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大人の関係は難しい 2

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(そのまま契約を実行?シャワーぐらい浴びたいな……)

友梨佳は落ち着かない気分で、シャワーをというタイミングを計っていた。

「行こうか」
「え?!いきなり?」
ベッドルームに連れていかれると思った友梨佳は、慌てたような声を上げた。
「食事はいきなりか?」
「え?食事?」
ポカンとして始を見上げた友梨佳の顔を見て、クッと始は肩を揺らすと、

「いきなり取って食うほど俺は飢えてない。せっかくのクラブラウンジだ。少し飲みに行こう。軽食もあるし、レストランからも料理を運んでもらえるから」
その言葉をきいたからか、友梨佳のお腹がグーッとなり、友梨佳は自分の頬が真っ赤になったのがわかった。

「すみません……」

「お前って……本当にかわいいな」

初めて見るほど、満面の笑みで笑った始の笑顔に友梨佳はかわいいと言われた言葉より、始の笑顔に目を奪われた。

「館長……笑えるんですね」

「館長は止めろ。始だ」
少し不機嫌そうに言った始に、友梨佳も観念したように言葉を発した。

「あっ……。始さん……」

「さんもいらない」

「はい……」

連れていかれたラウンジは、照明が落とされた奥まったスペースで、夜景が目の前に広がる横並びの席だった。
周りからも隔離されており、すごく雰囲気のある場所だった。

(デートで初めてこんなところに連れてこられたら、一気にもりあがりそうだな。隣の距離も近いし……)

そんな事を友梨佳は思いながら、ここに来るまでにチラチラと始に向けられた視線で、改めて始の綺麗すぎる顔を再認識した。
そのあたりに芸能人がいても、始をみたら逃げ出したくなる。そんな雰囲気すら漂っていた。
いつものようにネクタイをしていない、そのあいた襟元から見える鎖骨が色っぽい。

初めて男の人に色気を感じ、友梨佳はゾクリとした感覚を覚えた自分に驚いた。

(こんな欲求が私にあったなんて……)

「何を飲む?」
そんな友梨佳の気持ちなど気づいていないだろう、始は慣れた様子でメニューに目を落とし、隣に座った友梨佳を見た。
「おまかせしてもいいですか?」
静かに言った友梨佳の言葉に、始は頷きオーダーすると友梨佳をジッと見た。


「疲れた顔してるな」
そっと伸ばされた指が目の下をゆっくりとなぞり、始の視線が絡みつき、友梨佳は目を離せなくなった。

「あっ……やっぱり昨日の作業は……少し疲れたから」
詰まりながら言った友梨佳の言葉に、始はそのまま友梨佳の頬を撫でると友梨佳の手を握った。

「かん……」
そこまで言ったところで始に睨まれ、
「始……」
呟くように言った友梨佳に、満足そうな表情を始は見せた。

(すごい……恋愛経験値が違いすぎる。もうここから雰囲気づくり?)

すでにバクバクと落ち着かない自分が、これから始とするだろう行為を想像して友梨佳は不安になった。

そこへシャンパンのボトルとグラスが運ばれ、目の前のグラスに綺麗な泡が広がった。
夜景をバックにきらめくゴールドの輝きは、現実の物じゃないような気分になり、友梨佳はじっとその泡を眺めた。
「乾杯」
軽くグラスを合わせて、口に含むとキリッと冷えた辛口のシャンパンがはじけた。
「おいしい」
すんなりと零れ落ちた友梨佳の言葉を拾うように、始も、
「ああ、美味しいな。後味もすっきりとして飲みやすい。酒は好きだっただろ?打ち上げた。沢山飲めよ」
王子様のような顔で、シャンパンを語る始にもはや友梨佳は王子でも貴公子でもなんでも来い!そんな気分になり一気にグラスのシャンパンを飲み干した。

寝不足な所に、一気に体内に入ったアルコールに友梨佳の体温が急激に上がったのが自分でも分かった。

次々と運ばれて来る、綺麗な前菜や料理を前に、友梨佳は啞然として始を見た。

(こんな高級な所で、こんなにたくさんの料理って……いったいいくら?)

自分の財布の中身を思い出して、友梨佳は青くなった。

「ねえ、始?ただの契約にこんな高級なところなんて……」
友梨佳の言葉の意味が分かったのだろう始は、
「友梨佳はそんな心配はしなくていい。俺のしたいようにするって言っただろ?お前は俺に付き合えばいいんだよ」
「でも……それとこれとは……」
まだ渋る友梨佳に、始は運ばれてきた料理を友梨佳にサーブしながら、呆れたように声を上げた。
「俺はそんな契約は望んでない。楽しく過ごして、ストレスを発散したいんだよ。そんな場末の情事みたいなことをするつもりはない」
はっきりと言われ、またこの貴公子がラブホに行く姿も想像することができず、友梨佳は軽く息を吐いた後、
「わかった」
「お前って本当に……普通の女なら喜んでついてくるぞ」

(他の女と一緒にしないでよ!)

そこまで思って、友梨佳はイラっとした自分に驚いた。

(別に私が特別じゃないんだし、気にすることないじゃない。お互いただのストレスの発散のはずでしょ)

友梨佳は冷静を装うと、お皿に盛られた綺麗なサーモンを口に入れた。
「おいしい」
つい、言葉がもれ笑顔になった友梨佳に、始は微笑んで友梨佳の髪にキスを落とした。

(本当に、海外の王子様みたいだよ……)
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