さあ 離婚しましょう、はじめましょう

美希みなみ

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もう一組のふたり

第三話

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「佐和子が俺のことを好きだって言ってくれることが嬉しくて、それを聞きたくて、いつのまにか自分から言わなくなってた。そうしたら佐和子いつも俺に聞いてくれただろ?」
確かにいつも気持ちを言ってくれない彼に、私が何度も繰り返していた言葉。

『宗次郎好き。宗次郎も私のこと好き?』

そう尋ねれば宗次郎はいつも笑顔で頷くだけだった。
「あれで俺の気持ちは伝わってると思ってたんだよ。俺バカだから。それが佐和子を不安にさせてたなんて思ってもみなかった」
嘘でしょ……。
唖然としていると、宗次郎は優しく私にキスをする。その行為に驚いて涙が止まった。

「ほら、顔が真っ赤。佐和子、かわいい」

イジワルそうに言った宗次郎に、私はさらに羞恥が募る。
「今までそんなこと言ってくれなかった……」

そう呟けば、テンパっている私を宗次郎はもう一度優しく抱きしめた。

「佐和子、大好きだよ。弱いところもすべて可愛くてしかたがないよ。これからはきちんと伝える。だからもう一度俺のところに戻っておいで」
やっぱり宗次郎にはかなわない。

「宗次郎のバカ。仕方ないから戻ってあげる」
そう言えば、彼は嬉しそうに私を抱きしめた。


そのあと、なんとなくいい雰囲気になった私たちだったが、目の前に積まれた仕事にため息をついた。

「佐和子、それにしても頑張ったな。ここの契約本当に難しかっただろう」
いつの間にか私の仕事を見ながら、残務処理を手早く始めていた宗次郎。

「ごめん、宗次郎も疲れてるでしょ? 先帰って?」
本当は今日ぐらい宗次郎の家に行って、おいしいものを食べて、お酒を飲んで。それから……。
いちゃいちゃすることを考えてしまい、急に顔が赤くなってしまう。そんな邪念を頭から追い出していると、宗次郎は口を開いた。

「帰っていいの?」

「それは……」
また素直じゃないことを言ってしまった私は口ごもる。

「あー、悪い。こういうところだよな」
何を思ったのか宗次郎はクシャりと髪をかき上げると、私を見て微笑む。
「早く終わらせて、俺の家に直行。今日は帰さない」
「え?」
ストレートに言ってくれた宗次郎の言葉に、私は涙が零れそうになる。宗次郎も一緒にいたいと思ってくれた。
それだけで心が満たされていく。

「いいの?」
「俺が一緒にいたいの」
少し照れたように言う宗次郎をジッと見てしまった私を、彼は椅子ごとパソコンに向ける。
「早くやれよ」
「うん」
そこから私は早く帰るために、すごいスピードで仕事を片付けたのは言うまでもない。

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