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離婚しましょう
第四話
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※※
「弥生、用意できた?」
離婚当日、朝から自分の部屋で荷物の最終チェックをしていた私は、その声に顔を上げた。
「うん」
最後ぐらい笑顔をと無理やり浮かべた私だったが、尋人はいつも通りだ。
この一年、それなりに楽しくやってきたと思うが、別に今日から私がいないことなど彼にとってはどうでもいいことなのだろうか?
少しぐらい寂しいと思ってくれてもいいのに。
そんな思いが頭をよぎるも、こんな気持ちを言うつもりなど毛頭ない。
「荷物これだけか?」
積み上げられた段ボールを見ながら尋人は言うと箱をポンポンと叩く。
「もともとそんなに持ってきてないし、ここは尋人の家だしね」
「あのソファはいいの? 気にいってただろ」
唯一、一緒に住み始めた時に買ったのがソファ。
大手のインテリアショップに行き、一緒に何時間も選んだのを思い出す。
私がベージュのファブリック、尋人がブラックのレザーがいいと意見が食い違った時のものだ。
そして、じゃんけんをして……。そこまで思い出して笑みがこぼれた。
「尋人、あの色気に入ってなかったもんね。私が勝っちゃったから」
確かにモノトーンの多い尋人の家にはブラックの方が合っていたが、どうしても私は座った時の感触が好きだった今のソファを譲らなかった。
「そうだったな。でも今では気に入ってるよ。二人で座ってもゆったりしてるし、寝心地もいいし」
懐かしむように言った彼の言葉に、嫌でも記憶がよみがえる。休日に映画を見たり、夜はお酒を飲んでそのままソファで寝落ちしたりした。
たくさん言い合いもしたけど、それ以上に楽しい時間の方が多かった。
元々、人見知りで社交性の高くない私が、こんなにも心を開いて落ち着くのは彼だけだった。
でも、それは私の一方的な思いだ。妹のように可愛がってくれているのを、嫌と言うほどこの一年で知った。
「じゃあ、これからも使ってよ。今度の家にあのソファ入らないから」
今では出世街道まっしぐらの尋人と違い、私のお給料ではそんなに高い家賃のところに住めるわけもない。
「わかった」
あっさりと了承してくれた尋人に、私は小さく頷く。
「ねえ、尋人」
「ん?」
最後に夫婦らしいことをしたい。そんなことを思う。しかし何をしろというのだ。
憎たらしいほどいつも通りで、ドアにもたれ掛かってる彼に私はただ自嘲気味な笑いが零れた。
今更〝抱きしめて”、〝キスをして”。そんなこと言えるわけがない。それを言っていたら何かが変わっていただろうか?
ずっと適度な距離でただのルームシェアだった私たち。
立ち上がって尋人に近づいて、背の高い彼を見上げた。ここでキスの一つでもしたら、忘れられる?
そんなバカなことを考えつつ、尋人の綺麗な瞳を見つめていた。
「弥生?」
不思議そうに私を見つめる瞳が何も宿していないことを知る。この人の中にはまだ佐和子がいるのだろう。
そして、今キスをしてしまったら、私はまたこの片思いをこじらすだけな気がした。
「ありがとうね」
お礼を伝えた私を尋人は少しだけ怪訝そうに見る。
「なんだよ、変な弥生」
最後ぐらいしんみりするよ。そんなことを思っていると、インターフォンが鳴ったのが分かった。
「弥生、用意できた?」
離婚当日、朝から自分の部屋で荷物の最終チェックをしていた私は、その声に顔を上げた。
「うん」
最後ぐらい笑顔をと無理やり浮かべた私だったが、尋人はいつも通りだ。
この一年、それなりに楽しくやってきたと思うが、別に今日から私がいないことなど彼にとってはどうでもいいことなのだろうか?
少しぐらい寂しいと思ってくれてもいいのに。
そんな思いが頭をよぎるも、こんな気持ちを言うつもりなど毛頭ない。
「荷物これだけか?」
積み上げられた段ボールを見ながら尋人は言うと箱をポンポンと叩く。
「もともとそんなに持ってきてないし、ここは尋人の家だしね」
「あのソファはいいの? 気にいってただろ」
唯一、一緒に住み始めた時に買ったのがソファ。
大手のインテリアショップに行き、一緒に何時間も選んだのを思い出す。
私がベージュのファブリック、尋人がブラックのレザーがいいと意見が食い違った時のものだ。
そして、じゃんけんをして……。そこまで思い出して笑みがこぼれた。
「尋人、あの色気に入ってなかったもんね。私が勝っちゃったから」
確かにモノトーンの多い尋人の家にはブラックの方が合っていたが、どうしても私は座った時の感触が好きだった今のソファを譲らなかった。
「そうだったな。でも今では気に入ってるよ。二人で座ってもゆったりしてるし、寝心地もいいし」
懐かしむように言った彼の言葉に、嫌でも記憶がよみがえる。休日に映画を見たり、夜はお酒を飲んでそのままソファで寝落ちしたりした。
たくさん言い合いもしたけど、それ以上に楽しい時間の方が多かった。
元々、人見知りで社交性の高くない私が、こんなにも心を開いて落ち着くのは彼だけだった。
でも、それは私の一方的な思いだ。妹のように可愛がってくれているのを、嫌と言うほどこの一年で知った。
「じゃあ、これからも使ってよ。今度の家にあのソファ入らないから」
今では出世街道まっしぐらの尋人と違い、私のお給料ではそんなに高い家賃のところに住めるわけもない。
「わかった」
あっさりと了承してくれた尋人に、私は小さく頷く。
「ねえ、尋人」
「ん?」
最後に夫婦らしいことをしたい。そんなことを思う。しかし何をしろというのだ。
憎たらしいほどいつも通りで、ドアにもたれ掛かってる彼に私はただ自嘲気味な笑いが零れた。
今更〝抱きしめて”、〝キスをして”。そんなこと言えるわけがない。それを言っていたら何かが変わっていただろうか?
ずっと適度な距離でただのルームシェアだった私たち。
立ち上がって尋人に近づいて、背の高い彼を見上げた。ここでキスの一つでもしたら、忘れられる?
そんなバカなことを考えつつ、尋人の綺麗な瞳を見つめていた。
「弥生?」
不思議そうに私を見つめる瞳が何も宿していないことを知る。この人の中にはまだ佐和子がいるのだろう。
そして、今キスをしてしまったら、私はまたこの片思いをこじらすだけな気がした。
「ありがとうね」
お礼を伝えた私を尋人は少しだけ怪訝そうに見る。
「なんだよ、変な弥生」
最後ぐらいしんみりするよ。そんなことを思っていると、インターフォンが鳴ったのが分かった。
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
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○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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