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これからの未来へ
第2話
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「部長がいるからって諦められるぐらいの気持ちなんでしょ!」
叫ぶように言った日葵を、怖いぐらいに真剣な壮一の瞳が射抜く。
「そんなわけあるか! お前といることが苦しくて、でも会いたくて、そんな気持ちお前にわからないだろう。でも、俺の強引さでさんざん日葵を傷つけてきた。これ以上俺の身勝手でお前の幸せを壊すわけにいかないだろう! だから俺は……」
壮一は最後は振り絞る様に言った後、掴んでいた日葵の腕を離し、ツメが食い込むほど自分の手を握りしめる。
そんな壮一に、日葵は耐え切れず壮一の腕の中に飛び込んだ。
そ壮一の腕が反射的に、日葵を抱きしめようとするも、躊躇するように元あった場所へと戻る。それでも日葵は壮一に言葉を続けた。
「じゃあ、ずっと捕まえていてよ。もう私が二度と不安にならないように。崎本部長には謝ってきたんだから。あんな、あんな素敵で優しい人なのに」
子どもの頃のように泣きじゃくる日葵に、壮一は少し困ったように日葵を見つめる。
「ひま、俺本当はこんなに情けない男だよ。いつも日葵の前でカッコつけてただけで」
探る様に日葵を見る壮一に、日葵はキッと睨みつけた。
「そんなのもう知ってる!」
「お前を散々泣かせたのに?」
「それでもそうちゃんがいいって思っちゃたんだから仕方ないじゃない!」
「……やっぱりバカだな。日葵は」
苦笑するように言った壮一の言葉に、イラっとして日葵が視線を逸らそうとするのと今まで触れていなかった壮一の腕が力ずよく日葵を囲う。
苦しくなるほどの力に、日葵は壮一の胸を叩いた。
「ちょっと、そうちゃん苦しい……」
抱きしめてもらえたことの嬉しさと、少しの恥ずかしさに日葵が視線をそらそうとすると、壮一がそれを阻止するように頬を掬い上げる。
「やばい、嬉しい。もう一生泣かせない」
その言葉をこれまで一緒にいたどのときよりも近くに壮一を感じると、唇が優しくふさがれた。
「んんっ!」
初めて経験するキスに日葵は耐え切れず、声を漏らすも構うことなく壮一はだんだんとキスを深めていく。
「そうちゃん……もう。無理」
切れ切れに答えた日葵を、壮一は力強く抱きしめる。日葵の耳元に壮一は唇を寄せると少し震えた声で日葵に囁く。
「絶対にもう二度と日葵を泣かせない。大好きだよ」
その言葉にようやく日葵の中で呪縛が解ける気がした。ようやく遠回りをしたけど本当の居場所を見つけた気がした。
「どんなそうちゃんも好きだよ」
幼いころずっと完璧だと思っていた壮一の弱さを知り、生身の男性だと分かった。
これからは追いかけるのではなく、二人で一緒に歩幅を合わせて進んでいきたい。
心から日葵はそう思った。
そんな甘い空気を壊すように、ドアがバンと開かれる。
「壮一! 倒れたって……あらお邪魔した?」
冷やかすように言われた香織の声に壮一が大きくため息をつき、日葵は慌てて壮一から離れた。
「香織ママ……久しぶり」
日葵の声に香織がクスリと笑い声をあげた。
「その様子なら問題なさそうね。とりあえずお医者様が今日は入院するようにですって。日葵ちゃん、一緒に帰りましょう」
「え?」
香織の声に反応したのは壮一で、いかにも不服そうな表情の壮一に、香織はジッと壮一を見つめた。
「とりあえず今日は休みなさい。日葵ちゃんは逃げないわよ」
きっと二人の事などお見通しなのだろう。日葵も名残惜しい気持ちを抑えつつ、壮一に小さく手を振る。
「なんだよ」
ブツブツと文句を言う壮一を、香織も面白そうに見つめた。
病院を後にすると、日葵は澄んだ空気を大きく吸いこんだ。そんな日葵の隣を歩いていた香織は苦笑しつつ日葵に声を掛ける。
「ごめんね、日葵ちゃんも疲れたでしょ。ゆっくり休んで。とんだクリスマスイブになっちゃったわね」
香織の言葉に今日がクリスマスイブだったことを日葵は思い出す。
「そんなことないですよ」
