さあ 離婚しましょう、はじめましょう

美希みなみ

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あなたとのいろいろ

第六話

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「今月の成績もやっぱり二人がワンツーだったね」
朝礼で発表された今月の営業成績の話を、佐和子がランチを食べながら話し始めた。
「そだね」
ここはビルの中にある社内のカフェテリアだ。ビュッフェ形式で好きなものが食べられるため人気で、佐和子が外回りがない時は一緒に食べることが多い。
目の前のチキンソテーを口に入れながら私も同意する。
今回は尋人がオーストラリアの大手雑貨店との契約を取ったため、ダントツで一位のようだが、宗次郎君が一位のこともある。

「このままいくと、どちらかが昇進とか、転勤とかかな……」
あの後、どうなったか佐和子からは何も聞いていない。私も自分のことで精一杯で佐和子のことまで気が回っていなかった。
大きいこの会社で三十代になったばかりで役職に就くのはかなり早い方だが、この二人は最短で出世するといわれているのだ。

「転勤……。うち海外もあるし、それは避けたいんじゃない?」
そんな私の問いに、佐和子は肩をすくめた。
「あの日、聞いちゃったの知ってるよね?」
「うん」
佐和子は少し思案するような表情のあと、珍しく言葉を選ぶように口を開く。

「何を考えてるかわからないって言ってたでしょ、彼。なんかね、ずっと私が押して気持ちを伝えて、ようやく結婚までこぎつけたようなものじゃない」
それに同意するべきかわからないが、確かに佐和子はずっと気持ちを公にしていたし、宗次郎君がそれに流されたと言われたら否定はできない。でも、この間の宗次郎君を見ていて、きちんと佐和子を思っているのは明白だ。

「結婚してからもずっと彼が他の人を好きなんじゃないか、私を同情して結婚してくれるんじゃないかって……」
「そんなことあるわけないじゃない」
佐和子が話している途中で私は口を挟んでいた。

「はっきりと彼から気持ちを聞いたことなんてないの。私が聞けば「ああ」とかそんな感じで」
「え?」
まさか、そんな感じだと思っていなかった私は驚いてしまう。

確かに穏やかだが、仕事に関してもポイントはきちんと押さえ、穏やかな口調だか的確なアドバイスが売りの宗次郎君。

教育係をしてくれていたからこそ、彼の有能さは私もわかっている。そんな彼だからこそ佐和子も好きになったのだろう。

「仕事をしている姿や、弥生に対する態度からは想像できないでしょ?」

泣きそうな表情を浮かべながら言う佐和子に、何も言えなくなってしまう。

「あの日も、追いかけてきてくれたから何かを言ってくれると思ったんだ。でも送ってくれただけで。「結婚式を延期したい」そう言えば何か言ってくれるかもしれないなんて、ずるいことを考えた罰があたったかも」

マリッジブルーなだけじゃない? そう慰めたかったが、まさかそれほど宗次郎君が何も気持ちを伝えていないなど思っていなかった。

「尋人はそんなことなさそうよね。いつも気持ちを口にしてくれてそう」
「そんなことは……」
口ごもった私に、佐和子はハッとしたような表情を浮かべる。

「ごめん、ねえ、弥生に気持ちは残ってないの? 嫌いで別れたわけじゃないんでしょ」
今からまた始めようと思っているなど、どう説明していいかわからない。

「そうだね……」
それだけを口にすれば、佐和子は大きく息を吐いた。

「お互いうまくいかないね」
そう言いながら、私たちは残りのランチを食べ終えた。

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