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再会するということ
第3話
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次に目を開けると、真っ白な天井がひまりの視界に映った。
「目が覚めた?」
そこが医務室だとわかり、産業医の鞠子の声に小さく日葵は頷いた。
鞠子こと、斎藤鞠子は日葵の中高の先輩だ。
親は大病院の院長というお嬢様だが、気取った所もなく、5つ年下の日葵の面倒をよくみてくれた。
「さっきまで……」
その後に言葉は続かなかったが、鞠子の言い方に日葵はさっきの声が誰のものかをはっきりと認識した。
「ショックで貧血起こすとか……どれだけの衝撃だったのよ」
小さく呟くように言った鞠子の言葉に、日葵自身も驚いていた。
もしもまた壮一に会う時は、絶対に弱味も隙もみせたくない。
そう思っていたが、声を聞いただけでこの無様な自分に、もはや笑うしかなかった。
「どうする?もう今日は帰ったら?」
鞠子の言葉に、日葵は考えるように言葉を止めた。
壮一が新しくきたサウンドクリエイターだとするならば、いつまでも逃げ出せるものでもない。
そして壮一が来たからと言って、じゃあもうやめますなどと言えるわけもないし、言うつもりもなかった。
(あの人は新しい上司……)
「戻ります」
自分に言い聞かせると、日葵はゆっくりと体を起こして、鞠子から手渡されたミネラルウォーターを一口飲んだ。
「ねえ?……日葵の壮一さんに対する気持ちってなに?」
少し言葉を選びつつも、確信をついた鞠子の言葉は、日葵は動きを止めた。
あの時、前日まで姿を見ていた壮一は、あっさりといなくなった。
何一つ言わずに。
そう、あの時の感情は……。
幼いながらに、ずっと自分の側にいた壮一の事を日葵は信頼していたし、ずっと側にいる事を疑っていなかった。信じていた。
今となってはもう思い出したくもない、淡い恋心さえあったと思う。
でも……
(壮一は私を捨てた)
日葵はそう解釈するしかなかった。
そうでなければ、何か一言さよならでも、またなでも、あったはずだと思う。
どうしてあの時、壮一は何一つ言わずに消えたのか、日葵にはわからなかったし、もう今となっては解りたくもなかった。
むしろ許すことなどできる気がしなかった。
「もうなんの関係のない人です」
日葵は抑揚なく言葉を発すると、ベッドから降りた。
「日葵……大丈夫?」
気遣うような鞠子の言葉と同時に、医務室のドアが開いた。
「目が覚めた?」
そこが医務室だとわかり、産業医の鞠子の声に小さく日葵は頷いた。
鞠子こと、斎藤鞠子は日葵の中高の先輩だ。
親は大病院の院長というお嬢様だが、気取った所もなく、5つ年下の日葵の面倒をよくみてくれた。
「さっきまで……」
その後に言葉は続かなかったが、鞠子の言い方に日葵はさっきの声が誰のものかをはっきりと認識した。
「ショックで貧血起こすとか……どれだけの衝撃だったのよ」
小さく呟くように言った鞠子の言葉に、日葵自身も驚いていた。
もしもまた壮一に会う時は、絶対に弱味も隙もみせたくない。
そう思っていたが、声を聞いただけでこの無様な自分に、もはや笑うしかなかった。
「どうする?もう今日は帰ったら?」
鞠子の言葉に、日葵は考えるように言葉を止めた。
壮一が新しくきたサウンドクリエイターだとするならば、いつまでも逃げ出せるものでもない。
そして壮一が来たからと言って、じゃあもうやめますなどと言えるわけもないし、言うつもりもなかった。
(あの人は新しい上司……)
「戻ります」
自分に言い聞かせると、日葵はゆっくりと体を起こして、鞠子から手渡されたミネラルウォーターを一口飲んだ。
「ねえ?……日葵の壮一さんに対する気持ちってなに?」
少し言葉を選びつつも、確信をついた鞠子の言葉は、日葵は動きを止めた。
あの時、前日まで姿を見ていた壮一は、あっさりといなくなった。
何一つ言わずに。
そう、あの時の感情は……。
幼いながらに、ずっと自分の側にいた壮一の事を日葵は信頼していたし、ずっと側にいる事を疑っていなかった。信じていた。
今となってはもう思い出したくもない、淡い恋心さえあったと思う。
でも……
(壮一は私を捨てた)
日葵はそう解釈するしかなかった。
そうでなければ、何か一言さよならでも、またなでも、あったはずだと思う。
どうしてあの時、壮一は何一つ言わずに消えたのか、日葵にはわからなかったし、もう今となっては解りたくもなかった。
むしろ許すことなどできる気がしなかった。
「もうなんの関係のない人です」
日葵は抑揚なく言葉を発すると、ベッドから降りた。
「日葵……大丈夫?」
気遣うような鞠子の言葉と同時に、医務室のドアが開いた。
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