れが騒ぎ出した。
 おじぎ草の名で知られたねむの葉がたたまれて、垂れ下がった付け根から水気
を出していた。
 マタギは、異変に気付いた。
 この種の木は小動物等のちょっとした接触でも、葉の柄の内部に含まれた水分
が刺激に対して、敏感に反応する植物だったのだ。
 クマが通った痕跡かもしれない、そう感じてマタギが身構えた。
 〝ガウウゥゥ〟
 サイ達の唸り方は、何か得体の知れないモノに脅えているようでもあった。
 マタギの手綱を振り払って、サイ達が駆け出した。
 ただならぬ気配を感じて、マタギも後を追いかけた。
 山中の暗がりでも、その白いモノは際立っていた。
「……これは………」
 マタギは、驚嘆した。
 松明に映ったモノは、これまでに見た事も無い、目の玉から足の爪の先までが
一点の曇りも無く雪のように白い狼だった。
 白い狼など、滅多にいるものではない。
 きっと、シルマシであろうとマタギは思った。
 シルマシとは、東北地方に伝わる天からの前兆を意味する。
 マタギは、山のカミからの御告げだと考えた。
 獲物を求めて、サイ達が白狼に襲い掛かった。
 白狼の周りを、七頭のサイが取り囲んだ。
 一頭が白狼に、突進していく。白い鋭い牙が、サイの顎をえぐった。
 〝キャイーン〟
 サイの一頭が、野にもんどりうった。
 別のサイが、白狼の背後から襲った。
 臀部を齧られて、動きが止まった白狼に、残りのサイ達が一斉に飛び掛かる。
 多勢に無勢と思った白狼は、頭格のサイを探した。
 頭を張っているサイは、争いを遠巻きにして睨んでいた。
 白狼は、傷めた臀部から血を流しながらも高く跳躍して、頭格のサイの前に進
み出た。
 頭格以外のサイ達が、盛んに咆え立てた。
 白狼と頭格のサイは共に咆えずに、低い姿勢をとって、互いの喉笛を狙ってい
た。
 狼もイヌ科であるが、強い犬ほど安易に咆えない。
 二頭の睨み合いが続く中、他のサイ達の鳴き声を聞き付けて、マタギが追い付
いて来た。
 間近で見ると、純白の神々しい耀きに吸い込まれるように魅入られた。
 サイ達は何かに憑かれた如くに物狂いのような状態になり、マタギもまた、し
ばし茫然自失となっていたが、ハッと我に返ると火矢を弓の弦につがえてキリキ
リと引き絞った。
 依然として、サイと白狼は睨み合ったまま、互いの強さを認めるがゆえに迂闊
に手が出せずにいた。
 マタギが、サイ達からカミの化身である白狼を逃がすつもりで弓を射た時だっ
た。
 白狼が、顎をえぐられて昏倒しているサイの体に身を隠した。
 地面に突き刺さった火矢が、周りを照らした。
 火を怖れて、サイ達は後ろに引いた。
 その間隙に、白狼が逃走した。
 マタギは、犬にしか聞こえない特殊な犬笛を吹いた。
 頭格を先頭に、正気に返ったサイ達が戻ってきた。
 白鷹を追って、白狼が現れたのは偶然ではない。
 霊感のようなモノを、マタギは感じた。
 白狼を追えば、白鷹を捕らえる事が出来るかもしれない。
 マタギは、白鷹を求めて白狼の追跡を再開した。
 白狼は、山々を走って走って走り抜けた。
 サイ達との獣同士の闘いなら受けて立つつもりだったが、人間が相手では逃げ
ざるを得なかった。
 傷付いた体に鞭打って険しい崖を登った。
 いつしか、急峻な断崖に白狼は追い込まれていた。
 〝ガルルゥゥ〟
 威嚇するように、いつでも飛び掛かれる半立ちの姿勢で白狼が咆哮した。
 サイ達は、ゆっくりとにじり寄った。間合いを計るように頭格のサイが、白狼
を崖の端に追い詰めていく。
 もうすぐ、夜明けだった。
 白狼の強さを知る頭格のサイは、主人が到着するのを待った。
 一刻が過ぎたろうか。
 チラチラと、マタギの灯す松明が崖下に見えてきた。
 人の歩幅では、獣の数十倍も時を要する。
 特に鼻の利くサイに、臭いを追わせながらようやく追い付いたのだった。
 朝靄が立ち込めて、周囲が見える明るさになってきた。
 マタギが、松明を消した。
 それから、再度、弓矢を構えた。
 矢じりには布に綿を包んで丸くした柔らかいタンポを付けて、傷付けずに済む
ように配慮した。
 白狼は崖のギリギリまで後ずさると、後ろ足を地に付けて飛ぶ態勢になった。
 崖から、小石が落下していく。
「ネマッテロヤ(座っていろよ)」
 マタギは、祈るように呟きながら狙いを定めた。
 〝ヒュン〟
 と、弓から矢が弾けるように白狼に向かって飛んでいく。
 矢が胴体に当たる瞬間、白狼の姿が消えた。
「ッ!」
 アッとマタギが思った時には、そこに白狼の姿が無かった。
 〝バシャーン〟
 川面に、落ちる音が聞こえた。
 慌てて、マタギが崖の下を覗き込んだ。
 崖下の激流に飲み込まれたのか、白狼は浮き上がってくる様子は無かった。

