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置き去り 3
しおりを挟むそれから、喰う気も殺す気も失せた私は青年を伴い、林道近くを流れる川辺にいます。
私は岩の上に座り、川に素足をつけながら今後について思考中。
後ろからバシャバシャ聞こえてくるのは、青年が水浴びしてる音です
勿論私が上流にいます。ばっちいので。
うーん……どうしたものですかね。
帰るにしても私だけ帰ると絶対めんどくさいですよね。
あっちが何事もなく帰ってるのなら問題はないんですが、気になること言ってましたからね。
「すいません。姐さんっ。お待たせしました」
「終わりました?」
と振り向けば上半身裸青年。下はちゃんと穿いてますね。
穿いてなかったら、ぶん殴ろうかと思ってましたが……。
指を鳴らして、彼が持っていた服と穿いていたズボンを乾かします。
ついでに髪も。
「――だっ!! て……すげぇ一瞬で乾いた」と物珍しそうに乾いた服と髪を触ったり見たりする青年。
「これぐらい誰だってできるでしょ? 何驚いてるんですか?」
「いやぁそうは言いますが、姐さん。詠唱も魔法陣もなしでこんなことできるって凄い事ですよ?」
「そうなんです? というか、あなた魔法の知識とかあるんですか?」
こんな学のなさそうであるような、なんとなく品のいい感じのチンピラ君に、そんな知識なんてないだろうと思いつつも聞いてみたが。
「いやぁ自分これでも魔法学院通ってた時期がありまして」と頭を掻きながら、照れ臭そうにするチンピラ君。
「マジ?」
「マジっす!」
うわー魔法学院って確か、ちょっと才能がある程度じゃいけないところって聞いた事があるんですが、チンピラでも行ける程度なんでしょうかね。
これでも邪神ですから。こと、魔力や咒力などの使い方にはうるさいですよ?
なので、ちょっとチンピラ君がどの程度なのか確認。
「では、ちょっとあなたの腕を見せてもらいましょう」
「うっす!」
それから、チンピラ君に幾つか魔法を見せてもらいました。、
驚いたことに私から見ても、人間にしてはいい感じじゃんと思う程。
「へぇ……人は見かけに通りではないって事ですかねぇ」
「いや。それは姐さんもですよ? あの蛇の魔法とか理解できない魔力の流れでしたし」
これまた、へぇって思う。ちょっと試しますか。
「ではその流れ、今どこにあるかわかりますか?」
「えーっとすね」
顎に指を添えてじっとこちらを見るチンピラ君。
その目に魔力が集まっているのを感じました。
私の胸を見る時に強く集まるので、
「何色かわかりましたか?」
「……はい。鮮やかな薄べぶっ――」
とりあえず、殴り飛ばして黙らせます。
「服の上からとはいえ。私のそれを見ておいて、殴られるだけで済んだことを『奇跡』と言うんですよ?」
「ひゃい」
「魔力視、ですか。なるほどそれで学院に通えたのですね」
「そうっすね……いてぇのに血がでねぇって。まさか治癒魔法ですか!?」
「正解です……勿体ないですね。殺そうかと思ってましたが」
「ひっ――!」
「生かす事にします。手を出してください」
「え?」
「早く!」
慌てて出されたチンピラ君の右手に魔力で作った蛇を這わせます。
すると蛇がその手に吸い込まれ、腕に絡みつい刺青のようになる。
「私の秘密を喋れば、この蛇があなたを喰らいます。裏切ってもです。一種咒力ですね。あなたなら、この意味がちゃんとわかると思いますが?」
「……咒術。呪いですか?」
「正解ぃ」と微笑んで答えてやったのに、盛大に引き攣るチンピラ君。
「一方的にかけれるとか……どんだけだよ」
「まぁ契約みたいなものです。これでも私邪神ですから」と言えば驚愕する。せわしないですねこの子。
「あ、ああのマナをお伺いしても?」
「あら。信じるんですか?」
「薄々はそうじゃないかぁ、と。ですが心当たりのある邪神が一柱いるんですが……在り得ないので」
「ふーん。まぁいいでしょ。私のマナはティアマト。人としてはティアです」
私の名前を告げるとチンピラ君が勢いよく地面に額を打ちつけ始めました。
いやそんなに強く打ちつけると川辺ですから……石で。
「ご無礼をお許しください!! まさか御身が受肉し、顕現いたしてるとは露にも思わず!!」
「え? いきなりどうしたんです? 頭強く打ち過ぎました?」
「ご容赦くださいませ!! 心臓を抉り出せと仰るのならそういたしましょっ!!!」と自分の胸に爪を立てるチンピラ君。
「ちょ! 誰もそんなこと言ってないでしょ! ストッーープ!!」
そう叫びながら腕をひっ捕まえて慌てて止める。
何この子!? いきなりなんなの!
「まさかまさか御身が、果て無き深淵。原初の混沌。魔の母たる女神ティアマト様だとは思わず……いや。そう思ったにも関わらず否定した我が身を切り裂きたい!!」
おんおん泣くチンピラ君を宥めるのにけっこうな時間を要しました。
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