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KOINOHAJIMARI -恋の始まりー
第1話
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風花が舞うその日、私ははじめてその人をみた。
息が止まるほど、いや、息をするのも忘れていて、大きく吐き出した息が、白く冷たい空気に溶け込んで消える。
驚くほどキレイで凛としていて、それなのに柔らかく優しそうに笑うその彼は、友人と大学の中庭を歩いていた。
真っ白な花びらのように舞う雪が、彼のブラウンの髪に落ちては消える。
そんな彼から私は目が逸らせなかった。
『知らなかったのは、咲良ぐらいじゃない?』
友達に言われた通り、個性的な人の多いこの芸術大学のなかでも、一番の有名人だった。
長谷川誠真 美術学部の3年生。
私、朝倉咲良の1つ上の先輩だった。
身長は180cmを超えているだろう。細身でバランスの取れた体形は、その辺のモデルよりも整っていて、友人情報によればもちろん、何度もスカウトされ読者モデルのようなこともやっているらしい。
いつしか私は長谷川先輩を目に追うようになった。
いたって普通で、なにも取り柄のない私と正反対の人のようで、いつもきれいな女の人がそばにいた。
私が音楽学部で校舎が違ったからといって、どうして今まで彼をしらなかったのか?自分でも驚くほど、探そうと思えば長谷川先輩を見つけてしまう。
そんな私に驚く話が舞い込んできたのは、一つ学年が上がった桜の咲く季節だった。
「朝倉、今度の美術との共同制作に推薦しといたから」
ピアノのレッスンが終わり、教本を片付けながら言われた教授の言葉に私は動きを止めた。
「え?」
新入生を歓迎するために行われる、映像フィルムをつくるのだが、毎年それは優秀な人が行うものだと、私自身他人事のように思っていた。
「朝倉はデジタルも強いし、どんなジャンルの作曲もできるし俺はいいと思ってる」
にこやかに笑う教授に、私は少し不安げな表情を浮かべたのだろう。
「お前は自信がなさすぎる。もっと広い世界をみろよ」
ポンと頭を本で叩かれ、私は小さく頷いた。
放課後、私は憂鬱な気持ちと、ほんの少しだけ楽しみな気持ちで初めての集まりがある、美術学部の校舎へと足を踏み入れた。
音楽学部とは違う雰囲気、そして絵具だろうか油のような匂いがして、私はキョロキョロと周りを見回した。
おしゃれな人が多く、髪の色をはじめファッションも色とりどりで、私はかなり場違いなきがして気後れしてしまう。
「朝倉咲良?」
不意に階段の上から聞こえた声に、私はその声の主を探すために上を見上げた。
まだ日差しが入るこの時間は、ちょうど逆光になっていて私は目を細める。
「はい」
顔をはっきり見ることが出来ないまま、返事をするとその声の主は少し笑ったような気がした。
「こっち」
低く甘い声に、なぜかドキッとした。
言われるがままに階段を上がっていくと、先ほどの人に追いついてホッとする。
緩めの黒のパンツに、ラフな真っ白なTシャツ姿だったが、身長が高くとてもスタイルがいいことがわかる。
「あのさ」
不意にその人が振り返る。
「長谷川先輩」
声を上げてしまった私に、先輩は少し驚いた顔をした
柔らかく微笑んだ。
「俺のこと知ってくれてるんだ。光栄だな」
いきなり不躾に名前を呼んでしまった私に対する嫌味か、それとも本音ともわからないその表情に先輩、私は言葉に詰まって俯いた。
「よかった。音楽学部って聞いたから、お上品な子が来たらどうしようって少し心配してたけど、今ぐらい声が出れば大丈夫だな」
その声音は楽しそうな、安堵したような雰囲気が感じられて、本当にそう思っていてくれていることが分かり、私もホッとして笑みが漏れた。
息が止まるほど、いや、息をするのも忘れていて、大きく吐き出した息が、白く冷たい空気に溶け込んで消える。
驚くほどキレイで凛としていて、それなのに柔らかく優しそうに笑うその彼は、友人と大学の中庭を歩いていた。
真っ白な花びらのように舞う雪が、彼のブラウンの髪に落ちては消える。
そんな彼から私は目が逸らせなかった。
『知らなかったのは、咲良ぐらいじゃない?』
友達に言われた通り、個性的な人の多いこの芸術大学のなかでも、一番の有名人だった。
長谷川誠真 美術学部の3年生。
私、朝倉咲良の1つ上の先輩だった。
身長は180cmを超えているだろう。細身でバランスの取れた体形は、その辺のモデルよりも整っていて、友人情報によればもちろん、何度もスカウトされ読者モデルのようなこともやっているらしい。
いつしか私は長谷川先輩を目に追うようになった。
いたって普通で、なにも取り柄のない私と正反対の人のようで、いつもきれいな女の人がそばにいた。
私が音楽学部で校舎が違ったからといって、どうして今まで彼をしらなかったのか?自分でも驚くほど、探そうと思えば長谷川先輩を見つけてしまう。
そんな私に驚く話が舞い込んできたのは、一つ学年が上がった桜の咲く季節だった。
「朝倉、今度の美術との共同制作に推薦しといたから」
ピアノのレッスンが終わり、教本を片付けながら言われた教授の言葉に私は動きを止めた。
「え?」
新入生を歓迎するために行われる、映像フィルムをつくるのだが、毎年それは優秀な人が行うものだと、私自身他人事のように思っていた。
「朝倉はデジタルも強いし、どんなジャンルの作曲もできるし俺はいいと思ってる」
にこやかに笑う教授に、私は少し不安げな表情を浮かべたのだろう。
「お前は自信がなさすぎる。もっと広い世界をみろよ」
ポンと頭を本で叩かれ、私は小さく頷いた。
放課後、私は憂鬱な気持ちと、ほんの少しだけ楽しみな気持ちで初めての集まりがある、美術学部の校舎へと足を踏み入れた。
音楽学部とは違う雰囲気、そして絵具だろうか油のような匂いがして、私はキョロキョロと周りを見回した。
おしゃれな人が多く、髪の色をはじめファッションも色とりどりで、私はかなり場違いなきがして気後れしてしまう。
「朝倉咲良?」
不意に階段の上から聞こえた声に、私はその声の主を探すために上を見上げた。
まだ日差しが入るこの時間は、ちょうど逆光になっていて私は目を細める。
「はい」
顔をはっきり見ることが出来ないまま、返事をするとその声の主は少し笑ったような気がした。
「こっち」
低く甘い声に、なぜかドキッとした。
言われるがままに階段を上がっていくと、先ほどの人に追いついてホッとする。
緩めの黒のパンツに、ラフな真っ白なTシャツ姿だったが、身長が高くとてもスタイルがいいことがわかる。
「あのさ」
不意にその人が振り返る。
「長谷川先輩」
声を上げてしまった私に、先輩は少し驚いた顔をした
柔らかく微笑んだ。
「俺のこと知ってくれてるんだ。光栄だな」
いきなり不躾に名前を呼んでしまった私に対する嫌味か、それとも本音ともわからないその表情に先輩、私は言葉に詰まって俯いた。
「よかった。音楽学部って聞いたから、お上品な子が来たらどうしようって少し心配してたけど、今ぐらい声が出れば大丈夫だな」
その声音は楽しそうな、安堵したような雰囲気が感じられて、本当にそう思っていてくれていることが分かり、私もホッとして笑みが漏れた。
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