38 / 42
もう一度はじめましょう
第一話
しおりを挟む
「ふーん。そういうことか」
仕事終わりの週末、私は佐和子に呼び出されてにぎやかなバルにいた。
会社から少し離れたこの場所は、適度に人もいるし、かしこまるような場所ではなく、意外と秘密を打ち明けるにはうってつけの場所なのだ。
「そう、ごめん。勝手に誤解してたの。尋人と佐和子の事」
「私はまったく尋人に興味はないのはわかってたでしょ?」
スパークリングワインを飲みながら、ジロリと私を睨みつける。
「それは、わかってた。でも尋人は絶対に佐和子が好きだって思ってたの、だから」
「でも、ずっと弥生は尋人のことが好きだったのよね」
あっさりと言われたその言葉に、私は小さく頷いた。
「それで結婚まで……」
「だからそれは完全にお酒の勢いでね」
慌てて否定するも、佐和子は私をジッと見た。
「違うわよね。結局」
「え?」
言われた言葉に、私はフォークを一度テーブルに戻した。
「弥生も尋人もお互い好きだから、そんなバカな真似したに決まってるじゃない」
呆れたように言った佐和子に、私はポカンとしてしまう。
「お互い嫌いだったら、いくらお酒が入ってたからって誰が結婚なんてするのよ。私なら絶対無理」
パクリとアヒージョを口に入れると、佐和子は一気にグラスをからにした。
「そう……かも」
今となれば確かにその通りかもしれない。お互い勘違いから始まったが、すれ違いつつもずっと一緒にいた。
「まあ、弥生と尋人らしいわ」
そう言われてしまえばもう何も言えない。
「でも、結局、うまく行ってるのよね?」
「ああ、うん。まあ」
うまくは言っていると思う。尋人は優しいし、一緒にいて楽しい。幸せだ。
で、も……
あの寝落ちをしてしまって以来、一度もそういう雰囲気にならない。
「なに、何か歯切れが悪いわね?」
そんな私に気づいたようで、弥生がジッと見据える。
「ねえ、佐和子。仲直りしたんでしょ?」
いきなり自分に話をふられ、佐和子はすこし恥ずかしそうにした後「うん」と頷いた。
「もう……した?」
「は?」
いきなり何を言われたのかわからないのか、佐和子が目を丸くする。そしてその後驚愕した表情に変わる。
「うそ。まさか……」
私の言いたいことが分かったようで、佐和子が口をパクパクさせる。
「尋人、嘘でしょ! 一年一緒に住んでて何もなかったとかありえない……」
「ちょっと! 佐和子!」
いくら周りが賑やかとは言え、佐和子の声を慌てて私は制する。
「ごめん」
興奮冷めやらぬと言った佐和子に、私はもう自棄で話を続ける。
「一緒に住んでいた一年間なーんにもないうえに、付き合ってからもまだしてない」
今度は言葉を失った佐和子。
「そういう雰囲気にはなったんだけど、私はお酒と緊張で寝ちゃったの。それ以来なにも……」
相変わらず尋人は優しいし、キスはしてくれる。お泊りだってしている。
「尋人、めっちゃヘタレや」
なぜか関西弁みたいになった佐和子に苦笑しつつ、私は問いかける。
「どうしたら、誘える?」
ここは経験者に聞くしかないと、私が佐和子に真剣な瞳を向ければ、佐和子は「うーん」とうなり声をあげた。
「もう、そういう雰囲気を強制的に作るしかないわね」
そういうと佐和子はニヤリと笑った。
仕事終わりの週末、私は佐和子に呼び出されてにぎやかなバルにいた。
会社から少し離れたこの場所は、適度に人もいるし、かしこまるような場所ではなく、意外と秘密を打ち明けるにはうってつけの場所なのだ。
「そう、ごめん。勝手に誤解してたの。尋人と佐和子の事」
「私はまったく尋人に興味はないのはわかってたでしょ?」
スパークリングワインを飲みながら、ジロリと私を睨みつける。
「それは、わかってた。でも尋人は絶対に佐和子が好きだって思ってたの、だから」
「でも、ずっと弥生は尋人のことが好きだったのよね」
あっさりと言われたその言葉に、私は小さく頷いた。
「それで結婚まで……」
「だからそれは完全にお酒の勢いでね」
慌てて否定するも、佐和子は私をジッと見た。
「違うわよね。結局」
「え?」
言われた言葉に、私はフォークを一度テーブルに戻した。
「弥生も尋人もお互い好きだから、そんなバカな真似したに決まってるじゃない」
呆れたように言った佐和子に、私はポカンとしてしまう。
「お互い嫌いだったら、いくらお酒が入ってたからって誰が結婚なんてするのよ。私なら絶対無理」
パクリとアヒージョを口に入れると、佐和子は一気にグラスをからにした。
「そう……かも」
今となれば確かにその通りかもしれない。お互い勘違いから始まったが、すれ違いつつもずっと一緒にいた。
「まあ、弥生と尋人らしいわ」
そう言われてしまえばもう何も言えない。
「でも、結局、うまく行ってるのよね?」
「ああ、うん。まあ」
うまくは言っていると思う。尋人は優しいし、一緒にいて楽しい。幸せだ。
で、も……
あの寝落ちをしてしまって以来、一度もそういう雰囲気にならない。
「なに、何か歯切れが悪いわね?」
そんな私に気づいたようで、弥生がジッと見据える。
「ねえ、佐和子。仲直りしたんでしょ?」
いきなり自分に話をふられ、佐和子はすこし恥ずかしそうにした後「うん」と頷いた。
「もう……した?」
「は?」
いきなり何を言われたのかわからないのか、佐和子が目を丸くする。そしてその後驚愕した表情に変わる。
「うそ。まさか……」
私の言いたいことが分かったようで、佐和子が口をパクパクさせる。
「尋人、嘘でしょ! 一年一緒に住んでて何もなかったとかありえない……」
「ちょっと! 佐和子!」
いくら周りが賑やかとは言え、佐和子の声を慌てて私は制する。
「ごめん」
興奮冷めやらぬと言った佐和子に、私はもう自棄で話を続ける。
「一緒に住んでいた一年間なーんにもないうえに、付き合ってからもまだしてない」
今度は言葉を失った佐和子。
「そういう雰囲気にはなったんだけど、私はお酒と緊張で寝ちゃったの。それ以来なにも……」
相変わらず尋人は優しいし、キスはしてくれる。お泊りだってしている。
「尋人、めっちゃヘタレや」
なぜか関西弁みたいになった佐和子に苦笑しつつ、私は問いかける。
「どうしたら、誘える?」
ここは経験者に聞くしかないと、私が佐和子に真剣な瞳を向ければ、佐和子は「うーん」とうなり声をあげた。
「もう、そういう雰囲気を強制的に作るしかないわね」
そういうと佐和子はニヤリと笑った。
10
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる