さあ 離婚しましょう、はじめましょう

美希みなみ

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もう一度はじめましょう

第一話

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「ふーん。そういうことか」
仕事終わりの週末、私は佐和子に呼び出されてにぎやかなバルにいた。
会社から少し離れたこの場所は、適度に人もいるし、かしこまるような場所ではなく、意外と秘密を打ち明けるにはうってつけの場所なのだ。

「そう、ごめん。勝手に誤解してたの。尋人と佐和子の事」
「私はまったく尋人に興味はないのはわかってたでしょ?」
スパークリングワインを飲みながら、ジロリと私を睨みつける。

「それは、わかってた。でも尋人は絶対に佐和子が好きだって思ってたの、だから」

「でも、ずっと弥生は尋人のことが好きだったのよね」
あっさりと言われたその言葉に、私は小さく頷いた。

「それで結婚まで……」
「だからそれは完全にお酒の勢いでね」
慌てて否定するも、佐和子は私をジッと見た。

「違うわよね。結局」
「え?」
言われた言葉に、私はフォークを一度テーブルに戻した。

「弥生も尋人もお互い好きだから、そんなバカな真似したに決まってるじゃない」
呆れたように言った佐和子に、私はポカンとしてしまう。

「お互い嫌いだったら、いくらお酒が入ってたからって誰が結婚なんてするのよ。私なら絶対無理」
パクリとアヒージョを口に入れると、佐和子は一気にグラスをからにした。

「そう……かも」
今となれば確かにその通りかもしれない。お互い勘違いから始まったが、すれ違いつつもずっと一緒にいた。
「まあ、弥生と尋人らしいわ」
そう言われてしまえばもう何も言えない。

「でも、結局、うまく行ってるのよね?」
「ああ、うん。まあ」
うまくは言っていると思う。尋人は優しいし、一緒にいて楽しい。幸せだ。
で、も……
あの寝落ちをしてしまって以来、一度もそういう雰囲気にならない。

「なに、何か歯切れが悪いわね?」
そんな私に気づいたようで、弥生がジッと見据える。
「ねえ、佐和子。仲直りしたんでしょ?」
いきなり自分に話をふられ、佐和子はすこし恥ずかしそうにした後「うん」と頷いた。

「もう……した?」
「は?」
いきなり何を言われたのかわからないのか、佐和子が目を丸くする。そしてその後驚愕した表情に変わる。
「うそ。まさか……」
私の言いたいことが分かったようで、佐和子が口をパクパクさせる。

「尋人、嘘でしょ! 一年一緒に住んでて何もなかったとかありえない……」

「ちょっと! 佐和子!」
いくら周りが賑やかとは言え、佐和子の声を慌てて私は制する。

「ごめん」
興奮冷めやらぬと言った佐和子に、私はもう自棄で話を続ける。

「一緒に住んでいた一年間なーんにもないうえに、付き合ってからもまだしてない」
今度は言葉を失った佐和子。
「そういう雰囲気にはなったんだけど、私はお酒と緊張で寝ちゃったの。それ以来なにも……」
相変わらず尋人は優しいし、キスはしてくれる。お泊りだってしている。
「尋人、めっちゃヘタレや」
なぜか関西弁みたいになった佐和子に苦笑しつつ、私は問いかける。
「どうしたら、誘える?」
ここは経験者に聞くしかないと、私が佐和子に真剣な瞳を向ければ、佐和子は「うーん」とうなり声をあげた。

「もう、そういう雰囲気を強制的に作るしかないわね」
そういうと佐和子はニヤリと笑った。
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