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変化する関係
第9話
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中に入れば、クリスマスイブという日になってしまったため、家族や親しい人もという社長の計らいで、かなりの人数が集まっており、その光景に日葵は圧倒された。
そんな中、壇上で社長や副社長が挨拶をしている横に、微笑を浮かべ堂々と立つ壮一の姿が見えた。
「強制でもないのに、すごい人だな」
その様子に崎本も、社長の話をききながら周りを見渡す。
「本当ですね」
日葵も同意しつつ、少しの居心地の悪さを感じつつその場にいた。
挨拶も終わり、歓談になるとみんな思い思いに挨拶や、食事を楽しみ始める。そんな様子に崎本が日葵に問いかける。
「強引だったよな」
「そんな……」
たくさんの人のざわめきに、二人の声は聞こえないだろう。日葵は意を決して崎本を見た。
「今まで本当にありがとうございました。でもこれ以上は……」
優しい崎本にこんなことは言いたくはない。でももうこれ以上振り回すなんてことはできない。そんな思いで日葵は頭を下げる。
「顔を上げて」
いつも通りの崎本の声に、日葵はぎゅっと唇をかみしめながら顔を上げる。
そこには笑顔の崎本がいて、日葵はわけがわからなくなる。
「俺こそ悪あがきをしてごめん」
「え?」
「ずっと、長谷川が俺のことを見ていないことなんてわかってたのに」
ふわりと優しく崎本が日葵の髪をなでる。その瞳には何かをふっきったような瞳だった。
「部長……」
これで最後とわかっていたからこそ、あんなに強引に自分を誘ったことを日葵は悟る。
「それではっきりと自分の気持ちはわかった?」
静かに問われ、日葵は答えに詰まり口を閉じた。
壮一のことを好きだと認めることは、またあの時のような苦しみがあるのだろう。
愛なんて絶対じゃない。こんな醜くてぐちゃぐちゃな気持ちなどなければ……。
そんなことを思っていると、聞きなれない言葉が降ってくる
「まさか、まだ二人ともぐずぐつしてるのかよ」
舌打ちでもしそうな崎本のセリフに、日葵は驚いて崎本を見上げた。
「そろそろ素直になったら。人を好きになることはつらいことも多いけど、幸せなことのほうが多い。このまま彼がほかの人のものになって、結婚して君以外が隣にいることが想像できるの?」
崎本の言葉に一番に思ったことは、そんなの嫌! それだけだった。
(私……)
そこまで思ったところに、前から社長と隣には母である莉乃が壮一と一緒にが歩いてくるのがわかった。
今日はもちろん社長である誠は、パートナー同伴だ。珍しく落ち着いた淡いピンクの小紋を着た母を見る。
「長谷川さん。お疲れ様。君は着替えなかったのか?」
父との関係は伏せているのに、目の前の社長はご機嫌のようで日葵ににこにことして問いかける。
内心ため息をつきつつも、日葵は口を開いた。
「プレスリリースからそのまま来たので」
ドレスなどを着用している人が多い中、日葵はブラックスーツのままだった。
もちろん着替えは持ってきていたが、崎本が現れたことにより着替えることをすっかり忘れていた。
スーツ姿の人も多いので、特に気にしていなかったが、父としてはドレス姿を見たかったというのが本音だろう。
「崎本君もいつもご苦労だね」
「いえ、お疲れ様です。清水君もいい仕事をしたね。お疲れ様」
社長に挨拶をしつつ、壮一ににこやかに声をかける崎本を日葵はハラハラしながら見ていた。
長谷川さん、今日は崎本くんと一緒なのか?」
(こんな話、一社員にするものじゃないじゃない)
少しの苛立ちを隠しながら、仕事用の笑顔を張り付ける日葵に、母である莉乃も興味津々な瞳を向ける。
(全くこの二人は)
今でも仲が良すぎて困る両親の視線に、うんざりしながら答えずにいると、いきなり視界の隅にあった壮一の影がゆらりと揺れる。
