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初めてのお付き合い

第二話

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ぎこちない雰囲気のまま小さな部屋にいると、心臓の音が聞かれてしまいそうで、私は急いでテレビをつけた。

『大好き……』

「え!!」
お互いの声が一緒になり顔を見合わせた後、視線をテレビに向ける。

今流行りの恋愛ドラマ。確か不倫の話だったような気さえするが、画面の中の女性が大胆に男性に抱きついた。

どうしてこのタイミングでこんな場面なの。
泣きたくなる気持ちを耐えながら慌ててリモコンに手を伸ばすと、尋人もそれを取ろうとしていたらしく手が重なった。

「ごめん」

今度は尋人がすぐに私の手を離した。それが少し寂しく思ってしまうのは私の勝手な思いだ。
狭い床の上になぜか正座するような恰好になってしまう。まさか尋人まで緊張してる? 
そんな考えが頭をよぎりそっと彼を見れば、何もない壁に視線を向けていた。

「尋人も緊張したりするわけ…ないよね……」
つい思ったことを言ってしまえば、彼は少し険しい表情をして、私の額を軽くデコピンをした。

「弥生、お前バカだろ」
「なに?」
いきなりディスられる覚えなどなく、少しムッとして言い返せば尋人は苦笑する。

「緊張してるに決まってるだろ。告白して、嫉妬して、みっともないところばかり見せて、それでも部屋にこうして呼んでもらえた」

そこで尋人は一度言葉を止めた。一気に顔が熱くなるも、真っ直ぐに向けられた瞳から目を逸らせない。

「少しは期待したくなる」
「尋人……」
お互い無言で見つめあっていると、尋人は私の小指だけに触れた。

「少しずつでいい。付き合うところから始めてくれないか?」
その言葉に私は抗うことなどできず、ゆっくりと頷いた。
「マジ? 本当に?」
何度も確認する尋人に、私はコクコクと頭を振ることしかできなかった。

付き合おうとなったら、さあ、キスですか? 抱き合っちゃいますか?

そんなことを思っていた私だったが、その期待?を裏切り尋人は立ち上がった。

「じゃあ、また連絡する」
「え?」
「きちんと鍵かけろよ」
私の返事はかなり間抜けな声だったと思うが、尋人は何も言うことなく、柔らかな笑みを浮かべて家から出て行った。

その姿を見送ると、ずるずる私は床に座り込んだ。

「何、この甘酸っぱいの……。いくつよ。私たち」

こんな自分に驚きすぎる。いい年をして結婚までして、手を握られただけで真っ赤になるとか。

中学生のような甘酸っぱさが、離婚の後にあるとは想像もしていなかった。

これから”お付き合い”はどうなるのだろうか。期待と不安が入り混じった。
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