ダンジョンの管理人になりました

チョッキリ

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20 最後の管理人

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「マスターまた、なきがら返せって言ってくる人がきた」

そう、遺品は返すが遺体はダンジョンの墓地に埋葬している。だから、こういう人が後をたたない。ダンジョンで亡くなったのだから、キレイな訳がない。こう言っては失礼だが一度、亡くなった人を見てしまい、暫くご飯が食べられなくなり、悪夢にもうなされるようになった。

金のマスターがしゃれで造った“安眠君”なる魔道具でようやく悪夢を見ること無く眠れるのようになったのだ。それからは、もし亡くなった人がいたら、モンスターに遺品になりそうなものを取ってもらい、墓地に埋葬してもらっている。

そんな遺体を返せないから、ギルマスに頼んで説明してもらい、どうしても手を合わせたい、花を手向けたいと言う人の為に献花台を設置している。

ギルマスの説明で納得してくれた人も居るけど、多くの人はこうやって、返せと言ってくるのだ。
気持ちは分かるから、なるべく遺品になるものは全て返してるのに、

「紫、ギルマスに応援頼んで。一応献花台も出しといて」

こういう人達が来るようになってから、ギルマスに直通で連絡できる魔道具を造ってもらい、ダンジョン近くのギルマスに渡してある。

紫からの通信ですぐにギルド職員がきてくれた。引き取るために抵抗する女性を2人がかりで連れていった。ギルド職員はかなりガタイがいいのに、あんな細腕で2人を翻弄してる。すごいな、あの女性。

こういう時、子供の俺が出て行けば余計に拗れるので、大人の人に任せるのが一番だ。そう、最初はマスターとして説明しようと出て行ったんだけど、子供の遊びで人の命を弄ぶなと、怒鳴られた。遊びでやってないし、一度は蘇生できるようにしている。それでも命を落すようなら、その人の尊厳を守る為に埋葬しているのに。

この事があってからは、ギルマスに頼むようにして、俺は表に出ないようにした。

蘇生は一度だけ。ダンジョンに入る度にそう書かれた画面がてで来るのに、冒険者の中にも外に出ればリセットされると思ってる人が多い。ダンジョンから出たとしても、一度は一度。一度でもダンジョン内で死ねば、二度目はない。

どういう仕組みかは分からないが、一度魔道具で蘇生した者には、魔道具は反応しなくなる。勘違いする冒険者が多かったので、この一文を付け足した。

そうすると、無茶を言う冒険者は少なくなった。横暴な冒険者は少なからずいるが、こういう人達も、ギルマスに頼んである。俺じゃ太刀打ちできないし。

墓地と言えば、青の墓地には他のコア達の墓地にはない木が一本、咲いていた。墓地には他のコア達も繋げられるらしく、銀が懐かしそうに言っていた。

「ああ、もうこの木を見ることはできないと思っていました。この木は金のマスターが試行錯誤してこの一本だけ奇跡的に出来たと、金のコア部屋に咲かしていたんです。マスター亡き後も金のコア部屋にはこれがありました。しかし、金のダンジョンが壊れた時、この木もまた失ったのです。金もこの木だけは僕に譲ってくれませんでしたから。金もマスターはこの木の下で寝てるから、無くなったら寂しがると」

俺も銀も暫く静かに、ピンクの小さな花を咲かせてる木をながめていた。

「この木の名前は“サクラ”って金のマスターが言ってました。何で、青のダンジョンにこれがあるのか分かりませんが、また見れて嬉しいです」

銀の言葉を聞きながらも、俺の視線はあるものをとらえてた。サクラと言われる木の下に、小さな石がつまれてた。俺はサクラの木の下にまで行くと見覚えのある文字を見つけた。すかさずモノクルを取り出して見ると

〔木村 尚樹改めヴィルト ブーレアここに眠る〕

字は金のマスターの字なので、死期を悟った金のマスターが自分で書いたものだろう。それを金のコアがマスターを埋葬した場所に建てたのだろう。でも何で金のマスターのお墓がここに?
すると、いつの間にかお墓の前に一人の青年が立っていた。

