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63、無能な王と学ばない俺
しおりを挟む「俺が聞きたいのはこの国の王についてなんですが……なんでもいいから話が聞きたいなっておもうんですけ、ど……ッひぃ!」
純粋なはみ出しものの彼らに話を聞くべく、ド直球に質問してみたところ、さっきまでほぐれていた顔が再び凄みを取り戻し、俺は言葉に詰まってしまう。なにッ?! なにがそんなに気に食わないの?!!
「この国の王様だとぉぉ~?! ッチ!!! その言葉を聞くだけでもムナクソが悪くなるってんだ! いいか、兄ちゃん。この街が好きならこれだけは覚えときなッ!! この国はあの無能なバカ王じゃなく、アンユ様で成り立ってんだ! ッケ!!」
「そうだぞ、あんちゃん。この国は向日葵の一族が代々王をやってるが、あいつらはお飾りにしか過ぎない。本当にこの国を支えてんのは朝顔の一族だ。街のみんなアンユ様ファンだから気をつけといたほうがいいぜ」
おぉう、この間のおばちゃん、じゃなくお姉さんといい……本当にこの国の王様すっげえ嫌われてるなぁ。逆になんでこんなに嫌われてしまったのかが気になってきたよ……。
「そうなんですね……。でもなんでそんなに街の人たちは王様のことそんな風に言うんですか? なにか悪い事でも……?」
「あー? 悪い事だぁ? んなことしてみろ、即クーデター起こして二度と王なんざできねぇ様にしてやるよ」
「おぅ……過激っすね。でも……なんも悪い事してないのに嫌われる王様ってなんだか………って、あぁそうですよね! いやー困った王様だなぁーー?! アハハハハ……はぁ」
《………ッッ!!》
あぶない、危ない……。あと一言間違えたらここで命を散らす事になっただろうな。過激すぎんよ、君ら!
でもこの二人のおかげで、なんとなくだがこの国の事が見え始めてきた。向日葵の一族は代々王族の血筋として国を治めてきたが、その影にいるのは朝顔の一族で、国民人気は圧倒的に朝顔の一族が高い、っと。でだ、王様が嫌われている理由としては、何かしたってワケじゃなく、何もしてこなかったからに起因していると思われる。なるほど、めんどくさい事情だな。
なんだか俺の生まれ故郷を思い出すぞ……。日夜政治家批判に溢れていたあの比較的平和な国は、平和ゆえにそんな日常が溢れていたような気がする。そして大体あとになって、あの人達がしていた事が評価されたり、批判されたりするんだよな……。
とにもかくにも、話の外郭が見えてきた事によって、俺自身するべきこともわかってきたような……? ひとまず朝顔の一族に会って話しをするほうが早い気がするし、そっちの情報なら幾らでも集まりそう。
そうと決まれば、今日中に情報を集めるだけ集めて、明日には段取りが出来るようにしよう!
そう、気合を入れていた俺の背中から、ふと目線を感じたような気がし後ろを振り返るが、そこには先程と同じような人の流れがあるだけで、怪しい人物は見当たらなかった。
「どうした、あんちゃん? なんかいたか?」
「あ、いや! 気のせいみたいです! ここまでお話してくださりありがとうございました。じゃあ俺はここで失礼します」
「おう、まぁこの街にいる間、楽しんでくれや!」
先の出来事に後ろ髪を引かれつつ、俺はこの場をあとにする。この時からか、時々感じる視線はまるでだるまさんが転んだ状態で、後ろを振り向けばその目線は外れ、歩けばまた始まるいたちごっこを繰り返して、気付けばその人物は俺の真後ろにぴったりと張り付いていた。
「……さっきから君は一体なんなんだ? 何が目的で俺について回ってる?」
「…………」
俺の声かけに答える様子のないその人物に、いい加減堪忍袋の緒が切れた俺が、声を上げようとしたときだった。
「っおい!! いい加減に——
「どろぼーーーーーッ!!!! この人どろぼーです!!! あたしの腕輪を返せーーーーーー!!!!!」
「はへぁああああ?!!! な、なにッ??!! なんでそうなるッ!!!」
犯人の思わぬ反撃に、思いっきりへんな声をあげて挙動不審になってしまう俺。違うっ、違うんです皆さん!!
