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一章【集結】
四話 国王と護衛
しおりを挟むヴィッツとザント、ミーンとスティア、それぞれ船の甲板より下にある寝室でゆっくりと休む。窓のない部屋、明かりはかなり小さく絞っている。まどろみから徐々に開放されそろそろ夜明けだろうか、とヴィッツは何となく目を覚まして起き上がり甲板へと出た。その瞬間まばゆい光が射す。
「うっ、まぶしっ」
思わず目を伏せる。徐々に目が慣れるとそこには水平線から顔を出す太陽があった。ああ、村以外の外の世界に出たんだな。そんな風に思っていると乗組員の一人が
「おう、乗客さんか。昼にはサウザントの港に着く。まだまだ時間はあるからゆっくりするといい」
と声をかけてくれた。少しずつ水平線から上へ上へと上がっていく太陽をぼんやりと眺めていた。それから朝食を取り乗組員たちの邪魔にならないよう甲板の端の方で四人は円を描くように座る。昨夜何か話したのか、ミーンとスティアの雰囲気から何か打ち解け合ったような雰囲気を感じた。ミーンを除く三人で他愛もない話をしていると
「ザントを見ていると残した息子を思い出すわ」
とぽつりとミーンが呟いた。
「へー! ボクと同じくらいの子がいるの?」
ザントは立ち上がりミーンの前で首を左右に傾ける。
「ええ。あなたと同じくらいの年の子がいるわ。エルフほどではないけれど魚人族は少し長生きなの。人間暦換算で二十九年は生きてるけど実際の年齢は二十前半から半ばくらい、かしら。明確に一年毎に歳を取るのとは違うから。私は夫も子供も、全てを捨てて使命のために旅に出た。本来なら陸地に上がれない体だけど、特例で魔法をかけてもらって人間と同じ体になってる」
昨日のきつい口調とは違い、穏やかな様子で話をするミーン。ようやく胸の内の一部を話すのを聴いて
「なんだ、お前も大変なんだな。なんか皆色々背負っててよ。俺だけなんつーかただの旅人だろ? 本当に俺選んでよかったのか? もっとマシな人材いたんじゃねーかな。その基礎精霊とかいう、俺は動だっけかそれと契約するやつって」
と改めて自分がその勇士の一人に選ばれたことに謎を抱く。
「仕方ないわ、私の精霊がそう言うのよ。確かに私も精霊に聴き直したわ。あなたのような一般人を巻き込むのは間違いじゃないかって。でも精霊は『ヴィッツでなければいけない、鍵の一人だから』ってその一点張りなのよ。鍵の理由は聞いても話してくれないの。あなたにも迷惑かけるわね、本来ならすぐに父親を見つけられたでしょうに。私は過去は見えても未来は見えない。あなたの過去を遡って見ても、普通の生活をしてたし。流石にあなたの母親に直接会ってるわけではないからどの街で事故が起こったかまでは遡れない。そこが見えればあなたの父親探しもすぐ終わったでしょうに」
自身の能力不足に頭を抱えるミーン。
「あーそれは別にいいよ。どうせ生きてるかもわかんねーから。二十年前に大規模な魔法事故があって父さんの名前が分かる人が見つかればそれでいい。それより、俺みたいな武器も持てねー農村育ちの一般人だけど、まあ勇士に選ばれてんなら戦闘は力になれねーと思うけど、出来る限りのことはやるつもりだ」
ヴィッツの言葉に
「本当に普通の人なのに迷惑かけてしまうわね。精霊と契約すればあなたなら高い魔力がなくても補助魔法くらいなら使えると思うから、たとえ戦うことはできなくてもサポートに回ることはできるわ。極力は私たちが守るから、あなたはあなたの出来る事をすればいいわ」
と助言した。
「あー、魔法ってそういうもんなのか。じゃあ俺はサポートに回るわ。それにはまず動の精霊とやらと契約しなきゃなんだな」
そんな話で盛り上がってると
「お客さんたち、港が見えてきたぞ!」
と乗組員の一人が声をかけた。前方を見ると白い石でできた青い屋根の建物の多い巨大な港町、そしてそこに続く村とは違う頑丈そうな高い建物が建っている巨大な都市とそのさらに奥に細長く高い城が顔を覗かせている。
