21 / 59
優しくしないで
第8話
しおりを挟む
(あっ、満月……)
吸い寄せられるようにベランダへと出て、空を見上げた。
真っ黒な空の中に輝く真ん丸の月が日葵を見下ろしていた。
ポロポロと涙を拭うことなくそんな月を見ていると、突如カタンという音がして日葵はハッとその方向に目を向けた。
「こっち来て」
静かに聞こえた薄い防災壁の向こうから聞こえた壮一の声。
その内容に日葵は言葉を発することもできず、目を見開いた。
「長谷川、こっちこい」
長谷川と呼ばれると抵抗できない日葵は、「ずるい」そう思いつつも一歩一歩二人を隔てる壁へと足を踏み出した。
壮一の姿が見えない事で、近づくことができる。
「ごめんなさい……」
申し訳なさからその言葉しか出ない日葵は、壁にピタリと近づくと、呟くように謝罪の言葉を述べた。
「こっち」
「え?」
その言葉の意味が解らず日葵は聞き返す。
「長谷川外見て」
そう言われ、外を見ると壮一の手だけが見える。
少し躊躇するように聞こえた壮一の声に、日葵は勇気をだすとその方へと向かった。
すると覗き込むように見る、壮一の視線と交わる。
「チーフ、本当にご迷惑をおかけして……」
「あーあ」
日葵が言い終わらないうちに、かぶされるように言われた言葉の意味は解らなかったが、なぜか壮一が泣きそうに見えて、日葵はただジッと壮一のきれいな瞳に映る自分を見ていた。
「悪かった」
静かに言われた言葉に、日葵はブンブンと首を振った。
「私が……」
「嫌、俺だって確認すべきだし、もしかしたらして、見ていたかもしれない。なのに……あんな頭ごなしに……」
その謝罪に、日葵は心底ほっとして涙が零れ落ちる。
嗚咽を漏らす日葵の頬が温もりに包まれ、驚いて顔を上げた。
「長谷川、泣くな。大丈夫だから」
優しく響く壮一の言葉に涙が止まらない。
どれだけあの冷たい視線が、自分を落ち込ませていたのか日葵自身気づいていなかった。
優しく壮一の指が涙を拭うのを、拒否することも、何か言葉を発することもできず、ただその手が温かくて、されるがままになっていた。
そっと、頬を壮一の両手が包んだ。
「ここ叩いた?」
撫でるように昼間叩いた場所を、優しく壮一は触れる。
「気合を入れたくて……」
「バカだな……日葵は……本当に。バカだよ」
言葉は悪いのに、なぜか悲し気に聞こえる壮一の声に、日葵も何も言えずただ涙を流していた。
そっと、頬から手が下ろされ、手すりに置いていた日葵の手の指に壮一の指が触れる。
ピクリと揺れた日葵の手を、壮一の手がギュッと握りしめた。
もう壮一の顔は見えず、隔てる壁で触れているのは一部で、はっきりと顔すら見えない壮一との距離。
自分が今どうしたいのかわからず、ただ無言でその温もりだけを感じていた。
「長谷川、明日からまた頼むな」
その言葉に日葵が小さく返事を返すと、手のぬくもりは消え、壮一が中へ入るのが分かった。
キュッと今まで壮一が触れていたところを、自分の手で包むと日葵も家へと入った。
吸い寄せられるようにベランダへと出て、空を見上げた。
真っ黒な空の中に輝く真ん丸の月が日葵を見下ろしていた。
ポロポロと涙を拭うことなくそんな月を見ていると、突如カタンという音がして日葵はハッとその方向に目を向けた。
「こっち来て」
静かに聞こえた薄い防災壁の向こうから聞こえた壮一の声。
その内容に日葵は言葉を発することもできず、目を見開いた。
「長谷川、こっちこい」
長谷川と呼ばれると抵抗できない日葵は、「ずるい」そう思いつつも一歩一歩二人を隔てる壁へと足を踏み出した。
壮一の姿が見えない事で、近づくことができる。
「ごめんなさい……」
申し訳なさからその言葉しか出ない日葵は、壁にピタリと近づくと、呟くように謝罪の言葉を述べた。
「こっち」
「え?」
その言葉の意味が解らず日葵は聞き返す。
「長谷川外見て」
そう言われ、外を見ると壮一の手だけが見える。
少し躊躇するように聞こえた壮一の声に、日葵は勇気をだすとその方へと向かった。
すると覗き込むように見る、壮一の視線と交わる。
「チーフ、本当にご迷惑をおかけして……」
「あーあ」
日葵が言い終わらないうちに、かぶされるように言われた言葉の意味は解らなかったが、なぜか壮一が泣きそうに見えて、日葵はただジッと壮一のきれいな瞳に映る自分を見ていた。
「悪かった」
静かに言われた言葉に、日葵はブンブンと首を振った。
「私が……」
「嫌、俺だって確認すべきだし、もしかしたらして、見ていたかもしれない。なのに……あんな頭ごなしに……」
その謝罪に、日葵は心底ほっとして涙が零れ落ちる。
嗚咽を漏らす日葵の頬が温もりに包まれ、驚いて顔を上げた。
「長谷川、泣くな。大丈夫だから」
優しく響く壮一の言葉に涙が止まらない。
どれだけあの冷たい視線が、自分を落ち込ませていたのか日葵自身気づいていなかった。
優しく壮一の指が涙を拭うのを、拒否することも、何か言葉を発することもできず、ただその手が温かくて、されるがままになっていた。
そっと、頬を壮一の両手が包んだ。
「ここ叩いた?」
撫でるように昼間叩いた場所を、優しく壮一は触れる。
「気合を入れたくて……」
「バカだな……日葵は……本当に。バカだよ」
言葉は悪いのに、なぜか悲し気に聞こえる壮一の声に、日葵も何も言えずただ涙を流していた。
そっと、頬から手が下ろされ、手すりに置いていた日葵の手の指に壮一の指が触れる。
ピクリと揺れた日葵の手を、壮一の手がギュッと握りしめた。
もう壮一の顔は見えず、隔てる壁で触れているのは一部で、はっきりと顔すら見えない壮一との距離。
自分が今どうしたいのかわからず、ただ無言でその温もりだけを感じていた。
「長谷川、明日からまた頼むな」
その言葉に日葵が小さく返事を返すと、手のぬくもりは消え、壮一が中へ入るのが分かった。
キュッと今まで壮一が触れていたところを、自分の手で包むと日葵も家へと入った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
590
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる