I Still Love You

美希みなみ

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忘れたい

第5話

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「おはようございます」
明るい元気な声が聞こえて、日葵はハッとしてふりかえった。

「柚希ちゃんおはよう」
いつもの出社時間が近づいていたことに気づき、未だ落ち着いていなかった気持ちをなんとか整えると、目の前の仕事にとりかかった。

そんな時、周りの雰囲気がピリッとしたような気がして、日葵は顔を上げた。

「手が空き次第、ミーティングルームに集まってくれ」

その声に視線を向けると、部屋から出て颯爽と歩いてくる壮一がいた。

さっきとは別人のような、いつもどおり完璧な壮一がそこにはあった。
シャワーも浴びたのだろうし、スーツも違うものに着替えられていて、常に泊る準備をしていることに気づく。

途中で入社して、社長や会社の期待を一身に受け、失敗できないこの状況でも弱さも、弱音すら聞いたことがない。

壮一の言葉に、一斉に返事をしてみんながミーティングルームに向かう。
日葵も、目の前の仕事にキリを付けるとそこへと向かった。

ミーティングルームに入ると、大きなモニターには広大な緑が広がる景色を、高台から見下ろす男の子と女の子、そして真っ白な鳥が羽ばたいていた。

「The beginning new world」新しい始まりの世界

そう書かれていた。

企画段階で知ってはいたが、初めて映像として見た日葵はそれに釘付けになる。

「まだ未完成だが、ここまでで意見を聞きたい」
壮一の言葉に技術者や、それ以外の何十人ものスタッフが目を輝かせて頷く。

一人の男の子が、襲い掛かる敵に仲間を増やしながら戦っていうくという、今までにもあったゲームだが、今回はシステム会社の威信をかけて、美しい映像、音楽、クオリティにこだわっている。
今までに見たことのない、臨場感のある映像は迫力があり、キャラクターも生き生きとしていて、すぐにストーリーに引き込まれる。

すぐにスキップされてしまう事も多い、会話などのシーンもこれだけの精度ならばむしろ映画を見るような感覚でそれだけを見たいぐらいだった。

短い時間の動画だったが、ため息が零れ落ちる。
すっかり世界観に引き込まれていた日葵は、意見が出始めたところで我に返った。

慌てて記録をとるべくパソコンのキーに指を滑らせる。

数時間にわたり続いたディスカッションも終わり、各自自分の席へと戻るのを、日葵は見ながら、日葵は上層部に提出も必要になるだろうと、引き続きその場で頭の中で考えをまとめつつ作業をしていた。

「長谷川」

静かに呼ばれた声に、日葵はビクッと揺れた。
ただ名前を呼ばれただけだが、さっきの壮一の寝言が頭を過り身構えてしまう。
自分でもわからない緊張感がいまだにぬぐえないまま、日葵は顔を上げた。

「はい」

「そんな不安げな顔するなよ。違うな。俺のせいだな」
壮一は自嘲気味な笑みを浮かべながら、日葵から距離を取るように一歩下がると、壁にもたれ掛かった。
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