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もう一組のふたり

第二話

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「なに?」

宗次郎の声を聞きたいから、幻聴が聞こえるようになったのか。
そんなことを思いながら、私は机に顔を埋めたまま口を開く。

「宗次郎はかわいい女の子がよくなったんだよね。弥生みたいな。私なんか素直じゃないし、強引だし、男勝りだし……」
自分で言っておいて自嘲気味な笑みが浮かぶ。泣いているのか、笑っているのか自分でもわからない。

「どうしてそうなるんだ? 佐和子が俺のことが嫌になったんだろ?」
今度ははっきりと聞こえたその声に、私は驚いて顔を上げて立ち上がった。
その反動で私は完全にバランスを崩してしまう。

「佐和子!」
鋭い声と同時に力強い腕に引き寄せられる。そのまま二人でバランスを崩して床に倒れこんだ。

「痛……っ」
「ごめん!」

私の下から聞こえた宗次郎の声に、ハッとして宗次郎の上で身体を起こした。私はどこも痛いところはなく、完全に宗次郎に守られたことを知る。
宗次郎も身体を起こすと、壁にもたれかかり小さく息を吐いた。

「佐和子、痛いところは?」
どこまでも優しい宗次郎。その問いにフルフルと頭を振って否定する。

「ごめんなさい……」
流れる涙を自分で乱暴に拭うと、宗次郎から離れようとすればそのまま引き寄せられた。

「え……」
久しぶりに抱きしめられたその腕は温かくて、やっぱり好きだと実感してしまう。

「さっきのどういうこと?」
抱きしめられていて宗次郎の表情はわからないし、その声音からも何を考えているのかわからない。

「さっきのって?」

「俺が可愛い子が良くなったって」
わざわざ私に言わせたいのかと、苛立ちとともにやけくそで話し続ける。

「だって私なんてかわいくないし、宗次郎、弥生といると優しいし、たくさん話すし……。私なんかより……」
自分で言っていて、悲しくて仕方がなくなる。

「なんでそんなことを……」
大きく息を吐きながら宗次郎が、独り言のように呟いた。

「なんでって、私ばっかり好きっていうし、結婚だって私が強引に決めたようなものだし。宗次郎は本当は嫌だったんでしょ」

「そんなことあるわけないだろ!」
初めてかもしれない。怒気をまとった宗次郎のセリフに、ビクリと身体を震わせた。
「ごめん……。そうだよな。俺が悪いんだよなあ」

宗次郎の言っている意味が全く分からない。穏やかな宗次郎が怒ったことで、とうとう別れ話になるのかもしれないとい不安で、私はもう感情が追い付かない。
今までも何度か喧嘩の時に泣いたことはあるが、初めてかもしれないほど、ポロポロと涙が零れる。

「本当に佐和子は泣き虫だな」
優しい声で宗次郎はそういうと、私の頬を優しく自分の手で包み少し乱暴に涙を拭う。

「佐和子、ごめん。俺が佐和子に甘えていたのがいけなかったな」
「甘えて……た?」
泣きながら尋ねれば、宗次郎は申し訳なさそうに眉根を寄せた。


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