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一章【集結】
三話 それぞれの思い
しおりを挟む船着き場から船が出てどれくらい経っただろう。日は傾き星が空にぽつぽつと見えてきた。乗組員の計らいで夕食を皆で食べる。ミーンは少し離れたところに座り一人で黙々と食事をする。一方ヴィッツたちはザントの食欲と食べるスピードに驚いたり、スティアが辛い物が苦手だと言うことを知ったりとちょっとした賑わいを見せていた。
「ごちそうさま。食事、ありがとう」
そう言ってミーンが食器を洗い場に持っていく。そしてそのまま寝室へは行かず甲板へと上がっていった。こちらも食事が終わり食器を片付け一息つこうとヴィッツは寝室へ向かう。すると
「あっ! ヴィッツ。ちょっとザントの遊び相手してあげて! 私ちょっと用事あるから!」
と抱きかかえていたザントをヴィッツに預けてどこかに行ってしまった。
「あいつ、どこ行くんだ?」
ヴィッツがそう考えてると
「ミーンのところじゃないかなー。それよりさ、ボクまだヴィッツのことよく知らないから教えて!」
とザントが言う。寝室は今回はヴィッツとザント、そしてスティアとミーンという組み合わせ。今回は特に警戒することもない。ザントと向かい合わせでベッドに座ると、まずザントから自身の話から始めた。
「スティアはまだ未熟で育ってないボクのこといつも心配してくれてる。それでね、ボクはいつもスティアと一緒に修行がんばってるんだ。ボク、本当なら十歳の見た目になるはずなんだ、人間で言うと二十歳になるけどエルフで言うと十歳。でも、ボクの魔力が高すぎて成長するにはまだ何かが足りないんだって。だからその足りない何かが分かるまで、ボクはまだ大きくなれないんだ。でも……もしかしたら大きくなれるかもしれない。ミーンが来たから」
とザントが言う。
「あいつが? あの女が何かしてくれるのか?」
ヴィッツがそう聞くと
「うんとね、ミーンが八人の基礎精霊を宿した人間が必要って言ってたでしょ?」
とザントが言う。ヴィッツは
「あーなんかそんなこと言ってたな」
とおぼろげに覚えていたことを思い出す。
「それで、その基礎精霊って言うのが火、水、地、風の四属性と、それとは別に静、動、光、闇っていう対の精霊がいるの。この世界は光と闇のバランスを元に様々なものを生み出して出来上がったものなんだ。いろんなものが混ざりあって出来た、それがこの世界」
小さい見た目に反して流石高魔力持ちだからだろう、魔法の知識には長けているようだ。
「ミーンが竜人を探す手がかりをって言ってたから、たぶんそれに必要なのがエルフの杖」
「エルフの杖?」
ザントは頷く。
「うん。八つの精霊の力が揃うと抜くことが出来る昔からある杖。千年前に封印されてから、ずっとずーっとボクが元居たエルフの森にあるんだ。だからきっとその杖がミーンには必要なんだよ。そしてその杖はいろんな力をもってるらしいんだ。もしかしたらボクの力もその杖でなんとかなるかもしれない。でも千年も昔の杖の話だから、うーんボクもどんな力があるかわからないんだ」
ザントは難しそうな顔をする。しかし次には風の精霊からもらった羽でパタパタと部屋の中を飛ぶ。
「ボクは風の精霊さんと契約してるから、もう風はそろってる。そしてヴィッツは動でスティアは火って言ってた。魔法は精霊と契約しないと使えない、エルフも人間も同じ。ボクたちだけの力じゃ魔法は使えないんだ。まずはヴィッツは動の精霊さん、スティアは火の精霊さんと仲良くならなきゃだめだね!」
そうザントが言うと
「俺、魔法とかからっきしダメだぞ? そもそも魔力なんてねーよ」
とヴィッツが言ったが
「そんなことないよ。生まれつき魔力がなく生まれた者以外は普通に精霊さんは見えるんだよ。ね、エレス」
