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12 新たな仲間と友との約束

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物心付いた時からずっと違和感があった。

心は男なのに体は女。

女物のドレスを着るのが嫌で嫌で仕方なかった。

父上や兄上のような服がいいと言ったこともあった。

淑女らしくしなさいと言われるのが苦痛だった。

誰にも理解されなかった。自分の事を“ボク”と言えば鞭で打たれ、矯正させられた。

男物の服をねだれば奇異の目で見られた。

終いには病気だと言われて、領地の邸に監禁された。

何もかもかが嫌になって、間違った生を終わらせた。はずだったのに

*****

顔を上げた彼女の水色の瞳は、光を失ったように暗かった。俺はもう一度

「大丈夫ですか」

と問えば、何も写していなさそうな瞳で

「君は、、己の性に違和感を覚えたことはある。ボクはある。なんでボクの体は女なのかな」

彼女、いや彼は俺に問うと言うよりも、自問しているようだった。

そして、彼の言葉を聞いて思い浮かべたのは“トランスジェンダー”や“性同一性障害”という言葉だった。意味は分からなかったけど、彼の言葉からこの言葉を連想したということは、彼のような人の事を指す言葉なのだろう。

ふと彼の身なりを見た。女性物の服を着ていた。

「なんで着替えないの?収納には男物の服もあったでしょ?」

そう初回特典で入っているものは、男物の女物も関係なく入っている。俺はそれに気づいた時、大きなバッグに女物だけを、あまり見ないように詰め込み封印した。

俺の言葉に彼は、少しだけ光を取り戻した瞳を大きく見開いて

「だって、おかしな事なんだろう?ボクは見た目女だから、男物を着ようとするのは変なことで、、病気で、、だから」

少し光を取り戻したと思ったけど、また暗くなった瞳を俺から反らした。

「君は病気なんかじゃないよ。産まれるとき入る器を間違っただけだよ。だから我慢する事ない。体を作り替える事は出来ないけど、自分がしたい格好はしていいんだ。それは君の自由だ」

彼はぼろぼろと涙を流した。ずっと我慢してきたんだろう。泣きかたが次第に激しくなり、嗚咽までしだした。俺は彼が泣き止むまでその背中をなで続けた。

ひとしきり泣いた後、彼は開き直ったように自分の収納から好みの洋服を選ぶと、それに着替えた。

俺は慌てて後ろを向き、認識阻害の魔法を周りにかけた。いくら心は男でも体は女なのだ。配慮して欲しい。
着替え終わったのか

「どうだ?似合うかな」

と声をかけられたので振り向くと、キレイな長髪は短く切られ、肌を隠すような服から、半袖のシャツに、足の細さがわかるタイトなズボン姿の彼がいた。
しかも髪を切ったことにより、そのキレイな顔立ちがはっきりとわかる。

