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124、繋がる二つの目的とギルド

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元傭兵兼冒険者と名乗る、頭にお皿のようなものを乗せたお婆さん改め、サラさんは自らの自己紹介を済ませると、自分で用意したお茶をすすり俺達の思考がまとまるのを待つ。

 「え、えぇーっと……つまりお婆さん、いや……サラさんは元ギルド所属の冒険者兼傭兵でそれでいて、ウェダルフが大好きなラルゴは英雄でえーっと……サラ・グルケさんは伝説の骨董商??」

 いかん……思った以上にこんがらがった気がする!! でもそれだって仕方がないじゃないか。アルグのことを昔から知っていることにも驚きなのに、元ギルド所属で伝説になっていた人物だなんて思いもしなかったのだから。
 そんな混乱の極みにいた俺とは反対にキャルヴァンはすぐさまサラさんの意図を汲み取ったのか、警戒心が解けたのか実体化し、そのまま俺の肩にそっと触れ俺の思考を落ち着かせるべく言葉をかけてきた。

 「大丈夫よヒナタ。つまりサラさんは私達の味方だと……そう言いたいのだと思うわ。だから改めて自身の身分を明かし名前も教えた。そう受け取ってもよろしいですか?」

 「さあて……どう取るかはお前さん達次第だが、もし仮にあたしが敵だったらこんな呑気にお茶やら会話なんぞせず、さっさお上に突き出しとるところだろうねぇ」

 いっそ白々しくサラさんのお茶を啜る様は、俺にやっと安堵の気持ちをもたらしたようで、今まで無意識で込めていた体の力を全てを手放しその場に脱力してしまう。

 「やれやれ……やっと安心したようじゃないか。しっかり納得できたなら早速寝ぼけてる坊やを起こして、ちゃっちゃと本題にいこうじゃないか」

 気絶はとうに過ぎた穏やかなウェダルフの寝顔を見やり、俺に起こせと言わんばかりの合図を、サラさんは有無を言わさない雰囲気で送り、俺は忍びないとは思いつつも彼を揺する。

 「おーいウェダルフいい加減起きないと夜眠れなくなっちゃうぞー」

 「うぅ~ん………アフロはもうお腹いっぱいだよぉぉ……」

 いっそアフロにでもしてやろうかと思える挑発的な寝言は軽くスルーするとして、揺すってもなかなか目覚める様子のないウェダルフに業を煮やした俺は、いけないとは思いつつもウェダルフの両脇を擽り覚醒を促す。

 「うは………あは、ハハハハハハハハ??!! なハ?! な、な何!?! や、やめて!!!」

 「お、やっと起きたなウェダルフ。無理に起こしてすまないが今から大事な話があるから仕方なく……」

 そう、これは仕方なく擽ったのであって決してアフロの仕返しをしたわけじゃないことをどうかわかってくれ!
 そんな言い訳を心の中でしながらウェダルフを起こしてやると半ば呆れた顔で俺たちを見つめていたサラさんは気を取り直して起きがけのウェダルフにお茶を出すと話を続けた。

 「それじゃああたしの事がわかったところでお前さん方がここにきた訳を聞こうじゃないかい」

 「……俺達の目的は2つあります。まずはここにいるキャルヴァンの息子であるチヘルという男性の行方についてと、あとはサラさんの察している通りアルグのことについて何か知っていることはないかと思ってこの街にきました」

 「ほおほお………。まず最初に言えることはチヘルという名前は聞いたことはない……が、精霊であるお前さんの息子と言うことなら一つ心当たりがある」

 サラさんの言葉に強く反応し、言葉を返そうと口を開くキャルヴァンだったが、サラさんはそれをひと睨みで制止させまだ話が終わっていないことをキャルヴァンに伝える。

 「そしてアルグのことについてもなぜあれがああなっているのか、同じく心当たりがあるが……………どちらもこっから先はこの国の機密にも関わる話。そう易々と教えることはできなんだ」

 「そんなッ……!!」

 サラさんの答えにいてもたってもいられなくなったのかキャルヴァンが悲鳴のような声色でぐいっと前のめりに詰め寄るが、サラさんは動じることなく、やれやれと行った様子で立ち上がり、俺たちに待つよう一言だけ告げると奥の部屋へと消えていく。

