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変化する関係
第4話
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「おはようございます」
会社のエントランスに入ったところで、柚希に声を掛けられ、日葵は笑顔を張り付ける。
あの後、まったく頭を整理できるわけもなく、眠れない週末を過ごした。
壮一のことも、自分のことも日葵は整理することなどできはしなかった。
自分は今、壮一にどういった感情を持っているのだろう。
そして、壮一はどう思っているのか?
そんなことを考えてももちろん答えなど出る訳もない。
日葵の顔はむくみがひどく、なんとか化粧でごまかし週明けの月曜日出社していた。
「おはよう、柚希ちゃん」
「調子悪いですか?」
柚希にもわかるほどの顔なのか、そう思うと日葵は心の中で小さくため息を付く。
「大丈夫。それよりもうすぐだから頑張らなきゃね」
自分のミスでいろいろな人に迷惑をかけたのだ。当たり前だが今は壮一のことより、仕事を優先すべきだと日葵は自分を叱咤する。
「そうですよね。もうすぐですね。プレスリリース。その後は完成パーティーもありますよね」
柚希の嬉しそうな声に反して、日葵は憂鬱になって行く。
あっという間の師走を迎え、クリスマスにプレスリリース。
もちろん王晦日のカウントダウンに合わせての発表の方がインパクトはあったはずだ。
それでも、何も言わず社内はクリスマスに合わせてと色々各所調整してくれた。感謝しかない。
日葵はそう思いつつ、頭の中でやるべきことを整理していた。
「長谷川!」
フロアに入ると一番に壮一の呼び声に、日葵はビクリと肩を揺らした。
週末のあの日以来、壮一とは顔を合わせてはいない。
どういうつもりで言ったのか聞きたかったが、どの答えを聞いても自分がグチャグチャになるだけのような気がして、何も聞くことはできなかった。
「すぐにこのSテックに連絡を入れてくれ。後、パーティーの人数も変更になっているみたいだから確認して、手配してくれ」
資料を日葵の目を見ることなく壮一は渡すと、すぐに違う連絡を始めた。
今日は何か大切な打ち合わせがあるのだろう、いつもよりピシッと整えられた髪に、スリーピースの濃紺のスーツ。それを完璧に着こなし、片手にパソコン、もう片方にスマホで話をする壮一に、日葵は小さく返事をする。
何もかもあの日のことなどなかったように、いつも通りだ。
デスクに戻り、すぐに受話器を取ると電話を入れる。確認事項を終え、ボールペンを走らせていると、柚希が壮一のところへ書類を持っていく前に、日葵のデスクの横で止まった。
「チーフ、相変わらずすごい仕事量ですね」
「そうね」
事実を答えることしかできず、日葵は曖昧に返事をすると柚希に視線を向ける。
考えないようにしていたが、柚希が壮一を思っていることを思い出す。
「長谷川さん、名古屋で……」
「え?」
名古屋その言葉に、日葵はビクッとして声が大きくなってしまった気がした。
「いえ、なんでもないです。名古屋の件はご迷惑をかけてすみません。謝罪が遅くなっちゃいましたが」
きっと聞きたいことはそれではないだろう、日葵は確信しつつも小さく首を振る。
「私こそ、柚希ちゃんが大変なのに気づかなくてごめんね」
「そんな」
柚希はまだ何か思案する表情をしていたが、少し微笑んだ。
「チーフに渡してきます」
それだけを言うと、柚希は歩いて行ってしまった。
(別にやましいことなんてないじゃない)
さっきの自分の態度を思い出し、日葵は小さく息を吐く。
柚希が壮一を思っていることは明らかで、壮一も柚希を可愛がっているのは知っている。
それが悪いことなんて思っていない。でも、なにか心に引っかかる気持ちを日葵は気づかないふりをする。
ふと、あの日触れそうで触れなかった、壮一の瞳を思い出して慌ててそれを日葵は頭から消し去る。
一日の仕事を終え、ピンと張りつめた空気の中日葵は外へと足を踏み出した。
今日も、残業だがまだ壮一たちは仕事をしている。
できることがないもどかしさは相変わらずだ。
日葵は冷たい手をこすり合わせながら駅へと向かうと、入り口の前で崎本がいるのが解る。
「崎本部長……」
呟くように言った日葵に、崎本は柔らかな笑みを浮かべた。
会社のエントランスに入ったところで、柚希に声を掛けられ、日葵は笑顔を張り付ける。
あの後、まったく頭を整理できるわけもなく、眠れない週末を過ごした。
壮一のことも、自分のことも日葵は整理することなどできはしなかった。
自分は今、壮一にどういった感情を持っているのだろう。
そして、壮一はどう思っているのか?