「ちょちょちょちょっとまって!!! 腕輪って何?! 何のこといってんだ、君!!」
「それだよっ、それ!!! いまあんたが右腕につけてる赤い宝石が輝くう・で・わっ!! ずっと昔、泥棒に盗まれて以来探し回ってたんだよ! かえせっ、お母さんの形見を返してよ!!!」
えぇぇぇ?! そんなことってある?! この子の形見である可能性はまずありえないとしても、それを伝えたところで絶対分かってもらえないよね、これ。
うぁああ、人の目が、俺のことを疑う人の目が痛いぃぃ~……!!
「わ、わかった!!! 君の事情はよーく分かった! ひとまずこれが君の形見じゃないことを確認してほしい!!! ほら、腕輪はずして君に渡すから、全然違うってことをちゃんと確認して!」
そういって俺は大慌てで腕輪を外し彼女に手渡す。これで衆人環視の目は逃れられるだろう、そう一息ついて俺は安心するが、それもつかの間。なんと彼女はそんな俺の隙をつき、そのまま腕輪ごと人ごみの中へと素早く走り抜けていってしまう。
「……え? ………………はぁぁぁぁああ??!!!!」
一瞬の出来事に上手く頭が回らず、ワンテンポ遅れて彼女が本当の泥棒だったことに気が付き、俺はよろめきながらも人ごみを押しのけ、泥棒の後を追いかけるがおもうように進めず、結局そのまま逃してしまった。
「まじか、まじかよぉぉぉ……!!」
後悔はいつも先にはたってはくれず、トラブルってやつはいつもトップスピードで俺を追いかけてきやがる。そんなに俺が好きか、お前は! 俺は、おまえがっ………嫌いッッ!!!
自身の馬鹿さ加減に涙が一つ零れたが、もう盗まれてしまったものはどうしようもない……。後はフルルージュの呪いの効果を信じて、戻ってくるのを待つしかないのだ。あーぁ、なさけねぇ……。
軽くなってしまった右腕の空しさを感じながら、身も心もくたびれ果てた俺は、今日やっておこうとしていた事も忘れて宿へと帰ることにした。宿にはまだキャルヴァンたちは帰ってきてはおらず、三人を待っている間、俺は一人腕輪がなくなってしまったことの言い訳を必死に考えていた。
特に腕輪を手渡してくれたウェダルフには申し訳なさもあって、いっそ嘘をつこうとも思ったが、嘘をついたところでこの街の事だ。すぐに噂話が出回ってしまう事だろう。ならやっぱり素直に謝るのか一番だ。
「あらヒナタ。今日はずいぶん早いのね? なにかあったのかしら」
すっと音もなく現れ、真後ろから声をかけてきたキャルヴァンに俺は必要以上に驚いてしまい、椅子から転げ落ちるように尻餅をつく。
「ヒナタにぃ大丈夫?! すっごい大きな音だったけど、怪我してない?」
「ヒナタさん立てますか? 良かったら手を貸しますよ」
「だ、大丈夫だ。心配してくれてありがとう、二人とも」
二人から差し出された手を素直に受け取り、立ち上がると早速三人からツッコミがはいってしまった。
「あれ? ヒナタにぃ腕輪はどうしたの?」
「本当、朝はつけてたのに今は着けてないわね。これはどうしたのヒナタ?」
「まさか………またなにかに巻き込まれたんですかッ?! もう!! ヒナタさんは目を離すとすぐに危ない目にあって……!! 何があったんですか!?」
三人の痛いほどの眼差しを浴びた俺は、ぐうの音も出せないまま、両手を上げ降参のポーズを取る。
「えっとですね………ぬ、盗まれちゃいました」
俺の降参のポーズが効いたのか、それとも想定の範囲内だったのか、ただただ三人はそうだろうなといった目線で、いっせいに大きなため息をついたのだった。
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