 そうして数分後、奥の部屋から出てきたサラさんの手には手紙のようなものと、古びれた勲章メダルをテーブルに置くと少し黙り込みゆっくりと言葉を続ける。

 「………さっきの話だがね、お前さんらの2つの目的を一遍に解決する方法が一つだけある。だけどそれはお前さんらの実力がかなり試されるし、もしかしたら何年もかかるかもしれない。それでも………やるかい?」

 先ほどの雰囲気とは違う覇気に満ちたサラさんの語り姿に息を呑んで怯んでしまうが、それも刹那で結局はどんな方法であっても同じく難しいのだと理解し合った俺達は黙ったまま、大きく肯くとサラさんも少し安心したような顔でそうかいと一言呟く。

 「では早速その方法を教えていただきたいのですが、もしかしてその方法って………」

 「その通り……この街は夜の種属で“最も強い者”がこの国の領主として統べっている。そしてその領主様は常々下克上を掲げている酔狂なお方で、そのために必要な手段としてギルドも用意されている」

 「つ、つまり………?」

 「お前さんらもそれに倣ってギルドへ加入し、下克上することで欲しい情報を手に入れるしかない!!」

 あぁ~やっぱりそうなるよね。
 いやー普通なら定番イベントキタコレー!ッと喜び叫ぶところだけど、いや……ちょっと冷静に考えてみてくれよ。
 今サラさんはギルド加入以外に下克上も条件に含めていたじゃないか。それって暗に強者揃いの魔属達の屍を越えていけということになり、神様候補だけど活躍的には無能な俺と不安定な召喚能力持ちのウェダルフ、そして精霊のキャルヴァンにそれは無茶無謀つーもんで………

 「だけどもギルド加入するにも条件があっての。当たり前だがこのウィスの街はギルドで得た資金でもって成り立っている。だからギルド本部に行けば誰でもなれるという訳でもなく、最低でも二人のギルド関係者から承認を受けねば加入できぬのよ」

 「えーっと、つまり今から僕達はサラさんの他にもう一人のギルド関係者から認めてもらわなきゃなの?」

 素早く話を理解したウェダルフが返すとサラさんも答える代わりに不敵な笑みを浮かべ俺はさらに気が重くなる感覚がする。

 「何……ギルド加入自体は意外と簡単なもんさ。まあ、あたしが知ってる限りでは魔属以外の加入は認められたことはないが、何せ伝説と呼ばれるあたしの名前と、今からお前さんらに向かってもらう、もう一人のギルド関係者だって異例を認めさせるには十分な権力と地位の持ち主さね」

 まぁ認められたらの話だがね、と最後に小さく呟く声を聞き逃さなかった俺には一抹の不安が残ったが、キャルヴァンやウェダルフには聞こえなかったようでその目は希望に満ち満ちていた。

 「仕方がないとはいえなんだがズルしてるみたいで気が引けるけど……それ以外アルグやチヘルを助ける方法がないならやるしかないよな」

 恐らくだが魔属以外の部外者が認められない理由は一つで、セズが言っていたエルフとの軋轢があってのことなのだろう。
 それなのに仲間のためとはいえ、俺達の一存で変えるべきではないものを変えるなんてと訴える自分と、そんな事言ってたらいつまで経ってもアルグのことも、チヘルのことをどうにかすることなんて出来ないだろと冷静な自分もいて胸がモヤつくのを抑えられない。
 そんな感じで数秒沈黙していた所、俺の心境を見抜いたサラさんは俺の目の前に手紙を差し出し厳しい一言を投げかけてきた。

 「……ヒナタ。思い悩めるというのはお前さんが持つ者だからなんだ。本当に何も持つことが出来ない、持たせてもらえない者からしたらそんなのは綺麗事でしかないし、なにかを本当に欲するのならば変える覚悟を持つんだ。変える覚悟のない者はなにも得ることはできやしないさね」

 いつぞやかフルルージュに言われたことをサラさんにも言われ、俺はずしんと心が重くなり俯きますます黙りこくっていると、サラさんは大きなため息を一つこぼし、俺の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫で回しカッカッカっと豪快に笑う。

 「なに深刻に考えてんだが知らないが、お前さんは充分自分を変えて周りも変えてきただろうに! 変わるってのはそんなもんでいいのさ。変えるってものも自分が変わりさえすれば自ずとだ。だから今まで通りヒナタはヒナタらしくやればいい。それで世界もあれも……変えられるだろうさ」

 優しい、優しいサラさん一言は深く俺に突き刺さり、涙がこぼれないよう顔を逸らすと二人も同じことを考えていたのか、サラさんと同じような瞳の暖かさでもって俺をみていたのだった。
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