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21 聖女の能力

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日の出と共に目が覚めた俺は、まだ寝ている三匹を起こさないように身支度を済ませた。

なにか飲もうと収納を見ていたら、なぜか新しいポットがあったので、確かめてみるとコーヒーとココアだった。俺は迷わずコーヒーを選んだ。

コップにコーヒーを移していると、コーヒー独特のいい匂いがした。

俺は、香りを嗅いで気持ちを落ち着かせながら飲んだ。

「はぁ、やっぱり朝はコーヒーだよな」

一杯目はブラックで、二杯目はミルクのみを入れたカフェオレを飲んでいると、ラグ達が起き出した。

「あら、一人だけ優雅なことね」

そう言ってレティは、まだ寝ぼけているラグにしっぽを絡めると、ジェムがレティを掴みそのまま俺の所へ連れてきた。

「そうやって移動するんだ」

俺は苦笑しながら、ブラックとカフェオレを小さな深皿に入れた。

レティはラグを俺の上へ落とし、ジェムと一緒に両方を飲み、レティはブラックを、ジェムはカフェオレを飲みだした。

「ラグ、起きないと全部飲まれるぞ」

俺はラグを軽く揺すると、身じろぎをしたラグの鼻先に俺の持っているカフェオレの匂いを嗅がせると、目を閉じたままクンクンと鼻を動かした。

まだ閉じたままの目を覚まさせようと、俺はレティが飲んでいるブラックの前にラグを置くと、匂いに釣られて口にしたラグは

「にがっ!」

と一気に目を覚まし、後ろへ飛んだ。

「アハハハ。ようやく目が覚めたみたいだね」

と、苦さを取ろうと一生懸命手で口を擦っているラグに、小さな深皿にココアを入れて差し出した。

疑う目で俺を見ながら、慎重に匂いに嗅いで、甘い飲み物だとわかると、一気に食いついた。

「あら、ラグだけ特別なの?」

「ボクもそれ飲んでみたい!」

二匹の言葉にラグは、二匹から深皿を隠すように背を向けた。

ジリジリとラグににじりよる二匹を見て

「ブラックで飲んでいたレティには甘すぎると思うけど」

と言って、二匹が飲んでいた深皿を片付け、新しい深皿にココアを入れた。

二匹はラグから方向転換して、新しい深皿の方へ来ると、一口口にした。

「確かに、ワタシには甘すぎるわね」

「ボクも甘いと思うけど、飲めなくはないかな」

と言って、残りをジェムが飲み干した。

そうこうしている内に、日も登り、外が明るくなっていた。

「じゃ、そろそろ行こうか」

部屋を後にして鍵を返し、廃教会へ向かった。



賑わってある市場を抜け、開けた広場にある廃教会に行くと、遠巻きに中央の廃教会を睨み付けている女性達や、母親と手を繋いで寂しそうな顔をしている子供達が居た。

そしてその中央の廃教会には多くの男性が囲っていた。
俺は隠匿のローブを羽織、ゆっくりと廃教会へ近づくと

「聖女様、どうか聖女様のご慈悲を」

「聖女様、何でもしますので、どうかこの怪我を治して下さい」

「聖女様」「聖女様」

と野太い声のコールがうるさかった。

俺はそんな男達をかき分け、教会の中へと入る。

中にも多くの男性が居たけど、そのほとんどは見目の良い男ばかりだった。

(見た目だけで選別する奴のどこが聖女なんだか)

と冷めた目で周りを見て、俺は気づいた。
外の男達とは違い、中の男達の目は虚ろだった。

違和感を覚えた俺は、失礼を承知で近くの男達を鑑定した。すると、全員に“魅了”の文字があった。

(はあ。なんかお約束って感じだな)
『ラグ、浄化で魅了を解けるか?』

『無理だね。浄化は邪は祓えるけど、解呪は出来ないんだよ』

頼みのラグで無理とは。元を断てば戻るか?と考えていると

『魅了が育成者か神候補の魔法かわからないけど、どちらにしても、ここいる神候補の魔法なら解けると思うわよ』

『そうですね。魅了が育成者の魔法によるものでも、眷属が使える魔法は神候補で対処出来るようになってるから』

と、レティとジェムが答えを教えてくれた。なら、早速とばかりに神候補を探すと、教壇に腰かけて、男を侍らせているピンクの髪の女が見えた。

まぁ、教会に入った辺りからチラチラと見えてはいたけど、なるべく視界に入れないようにしていたから、完全に忘れていた。

そして、脳がここでの会話を拒否っているのか、何かしら話しているみたいだけど、全く聞こえなかった。

あまり興味もないので、その事は気にせず神候補を探す事に集中した。

しかし、少し気になるのでピンクのステータスを確認しよう。

ーーーーー
エリー

・神の育成者
   神候補 ****(邪神化抵抗中)
       

・****の眷属

・眷属共鳴 (治癒以外の共鳴拒否)

・精神汚染系(魅了 洗脳 傀儡)、***、***
ーーーーー

候補の名前が文字化けしてる?しかも、眷属共鳴って拒否できるんだ。それにしても、魅了以外にもえげつないないものを持ってたな。

男以外興味ありませんってか?まぁ、これを発揮されなくてよかったけどな。と思っていると

『いたわ。奥の居住スペース』

レティの案内で、神候補がいる居住スペースに行くと、床にピンクのウサギが苦しそうに踞っていた。

「ラグ!」

俺は急いでラグを胸ポケットから出すと、
ウサギの側に置いた。

「ヨミ、聖水も準備して!ラグの浄化が終わり次第飲まして!」

「これはヒドイ」

俺は慌てて聖水を取り出すと、ウサギの側に屈んだ。

ラグでも手間取っているのか、いつもより時間がかかっていた。やきもきしたがら待つこと、数十分。
ようやくラグが頷いたので、俺はそっとウサギを抱え、ゆっくり聖水を飲ませた。

「ヨミ、この子が気がついたら育成者の変更の了承を取って。そうすれば今の育成者の許可が無くても変更できるわ」

「変更?譲渡ではなく?」

「ええ。だってあの育成者が素直に譲渡すると思うの?ワタシは思わないわ」

まぁ、素直に譲渡しないだろうな。と思ってあると

「育成者の変更、了承するの」

弱々しくも、しっかりとした声が手元からした。

「良いんだな」

俺は最終確認をすると、ウサギは頷いた。
すると、光がウサギを包んだ。

「「「「名前を」」」」

四つの声に俺は

「ルルーシェ」

なんとなく頭に浮かんだ言葉を口にした。

そして例のごとく、光が収まれば手のひらサイズの藍色の瞳とピンクに藍色のメッシュはいったウサギがいた。

「うん。もうあきらめた」

俺が遠い目をしていると、鐘の音が響き、彼岸花と夕顔が咲き誇っていた。
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