「あれがサウザント城、そして城下町よ。都市と港は少し離れているわ。移動用の馬車に乗ることになる」
ミーンがそう説明する。
「すげーな。あんなでかいのが街ひとつなのか」
ヴィッツがそう言うと
「ヴィッツが見てるのは港町。サウザントの街はもっと奥で、ここから見るよりもっと広いわよ」
とスティアが言う。規模の違いに驚くことしかできなかった。そう言ってる間に船はどんどんと港に近づき、そして波止場に泊まる。船から降りた四人は港町の出入り口にあるサウザントの街までの馬車乗り場に向かった。
「サウザントまでの馬車代は全員分払っておいたわ。さ、行きましょう」
ミーンがそう言うと
「あ、え? でも私たちの分は……」
とスティアが言おうとするも
「私の旅を手伝ってくれるお礼よ。これくらいは構わないわ。それ以上の礼に関してはしっかり働いて返してもらうから」
ミーンはそうクスリと笑って
「サウザントの街への馬車に乗り遅れるわ」
と三人を誘導する。ミーンについて行き、サウザントの街へ行く馬車に乗る。馬車は走り出しサウザントの街へと向かった。どれくらい走っただろう。港からそこそこ走ったが街にはまだ到着せず、しかし街の様子はこの距離でも巨大な都市であることが見てわかる。平坦な草原を走り抜け、遂には街の入り口に着いた。四人は馬車に乗せてもらった礼をする。また次の人を乗せに、あるいは街から港に向かう人を乗せるため馬車は去っていった。
街の周りは深くそして幅の広い堀に囲まれている。透明度の高い綺麗な水が流れ、魚も泳いでいる。スティアの話によると北の山脈を源流とする川の水がこの堀を通り、港より南にある海へと流れいるため常に綺麗な水が堀の中を満たしているようだ。またこの堀のおかげで街に魔物や害獣が入ってこられず、もし堀の中に侵入されても城の警備魔法システムが感知して即駆除部隊が出動するらしい。魔法の類に長けた技術を持ち、またその魔法を科学的にも実用に向けて研究している、ある種独特の魔法技術を研究している国でもあるらしい。
「お前、そんなすごい国に嫁入りすんのか……」
ヴィッツが呆然としながらそう言うと
「あたしは! 絶対! ひよっこみたいなやつとは! 結婚しない! ちゃんと見定める!」
とまるでメラメラと炎が湧き上がるが如く拳を握りしめ震えていた。それを見て、ああだからこいつは火の精霊使いになるんだな、と納得したヴィッツだった。街の中へと続く橋を渡り、魔法のゲートに着いた。
「これは魔法の力で悪意や危険物の持ち込みを検査しているのよ。皆大丈夫そうね」
全員特に何事もなくゲートを抜けて街の中に入った。そこは村の建物とは構造が違う丈夫そうな沢山の建物、そして今まで見たこともない数の人々が行き来している。そんな街の中を歩きながら、先に見える巨大な細長い建物が沢山あるサウザント城を目指す。途中ザントが何かを見つける。
「あー! リンゴ並んでるよ! ちょうだい!」
ちょうだいと言いつつ、すでにザントはリンゴを手にして食べていた。
「ちょっと! ザント、まだお金も払ってないのに食べちゃダメじゃない。おじさん、ごめんなさい、この子まだあんまり人間社会に慣れてなくて。だから買い物の知識がまだ少ないんです」
そう言いながらスティアは店員にリンゴの代金を払う。
「おーエルフの子か。まだちっさいのに旅に出るたぁすげぇな。威勢のいい子供は嫌いじゃないぜ。だがちゃんと勝手に食ったことは謝るんだぞ」
店員にそう言われてザントは
「えっと、勝手に食べちゃってごめんなさい!」
とペコリと頭を下げた。すでにリンゴは芯だけ残り食べつくした後だった。
「はっはっは、良い食いっぷりだな。ボウズ、もう一個はサービスだ。もってけ」
そう言ってザントにもう一つリンゴを渡す。
「わー! ありがとう!」
