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甘くて甘い

第二話

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慣れ親しんだ場所なのに、なんとなく落ち着かない気持ちも入り混じり、不思議な気持ちでキッチンに立つ。

今日のメニューは尋人の好きなチキン南蛮。私も大好きで同居していた時、よくお裾分けすれば喜んで食べてくれたことを思い出す。

チキン南蛮に下味をつけておいておく間に、実家から大量におくられてきたお茶漬けのりを消費するために、トマトと豆腐、ベビーリーグなどを梅茶漬けの元であえて冷蔵庫で寝かせる。
同時に茹でておいたゆで卵をピクルスがないので代わりに多めの玉ねぎでタルタルソースを作った。

あとは具沢山のお味噌汁でも作ろう。そう思っていると、キッチンのカウンターに置いてあったスマホが音を立てる。

【今から帰る】
そのメッセージに胸が高鳴りつつ、鶏肉を揚げ始めた。

ほとんど準備が終わり、ダイニングテーブルに料理を並べ終わったと同時に、玄関から「ただいま」と声が聞こえた。

私は手を拭き急いで玄関へと向かう。
「おかえり」

照れてしまし少し小声になってしまった私に、尋人は満面の笑みを浮かべた。

「いいな、こうして迎えてもらうの」

「結婚してた時もあるでしょ?」
照れ隠しのように言えば、尋人は首を振った。

「全然違うだろ、気持ちが」
そう言って私の頬に唇を落とす。

「こんなこともできなかったし。ずっとしたかったけど」
私はその甘さに自分の頬を手で触れた。
「これ、お土産。弥生が好きなプリン」

「私も買ってきたよ。そして名前まで書いちゃった」
お互い一瞬きょとんとした後、笑いあった。

「考えていたことは一緒か。今日は一人二つ食べられるな。でも弥生が三つ食べでもいいよ」
昔はどっちが食べるかよく言い合いになったのに、どこまでも甘やかす尋人。

「いい、一緒に食べたいから」
私だって尋人を思って買ってきたのだ。喜んで欲しいと伝えれば、尋人は「弥生、かわいすぎ」そういいって口元に手を当てている。

まさか照れてる?

私なんかでこんな表情が見られるなんて。驚きと嬉しさでぼんやりと見つめていれば、キュッと鼻を摘ままれた。

「あんま、見ないで。着替えてくる」
「ああ、うん」

自分の部屋に入っていった尋人の背中をしばらく見送ってしまったが、私はハッと意識を戻すとリビングへと戻った。


お酒は飲むだろうか? 
冷蔵庫から飲み物を出そうとして、私は手を止めた。
うん、飲もう。
タクシーでも電車でも帰れるし、少し飲んだ方がリラックスする気がした。

冷蔵庫から大量に冷やしてあったビールとグラスを持って戻れば、尋人もちょうど席に座るところだった。
「俺の好きなチキン南蛮」
嬉しそうに言って料理に目を向ける彼に、私もホッとする。

「ビールでいいよね?」
「……あ。うん」
少し悩んだ尋人に私は問いかける。

「ハイボールの方がいい?」
メニュー的にはビールでもハイボールでもおいしいかなと、私は料理に目を走らせた。

「いや、ビールでいい。弥生も座って。食べよう」
少し苦笑したように見えたが、すぐに表情を戻すと尋人は私を呼び寄せる。
なんだったんだろう?そう思うも、彼の表情が穏やかなのを見て私も向かい合って座った。
そして、尋人が食べるのを箸を持ったままじっと見つめていた。
やはり料理の反応は気になってしまう。

「うん、うまい」
その言葉を聞いてホッと安堵する。

「そんなに心配そうな顔をしなくても、弥生が作ったものならなんでもうまいよ」

「それって、不味くてもってこと?」
揚げ足をとって少し拗ねて見せれば、尋人は「バーカ、違うだろ」とほほ笑んだ。
そんな尋人とアルコールで私は緊張よりも、一緒にいられる喜びに心が占拠されていった。
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