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新たな展開 1
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「柴田さん、わかった?新婦にとっては一生に一度のことなの。うちにはそのドレスが無いから仕方ないなんて通らないのよ?」
友梨佳は、今年入ってきた新人の柴田麻里を前に叱っていた。
いつもは麻里ちゃんと呼ぶが、あえて柴田さんと呼ぶと、麻里はビクッと不安な目をした。
「はい……でも……」
「じゃあ、柴田さん。自分の式でどうしても着たいドレスがありません。我慢してくださいって言われたらどうするの?」
「そんな式場キャンセルします!」
その言葉に、麻里はハッとした様子をして俯いた。
「決して新婦が我儘でもないし、それは当たり前の事。むしろその新婦にご希望のドレスを提案できなかったあなたの力量が無いのよ」
友梨佳はこんなことは言いたくなかった。
しかし、あまりにも当たり前のように、希望のドレスが無い事を仕方ないと笑いながら話す彼女を許すわけにはいかなかった。
「はい……」
泣きそうになった麻里を見て、友梨佳もため息をついた。
「柴田さんは、普段はきちんとお客様のご希望も伺えているし、きちんとご提案もできてる。でもこういったこだわりを持った新婦もいるって事勉強になったわね。そういったこだわりのあるお客様にも、誠心誠意対応できるって私は信じてるから。一緒にがんばりましょ」
ニコリと笑った友梨佳に麻里も「ハイ!」と大きく返事をした。
「じゃあ、そのご希望のドレスの写真見せて」
「これです。チーフ」
友梨佳はその写真を見て言葉を止めた。
確かにこのドレスを着たい新婦の希望は難しいかっただろうと思った。
そこには、西洋のお人形さんが着るような、何層にもチュールがかさなったブルーのドレスに、赤やピンクのコサージュがふんだんにちりばめられ、トップスはブルーとピンクのチェックに胸元にはブルーのレースがついていた。
どちら事言うと、ベストウェディングのドレスはシンプルな物が多く上品なテイストの物が多かった。
「それにね、もう少し早く相談してくれたら全国から探せたでしょ?最初からありませんで済まそうとしてたことはきちんと反省してね」
友梨佳はそう言うと、時計をみた。
17時か……。
頭の中でドレスを思い浮かべて、じっと考えた後、
「柴田さん、すぐにWA-350のスケジュールを確認して!」
麻里は、急いでパソコンに向かうとドレスのスケジュールを確認しだした。
「はい……。えーと、お式の日にスケジュールがあいている店舗は……表参道があいてます!」
その声を聞くと、友梨佳はすぐに受話器を取って表参道に電話をした。
表参道の店長に事情を話し、アレンジする許可をもらうと、すぐに取りに行くように指示を出して、自分は大手の手芸屋へと向かった。
(こんな日に店長休みなんて……)
イメージを書いた紙を見ながら、手早く生地を購入して戻ると、表参道から借りてきたドレスをトルソーに着せた。
「柴田さん、あなたのお客様よ。手伝って」
そう言うと、友梨佳は麻里にコサージュを作る指示を出すと、自分は一心不乱にドレスに手を加え始めた。
友梨佳はチラリと時計を見て、21時半を過ぎた所で声を掛けた。
「柴田さん、上がっていいわよ」
「いえ!私もやらせてください!」
真剣な目をした麻里に、友梨佳は手を止めて笑顔を見せると、
「ようやくわかってもらえた表情をしてるわね。これが私たちの仕事よ。この式場を選んでくらた新郎新婦はもちろん、新規の営業、プランナーみんなの努力を私たちのせいで壊すことは許されないのよ。ベストを尽くしてそれでもダメなら仕方がない。でも何もせず無理ですはダメなのはわかったわよね?」
「はい」
「じゃあ、明日は接客を頑張ってもらわなければいけないんだから、今日は帰って早く寝なさい。できるところまで私が責任を持ってやって置くから」
その言葉に、麻里の目には涙が浮かんだ。
「ありがとうございます!チーフ。また私にもアレンジの仕方教えてください」
「もちろんよ。真理ちゃんお疲れ様」