ザントはサービスで貰ったリンゴもあっという間に食べつくした。それを見て笑う店員。そして冷や汗たらたらなスティア。ヴィッツとミーンはしょうがないなと言う顔でザントとスティアを見ていた。そんな珍事もありながら、一行はひたすら城に向かって進む。城までの道はまっすぐではなく曲がりくねった道で万が一にでも侵入者が街の入り口から入った時、一直線に城に到着しないという工夫かららしい。もっぱら城の者たちは転送装置で街の入り口付近にある特殊な建物に移動してから出ていくようだとミーンから聞いた。結構長い距離を歩き、ようやく城壁に囲まれた城の門に到着した。
「何か用か」
門番がそう言うと
「私はアルデナス王国第一王女スティア・クレト・エレストニア。サウザント国王に用があって来たわ」
とスティアが名乗り出た。すると
「こんな薄汚い格好した小娘が王族の名を名乗るとは、いやはや……」
と鼻で笑う。スティアはそれを見て
「王族のミドルネームのことも知らないなんて、全く。そこまで言うならほら、これ見せたら国王も納得するから見せてきなさい」
そう言って首に下げていた五センチほどの銀のメダルに細かい紋様と文字が掘られたペンダントを取り出し門番に渡す。
「さっさと見せてきなさいよ」
もうひとりの門番が
「何か怪しいけどその銀のメダル、本物の銀っぽいな。王族以外だと手に入れるのは困難だ。本物かもしれん」
と言うので
「分かった、国王に見せてくる。お前たち、そこで待っていろ」
とメダルを手渡された門番は国王の元へと走った。
「国王! 国王陛下!」
国王の元へと走ってきた門番。
「どうした? そんなに慌てて、何用だ」
玉座に座った国王は息を切らした門番に問う。
「ええと、実はアルデナス王国第一王女を名乗る女がいまして、あまりにも身なりがその、薄汚いものでして疑いをかけると「これを見せれば国王は納得する」と言いまして……」
と頭を下げて国王に銀のメダルを差し出した。それを見た瞬間
「その娘とやらは何と名乗った!」
と慌てた様子で問いただす。
「ええと『スティア・クレト・エレストニア』と言っておりま……」
すると玉座から立ち上がり
「馬鹿者! それは本物のスティア王女だ! 偽物やなりすましが王族のミドルネームを言った場合、門の魔水晶が警告を出すのを覚えておらぬのか! 何もなかったということは本人なのだ。それにこのメダルもそうだ、アルデナス王国に伝わる銀細工のメダルだ! 早くここへ連れて来るのだ!」
「は、はい!」
慌てた国王を見て大慌てで門に戻っていく門番。そして国王から受け取っていたメダルをスティアに渡しながら
「アルデナス王国のスティア王女様! た、大変ご無礼を……」
とペコペコと頭を下げる。スティアはペンダントを付け直しながら
「まあ、こんな格好じゃ確かに疑われて当然だけども、んー納得してくれたんならいいわ。あ、こっちの三人は私の大事な仲間だから一緒にお願いね。キーコイン渡しておいてね」
と門番に言う。
「はい! 皆様、こちらこの城に入るためのキーコインでございます」
と言って門番は三人にキーコインを渡した。銀色だが銀とは違う輝きを放つ小さなコイン。
「スティア。キーコインってなんだ?」
ヴィッツがそう聞くと
「簡単に言うとこの城には結界が張ってあって、城の関係者以外はこのコインを持ってないと警報が鳴って入れないの。無くしたり落としたりしたら大変だから、ちゃんと大事に持っときなさいよ。私はこのメダルがキーコインと同様の作用してるからいらないんだけどね」
とスティアが説明をしてくれた。こうして一行は案内されて謁見の間に向かった。
「ディア国王陛下、お久しぶりです」
そう言ってスティアは王族同士での礼の仕方で挨拶をする。
「スティア王女、門番が無礼を働き迷惑をかけてしまった。大変申し訳ない」
ディア国王がそう言うと
「ほんっと、教育はちゃんとしてくださいよ! まあ今はこんな身なりだからそう言われても仕方ないのはわかってたけど」
とスティアが納得しつつも不服を言う。
