104 / 163
103、誰がかの世界を救い給うのか?
しおりを挟むキャルヴァンに事情を説明していた俺だったが、後ろから誰かが近づいてくる気配がし振り返ると、暗闇からぼんやり現れたのは先程まで敵の足止めをしていたファンテーヌさんで、なんだかひどく疲れた様子だった。
あの能力はウェダルフとファンテーヌさんお互いに負担をかけるらしく、俺の後ろで眠るウェダルフに近づきその穏やかな寝顔を確認するやいなや、安心したかのように触れることがかなわない手で彼の頬を撫でていた。
そうしてだどり着いた広場は、以前と変わらない光溢れる綺麗な景色を保っており、むしろ生活の豊かさは以前より畑や物が増えているようで自然と笑みがこぼれる。
「よぉ、そろそろくる頃合いだと思ってたぜ……って、ウェダルフ?!」
カッコイイ……ような気がするセリフとともに正面の通路から現われいでた、灰色の兄弟のリーダーエイナだったが俺の後ろで寝ているウェダルフに気づいた彼女は、一変して恋する乙女の顔で俺を押しのけ様子を伺ってきた。………いや、いくら心配だからって俺とウェダルフを引っぺがすようなことするのはやめようね? 危うく顔面から転びそうになったよ?
「大丈夫ですよエイナちゃん。ここに来るまでに色々あってちょっと疲れて眠ってるだけですから! ただずっとヒナタさんの背中ではウェダ君があまりに可哀想なので横になれる場所はありませんか?」
「そうだな、心なしか苦しそうに顔を歪めて苦しそうにしてるし、寝心地の悪いヒナタの背中から早く降ろしてやるか」
「二人ともひどいな……」
散々な言われ様の俺だったが、いざ横になれる場所へ移動し、ウェダルフを降ろそうとしたが意外にも俺の背中が気に入った様で、必死にしがみついて離そうとしなかった。
勿論お兄ちゃんとしては抜群に可愛らしい行動ではあったが、エイナからの今にも殺しそうな目で凄まれては、俺には降ろす以外の行動はなく、セズとエイナの二人がかりで無事ベットへと寝かせてやる。すると俺たちを窺っていたファンテーヌさんもウェダルフへ近づき体を寛げるようにベットへ寄りかかり力なく目を閉じる。
そうしてウェダルフを寝かせた場所から離れ、以前話し合いをした広間に場所を移した俺たちは状況の整理をする為身動きの取れない俺に代わり、見張りのイールがソニムラガルオ連盟の本部へ、エイナがウェダルフ宅へ向かいこの場所へ呼んでもらう手筈となった。
「ふぅ……やっと腰を落ち着けられましたね。まさか変身したヒナタさんを見破られるなんて思いもよりませんでした。……でもなんで追われているのでしょうか?」
「それは、確かにそうね。私は初めてこの街に来たけど想像した以上に物々しい雰囲気で、原始種属達もまるで初めから私たちを探してるかのようだったわ」
本当になんで今更になってと俺自身考えたが、理由は考えるまでもなくウェダルフの誘拐事件以外ないだろう。ただ、それにしてはあまりにも……。
「理由はわかる。だけどそれが理由だとしたらなぜ探す必要があるんだ? リンリア協会にはエルフに変身した姿を知られているどころか、本来の俺と対峙してるんだぞ?」
「……あの誘拐事件のことですよね? 確かにヒナタさんが狙いなら探す必要はなく、むしろつけてくることだって可能だったかと思います」
「それにもう一つ……。この腕輪の宝石にもなった石の時だって思えば不自然なことが多すぎた。盗んだのに取りに行き忘れ、そして灰色の兄弟にいたはずのアカネにおいてはウェダルフ以外誰も覚えていないなんて………」
まるで記憶操作されたみたいだ。なんて思い付きにも似た思考が過り、それがアカネの仕業なら消えた理由も説明ができる気がし、俺は必死に過去を思い起こす。
思えばアカネという少女は不思議なことばかり言う子だった。まるで俺の正体に気づき、未来さえも見通すようなことを言っていたような気がする。そう、主にアルグのことやブラウハーゼのことについて、そしてもしかすると……だ。
「今回の騒動について何か知ってるんじゃないか、フルルージュ?」
有無を言わせないようフルルージュが潜めている腕輪に話しかけると、彼女にしては珍しいことに大人しく姿を現し、俺の質問に答えてくれる。
『正しくは前回の騒動の結末ならば知っていることもあるかと。何故なら今回の騒動は私にとっても不可解な部分が多いのですから』
「そうなのか? まぁ、それでも知らないより知っておいて損はないだろうさ。それよりも今その姿ってみんな見えてるんだよな?」
『見えたらまずい場所でお呼びになったのはヒナタですよ。気にするくらいなら場所をお考えになっては?』
いやごもっともすぎて何も言えなくなるけど、そうはいっても仮にも他人の家にお邪魔してる身としては歩き回るわけにもいかないだろう? それにもうここにいる皆にならばれてもいいとは思っていたのだ。勿論これからここにやってくるであろう、ソニムラガルオ連盟のレイングさん達やリュイさんにも言う腹積もりだ。
『……ヒナタの覚悟はわかりました。ならば手短にお話いたします。………ずばり前回の"とある騒動"は無かったことになっております」
「とある騒動……は? というとウェダルフ誘拐事件のことじゃないのか?」
『そうですね……言い方を変えると誘拐事件のみの騒動になっている、といったほうが分かりやすいです。その背後にあったヒナタの正体や記憶は丸ごととある種属によって抜き去られており、影も形もなくしたはずなのです』
とあるとあるって……ぼかしすぎないかフルルージュ。なんだよそのとある種属って!! 隠されると気になっちゃうだろう!