微笑んだ友梨佳を見て、ペコリと麻里は頭を下げた。
そこへ、着信を知らす音が鳴り、チラリとディスプレイに目を向けた。
【着信 村瀬 始】
友梨佳は、今年入ってきた新人の柴田麻里を前に叱っていた。
いつもは麻里ちゃんと呼ぶが、あえて柴田さんと呼ぶと、麻里はビクッと不安な目をした。
「はい……でも……」
「じゃあ、柴田さん。自分の式でどうしても着たいドレスがありません。我慢してくださいって言われたらどうするの?」
「そんな式場キャンセルします!」
その言葉に、麻里はハッとした様子をして俯いた。
「決して新婦が我儘でもないし、それは当たり前の事。むしろその新婦にご希望のドレスを提案できなかったあなたの力量が無いのよ」
友梨佳はこんなことは言いたくなかった。
しかし、あまりにも当たり前のように、希望のドレスが無い事を仕方ないと笑いながら話す彼女を許すわけにはいかなかった。
「はい……」
泣きそうになった麻里を見て、友梨佳もため息をついた。
「柴田さんは、普段はきちんとお客様のご希望も伺えているし、きちんとご提案もできてる。でもこういったこだわりを持った新婦もいるって事勉強になったわね。そういったこだわりのあるお客様にも、誠心誠意対応できるって私は信じてるから。一緒にがんばりましょ」
ニコリと笑った友梨佳に麻里も「ハイ!」と大きく返事をした。
「じゃあ、そのご希望のドレスの写真見せて」
「これです。チーフ」
友梨佳はその写真を見て言葉を止めた。
確かにこのドレスを着たい新婦の希望は難しいかっただろうと思った。
そこには、西洋のお人形さんが着るような、何層にもチュールがかさなったブルーのドレスに、赤やピンクのコサージュがふんだんにちりばめられ、トップスはブルーとピンクのチェックに胸元にはブルーのレースがついていた。
どちら事言うと、ベストウェディングのドレスはシンプルな物が多く上品なテイストの物が多かった。
「それにね、もう少し早く相談してくれたら全国から探せたでしょ?最初からありませんで済まそうとしてたことはきちんと反省してね」
友梨佳はそう言うと、時計をみた。
17時か……。
頭の中でドレスを思い浮かべて、じっと考えた後、
「柴田さん、すぐにWA-350のスケジュールを確認して!」
麻里は、急いでパソコンに向かうとドレスのスケジュールを確認しだした。
「はい……。えーと、お式の日にスケジュールがあいている店舗は……表参道があいてます!」
その声を聞くと、友梨佳はすぐに受話器を取って表参道に電話をした。
表参道の店長に事情を話し、アレンジする許可をもらうと、すぐに取りに行くように指示を出して、自分は大手の手芸屋へと向かった。
(こんな日に店長休みなんて……)
イメージを書いた紙を見ながら、手早く生地を購入して戻ると、表参道から借りてきたドレスをトルソーに着せた。
「柴田さん、あなたのお客様よ。手伝って」
そう言うと、友梨佳は麻里にコサージュを作る指示を出すと、自分は一心不乱にドレスに手を加え始めた。
友梨佳はチラリと時計を見て、21時半を過ぎた所で声を掛けた。
「柴田さん、上がっていいわよ」
「いえ!私もやらせてください!」
真剣な目をした麻里に、友梨佳は手を止めて笑顔を見せると、
「ようやくわかってもらえた表情をしてるわね。これが私たちの仕事よ。この式場を選んでくらた新郎新婦はもちろん、新規の営業、プランナーみんなの努力を私たちのせいで壊すことは許されないのよ。ベストを尽くしてそれでもダメなら仕方がない。でも何もせず無理ですはダメなのはわかったわよね?」
「はい」
「じゃあ、明日は接客を頑張ってもらわなければいけないんだから、今日は帰って早く寝なさい。できるところまで私が責任を持ってやって置くから」
その言葉に、麻里の目には涙が浮かんだ。
「ありがとうございます!チーフ。また私にもアレンジの仕方教えてください」
「もちろんよ。真理ちゃんお疲れ様」
微笑んだ友梨佳を見て、ペコリと麻里は頭を下げた。
そこへ、着信を知らす音が鳴り、チラリとディスプレイに目を向けた。
【着信 村瀬 始】
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