確かにいろいろなことがあったクリスマスだったが、ようやく自分の気持ちに気づくことができ、長年の辛かった日々から解き放たれた気がした。
叫ぶように言った日葵を、怖いぐらいに真剣な壮一の瞳が射抜く。
「そんなわけあるか! お前といることが苦しくて、でも会いたくて、そんな気持ちお前にわからないだろう。でも、俺の強引さでさんざん日葵を傷つけてきた。これ以上俺の身勝手でお前の幸せを壊すわけにいかないだろう! だから俺は……」
壮一は最後は振り絞る様に言った後、掴んでいた日葵の腕を離し、ツメが食い込むほど自分の手を握りしめる。
そんな壮一に、日葵は耐え切れず壮一の腕の中に飛び込んだ。
そ壮一の腕が反射的に、日葵を抱きしめようとするも、躊躇するように元あった場所へと戻る。それでも日葵は壮一に言葉を続けた。
「じゃあ、ずっと捕まえていてよ。もう私が二度と不安にならないように。崎本部長には謝ってきたんだから。あんな、あんな素敵で優しい人なのに」
子どもの頃のように泣きじゃくる日葵に、壮一は少し困ったように日葵を見つめる。
「ひま、俺本当はこんなに情けない男だよ。いつも日葵の前でカッコつけてただけで」
探る様に日葵を見る壮一に、日葵はキッと睨みつけた。
「そんなのもう知ってる!」
「お前を散々泣かせたのに?」
「それでもそうちゃんがいいって思っちゃたんだから仕方ないじゃない!」
「……やっぱりバカだな。日葵は」
苦笑するように言った壮一の言葉に、イラっとして日葵が視線を逸らそうとするのと今まで触れていなかった壮一の腕が力ずよく日葵を囲う。
苦しくなるほどの力に、日葵は壮一の胸を叩いた。
「ちょっと、そうちゃん苦しい……」
抱きしめてもらえたことの嬉しさと、少しの恥ずかしさに日葵が視線をそらそうとすると、壮一がそれを阻止するように頬を掬い上げる。
「やばい、嬉しい。もう一生泣かせない」
その言葉をこれまで一緒にいたどのときよりも近くに壮一を感じると、唇が優しくふさがれた。
「んんっ!」
初めて経験するキスに日葵は耐え切れず、声を漏らすも構うことなく壮一はだんだんとキスを深めていく。
「そうちゃん……もう。無理」
切れ切れに答えた日葵を、壮一は力強く抱きしめる。日葵の耳元に壮一は唇を寄せると少し震えた声で日葵に囁く。
「絶対にもう二度と日葵を泣かせない。大好きだよ」
その言葉にようやく日葵の中で呪縛が解ける気がした。ようやく遠回りをしたけど本当の居場所を見つけた気がした。
「どんなそうちゃんも好きだよ」
幼いころずっと完璧だと思っていた壮一の弱さを知り、生身の男性だと分かった。
これからは追いかけるのではなく、二人で一緒に歩幅を合わせて進んでいきたい。
心から日葵はそう思った。
そんな甘い空気を壊すように、ドアがバンと開かれる。
「壮一! 倒れたって……あらお邪魔した?」
冷やかすように言われた香織の声に壮一が大きくため息をつき、日葵は慌てて壮一から離れた。
「香織ママ……久しぶり」
日葵の声に香織がクスリと笑い声をあげた。
「その様子なら問題なさそうね。とりあえずお医者様が今日は入院するようにですって。日葵ちゃん、一緒に帰りましょう」
「え?」
香織の声に反応したのは壮一で、いかにも不服そうな表情の壮一に、香織はジッと壮一を見つめた。
「とりあえず今日は休みなさい。日葵ちゃんは逃げないわよ」
きっと二人の事などお見通しなのだろう。日葵も名残惜しい気持ちを抑えつつ、壮一に小さく手を振る。
「なんだよ」
ブツブツと文句を言う壮一を、香織も面白そうに見つめた。
病院を後にすると、日葵は澄んだ空気を大きく吸いこんだ。そんな日葵の隣を歩いていた香織は苦笑しつつ日葵に声を掛ける。
「ごめんね、日葵ちゃんも疲れたでしょ。ゆっくり休んで。とんだクリスマスイブになっちゃったわね」
香織の言葉に今日がクリスマスイブだったことを日葵は思い出す。
「そんなことないですよ」
確かにいろいろなことがあったクリスマスだったが、ようやく自分の気持ちに気づくことができ、長年の辛かった日々から解き放たれた気がした。
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