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離婚しましょう
第一話
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世間一般的に言われる私たちの〝愛の巣“は、モダンな黒と白のインテリアで統一されている。
昼食後、彼がいれてくれた紅茶を前に、ダイニングテーブルに向かい合って座っていた。
もうすぐ四月になり温かくなってきて、大きな窓ガラスから暖かな日差しが差し込んでいる。
こんな休日は昼寝をするのにはもってこいだな。そんなことを思いながら、入れてくれたアールグレイに口をつけつつ、目の前の彼に視線を向けた。
「明日で約束の一年だ。離婚しよう」
私に向けた真面目な瞳を見た時、この話だろうと想像はついていた。
だから、私の返事は決まっていた。
「そうだね」
静かに同意して感謝を込めて目の前の人を見つめる。仕事の時はきちんとと整えられている髪が、休日の今日はサラサラとしている。
こうしていると今年三十歳になるとは思えないほど若く見える。
堂前尋人。私の一年だけの夫だ。
会社では海外事業部の若きエースとして活躍し、家では家事も手伝ってくれる良き夫だ。
身長百八十二㎝の高い身長に、細身だが均整の取れた身体。まっすぐな瞳が私を見つめている。
なんだかんだ優しい彼は、かわいそうに見えた私を見捨てることができなかったのだろう。
「とりあえずお互いメンツは保てただろう?」
「それは私だけでしょう」
少し笑って言って見せれば、尋人はクスリと肩をすくめた。自分の本音をみせないときにするこの癖はもうわかってしまった。
そんなことを知らなければよかったそう思うが、今更仕方がない。
三条弥生、29歳。濃いブラウンの背中までの髪はいつもはまとめているが、今日はなんとなく朝に念入りにセットした。
この話をされる気がしたからだろうか。
私たちが知り合ったのは7年前。
同じ会社に入社した私と望月佐和子、そして一つ先輩だった尋人と金沢宗次郎。
仕事を一緒にし、休みは何かと一緒に遊ぶようになるのに、それほど時間はかからなかったと思う。飲んだり、旅行にも行ったりした。
そして二年前ぐらいに、宗次郎君と佐和子が付き合い始めた。
その時も尋人は「良かったな」とだけ言って笑っていた。もちろん私も。
いつも尋人は淡々として、軽く見せている。
顔も整っているし、仕事もできて、女子社員から圧倒的に人気がある彼は、彼女がとぎれたことはなかった。
しかし、私は知っていた。尋人の歴代の彼女たちは、初めは宗次郎君に好意を持っていた女の子だったことを。
佐和子が宗次郎君が好きだと知っていたからこそ、尋人は佐和子の幸せを願って宗次郎君に女の子を近づけないようにしていた。
そばにいた私は、それを見ていてわかってしまった。
でも、宗次郎君は私の指導係ということもあり、なぜか社内では私とつきあっているという噂があった。
教育係ということで、私との方が仲良く見えたからかもしれない。
だからこそ、宗次郎君と佐和子の結婚が決まった時、なんとなく居心地の悪い空気を周りから感たのはたぶん勘違いではないだろう。
〝失恋したんだ、三条さん“そんな噂がかなり広がったころ、私は夜珍しく尋人から夜呼び出された。
昼食後、彼がいれてくれた紅茶を前に、ダイニングテーブルに向かい合って座っていた。
もうすぐ四月になり温かくなってきて、大きな窓ガラスから暖かな日差しが差し込んでいる。
こんな休日は昼寝をするのにはもってこいだな。そんなことを思いながら、入れてくれたアールグレイに口をつけつつ、目の前の彼に視線を向けた。
「明日で約束の一年だ。離婚しよう」
私に向けた真面目な瞳を見た時、この話だろうと想像はついていた。
だから、私の返事は決まっていた。
「そうだね」
静かに同意して感謝を込めて目の前の人を見つめる。仕事の時はきちんとと整えられている髪が、休日の今日はサラサラとしている。
こうしていると今年三十歳になるとは思えないほど若く見える。
堂前尋人。私の一年だけの夫だ。
会社では海外事業部の若きエースとして活躍し、家では家事も手伝ってくれる良き夫だ。
身長百八十二㎝の高い身長に、細身だが均整の取れた身体。まっすぐな瞳が私を見つめている。
なんだかんだ優しい彼は、かわいそうに見えた私を見捨てることができなかったのだろう。
「とりあえずお互いメンツは保てただろう?」
「それは私だけでしょう」
少し笑って言って見せれば、尋人はクスリと肩をすくめた。自分の本音をみせないときにするこの癖はもうわかってしまった。
そんなことを知らなければよかったそう思うが、今更仕方がない。
三条弥生、29歳。濃いブラウンの背中までの髪はいつもはまとめているが、今日はなんとなく朝に念入りにセットした。
この話をされる気がしたからだろうか。
私たちが知り合ったのは7年前。
同じ会社に入社した私と望月佐和子、そして一つ先輩だった尋人と金沢宗次郎。
仕事を一緒にし、休みは何かと一緒に遊ぶようになるのに、それほど時間はかからなかったと思う。飲んだり、旅行にも行ったりした。
そして二年前ぐらいに、宗次郎君と佐和子が付き合い始めた。
その時も尋人は「良かったな」とだけ言って笑っていた。もちろん私も。
いつも尋人は淡々として、軽く見せている。
顔も整っているし、仕事もできて、女子社員から圧倒的に人気がある彼は、彼女がとぎれたことはなかった。
しかし、私は知っていた。尋人の歴代の彼女たちは、初めは宗次郎君に好意を持っていた女の子だったことを。
佐和子が宗次郎君が好きだと知っていたからこそ、尋人は佐和子の幸せを願って宗次郎君に女の子を近づけないようにしていた。
そばにいた私は、それを見ていてわかってしまった。
でも、宗次郎君は私の指導係ということもあり、なぜか社内では私とつきあっているという噂があった。
教育係ということで、私との方が仲良く見えたからかもしれない。
だからこそ、宗次郎君と佐和子の結婚が決まった時、なんとなく居心地の悪い空気を周りから感たのはたぶん勘違いではないだろう。
〝失恋したんだ、三条さん“そんな噂がかなり広がったころ、私は夜珍しく尋人から夜呼び出された。
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