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優しくしないで
第5話
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それからの日々は忙しく、バタバタとした時間を過ごし、日葵は隣に住む壮一の顔をほとんどみることがなかった。
会社では厳しくもみんなを引っ張て行く壮一のおかげで、ずいぶん業務も円滑に進むようになっていた。
「長谷川さん、ここって」
可愛らしい一つ後輩の榊原柚希の声に、日葵は振り返る。
「ああ、この数字の計上はここのファイルから……」
パソコンの画面を操作しつつ、日葵は柚希を見た。
「ああ!ありがとうございます」
素直で仕事の飲み込みも早い柚希は、あっという間に部署にも馴染み、日葵も本来の自分の仕事に集中できるようになっていた。
「柚希!ちょっと!」
気になることと言えば、壮一が呼ぶこの言葉。
もともと総務部にいた柚希を、壮一が連れてきて以来、壮一は柚希の事をたまに呼び捨てにする。
もちろん、普段はきちんと部下との距離を取っている壮一が、ふとしたときに呼ぶその名前。
(別にいいじゃない。どう呼ぼうが……)
昔から女の人に言い寄られすぎて、苦手なのではと勝手に思っていた自分に日葵はため息をついた。
よくよく考えれば、香水のにおいや、派手な人が苦手なだけで、壮一が女嫌いだったわけではない。
肩の上できれいに切りそろえられたブラウンの髪、人懐っこいくりくりした瞳、服装もどちらかといえばカジュアルで、150cmを少し超えたぐらいの柚希は本当に可愛らしい女の子だった。
壮一の部屋に消えていった柚希を見ていたことに気づいて、日葵はハッとして視線を自分のパソコンへと向ける。
別に壮一が幸せになることすら許せないわけではない。
自分にそう言い聞かせて、受話器を取る。
リリース日がきまり、その日ははマスコミ各社を呼び、盛大なイベントを行う予定になっている。
そのイベント会社との打ち合わせが今日は入っていた。
受付にその事を伝えて、もう一度資料を確認していたところに、柚希が自分のところに来るのがわかった。
「長谷川さん、これチーフからです」
「ありがとう」
自分が確認を頼んであった資料だと分かり、日葵はそれに視線を向けた。
「柚希ちゃんは大丈夫だった?チーフに呼ばれていたけど」
柚希を心配しているような言い方をしたが、どうしてこの資料も柚希に頼むの?そんな気持ちが自分の中で見え隠れし嫌気がさす。
「はい、印鑑を頼んでいた書類をもらっただけなので。チーフって優しいですよね」
その言葉に、反射的に柚希の顔をみてしまい、しまった!と日葵はデスクの下で手を握りしめる。
「そう……だね」
不自然に揺れてしまった言葉を、柚希に悟られただろうか?
そんな心配を他所に柚希はニコリと笑った。
「ここの皆さん、いい人ばかりで嬉しいです」
純粋に移動してきて不安だろう柚希に、こんな自分勝手な思いを抱いてしまった事に、日葵は自己嫌悪に陥る。
「そっか、柚希ちゃんが来てくれて本当に助かった」
なんとか言葉を発した日葵に、柚希は嬉しそな笑顔を浮かべると自分の席へと戻っていった。
(何をやってるのよ……)
一人になり、机に顔を埋めると日葵は大きくため息を付く。
どうしても壮一の言葉や行動に振り回せれている気がして、嫌気がさす。
(なんの感情も持ちたくないのに……)
過去は過去として、大人なのだがら同僚として上司と部下として、他の会社の人と同じように接しなければいけないといけない事は、日葵もわかっていた。
それができず感情が揺さぶられることが、日葵には耐えられなかった。
会社では厳しくもみんなを引っ張て行く壮一のおかげで、ずいぶん業務も円滑に進むようになっていた。
「長谷川さん、ここって」
可愛らしい一つ後輩の榊原柚希の声に、日葵は振り返る。
「ああ、この数字の計上はここのファイルから……」
パソコンの画面を操作しつつ、日葵は柚希を見た。
「ああ!ありがとうございます」
素直で仕事の飲み込みも早い柚希は、あっという間に部署にも馴染み、日葵も本来の自分の仕事に集中できるようになっていた。
「柚希!ちょっと!」
気になることと言えば、壮一が呼ぶこの言葉。
もともと総務部にいた柚希を、壮一が連れてきて以来、壮一は柚希の事をたまに呼び捨てにする。
もちろん、普段はきちんと部下との距離を取っている壮一が、ふとしたときに呼ぶその名前。
(別にいいじゃない。どう呼ぼうが……)
昔から女の人に言い寄られすぎて、苦手なのではと勝手に思っていた自分に日葵はため息をついた。
よくよく考えれば、香水のにおいや、派手な人が苦手なだけで、壮一が女嫌いだったわけではない。
肩の上できれいに切りそろえられたブラウンの髪、人懐っこいくりくりした瞳、服装もどちらかといえばカジュアルで、150cmを少し超えたぐらいの柚希は本当に可愛らしい女の子だった。
壮一の部屋に消えていった柚希を見ていたことに気づいて、日葵はハッとして視線を自分のパソコンへと向ける。
別に壮一が幸せになることすら許せないわけではない。
自分にそう言い聞かせて、受話器を取る。
リリース日がきまり、その日ははマスコミ各社を呼び、盛大なイベントを行う予定になっている。
そのイベント会社との打ち合わせが今日は入っていた。
受付にその事を伝えて、もう一度資料を確認していたところに、柚希が自分のところに来るのがわかった。
「長谷川さん、これチーフからです」
「ありがとう」
自分が確認を頼んであった資料だと分かり、日葵はそれに視線を向けた。
「柚希ちゃんは大丈夫だった?チーフに呼ばれていたけど」
柚希を心配しているような言い方をしたが、どうしてこの資料も柚希に頼むの?そんな気持ちが自分の中で見え隠れし嫌気がさす。
「はい、印鑑を頼んでいた書類をもらっただけなので。チーフって優しいですよね」
その言葉に、反射的に柚希の顔をみてしまい、しまった!と日葵はデスクの下で手を握りしめる。
「そう……だね」
不自然に揺れてしまった言葉を、柚希に悟られただろうか?
そんな心配を他所に柚希はニコリと笑った。
「ここの皆さん、いい人ばかりで嬉しいです」
純粋に移動してきて不安だろう柚希に、こんな自分勝手な思いを抱いてしまった事に、日葵は自己嫌悪に陥る。
「そっか、柚希ちゃんが来てくれて本当に助かった」
なんとか言葉を発した日葵に、柚希は嬉しそな笑顔を浮かべると自分の席へと戻っていった。
(何をやってるのよ……)
一人になり、机に顔を埋めると日葵は大きくため息を付く。
どうしても壮一の言葉や行動に振り回せれている気がして、嫌気がさす。
(なんの感情も持ちたくないのに……)
過去は過去として、大人なのだがら同僚として上司と部下として、他の会社の人と同じように接しなければいけないといけない事は、日葵もわかっていた。
それができず感情が揺さぶられることが、日葵には耐えられなかった。
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