「壮一!」
驚いたようについ名前を呼んだ父親のことなど全く気付かず、日葵は真っ青な顔で誠の腕の中に倒れこみ意識のない壮一に無意識に駆け寄る。
そんな中、壇上で社長や副社長が挨拶をしている横に、微笑を浮かべ堂々と立つ壮一の姿が見えた。
「強制でもないのに、すごい人だな」
その様子に崎本も、社長の話をききながら周りを見渡す。
「本当ですね」
日葵も同意しつつ、少しの居心地の悪さを感じつつその場にいた。
挨拶も終わり、歓談になるとみんな思い思いに挨拶や、食事を楽しみ始める。そんな様子に崎本が日葵に問いかける。
「強引だったよな」
「そんな……」
たくさんの人のざわめきに、二人の声は聞こえないだろう。日葵は意を決して崎本を見た。
「今まで本当にありがとうございました。でもこれ以上は……」
優しい崎本にこんなことは言いたくはない。でももうこれ以上振り回すなんてことはできない。そんな思いで日葵は頭を下げる。
「顔を上げて」
いつも通りの崎本の声に、日葵はぎゅっと唇をかみしめながら顔を上げる。
そこには笑顔の崎本がいて、日葵はわけがわからなくなる。
「俺こそ悪あがきをしてごめん」
「え?」
「ずっと、長谷川が俺のことを見ていないことなんてわかってたのに」
ふわりと優しく崎本が日葵の髪をなでる。その瞳には何かをふっきったような瞳だった。
「部長……」
これで最後とわかっていたからこそ、あんなに強引に自分を誘ったことを日葵は悟る。
「それではっきりと自分の気持ちはわかった?」
静かに問われ、日葵は答えに詰まり口を閉じた。
壮一のことを好きだと認めることは、またあの時のような苦しみがあるのだろう。
愛なんて絶対じゃない。こんな醜くてぐちゃぐちゃな気持ちなどなければ……。
そんなことを思っていると、聞きなれない言葉が降ってくる
「まさか、まだ二人ともぐずぐつしてるのかよ」
舌打ちでもしそうな崎本のセリフに、日葵は驚いて崎本を見上げた。
「そろそろ素直になったら。人を好きになることはつらいことも多いけど、幸せなことのほうが多い。このまま彼がほかの人のものになって、結婚して君以外が隣にいることが想像できるの?」
崎本の言葉に一番に思ったことは、そんなの嫌! それだけだった。
(私……)
そこまで思ったところに、前から社長と隣には母である莉乃が壮一と一緒にが歩いてくるのがわかった。
今日はもちろん社長である誠は、パートナー同伴だ。珍しく落ち着いた淡いピンクの小紋を着た母を見る。
「長谷川さん。お疲れ様。君は着替えなかったのか?」
父との関係は伏せているのに、目の前の社長はご機嫌のようで日葵ににこにことして問いかける。
内心ため息をつきつつも、日葵は口を開いた。
「プレスリリースからそのまま来たので」
ドレスなどを着用している人が多い中、日葵はブラックスーツのままだった。
もちろん着替えは持ってきていたが、崎本が現れたことにより着替えることをすっかり忘れていた。
スーツ姿の人も多いので、特に気にしていなかったが、父としてはドレス姿を見たかったというのが本音だろう。
「崎本君もいつもご苦労だね」
「いえ、お疲れ様です。清水君もいい仕事をしたね。お疲れ様」
社長に挨拶をしつつ、壮一ににこやかに声をかける崎本を日葵はハラハラしながら見ていた。
長谷川さん、今日は崎本くんと一緒なのか?」
(こんな話、一社員にするものじゃないじゃない)
少しの苛立ちを隠しながら、仕事用の笑顔を張り付ける日葵に、母である莉乃も興味津々な瞳を向ける。
(全くこの二人は)
今でも仲が良すぎて困る両親の視線に、うんざりしながら答えずにいると、いきなり視界の隅にあった壮一の影がゆらりと揺れる。
「壮一!」
驚いたようについ名前を呼んだ父親のことなど全く気付かず、日葵は真っ青な顔で誠の腕の中に倒れこみ意識のない壮一に無意識に駆け寄る。
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