そんなことを考えてももちろん答えなど出る訳もない。
日葵の顔はむくみがひどく、なんとか化粧でごまかし週明けの月曜日出社していた。
「おはよう、柚希ちゃん」
「調子悪いですか?」
柚希にもわかるほどの顔なのか、そう思うと日葵は心の中で小さくため息を付く。
「大丈夫。それよりもうすぐだから頑張らなきゃね」
自分のミスでいろいろな人に迷惑をかけたのだ。当たり前だが今は壮一のことより、仕事を優先すべきだと日葵は自分を叱咤する。
「そうですよね。もうすぐですね。プレスリリース。その後は完成パーティーもありますよね」
柚希の嬉しそうな声に反して、日葵は憂鬱になって行く。
あっという間の師走を迎え、クリスマスにプレスリリース。
もちろん王晦日のカウントダウンに合わせての発表の方がインパクトはあったはずだ。
それでも、何も言わず社内はクリスマスに合わせてと色々各所調整してくれた。感謝しかない。
日葵はそう思いつつ、頭の中でやるべきことを整理していた。
「長谷川!」
フロアに入ると一番に壮一の呼び声に、日葵はビクリと肩を揺らした。
週末のあの日以来、壮一とは顔を合わせてはいない。
どういうつもりで言ったのか聞きたかったが、どの答えを聞いても自分がグチャグチャになるだけのような気がして、何も聞くことはできなかった。
「すぐにこのSテックに連絡を入れてくれ。後、パーティーの人数も変更になっているみたいだから確認して、手配してくれ」
資料を日葵の目を見ることなく壮一は渡すと、すぐに違う連絡を始めた。
今日は何か大切な打ち合わせがあるのだろう、いつもよりピシッと整えられた髪に、スリーピースの濃紺のスーツ。それを完璧に着こなし、片手にパソコン、もう片方にスマホで話をする壮一に、日葵は小さく返事をする。
何もかもあの日のことなどなかったように、いつも通りだ。
デスクに戻り、すぐに受話器を取ると電話を入れる。確認事項を終え、ボールペンを走らせていると、柚希が壮一のところへ書類を持っていく前に、日葵のデスクの横で止まった。
「チーフ、相変わらずすごい仕事量ですね」
「そうね」
事実を答えることしかできず、日葵は曖昧に返事をすると柚希に視線を向ける。
考えないようにしていたが、柚希が壮一を思っていることを思い出す。
「長谷川さん、名古屋で……」
「え?」
名古屋その言葉に、日葵はビクッとして声が大きくなってしまった気がした。
「いえ、なんでもないです。名古屋の件はご迷惑をかけてすみません。謝罪が遅くなっちゃいましたが」
きっと聞きたいことはそれではないだろう、日葵は確信しつつも小さく首を振る。
「私こそ、柚希ちゃんが大変なのに気づかなくてごめんね」
「そんな」
柚希はまだ何か思案する表情をしていたが、少し微笑んだ。
「チーフに渡してきます」
それだけを言うと、柚希は歩いて行ってしまった。
(別にやましいことなんてないじゃない)
さっきの自分の態度を思い出し、日葵は小さく息を吐く。
柚希が壮一を思っていることは明らかで、壮一も柚希を可愛がっているのは知っている。
それが悪いことなんて思っていない。でも、なにか心に引っかかる気持ちを日葵は気づかないふりをする。
ふと、あの日触れそうで触れなかった、壮一の瞳を思い出して慌ててそれを日葵は頭から消し去る。
一日の仕事を終え、ピンと張りつめた空気の中日葵は外へと足を踏み出した。
今日も、残業だがまだ壮一たちは仕事をしている。
できることがないもどかしさは相変わらずだ。
日葵は冷たい手をこすり合わせながら駅へと向かうと、入り口の前で崎本がいるのが解る。
「崎本部長……」
呟くように言った日葵に、崎本は柔らかな笑みを浮かべた。
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