「金のマスター!!」

銀の叫びに、目の前の青年が亡くなった金のマスター本人だとわかった。驚きで固まっていると、

「銀、久しぶりだね。成長したね。初めてあった時は赤ちゃん声だったのに、今は青年のような声だ。いいマスターに出会えたんだね」

そう言って、俺に視線を向けた。

「初めましてかな?俺はヴィルト。前世って言っても伝わらないからこの事は省くね。リュート、ありがとう。銀のマスターになってくれて。そして、全てのコアのマスターになってくれて。なんと俺、死んで神様になったんだよ!何の神様かって言うとダンジョンコアの神様だ!」

えーと?なんとリアクションすれば正解かな?

「ハハ、まー、戸惑うよな。実はリュート以外、適当に決めたもんであんなバカにもスキルが付いたわけだ。迷惑かけたな?ごめんな。新米の神様だから、何か一つだけの神様になって経験を積んでいって上級神になるらしいんだけど、この事でしこたま怒られてね?降格して、また人に転生することが決まったんだよ」

理解が追いつかないんですが。勝手に話進めないでいただけません?そんな俺に構わず

「でもさ、ダンジョンコアの数は決められてる。ここの青で全てのコアは揃った。実は青のコアは金のコアの生まれ変わりだ。こいつ中々俺から離れなくて困ってたんだが、お前が生まれた辺りから、ずっとお前の事を気にしててな。だからリュート、お前にこのスキルを託した。しかしお前霊感強いな。俺が撫でたのわかっただろう」

レイカンって言うのは分からないけど、長年の疑問が今解けた。あれは金のマスターの手だったんだ。あながち、神様の手でも間違いではなかったらしい。あの時は新米神様だったらしいし。

「スキルの事でリュートが困っているのを見て、金のやつ。ようやく俺から離れて生まれ変わった。ずっと隣に居たやつが居なくなって少し寂しかったけど、楽しそうにしているのを見てこれで良かったんだって思ったよ。しかしまさか、生まれ変わったのに、これを再現させたのは驚いたな。俺の墓もちゃんとあるし」

サクラと自分のお墓を見ている金のマスターの目は、どこか嬉しそうな、それでいて悲しそうな目をしていた。俺は金のマスターから目を反らし、サクラを見上げた。

「キレイですね。これがここだけにあるのは勿体無いですね。もっと多くの人に見てもらいたいです」

すると青が現れ

「だったら、全てのコアにきょうりょくしてもらって、この木をりょうさんしよう!」

「それはいい考えですね。確かに、これだけは僕でも複製できませんでしたが、全てのコアの力をもってすれば可能かもしれません。なんせ、全てのコアのマスターはマスターただ一人ですからね」

「「「「やるよー、やってやるー、えいえいおー」」」」

全てのコア達の画面が現れた。金のマスターは少し驚いて、楽しそうに笑ってた。

「じゃ、皆。よろしく頼む。この木をいっぱい作ってくれ!」

「「「「「「「はーい!」」」」」」」

サクラは全てのコアの墓地に一本ずつ植え、ローズベリー辺境伯領地の周りにも植えた。この木を見た王太子様から、停戦した暁には友好の証としてこの木を送りたいと申し出があり、領主様経由でOKを出した。

少しずつ、遺体の返還を求める声も無くなり、無茶をする冒険者も少なくなってきて、楽しくダンジョンを攻略している。

王太子様達は約束を果たし、戴冠後は全ての大陸の全ての国にサクラが咲き誇っていた。

月日は流れ、青の墓地のサクラの木の下には立派なお墓が2つ並んでいた。青のダンジョンの入り口にはいつまでも献花台に領民の人達が花を手向けに来てくれている。

全てのコアのマスター亡き後、“モンスター管理者”のスキル保持者は誰一人として現れることはなかった。



            完
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