 朝焼けが射してきた。
 流れの澱んだ川岸に群生する樹上に、親指くらいの大きさに包まれた白い泡が、
たくさん垂れ下がっていた。
 モリアオガエルが、産んだ卵を天敵から保護するための智恵だった。
 卵の側の岸から、アザマロが青息吐息で這い上がって来た。
 なぜ、自分が尻にケガをし、川で溺れかけている時に目覚めたのか? 
 白狼としてサイに追われて、命からがら逃げて来た事など覚えている筈も無か
った。
 狼でいる時の記憶は無い。
 ただ、白子になった事と、何か関係があるとは思った。
 これまでにも、朝、気づくと身体に身に覚えの無い傷があったり、口の中が血
塗れで生臭い肉の味が残っていたりした。
 昼の間、ナギが鷹になるのだから、夜になると野獣と化した自分が獲物を捕食
しているだろうとは想像できた。
 近くにサイ達の気配は無かった。
 アザマロに幸いしたのは無意識にも川に入った事により、偶然にも自分の臭い
を消す事が出来たので、その後サイ達はここまでは追ってこられないようだった。
 白鷹が慕うように、アザマロの左肩に止まった。
 このような追跡のされ方は、かつてなかった。
 煙を焚き苦しくさせて燻り出させるが如く、全身の色を変えて周囲から浮き上
がらせるなど、これはまさしく鬼術だとアザマロは直感した。
 自分を追い詰めているのは、陰陽師であると。
 傷付き疲れた身体を引きずるようにして暗い洞窟に辿り着くと、アザマロはそ
の場にどっと倒れ込んだ。
 アザマロは夜になったのも気付かずに、眠り続けたまま白狼の姿になっていた。
 洞窟の中で、ナギが虫の息の白狼を一心に手当てをしていた。
 白狼はナギの膝の上で頭を撫でられながら静かに眠っていた。
 朝、白鷹は鳥としての習性からか、外の明るさを求めて暗い洞窟を飛び立ち、
その周囲を円を描きながら旋回した。
 昼になっても、人の姿になったアザマロは死んだ様に眠り続けた。
 山おろしの風向きが、変わったようだった。
 白鷹が伸ばした羽を左に傾けて、急激に高度を下げていった。
 山人の勘から辺りに潜んでいた犬使いのマタギは、この時を待っていた。
 二つの小石を紐で分銅のように取り付けた鏈弾を、白鷹に向かって投げた。
 双方の端を重りに支えられた鏈弾は、曲線を描きながら宙を舞う白鷹の脚首に
絡まると、クルクルと巻き付いた。
 〝ギーッ〟
 飛行の態勢を崩された白鷹は、訳も分からないまま羽をばたつかせて、地上に
引き摺り下ろされた。
 続けて、サイの群れが放たれた。
 〝ヲォンヲォンヲォンヲォンッ〟
 サイ達は白鷹を、激しく追い立てた。
 マタギは、白鷹に投網をかけた。生きたまま白鷹を羽交い締めにし、鋭い嘴と
爪を縄で縛った。
 マタギ衆しか知らない道を抜け、サイ達を従えて最短距離で城に向かった。
 サイ達のお陰で、クマなどに襲われる事もなく獣道を突き進んだ。
 飛ぶ鳥を縛り付けると、途端に弱る。
 白鷹を死なせずに届けなければ、家族の命が無いのだ。
 何としても、陽が落ちて足下が見えなくなる前に、城に着かねばならなかった。
 マタギは、老骨に鞭打って山を下りて行った。

 伊治城。
 夕闇迫る、人気の無い場所であった。
 マタギが、鳥篭に入れた白鷹を俊哲に渡した。
 傍らで、陰陽師が両手を袖に入れて見ていた。
「よくやった」
 俊哲が、言葉をかけながらマタギの頭を白刃一閃した。
「誰にも知られずに、そういう約束でしたな」
 俊哲の言葉に、陰陽師が頷いた。
 〝ガウウウゥ〟
 目の前で、主人を殺されたサイ達が唸り出す。
 俊哲が剣をサイ達に向けると、陰陽師は袖から両手を差し出した。
 すると、サイ達は懐くように陰陽師の手を争うように舐め出した。
「これは、面妖な」
 俊哲は、驚いたように言った。
「犬万だ」
 陰陽師は、涼しい顔で答えた。
 犬万とは、イヌを呼び寄せる発臭薬の事である。
 ちょうどネコに対するマタタビと同じで、主成分はミミズを天日に干しながら
腐蝕させたものだ。
 惨殺された主人の側で、サイ達が尻尾を振りながら陰陽師に纏わり付いていた。
 サイと言えども、所詮は本能のままに餌を
求めるただのイヌである。
 残酷な人間を顕わす例えを豺狼と言うが、マタギの長に対する俊哲と陰陽師の
二人の所業は、まさしくヤマイヌとオオカミより残虐であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

gaction9969
ライト文芸
 ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!  ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!  そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

余命3年の君が綴った、まだ名前のない物語。

りた。
ライト文芸
余命3年を宣告された高校1年生の橋口里佳。夢である小説家になる為に、必死に物語を綴っている。そんな中で出会った、役者志望の凪良葵大。ひょんなことから自分の書いた小説を演じる彼に惹かれ始め。病気のせいで恋を諦めていた里佳の心境に変化があり⋯。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...