するとそこには少しだけウェーブのかかったミディアムロングの緑の髪、そして白いワンピースを着た手のひらに乗るくらいの小さな少女が現れた。蝶というより結んだリボンの形をした羽を持っている。
「こんばんは、ヴィッツさん。私はエレス。ザントと契約した風の精霊です。あまり私が姿を現すことはありませんがよろしくお願いします」
そう言って一礼するとスーッと姿が消えた。
「おー! すげー! 俺精霊初めて見た! 母さんも魔法は使えるはずなんだが、精霊を呼び出すことなんてなかったもんな。平和な村だ、下手に魔法でも使ってなんか事故ってのもやだからな。だから母さんは村では一度も魔法を使わなかった」
ヴィッツがそう話すとザントは楽しそうに話を聞き
「もっとヴィッツのこととかヴィッツのお母さんのこととか教えて!」
と自分の話を止めてヴィッツの話を聞きたがった。
「うーん、どこから話すかなぁ。まあお前には自己紹介ちゃんとしてなかったから俺の話からするか。俺はヴィッツ・ウェアルド、ワルトゥワの村出身だ。母さんはどっか遠い街の出身で父さんも同じ街。だけど、魔法の大事故で街全体が大火事で燃え尽きたって話は聞いてる。その際に母さんとまだ母さんの腹の中にいた俺を助けるために、父さんは自分の転送分を使ってとにかくどこか遠くに転送って飛んだ先がワルトゥワの村の近くだったらしい。父さんの安否はわからねぇけど「必ず生きて会う」って最後に言ってたって母さんは言ってた。で、母さんは凄く優しくておっとりした人だったって村のみんなが言ってたよ」
ヴィッツのその言葉に
「村のみんなが言ってた? ヴィッツはお母さんのこと覚えてないの?」
とザントが聞く。ヴィッツはこくりと頷き
「ああ、実は俺が五歳の時に流行病があって、母さんもそれで死んじまった。そん時のことがよっぽどショックだったのか、それ以降母さんの記憶が部分的に抜けちまった。声はよく覚えてるけど顔は思い出せねぇ。普段どんな料理作ってたかも思い出せねぇけどすっごく美味かったのは覚えてる。あと異国の話だとかを絵本の読み聞かせみたいに色々話してくれたのは覚えてるけど内容はハッキリとは覚えてねぇな。でもすっげーワクワクした。俺の知らない世界がこんなにたくさんあるんだっていうワクワク感だけは今でも覚えてる。それが俺が旅に出たもう一つの理由だ、父さんに母さんの死を伝えるためっていう理由とセットだな」
と答え
「ああ、なんか母さんの話に脱線しちまったな。俺はまあスティアの言うとおり一般人だ。村で農作業しながら暮らしてた。戦い方なんて知らない平和な村育ちの一人だ。なのに旅に出たいって気持ちだけで出たらこのありさま、だ。スティアとザントに出会ってなきゃ今頃、熊に食い殺されてた。まあ本当助かったよ」
ヴィッツはザントに頭を下げた。それを見てザントは
「ふつーの旅ならね、サウザント大陸やアルデナス大陸まで行けば半日歩けば宿があるくらいには旅の道を歩けば安全だよ。でもザルド大陸は別。スティアからも聞いたでしょ? ボルト城がわるい動物とかわるい魔物とか倒してくれるから船着き場の手前までは平和。でもそこから先のアルデナスに続くナスト海峡のあたりまでは討伐隊も行かないから、ザルド大陸でもあの辺りは危ないんだ。魔物は出ないけどわるい動物とかは結構いるよ。昔は魔物もそこそこ出てたから、その名残で魔物討伐部隊が残ってる」
と各大陸の説明をする。
「あーそういやさっきから魔物魔物っつってるけど、それは結構ヤバいものなのか?」
ヴィッツは魔物を知らない。
「ワルトゥワ出身なら魔物のこと知らないと思う。魔物って言われてるけど、おとぎ話みたいにわるーい魔王とか魔法使いがいて、そいつが従わせてるとかそう言うのじゃなくてね。何ていうのかな、魔法生物? とも違うかな? 簡単に言うと「本来はこの世界に存在しない狂った異種の生命体」っていうのが一番有力な説じゃないかって言われてる。実際のところ、どこからともなく現れてとにかく人だろうが動物だろうがお構いなしに襲ってくる、それが魔物。ザルド大陸以外だと見かける地域と、凄く沢山出てくる地域と凄く差があるのは聞いてるー」
