さあ 離婚しましょう、はじめましょう

美希みなみ

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離婚しましょう

第六話

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「あっ、佐和子。会社ではとりあえず内緒にしておいて。宗次郎君にはもちろん伝えてもらってもいいけど。それに結婚式はちゃんと二人ででるからね、もうすぐ招待状を送る時期……」

「それなんだけど」
私の言葉を遮るように佐和子が言うと、今度は佐和子が髪をかき上げながら言葉を選んでいるように見えた。

「そのことなんだけど。少し延期しようと思うの」
「え?」
私たち二人の声がははもる。

「結婚、少し考えようと思って」

「どうして? うまく行ってたんじゃないの?」
キッチンから出て佐和子の元へ行き、私は彼女を見た。私たちの話だったのに、まさか二人までそんな話になっているなど思っていなかった。

「そうなんだけど」
ついこの間まで、佐和子は幸せそうに結婚雑誌などを私に見せていたし、宗次郎君と一緒にいても幸せそうだった。
どうしてこのタイミングで? そんなことを思わずにはいられなかった。

その後、引っ越しを手伝うという尋人をやんわりと断ると、私は新しい家で佐和子と荷解きをしていた。

「洋服、クローゼットにかけていってもいい?」
普通のワンルームのマンション。尋人と一緒に住んでいたマンションの何分の一だろう。すべてが一か所で完結してしまいそうな部屋のクローゼットの前で佐和子が問いかける。

「うん、お願い」
私も下着などをチェストの中にしまいながら答えた。

「ねえ、さっきの話だけど」
何かをしながらの方が聞きやすい気がして、手を動かしながら佐和子に声をかけた。

「どうして急に延期なんて?」
私の問いに比較的いつもサバサバとこたえる彼女が、考えるように手を止めた。


「どうしてかな。マリッジブルー? なんかこのままでいいのかなって」
「宗次郎君はなんて?」
そこで佐和子はまた少し口を閉ざす。
「宗次郎は……。私が決めたことには何も言わないから」
少し寂し気に言った佐和子の気持ちがなんとなく分かった気がする。

宗次郎君は温和でとても優しい。相手のことをよく見ていて、波風を立てることのない人だ。
知り合ってかなりの年数が経つが、怒ったところなど見たことがなかった。

「知り合ってから7年、好きになってからも長いでしょ。でもいざ付き合って、結婚決まって。これでいいのかなって。付き合ってって言ったのも私、結婚を迫ったのも私」
物事をはっきり言うところが佐和子のいいところだし、宗次郎君もそんな佐和子だから好きになったと思っていた。でもそれが佐和子を不安にさせていたのかもしれない。

「佐和子……」
宗次郎君の気持ちがわからない以上、何も言えなくなってしまった私に、佐和子は表情を戻すと私を見た。


「それより弥生たちよ。付き合うのを通り越して結婚するって聞いた時も驚いたけど、こんなに早く離婚もびっくり」
私たちの話題になりいつもの調子が戻ったのか、佐和子は言葉を続ける。

「尋人の浮気でもないんでしょ? 弥生に好きな人ができたわけでもない。離婚する理由なんてあるの?」

「まあ、いろいろあるじゃない。それこそ付き合わずに結婚しちゃったから、一緒に住んでみて世間一般に言うところの価値観の相違? 友達の時と結婚は違うでしょ?」
最後疑問形になってしまったのは仕方がない。そんなものではないし、初めから離婚は決まっていたのだ。むしろ尋人との同居はとてもスムーズだった。お互いの足りないところを補填しあえる良きパートナーだったと思う。

「価値観の相違ね……」
佐和子はもう一度繰り返す。

「別に不仲になったとかじゃないからこれからも気にしないで」
私の言ったその言葉を聞いて考えていたのか、佐和子は何かを思い出したように話し出した。

「いつだっけ四人でグランピングに泊まり行ったのって」
「いきなりどうしたのよ、森の?」
「そうそう」
私もその時のことを思い出す。男性陣二人の運転で流行のグランピングに行ったことを。

「まだ、佐和子と宗次郎君が付き合ってなかったから、二年半ぐらい前? あれ?その時付き合うことになったんだっけ?」
私の中の記憶も曖昧だ。佐和子から気持ちを聞いていた私は、二人をうまくいかそうと奔走していた。そして尋人は乗り気ではなかった。それは……。

「あの時、楽しかったな」
「そうだね」


それ以上、その旅行のことを話すことはなかったが、きっと私たちは違うことを思っていたと思う。

手伝いをしてくれた佐和子が帰ったあと、一人になった部屋では小さなビーズクッションに頭を埋めた。

いつもこの時間ならば、尋人と一緒に夕飯を食べている時間なのに。

食欲がなくて何もしたくなくて、私は昼間佐和子が話していた旅行を思い出していた。
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