さあ 離婚しましょう、はじめましょう

美希みなみ

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甘くて甘い

第一話

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知らなかった……。

私はずっとその言葉が頭を回っていた。その理由は気持ちを伝えてからの尋人は激変した。
あの日、何度かキスをした後、ジッと私の目を見つめると尋人はこういった。

『ごめん、先に謝っておく。俺結構重いかも』

『え?』
その時は意味が解らなかったし、もしかしたらこのまま抱き合うかもしれない。そんな考えも頭を過り考えられなかった。

『今日は帰るから』
そう言って甘く口づけられ、私のキャパは完全にオーバーしていた。
少しだけ残念な気持ちと、安堵した気持ちが入り混じったが、お互いもう隠していることがないと思えば、始まったばかりなので焦る必要はない。
不安が薄れ、私は久しぶりにゆっくりと眠りについた。

そして、次の日から尋人の言葉を理解した。
朝から届くメッセージ、夜会える日は一緒に食事にも行くし、仕事が忙しい日は必ず夜電話があった。
今までが何だったのかと思うほど、ストレートに言葉にしてくれる。嬉しい反面、くすぐったさも覚える。

そして今週末は、尋人の家に行く話になっている。
何気なく『外食ばかりじゃ体に悪いよ、作りに行こうか?』電話口で言った私に、一瞬顔が見えない電話の向こうが無言になった。
『じゃあ、今週末よろしく』そう言った尋人。それに今更断れないと私は同意した。


そして今日。
『鍵を渡しておくから帰っていて』
社内恋愛のドキドキを今更味わうように、休憩室でこっそりともらった尋人の家の鍵。一度返したものがもう一度自分の手の中にあることが信じられない。
私が返した時のままのキーホルダーがついていたそれを、バッグにしまうといち早く定時であがりまず自分の家に帰った。

そして念入りにシャワーを浴び下着を選ぶ。どれにする? 一応、一緒に住んでいるときに見られてもいいようにと可愛らしいものや、色気があるものも多少購入していた。
もちろん登場することも、見せることもなかったが。

数枚の下着を並べてその中から一つ、一番可愛らしく見えるものを選んだ。
付き合っている人の家に行くと行くことは、今度こそそういうことになるはずだ。下着をつけた自分を鏡に写してみるも、こんなことをしている自分が恥ずかしくなる。
「大丈夫かな……」
不安な気持ちを吐き出すと、私はさらりとしたワンピースに袖を通した。
別に嫌なわけではない。ただただ恥ずかしいし、どうしていいのかわからないだけだ。
こんなことならばもっと恋愛経験を積んでおくべきだった。

そんなことを思いつつも、私は住み慣れたマンションへと向かった。
途中、スーパーで買い物をすませ、尋人の好きなおかずの材料を買い込んだ。少し買いすぎた荷物を持ってマンションのエントランスに入れば、コンシェルジュの女性が少しだけ驚いたように見えた。
しかし、さすがプロというのかニコリとおかえりなさいと言ってくれた。

前まではこの扉を開けることなど緊張したことなかったのに、今日はドキドキしてしまう。

ゆっくりと鍵を開け「おじゃまします」と言えば、誰もいないシーンと静まり返った部屋に声だけが響いた。
電気をつけてみれば、まったく私がいた時と変わっていないが、少しだけ雑然とした雰囲気もあった。

そしてキッチンに行けば、ほとんど使用されていないようで冷蔵庫の中はほとんどアルコールしかなく私はため息をついた。

「やっぱり買ってきて正解」
独り言ちながら買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、買い物袋から取り出したプリンに自分の名前と尋人の名前を書く。

「あっ……」
それは同居時代の癖で、一つしかない冷蔵庫でわかるようにいていたルールだ。
冷蔵庫の横にマジックペンを元に戻すと、プリンを冷蔵庫にしまった。
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