「あー、うん。似合うよ(まんま男装の麗人)」

彼の気持ちを考えると、言っちゃいけないと思い、言葉にはしなかった。

彼はおもむろに、地面に置いてあった鞄から卵を取り出した。

「これはあの時託された卵が孵ったものだ。卵から卵が生まれた」

そう言って、その卵を俺に渡して来た。

「君ならちゃんとこの子を産まれさせられるんじゃないかと思うんだが、どうだろうか」

と、俺に卵を手渡し、そのまま卵を撫でた。するとすぐに卵が動き、ひびが入った。

俺は慌ててタオルを出し、地面に折り畳んで置き、その上に卵を置いた。

ひびが大きくなりついに割れた時、産まれたのは黄色の鱗に藍色の瞳をした手のひらサイズの蛇だった。

「産まれた。、、良かった。本当に良かった」

彼は本当に嬉しそうに笑って、蛇を抱き締めた。
俺はというと、確かにちゃんと産まれたのは嬉しかったけど、なんでまた手のひらサイズなんだと、遠い目になっていた。

「ふふ、やっと会えたわね。卵の中からずっと心配していたのよ?さぁ、ワタシに名前を付けてちょうだい」

おれも、彼もピシッと時が止まったように固まった。

「オネェ、、」

ついポロっと口に出してしまった。その事で彼もようやく動けるようになり

「やっぱりこんなボクだから、君にまで影響が」

折角立ち直ったと思ったのに、また逆戻りした彼に

「あら、違うわよ。自意識過剰ね。あなただけだったらワタシになってないわ。少なくても彼の深層心理に影響されてワタシになったの。この姿はあなたの深層心理から得たものね」

と器用に尻尾で指してきた。

まぁ彼の事を見ていて、不謹慎だけど、その相棒がオネェならちょっと面白いかもと思ってしまったのは事実だ。

「あっ、だから瞳がヨミの色なんだね。2人の思想から産まれたから。僕はラグレット。ラグって呼んで」

「よろしくね、ラグ。ほら、ワタシの名前考えてよ」

俺と彼は顔を見合わせた。すると、彼は

「この子をお願い出来るかな。あなたのおかげでいろいろ吹っ切れたけど、でもやっぱりボクはちゃんとした体でボクとして産まれて生きていきたい」

俺は、ラグとオネェの蛇。そして、彼を見て

「俺はヨミ。あなたの分までこの子を立派な神に育てると約束するよ」

と右手を出した。その手を彼が握り

「ボクはヴァイオレット。家名は今捨てた。だからただのヴァイオレット。勝手なお願いをしてごめんな。そして、ありがとう。この子の名前もお願いできるかな。ボクはセンスがないから」

と、苦笑していった。俺は考えて考えてそして

「レティオット。ヴァイオレットの愛称にレティってあったよね?だからレティオット。どう?」

ヴァイオレットは涙目で笑いながら

「うんうん。いいね。ありがとう、ヨミ」

レティオットも

「じゃぁ、ワタシの事はレティって呼んでね。ヴァイオレット、ワタシが立派な神様になったら、ワタシの世界に転生させてあげる。それまで、しばしのお別れよ」

「ああ、楽しみにしているよ」

レティは何かの魔法を使い、ヴァイオレットを魂の姿に変えた。

「お休み、ヴァイオレット」

俺はヴァイオレットの魂をそっと包み込んだ。
その時、ゴーンゴーンという鐘の音とともに、全ての時が止まった感覚がした。

そして、あたり一面に彼岸花とラッパスイセンが咲き誇った。
そこにあの神様が降り立った。ひとりの神使と共に

「その者はこちらで保護しよう。そのまま現世にあれば魔物化してしまうのでな」

そう言うと、ヴァイオレットの魂が吸い寄せられるように神様の手におさまった。

次に、神様は神使に目をやると

「絶望した者の魂を選び連れて来るとは。お前のしたことは、この者も神候補も邪に落とす行為だ!今まで何をしてきたのだ!お前の神使の格を剥奪する。今一度、人としてやり直せ」

「お待ちください!どうかそれだけはお許しください!今一度チャンスを、どうか剥奪だけは!」

神様にすがりついて乞い願う神使を、神様は無視してそのまま転生の輪に神使を送った。

神使を見送った後、神様は俺に向き直り

「異例のことだが、そなたに2柱の神候補の育成を任せる。しかと育てよ」

そう言って、花畑と共に神様は消え、また時が動き出した。

動き出した時はなぜか夕暮れになっていた。俺は地面に置いてあるタオルや、ヴァイオレットの残した鞄を回収すると、レティの登録の為にギルドへ向かった。
ほんの一時しか言葉を交わせなかった友との約束を胸に

ーーーー
レティオット 9/100(良)

育成者 ヨミ (眷属ヴァイオレット)

固有魔法
 魂化(任意で人を魂化させられる)

神属共有(眷属共鳴の共有)
 念話
 神眼
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