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初めてのお付き合い
第三話
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※※※
なんとか冷静を装えたか?
俺は弥生の家の玄関を閉じると、大きく息を吐いた。
一緒に住んでいたときも、もちろんずっと弥生に対して触れたいと思ったことはあったが、まったく弥生が俺のことを男として見ていなかったからか、そんな空気になることはなかった。
いつも、屈託なく笑い友達の域を超えることがなかったから、俺も普通でいられた。
でも……。
なんだよ、アレ。反則だろ。
真っ赤に頬を染め、照れたように視線を彷徨わせる弥生に、俺は暴走するのを止めるのがやっとだった。
ただでさせ、酒の勢いから結婚をして一緒に住んで、離婚したと思ったら、好きだとか言われて。
弥生の中はパニックだろう。
それでも俺との付き合いを了承してくれた。
それだけで今は十分だ。
宗次郎のことは好きじゃない。そう言ってくれた弥生。
それだけでこの一緒に住んだ一年は無駄じゃなかったのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺はタクシーを拾える大通りまで冷静さを取り戻す努力をしつつ歩き始めた。
タクシーに乗り、ぼんやりと夜景に視線を向けていたつもりだが、窓ガラスに映った自分がにやけている。
慌てて表情を戻すと、誰も見ていないのにコホンと咳ばらいをして表情を引き締める。
弥生を好きだと自覚をしたのはいつだろう?
なんとなく宗次郎、佐和子と四人で遊ぶようになり、弥生が宗次郎を見ていることが多いなと思ったのがきっかけかもしれない。
佐和子はそのころ完全に宗次郎への気持ちがまるわかりだったが、弥生は控えめだがなんとなく感じることがあった。
それに、教育係だったこともあり、宗次郎と弥生は本当に仲が良かった。
俺といるより、宗次郎とたくさん話す印象があった。
それが面白くなくて、俺をもっと見ろ。そんな独占欲を初めて持った時、初恋を知った。
申し訳ないが、昔から向こうから告白され、なんとなく付き合う、それを繰り返してきた俺は、自分から好きになったことがなかった。
『今、俺じゃなくてよかったって思っただろ』
思えば初対面で弥生に言った言葉。自分でも気づいていなかったが、あの時好意を持っていたのかもしれない。
気づいてからもアプローチの仕方などわからないし、好きな子をいじめてしまう。そんな低次元な自分に嫌気がさした。
そんな俺を好きになるわけがない。
そう思い、宗次郎に好意のある女の子に声すらかけたことがあった。
弥生と宗次郎が付き合ってくれたら、きっと諦められる。
そんなバカみたいなことを考えたほどだ。
しかし、俺のそんな目論見はあっさり崩れ、佐和子と宗次郎が付き合い始めた。
トントン拍子に結婚までいった二人に、俺は複雑な気持ちで一人かなり飲んでいた。
宗次郎と佐和子を祝う気持ち、弥生の気持ちが報われず悲しんでいないかと思う気持ち、そしてどこかで弥生が宗次郎の物にならなかったことに喜ぶ自分。
最低だ。
『尋人、どうしたの? こんなに飲んで』
酔いすぎて電話をしたのに、嫌な顔をせずに来てくれた弥生。
アルコールで全く正常な判断ができなかった俺は、自分でも発した後、唖然とした。
『結婚しようか。俺たちも』
『え?』
でも、内心宗次郎なんかやめろよ。俺にしろ。
そんな気持ちだった。でも弥生の驚いて目を見開いた顔を見て、『一年で離婚すればいい」そんな自分の逃げ場を作った。
それでも弥生がそんなバカげた提案に乗るはずなどないと思っていた。
了承してくれた時は、夢だと思ったほどだった。
しかし、朝起きてその事実が夢でもなんでもなく、あの後タクシーで役所に行ったことをありありと思い出した。
そこで、俺は覚悟を決めた。
比較的広かった俺の部屋に弥生を越させるようにし、着々と準備をした。
自分の犯した罪は一年間弥生に何もできないという拷問という形になった。
一年一緒にいれば、きっとこの思いも消化できる。そう思っていた。でも全く無理だった。
想いはどんどんとこじらせ、あろうことか、佐和子と宗次郎の結婚式が延期になったことで完全に暴走した。
今はただ俺の勢いに了承してくれただけかもしれない。
でも、絶対に、弥生の気持ちを手に入れる。
俺はそう決意した。
みっともなくても、カッコ悪くても今更だ。
もう、自分の気持ちを我慢はしない。
なんとか冷静を装えたか?