「ははは、相変わらずの気強い性格だな。そうでなくては私の息子には合わん」
ディア国王も気を緩めて国王らしからぬ口調で言う。
「あーそうそう。私の許婚の……」
「カルロであろう。あやつは今修行の旅に出ている」
そう言ってサウザント王国第一王子でありスティアの許婚であるカルロ王子についてディア国王は話し始めた。
「うちの息子がひよっこではないかと心配しているのだろう? そこは心配ない。この国のしきたりでな『国を引き継ぐ者は十五になった年に修行に出る』のだ。それはただの旅ではない。『国王たるものその身で国民を護れ』それが信念だ。その信念を元に己自身の精神と肉体を鍛えるのが修行。旅の行く先は自由。私は昔、数人の兵士を連れて少数部隊での動きを学ぶためグルドア大陸に渡り、ウィル湖へ向かいそこから城へ戻ると言う旅に出た。私は考えたのだ、一人で戦い護ることも大事だが、部下を兵士たちを信用することも大事だ、と。修行は一人で行く決まりはなかったからそう言った意味で仲間たちを連れて行ったが、それはそれで正解だったと今でも思う。まあ息子はとにかく己の精神肉体の修行に集中するため一人で修行に出たようだがな」
スティアはその話を聴いて
「へぇ……ただのひよっこ王子じゃなさそうね。まあ気が合うようなら考えるわ、結婚も」
と呟いたのを聴き
「いやはや相変わらず手厳しいな、スティア王女は。まあ息子はやわな男ではない。その様子、まだまだ結婚は先になりそうだな」
とディア国王は笑った。
「ああそうだ、後ろの三人も退屈そうだ。城の来客室に……」
と言おうとすると
「ああ、お城の中は嫌! 家のこと思い出すから街の宿がいいわ」
とディア国王の提案をスティアは撥ね退けた。
「まあそう言うと思ってな。宿の手配はすでに手配の準備をした。案内を出そう。ナスティ! グレイ!」
ディア国王がそう言うと玉座の両脇に人影が現れる。そして後ろ髪を可愛らしいリボンで結った女性が立ち上がるとスティアたちの方に歩いてきた。そして
「はーい! みなさーん! 今日は私が宿まで案内しまーす、付いてきてくださーい!」
と言って突然凛々しい表情からニッコリとした笑顔に変わった。スティアとザントとヴィッツはそんなナスティについて行こうとしたが
「少し外で待っていて。私は国王陛下に直接話がしたい。まだ公にはできないから、国王陛下と……そしてグレイ。あなたと三人だけで話がしたい」
とミーンが言い出した。
「貴様、何者……」
ディア国王の隣にいた鼻まで隠れる黒いマスクと左目を頭巾の様なもので隠した黒装束の長いこのあたりでは珍しい金色の髪を束ねた男、グレイがそう言いかけたが
「まて、グレイ。貴女はその髪色からして人間ではない、魚人族だな。しかし普通魚人族は陸に上がれないはず。陸にいると言うことは何か重要な意味があるのだろう。いいだろう、話を聴こう」
とミーンと自身とグレイと三人で話をする約束をし、ナスティにスティアとザントとヴィッツを謁見の間から少し離れた広間で待っているよう命じた。こうして三人になった謁見の間でミーンは頭を下げる。
「ありがとうございます、国王陛下。私はミーン・ソリアエル。千年前の光と闇のバランスが一度崩れ、その後均衡を保たれた時代からやってきました」
ミーンの言葉にディア国王とグレイは息をのむ。
「千年前、光を司る者になるはずだった一人の姫が突然行方不明になりました。捜索した後日、肉体は見つかったものの精神が、魂がなかったのです。近くに時空の歪みの跡がありました。恐らく姫の魂のみその時空の歪みに吸い込まれ別の時代へと飛ばされた、と。そして竜人が現れ当時の闇を司る者と協力して、光を司る者が不在の中なんとか均衡を保つ儀式が行われました。しかしそれは『千年しか持たない。千年後、再び光と闇のバランスが崩れる。その時に均衡を保つためにこの時代の光を司る者が千年後に目覚める。お前が探している魂はそこにある』と竜人が言っておりました。そして私は体を陸でも生きられるよう魔法をかけ、そして再び現れた時空の歪みに飛び込みこの時代にやってきました。そしてその光を司る者、私がずっと探していた姫の魂はそう、グレイの中にいるもうひとりのあなたなの」
