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コウモリの行方
コウモリの行方 中
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あれから数年が過ぎた。
貴族は7歳の時に、王宮でお披露目して貴族の仲間入りになるのだか、私はそれに出てはいない。
多分、あの人達の中で私はもう居ないものになっているのだろう。五歳の時にこの別館へ誰にも言わずに来たのに、捜索する素振りさえなかった。
****
私はある食堂で働いている。文字通り看板娘として
「ケイちゃん今日もかわいいね。頑張ってるケイちゃんの為におじさんはもう一品注文しちゃおうかなぁ」
「ギャハハハ、何きしょく悪いこといってんだ。それじゃ、変質者と間違われてもおかしくねーぞ」
今はお昼。まるで夜の居酒屋のようなノリのお客さん達と一緒に私も笑った。
五歳のあの時、子供でも雇ってくれる所を探しに街にでた。色々な場所を周り、時には人さらいにも合いそうになりながらもこの食堂にたどり着いた。
おかみさんに事情を話すと、少ない給金で良いならと雇って貰えることになったのだ。
まだ日も落ちていない夕方に私の仕事は終わる。
一人で暮らすには幼すぎるので、まだあの別館に私はいる。
今日は私の10歳の誕生日。公爵令嬢とは思えない質素な料理を作り、心持ち豪華に飾り付け一人で誕生日を祝った。
日も暮れて、自分の部屋以外は真っ暗なこの別館に何の前触れもなく人が訪ねてきた。
この五年で別館に認識阻害の魔法をかけ、別館を囲うように土魔法で壁を作り、その壁にも認識阻害の魔法をかけた。
つまり、私以外この建物を認識できる人はいないはずなのだ。
認識阻害に、人感知の魔法も重ねがけしているので侵入者があればわかる。侵入者は玄関を開けた。
「ケイト、居るかい?しかし、色々とすごいことをしてるね。ケイト、マイケル叔父様だよ。何処だい?」
私は息を潜めて階段上で様子を窺っていたけど、相手がマイケル叔父様だとわかり姿を見せた。
「こんばんはマイク叔父様。どうしてここがわかったんですか?」
マイケル叔父様は私を見つけると嬉しそうに微笑んだけど、私の今の姿を見て憐れみの眼差しになった。
「それは、ケイトがどうしてここにいるか?それとも、認識阻害がかかっているのにどうして別館を見つけられたのか?」
マイケル叔父様の問いに、
「どっちも、、かな?」
私の答えにマイケル叔父様は
「うん。まず、僕は王宮魔術師の所属でそこの長だから、魔法関連は得意なんだ。そして、兄上達の様子がおかしくなってきた辺りから父上達と一緒に注意はしていたんだけど、あの通り全然聞く耳持たなかったから。ケイトの五歳の誕生日に父上達はこの別館の鍵を、僕は必要なものを持ち出せるようにマジックリングを、兄上達に気づかれないように渡したのさ。まさか、鍵を隠しているぬいぐるみをあれが欲しがるのは予想外だったけど、ケイトが死守してくれて良かったよ」
マイケル叔父様は、頑張ったなと私の頭を撫でた。身内にこうして撫でられるのは何時ぶりだろう。
食堂のおかみさんや料理長の旦那さんにはよく撫でて貰っている。お客さんもたまに撫でてくれる。
でも、血の繋がった人から撫でてもらうと、心がぽかぽかした。その温かさに涙が溢れてきた。
突然泣き出した私に驚いたけど、マイケル叔父様は私が泣き止むまで、そっと抱き締めて頭を撫でてくれていた。ひとしきり泣いて落ち着いた時
「落ち着いたかな?ごめんね、今まで一人ぽっちにして。何度かこっそりとここに来ようとしたんだけど、その度に邪魔が入って、僕も父上達もなかなか来ることができなくてね。今日やっと来れたよ」
と、ウインクした。叔父様はただおどけて見せたつもりだろうけど、中性的な顔の叔父様がそれをすると、ただただ色っぽかった。
だけどすぐに表情が曇り
「だけど、これが最初で最後になる。僕も父上達も抗い続けたけど、多分あれは魅了の類いを使っている。それが最近強くなってきていて僕でも抗えなくなってきているんだ。これからは僕達もケイトに辛く当たるだろう。その前にここから逃げてほしい」
そう言う叔父様の瞳が時々、光を失っているのがわかった。私は首をふり
「多分逃げられない。マイク叔父様自身で私を捕まえるわ。叔父様も気づいているのでは?もう自我があまり保てなくなっているの。抗ってまで私の心配をしてくれてありがとうございます。いつかあの子の支配からお救いします。それまで耐えてください」
叔父様は力なく笑い
「ごめんな、頼りない叔父で。僕達の事は気にしなくて良い。あれの力が強くなっていけばこの国の王も篭絡させられるだろう。この国はもうおしまいだ。どうにか隙を見て遠くへお逃げ、、長居しすぎたな。これで帰るよ。どうか元気で」
そう言って叔父様はもう一度私の頭を撫でてから帰っていった。
それから五年後、マイケル叔父様の言葉は現実になり、この国の王侯貴族も国民も、あの子の魅了に取り込まれた。