俺は弥生の家の玄関を閉じると、大きく息を吐いた。
一緒に住んでいたときも、もちろんずっと弥生に対して触れたいと思ったことはあったが、まったく弥生が俺のことを男として見ていなかったからか、そんな空気になることはなかった。
いつも、屈託なく笑い友達の域を超えることがなかったから、俺も普通でいられた。
でも……。
なんだよ、アレ。反則だろ。
真っ赤に頬を染め、照れたように視線を彷徨わせる弥生に、俺は暴走するのを止めるのがやっとだった。
ただでさせ、酒の勢いから結婚をして一緒に住んで、離婚したと思ったら、好きだとか言われて。
弥生の中はパニックだろう。
それでも俺との付き合いを了承してくれた。
それだけで今は十分だ。
宗次郎のことは好きじゃない。そう言ってくれた弥生。
それだけでこの一緒に住んだ一年は無駄じゃなかったのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺はタクシーを拾える大通りまで冷静さを取り戻す努力をしつつ歩き始めた。
タクシーに乗り、ぼんやりと夜景に視線を向けていたつもりだが、窓ガラスに映った自分がにやけている。
慌てて表情を戻すと、誰も見ていないのにコホンと咳ばらいをして表情を引き締める。
弥生を好きだと自覚をしたのはいつだろう?
なんとなく宗次郎、佐和子と四人で遊ぶようになり、弥生が宗次郎を見ていることが多いなと思ったのがきっかけかもしれない。
佐和子はそのころ完全に宗次郎への気持ちがまるわかりだったが、弥生は控えめだがなんとなく感じることがあった。
それに、教育係だったこともあり、宗次郎と弥生は本当に仲が良かった。
俺といるより、宗次郎とたくさん話す印象があった。
それが面白くなくて、俺をもっと見ろ。そんな独占欲を初めて持った時、初恋を知った。
申し訳ないが、昔から向こうから告白され、なんとなく付き合う、それを繰り返してきた俺は、自分から好きになったことがなかった。
『今、俺じゃなくてよかったって思っただろ』
思えば初対面で弥生に言った言葉。自分でも気づいていなかったが、あの時好意を持っていたのかもしれない。
気づいてからもアプローチの仕方などわからないし、好きな子をいじめてしまう。そんな低次元な自分に嫌気がさした。
そんな俺を好きになるわけがない。
そう思い、宗次郎に好意のある女の子に声すらかけたことがあった。
弥生と宗次郎が付き合ってくれたら、きっと諦められる。
そんなバカみたいなことを考えたほどだ。
しかし、俺のそんな目論見はあっさり崩れ、佐和子と宗次郎が付き合い始めた。
トントン拍子に結婚までいった二人に、俺は複雑な気持ちで一人かなり飲んでいた。
宗次郎と佐和子を祝う気持ち、弥生の気持ちが報われず悲しんでいないかと思う気持ち、そしてどこかで弥生が宗次郎の物にならなかったことに喜ぶ自分。
最低だ。
『尋人、どうしたの? こんなに飲んで』
酔いすぎて電話をしたのに、嫌な顔をせずに来てくれた弥生。
アルコールで全く正常な判断ができなかった俺は、自分でも発した後、唖然とした。
『結婚しようか。俺たちも』
『え?』
でも、内心宗次郎なんかやめろよ。俺にしろ。
そんな気持ちだった。でも弥生の驚いて目を見開いた顔を見て、『一年で離婚すればいい」そんな自分の逃げ場を作った。
それでも弥生がそんなバカげた提案に乗るはずなどないと思っていた。
了承してくれた時は、夢だと思ったほどだった。
しかし、朝起きてその事実が夢でもなんでもなく、あの後タクシーで役所に行ったことをありありと思い出した。
そこで、俺は覚悟を決めた。
比較的広かった俺の部屋に弥生を越させるようにし、着々と準備をした。
自分の犯した罪は一年間弥生に何もできないという拷問という形になった。
一年一緒にいれば、きっとこの思いも消化できる。そう思っていた。でも全く無理だった。
想いはどんどんとこじらせ、あろうことか、佐和子と宗次郎の結婚式が延期になったことで完全に暴走した。
今はただ俺の勢いに了承してくれただけかもしれない。
でも、絶対に、弥生の気持ちを手に入れる。
俺はそう決意した。
みっともなくても、カッコ悪くても今更だ。
もう、自分の気持ちを我慢はしない。
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