ミーンにそう言われてグレイは
「俺の中にいるもうひとりの自分。あいつが、お前が探しているというその人物、なのか」
と問い、ミーンはそれに対して頷いた。
「あなたがディア国王に命を救われ、そして失った右腕と両足を魔法再生させ国王への忠誠を誓ったあのとき、あなたの中に出てきたのがそう、私が探し求めていた姫の魂。なんとかあなたと分離させ、肉体生成を成し光を司る者として姫には復活してもらわなければならない。それにはグレイ、あなたも必要。そしてナスティもカルロも必要」
そう言ってヴィッツたちに話した同じ内容の八人の基礎精霊の宿り主を探していることを話した。ディア国王は立ち上がる。
「なるほど。王家代々伝わる伝承と同じ内容だ。千年毎にやってくる光と闇のバランスの崩壊。そして八人の基礎精霊を宿した者たちがエルフの杖を手にし、そして竜人を呼び覚ます。光と闇それぞれを司る者と竜人が力を合わせその均衡を保つ。そして世界はまた千年の安定を保つ、と。そうか、千年前にその事故があったせいで、この時代にまた均衡を保たねばならぬのか」
国王は自身が聞いた伝承を呟いた。そして
「グレイ、お前も行け」
と命令するが
「国王を置いてなど行けません。俺が命をかけて護るのは国王ただ一人」
と拒否をした。
「そうだな。確かにお前は私の命しか聞かないからな。だが、この世界が滅んだら全てが、私もいなくなるのだよ。グレイ、改めて主命だ。彼の者たちに協力して世界を救え、私を守るためにもな」
そう言って改めて国王として命じた。
「……分かりました」
グレイは渋々ながらもミーンたちについて行くことにした。
「よかったわ、グレイ・ハウ・ラインド」
ミーンがグレイのフルネームを呼ぶ。
「俺の名前……? それが俺の、本名?」
「そう、あなたが国王から授かった名前であり、本名でもある」
ミーンの言葉にグレイは目を見開いた。
「お前は! 俺の生まれを、知っているのか?」
グレイが驚いていると
「私は過去を見る力がある。あなたの過去も知ってるわ。でも、今それを話す時ではない。あなたの過去は少しずつ紐解いていく必要がある。ああそれと、あなたの分身を今夜私の部屋に連れてくるようにお願いするわ」
ミーンの言葉にこれ以上聞いても情報は聞けそうにないと判断したグレイはミーンと共にヴィッツたちが待つ広間に向かった。
「ミーンは何を話してるのかしら」
「やっぱ竜人のこととか基礎精霊の八人とかの話じゃねーかな」
スティアとヴィッツがそんな話をしていると、ミーンとグレイがこちらにやってきた。
「待たせてしまったわね。ナスティとグレイが付いてきてくれるわ。そうとりあえずは6人になったわ」
と言うのでやっぱりなと言う顔をするヴィッツとスティア。
「あ、えっと何の話ですかー?」
とナスティがミーンに聞いてきたので詳細は伏せて八人の基礎精霊の宿主にナスティとグレイも選ばれたことが分かった。
「何だが凄い任務に選ばれてしまいましたね、私! でも確かに戦いは得意です! 素早さなら負けませんよー。頑張ります!」
と妙にすんなり受け入れたナスティに対して沈黙を貫き通すグレイ。ヴィッツが挨拶に行こうと近寄る。
「あーなんか女と子供ばっかりでやっと男の話し相手が出来て助かるよ。俺は正直戦える人間じゃねーから迷惑かけると思うけどよろしくな」
そう言って握手しようと手を伸ばしたが
「俺に構うな。国王陛下の命に従うだけ」
グレイはそう言ってスッと背を向けて姿を消した。ヴィッツが呆然としていると
「ごめんなさいねー。彼、色々あってディア様以外にはほとんどあんな態度なんです。別に無視してるとかじゃないからそこは安心してほしいです。ただ、彼は昔色々あって、そうディア様に助けてもらわなかったら生きていなかったから、だからディア様の言うことだけは聞くようになってるんです。私とも任務で一緒になったときに最低限しか話さないくらいだから、その大目に見てあげてください!」