それにもしかしなくてもとある種属って絶対アカネのことだろっ! 状況証拠がモノ言ってんだぞ!!
「それで……なんで消えてるはずの俺の存在がまた再び探される羽目になってるんだよ? どっか漏れがあったんじゃないのか?」
『それはありえません。漏れていたならばとうにヒナタは捕まっていてもおかしくありませんから。捕まっていないというのが漏れがないというなりよりの証ですよ』
「うっ、それもそうだな。じゃあそれとは別の何かが考えられるけど……まさか?」
『わたくしもそのまさかだと思っております。そうでなければ説明がつきませんから』
俺とフルルージュは顔を見合わせ、お互い思い浮かべている人物が一致していることを確認し、肩を落とす。どう考えてもブラウハーゼが何かをしたのだ。
「お二人とも、そろそろ皆さんがここに来そうですよ! 早くフルルージュ様はお隠れになってください!!」
俺たちの会話を大人しく聞いていたセズが複数人の足跡に気づいたのか、あわあわとした様子でフルルージュを隠そうと両腕を振っていた。
その姿にすっかり毒気が抜たれたようでフルルージュは珍しい笑顔を浮かべたまま音もなく消え、間もなく俺たちが待っていた広間は人で賑わうこととなった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
再会の挨拶もそこそこに俺たちの向かいにソニムラガルオ連盟のレイングさんにその左隣にティーナさんが、右隣にウェールさんが座り、まだ眠たそうなウェダルフの隣に再会の喜びを噛みしめているリュイさんが座って俺の挨拶を待っていた。今回の話合いは珍しく灰色の兄弟は全員参加しているようで、中にはウェダルフよりも幼い子が他の兄弟のお世話を受けながらも話し合いの場に混じっていることに少し驚いてしまう。
「俺のために忙しい中集まってくださりありがとうございます。そして話し合いをする前に皆には言わなくちゃいけないことがある。もう知っている者も中に入るかと思うけど、俺は…………神様候補の一人で、この世界とは別の人間なんだ」
そこまでいって俺は元の自分の姿を思い浮かべ変身を解くと、所々で息を呑む声が聞こえ、俺は少し目を瞑ってしまう。
やっぱり、驚くし怖いよな……。
「……な、こいつ髪と耳以外まんまで驚くだろ? せっかく変身できるならもっと見れる顔にすりゃあいいのにな」
「確かに思った以上にヒナタで驚いたわ。変身なんていうからもっと別人になってるのかと思ったわ」
「そうだね、ヒナタはやっぱりヒナタで安心したよ。まぁ街であんなに騒がれているんだ変装ぐらいはしておかないと身動きが取れないだろうな」
あれ、これどういうこと……?
俺ティーナさん達に変身が出来ることなんて一言も言った覚えはないぞ? まさかエイナが、とも一瞬考えたがそんな野暮をするとは思えずますます頭を捻ってしまう。
「君が驚くのも無理はないさ。なにせ噂が噂だったからね。普通の人なら気づかなかっただろうけど私たちはすぐに君のことだってわかったんだよ。だから口が堅いエイナと取引して君のことを聞き出したんだ。彼女を怒らないでやってほしい」
「は、え……? 噂、ですか? それにエイナと取引ってどうしてそこまでして?」
ウェールさんの説明に盛大なはてなを浮かべた俺に耐え切れなくなったのか、エイナが少し吹き出しながら今街で騒がれている噂を話してくれた。
それによると約一か月前からどこからともなく、情報元も掴めない噂が流れ始めたのだそうだ。それは情報を第一としているエイナの耳にもすぐ届いたそうだが、どうしても情報を流した人物は分からずじまいで、にも拘わらずその噂は信ぴょう性の高い話として流れていたのだ。そうなってくるとここで浮かぶのはリンリア協会になってくるのだが、それについても今回は違っており、逆に噂に翻弄されているのが見て取れたそうだ。
「何故そこまでこの噂がシェメイを、リンリア協会を動かしたのか。内容はいたってシンプルで笑えるぜ?……………新たなる神がこのリグファスルに降り、そして世界を変えるため巡っている最中、だそうだ」
この犯人は間違いなくブラウハーゼだというのが分かる、実にまどろっこしく、そして俺の足を止めさせるには十二分な噂であった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる