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変化と戸惑い 1

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それから、友梨佳は度々始に呼び出されると会う日々が続いた。
あの初めての日以来、友梨佳の中で自分自身で決めたルールがあった。

絶対に一緒に朝を迎えない。

自分の中で少しずつ大きくなる始への気持ちを持て余しながらも、始との関係を清算することもできないそんな自分が嫌で仕方がなかった。

そんな自分の中のささやかな抵抗がそのルール。

始に恋愛感情はない。ただの欲求のはけ口。
そう自分自身に言い聞かせていた。

そんなただのセフレとして扱って欲しいという友梨佳の思いとは裏腹に、まるで愛されていると勘違いしそうなほどに始は友梨佳を甘やかした。

時には休日に急に現れて、デートのように出かける日もあった。
最初は拒否の言葉を述べていた友梨佳も、いつの間にか一緒に過ごす時間が心地よく、心待ちにしている自分がいた。
水族館や、ショッピングモール。時には居酒屋そしてその後は体を重ねる。
普通のカップルがするような事を始は友梨佳と一緒にする。そして当たり前のように友梨佳に微笑み、安心を与える。そんな始が何を考えているのか全く分からなかった。

「俺のストレス発散だ。契約だろ?俺のしたいようにするって」
その言葉ですべてを片付ける始。
だから、友梨佳もそれ以上なにも言えなかった。

(始が私を好きになることなんてあるはずないのに……)

好きになって欲しくない、そう思うのに始から「契約」「都合がいいから」そんな言葉を聞くたびに傷ついている自分に友梨佳は気づきたくなかった。

そんな中、仕事帰りに駅から家へと歩いていると、携帯電話の着信に、友梨佳はディスプレイの名前を見て動きを止めた。

【お母さん】

久しぶりにかかってきた電話に胸騒ぎがした。
父と離婚した方がいいとずっと言い続けてきて、ようやく離婚をしたのが3年前。
二人でずっと苦労してきたせいか、友梨佳は母を大切にしていた。
女二人、これからは母を養って生きていく。そんなことすら友梨佳は思いながら仕事に没頭していた。

今度は病にでもなった……そんな事が頭をよぎり友梨佳は慌ててディスプレイをタッチした。

「もしもし。お母さん?どうした?」
気づけば矢継ぎ早に言葉を掛けていた。

『友梨佳?ごめんね。今大丈夫?』
心配をよそに明るい声の母に、友梨佳はホッとした。

「うん、大丈夫だよ」

『あのね……』
少し歯切れの悪い母の言葉に、友梨佳は「どうしたの?」と優しく声をかけた。
『友梨佳、今月にでも仕事早く上がれる日ある?会って食事でもしたいんだけど』
「え?こっちに来るの?」
友梨佳の母は離婚してから、都心から1時間半ほどの所に一人暮らしをしている。

『うん、行くから一緒に夕ご飯でもどう?』
その誘いに、友梨佳はスケジュールを確認すると、
「いいよ。もちろん。美味しい物食べよう」
『そうね』
母と約束をすると、母と会えるのが楽しみになり、電話を切ると家へと急いだ。


約束の当日、友梨佳はお気に入りのブルーのワンピースに9㎝のパンプスを履くと家を出た。
駅まで迎えに行くと言った友梨佳を、母は笑いながら大丈夫よと言ったため、友梨佳と母のお気に入りのレストランで待ち合わせをした。

約束の時間より少し前に店について、店員に声をかけた。
「待ち合わせなんですが……」
そこまで言って、窓際の母の姿を見つけて、声を出そうとしたが、隣にいる男性が目に入り友梨佳は言葉を無くした。
「お客様?」
急に言葉を無くし、呆然と立ちすくむ友梨佳に、心配したような店員の声に、友梨佳もハッとして意識を戻した。
「すみませんでした。あの……あそこの人と待ち合わせなので……」
それだけを何とか言葉にすると、友梨佳は大きく息を吐いた。


(ただの知り合い?でも……どうして私との約束に……)

嫌な予感しかなかった友梨佳だったが、ここまで来て帰る訳にもいかず、母の元へとゆっくりと近づいた。
母は友梨佳に気づくこともなく、隣の男性と楽しそうに話していた。
まぎれもなく女を感じてしまう母の顔に、友梨佳は嫌悪感が広がった。
男性は50代を越したぐらいなのだろう、とても品の良さそうな優しそうな人だった。
でも、友梨佳にはそんなことはどうでもよかった。
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