I Still Love You

美希みなみ

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優しくしないで

第8話

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(あっ、満月……)

吸い寄せられるようにベランダへと出て、空を見上げた。
真っ黒な空の中に輝く真ん丸の月が日葵を見下ろしていた。

ポロポロと涙を拭うことなくそんな月を見ていると、突如カタンという音がして日葵はハッとその方向に目を向けた。

「こっち来て」
静かに聞こえた薄い防災壁の向こうから聞こえた壮一の声。

その内容に日葵は言葉を発することもできず、目を見開いた。

「長谷川、こっちこい」
長谷川と呼ばれると抵抗できない日葵は、「ずるい」そう思いつつも一歩一歩二人を隔てる壁へと足を踏み出した。
壮一の姿が見えない事で、近づくことができる。

「ごめんなさい……」
申し訳なさからその言葉しか出ない日葵は、壁にピタリと近づくと、呟くように謝罪の言葉を述べた。

「こっち」

「え?」
その言葉の意味が解らず日葵は聞き返す。

「長谷川外見て」
そう言われ、外を見ると壮一の手だけが見える。
少し躊躇するように聞こえた壮一の声に、日葵は勇気をだすとその方へと向かった。

すると覗き込むように見る、壮一の視線と交わる。
「チーフ、本当にご迷惑をおかけして……」
「あーあ」
日葵が言い終わらないうちに、かぶされるように言われた言葉の意味は解らなかったが、なぜか壮一が泣きそうに見えて、日葵はただジッと壮一のきれいな瞳に映る自分を見ていた。

「悪かった」
静かに言われた言葉に、日葵はブンブンと首を振った。
「私が……」

「嫌、俺だって確認すべきだし、もしかしたらして、見ていたかもしれない。なのに……あんな頭ごなしに……」
その謝罪に、日葵は心底ほっとして涙が零れ落ちる。
嗚咽を漏らす日葵の頬が温もりに包まれ、驚いて顔を上げた。

「長谷川、泣くな。大丈夫だから」
優しく響く壮一の言葉に涙が止まらない。
どれだけあの冷たい視線が、自分を落ち込ませていたのか日葵自身気づいていなかった。

優しく壮一の指が涙を拭うのを、拒否することも、何か言葉を発することもできず、ただその手が温かくて、されるがままになっていた。
そっと、頬を壮一の両手が包んだ。
「ここ叩いた?」
撫でるように昼間叩いた場所を、優しく壮一は触れる。

「気合を入れたくて……」
「バカだな……日葵は……本当に。バカだよ」
言葉は悪いのに、なぜか悲し気に聞こえる壮一の声に、日葵も何も言えずただ涙を流していた。
そっと、頬から手が下ろされ、手すりに置いていた日葵の手の指に壮一の指が触れる。

ピクリと揺れた日葵の手を、壮一の手がギュッと握りしめた。

もう壮一の顔は見えず、隔てる壁で触れているのは一部で、はっきりと顔すら見えない壮一との距離。
自分が今どうしたいのかわからず、ただ無言でその温もりだけを感じていた。

「長谷川、明日からまた頼むな」
その言葉に日葵が小さく返事を返すと、手のぬくもりは消え、壮一が中へ入るのが分かった。

キュッと今まで壮一が触れていたところを、自分の手で包むと日葵も家へと入った。
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