それして今、私は王宮の夜会のパーティーで騎士に取り押さえられている。
貴族は7歳の時に、王宮でお披露目して貴族の仲間入りになるのだか、私はそれに出てはいない。
多分、あの人達の中で私はもう居ないものになっているのだろう。五歳の時にこの別館へ誰にも言わずに来たのに、捜索する素振りさえなかった。
****
私はある食堂で働いている。文字通り看板娘として
「ケイちゃん今日もかわいいね。頑張ってるケイちゃんの為におじさんはもう一品注文しちゃおうかなぁ」
「ギャハハハ、何きしょく悪いこといってんだ。それじゃ、変質者と間違われてもおかしくねーぞ」
今はお昼。まるで夜の居酒屋のようなノリのお客さん達と一緒に私も笑った。
五歳のあの時、子供でも雇ってくれる所を探しに街にでた。色々な場所を周り、時には人さらいにも合いそうになりながらもこの食堂にたどり着いた。
おかみさんに事情を話すと、少ない給金で良いならと雇って貰えることになったのだ。
まだ日も落ちていない夕方に私の仕事は終わる。
一人で暮らすには幼すぎるので、まだあの別館に私はいる。
今日は私の10歳の誕生日。公爵令嬢とは思えない質素な料理を作り、心持ち豪華に飾り付け一人で誕生日を祝った。
日も暮れて、自分の部屋以外は真っ暗なこの別館に何の前触れもなく人が訪ねてきた。
この五年で別館に認識阻害の魔法をかけ、別館を囲うように土魔法で壁を作り、その壁にも認識阻害の魔法をかけた。
つまり、私以外この建物を認識できる人はいないはずなのだ。
認識阻害に、人感知の魔法も重ねがけしているので侵入者があればわかる。侵入者は玄関を開けた。
「ケイト、居るかい?しかし、色々とすごいことをしてるね。ケイト、マイケル叔父様だよ。何処だい?」
私は息を潜めて階段上で様子を窺っていたけど、相手がマイケル叔父様だとわかり姿を見せた。
「こんばんはマイク叔父様。どうしてここがわかったんですか?」
マイケル叔父様は私を見つけると嬉しそうに微笑んだけど、私の今の姿を見て憐れみの眼差しになった。
「それは、ケイトがどうしてここにいるか?それとも、認識阻害がかかっているのにどうして別館を見つけられたのか?」
マイケル叔父様の問いに、
「どっちも、、かな?」
私の答えにマイケル叔父様は
「うん。まず、僕は王宮魔術師の所属でそこの長だから、魔法関連は得意なんだ。そして、兄上達の様子がおかしくなってきた辺りから父上達と一緒に注意はしていたんだけど、あの通り全然聞く耳持たなかったから。ケイトの五歳の誕生日に父上達はこの別館の鍵を、僕は必要なものを持ち出せるようにマジックリングを、兄上達に気づかれないように渡したのさ。まさか、鍵を隠しているぬいぐるみをあれが欲しがるのは予想外だったけど、ケイトが死守してくれて良かったよ」
マイケル叔父様は、頑張ったなと私の頭を撫でた。身内にこうして撫でられるのは何時ぶりだろう。
食堂のおかみさんや料理長の旦那さんにはよく撫でて貰っている。お客さんもたまに撫でてくれる。
でも、血の繋がった人から撫でてもらうと、心がぽかぽかした。その温かさに涙が溢れてきた。
突然泣き出した私に驚いたけど、マイケル叔父様は私が泣き止むまで、そっと抱き締めて頭を撫でてくれていた。ひとしきり泣いて落ち着いた時
「落ち着いたかな?ごめんね、今まで一人ぽっちにして。何度かこっそりとここに来ようとしたんだけど、その度に邪魔が入って、僕も父上達もなかなか来ることができなくてね。今日やっと来れたよ」
と、ウインクした。叔父様はただおどけて見せたつもりだろうけど、中性的な顔の叔父様がそれをすると、ただただ色っぽかった。
だけどすぐに表情が曇り
「だけど、これが最初で最後になる。僕も父上達も抗い続けたけど、多分あれは魅了の類いを使っている。それが最近強くなってきていて僕でも抗えなくなってきているんだ。これからは僕達もケイトに辛く当たるだろう。その前にここから逃げてほしい」
そう言う叔父様の瞳が時々、光を失っているのがわかった。私は首をふり
「多分逃げられない。マイク叔父様自身で私を捕まえるわ。叔父様も気づいているのでは?もう自我があまり保てなくなっているの。抗ってまで私の心配をしてくれてありがとうございます。いつかあの子の支配からお救いします。それまで耐えてください」
叔父様は力なく笑い
「ごめんな、頼りない叔父で。僕達の事は気にしなくて良い。あれの力が強くなっていけばこの国の王も篭絡させられるだろう。この国はもうおしまいだ。どうにか隙を見て遠くへお逃げ、、長居しすぎたな。これで帰るよ。どうか元気で」
そう言って叔父様はもう一度私の頭を撫でてから帰っていった。
それから五年後、マイケル叔父様の言葉は現実になり、この国の王侯貴族も国民も、あの子の魅了に取り込まれた。
それして今、私は王宮の夜会のパーティーで騎士に取り押さえられている。
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