と両手を合わせてナスティが謝る。
「なんか、事故にでも遭ったのか?」
ヴィッツがそう聞くと何やら聞きたそうだと思いナスティはグレイの話を始めた。
「グレイがまだ十歳くらいのときにいた村で爆発事故が起こったんです。もしかしたら事故ではなく事件だったのかも、今となっては不明ですが。その時ちょうど近くを通っていた昔の修行で行った場所を再度巡ろうって旅に出たディア様の部隊が爆発音に気付いて助けられました。右腕と両足を失った状態で、唯一の生き残りだったったそうです。応急措置の魔法でなんとか失血させないようにして、転送魔法でディア様とグレイは城に一度戻って魔法科学者たちの実験室で義肢義足の代わりになる人体の消失部分の魔法生成による再生の実験を施されました。当時の魔法科学者さんに聞いたけど、ディア様本当に必死に彼の命と体を繋ぎ留めたいってまだ実験段階の技法を使ってでもグレイを助けたそうです。その時の実験が無事成功してグレイは自分がディア様に命を助けられた恩で、それがきっかけというか誰ともまとも会話しなかった彼がようやくディア様と色々話すようになった。そして少しずつ、周りの人とも話せるようになった。だからグレイはディア様の元で働いているのです。私も特に体の異常はないんですけど、ディア様に助けられたから。だから私もディア様のために働いてます。それくらいディア様は優しい方。独りだったグレイの心も温めてくれた優しい方なんです」
ナスティの話を聞いて
「その爆発事故って何年前の話だ?」
とヴィッツが聞く。
「えっと、グレイが今二十七だから十七年前です!」
ナスティがそう答えると
「三年ずれてるな。俺の父さんのいる場所の話じゃなさそうだ」
とヴィッツが自分の探している場所とは違うと判断していた。
「ヴィッツさんも何かしらの事故に遭ったんですか?」
ナスティの質問に自分の生まれ育ちや父と母の話をする。
「うーん、私の生まれる前の話なのでその事故に関してはちょっと分からないですね……。私十八ですからまだ生まれてないですね!」
「あ、私と同い年なのね」
「え、そうなんですか!」
そう言ってナスティとスティアが楽しそうに話す。そして
「さーさー、皆さん! お宿に案内しますー。付いてきてくださいねー!」
ナスティは四人を城から少し離れた宿に案内した。食堂や酒場、他にも遊技場も近くにあるにぎやかな一角であった。
「えっとお部屋の割り振りはっと……」
「あー俺一人部屋がいい」
「私も一人部屋をお願いするわ」
「私はザントと一緒がいいけどベッドはひとつで大丈夫だから一人部屋でもいいわ」
各自が希望を出すので
「はーい! じゃあおじさん、こんな感じで部屋割りお願いします!」
と記帳した部屋割りと代金を渡した。
「それじゃあ私はちょっと友達のところに行くので、何かありましたらキーコインに強く念じてお知らせください! キーコインは城の鍵でもありますが、通信媒体にもなりますので! それではっ!」
そう言いながらナスティは元気よく出て行った。
「なんかグレイってやつはとっつきにくいけど、逆にナスティは話しやすいな。すっげー真逆のタイプ同士だよな」
「そうね。確かにナスティと話しててとっても楽しかった。同い年の女の子と話すってあんなに楽しいものなのね」
そう言いながらスティアはザントと共に部屋に行き、ヴィッツとミーンもそれぞれ自室に向かう。
「あれ、隣同士か」
「奇遇ね」
「俺ちょっと休んだら飯食って酒でも飲んでくるわ」
「そうね、ゆっくりできるのもこれから少なくなるかもしれないし、少しは息抜きするといいわ」
ヴィッツとミーンはお互いそう言いながら手を振り自室へと入っていった。
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