やはりまだまだ自分の知らないことが多い世界なのだな、とザントの話にヴィッツは改めて考える。
「そーやって聞くと、なんか俺あの女に変な旅に巻き込まれたのがこえーな。戦う知識もない俺だぞ? 絶対その魔物だとかいるようなところに連れてかれそうなんだ。正直ただの足手まといにしかならねーから他の強そうなやつを選んでくんねーかな」
ため息交じりにヴィッツが愚痴をこぼす。
「選ばれた勇士だからヴィッツじゃないとダメなんだと思うよー」
ザントがそう軽く言うが
「お前は戦える身だからいいけどよ、俺の身になってみろよ。農具以外握ったことねー俺が武器使えると思うか?」
とヴィッツが不安をもらす。
「大丈夫だよ! ボクもスティアも、ミーンも、そしてあと四人も仲間が出来るんだよ。ヴィッツはヴィッツにできることすればだいじょーぶ!」
割と楽観視するタイプのザントはヴィッツに対して気にするなと言う。それでもヴィッツの不安はぬぐえないのだった。
一方その頃、ミーンを追いかけて行ったスティアは甲板に上がる。見上げれば空はもう夜空へと変わり満天の星空が広がる。ミーンはどこにいるだろうか探してみると、デッキの手すりに両腕をおいて南側の海を眺めているのがうっすらと見えた。近くまで来てみるが「あっちに行って」と言われないか不安だった。しかし
「スティアね。さっきは色々と強く言いすぎた部分があったわね」
と謝る様子はなかったがきつく言ったことに対しては自覚があったようだ。
「あのっ、隣に行ってもいいかしら」
スティアがそう言うと「どうぞ」と言わんばかりに左手をそっと自身の隣に差し出した。スティアはそれを見てそっとミーンの隣に立つ。時間と距離的にこのあたりはルードリー海域。真上を通ることはまずないが不思議と神聖視されている海域である。水が他の海域と比べて澄んでいるのもそう扱われる理由なのかもしれない。二人は特に何も話さず海を眺めている。すると
「私はね、とある方を探しているの」
とミーンが口を開いた。
「とある方? 竜人とは違うの?」
スティアが聞くと
「ええ、竜人も探しているけれど、その方は私にとっても一族にとっても大事な方。その方がサウザントにいる。そして会うためにはサウザント国王に会わねばならない」
ミーンの言葉に「藁にもすがる気持ちを感じた」理由がようやくほどけた。
「それで私の力が必要だったのね。もっと素直に言ってくれればもっと納得して協力したのに」
スティアが少し笑うと
「そうね。きつく言い過ぎたわね。改めてお願いするわ。私の探しているあの方を……今はそれが誰か言えないけれども、あの方を探すために力を貸してほしい」
顔こそ笑ってはいない真剣な表情であったが、先ほどとは違いほんの少しだけ柔らかさを感じた。
「あの方を探し、そして竜人の手がかりを見つける。それが私に与えられた使命。家族もすべて捨てて旅をしている理由」
どこか遠いところから来たのだろうか
「あなたの家族は今どうしてるかは分からないの?」
スティアがそう聞くと
「もうわからないわ。昔のことだから。それでも私は前に進まなければならないの。世界の均衡を保つためにも、あの方を元の場所へと連れて帰るためにも、ね」
ミーンがどこの出身かは分からない、なんせ魚人族に会うのは初めてだからだ。でも一族にとって何かとても重要な人を探していて、そして世界の平和を維持するために全力を尽くしていることはわかった。
「深くは聞かないわ、時が来たら話すって言ってたもの。だから私はあなたを信用する。正直、私がその旅に役に立つのかは分からないけども。それでも協力するわ」
まだ謎が多いが少しだけ打ち解け合ったミーンとスティアだった。
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