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44、二人だけの秘密

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 そもそも最初は異世界から来たという事もあり、話すべきかどうかも分からなかっただけなのだ。しかも俺自身、神というのがどんなもので、何が出来るのかも知らないのに、そう名乗るのは怖かった。そして今も……。

 「ウェダルフ、前に俺に言った事覚えてるか?」

 三人には聞こえないように声のトーンを落として囁く俺に、ウェダルフも察したのか黙ってうなずいてくれた。

 「三人の様子からまだ僕だけみたいだね。僕はお母さんに教えてもらったから分かったけど、セズちゃんとアルグにぃには言わなくていいの?」

 もっともなことを言われ、俺は下を向き押し黙ってしまう。

 「そう、だな……。言わなくちゃいけないとは思ってるんだけど、俺自身それがどういう意味なのかよく知らないんだ。それに今とは違う関係になるのが、俺はまだ……」

 そこまでいって、自分が何を恐れているのかやっと気がついた。
 そうか、俺はまだ人間でいたいのか。神という想像もできない存在にさせられたけれど、俺の心はいまだに人間で、人としても完璧じゃない。そんな完璧じゃない俺でも支えてくれる仲間が出来て、少しずつだけどこの世界の事も知る事が出来た。

 だけどもし、俺が神だと言って二人がそれを信じてしまったら……?
 そうなったら俺はもう人間ではいられないかもしれない。心まで急速な変化を求められ、神として振舞わなければならなくなる。二人からも神として距離をとられて俺は……。

 「ヒナタにぃが何を怖がっているのか、僕にはわからないけど二人はきっと言ってくれるのを待ってると、僕はそう思うな」

 下を向いたまま両手を握りこんでいた俺の手に小さな、だけどとても温かいウェダルフの手が重なる。

 「こんな情けないお兄ちゃんでごめんな。せっかくこれからウェダルフが仲間になったっていうのに……」

「ふふ……、そうかもしれない。でも僕やセズちゃん、アルグにぃはそんなヒナタにぃだから一緒に旅したいって思ったんだよ。二人に話すときは僕言って! 二人でならきっと怖くないよ」

 いまだに決心できない俺に、そんな心強い一言を言ってウェダルフは席から離れ、三人を呼びにテーブルへとむかう。
 三人のほうも丁度良く話し合いが終わったようで、少し不機嫌なエイナと普段どおりのセズとアルグが俺のところまでよってきた。

 「もう体調は大丈夫か、ヒナタ。お前さんまた姿が変わってるのはもう気付いてるか?」

 「あぁ、心配かけてすまん。姿も戻ってるのには気付いたけど、その、エイナさんはもうお気づきですよね?」

 聞くまでもないとは思ったけれど、聞かずにはいられなかった。

 「そりゃあ、目の前で姿変わられちゃあ、気付くも何もないだろうよ。俺も最初はビックリしたが、変身だけなら俺たち獣人も出来るからな。それに類似する能力もあるだろうなと、イールにも無理やり納得させた」

 「そうか……。じゅあさっきまで何をそんなに話し合ってたんだ?」

 真剣に話し合っていたので、てっきり俺の事についてだと思っていたが、エイナのどうでもいいみたいな言い方から、俺のことではなさそうだ。ならそれ以外に話す事あったっけな?

 「それは……、そのウェダ君のことについてです。エイナちゃん、ウェダ君を心配して自分もついて行くっていうので、私達で止めていたところだったんです」

 俺の変化よりウェダルフの心配とは、意外にというのか、案外エイナは乙女なんだなと納得してしまった。灰色の兄弟のリーダーとしてもあるだろうに、それを越えてしまう彼女の恋心は年相応でおもわずにやけてしまう。

 「無茶を言ってるのは分かってんだが、どうしてもな……。まぁちいっと頭に血が上ってただけだ、いまなら二人が止めた理由もちゃんと分かってるさ」

 恥ずかしそうに頬をかくエイナは居た堪れなくなったのか、それじゃあまた明後日、といって部屋をでていった。その背中は寂しそうで無意識にウェダルフを見る。

 「一緒に帰らなくて大丈夫なのか、ウェダルフ。そろそろ日も落ち始める頃だから……」

 「んー、一緒に帰りたいのは山々なんだけど、三人にはもう一つ話しておきたい事があるんだ」

 「おう、なんだ? 改まって話なんて、まだなにか問題があったのか?」

 アルグの質問に首を横に振り、そんなんじゃないよと否定する。

 「お父さんが明日三人で時間が合うときでいいから、家に来てほしいって。明後日の事で色々話したいとか言ってたよ」

 それだけを伝えたウェダルフは、アルグの見送りの元家へと帰っていった。部屋には俺とセズだけが残され、さっきまでウェダルフが座っていた椅子に腰掛けて話しかけてきた。

 「それで、何故ヒナタさんはまたも気絶をしたのかお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 「え、そりゃー気になりますよね……。まいったな、正直話すのはちょっと恥ずかしいけど、笑わずに聞いてほしい……。俺、幽霊を見たのかもしれない」

 声を潜め柄にもなく真剣に話す俺に、セズは一瞬固まる。やっぱりセズも幽霊が苦手だったのか、目を点にして何度か瞬く。

 「ゆ、幽霊ですか……? それが気絶に何の関係が……。あッ!! まさかその方に何かをされて?!」

 「いや、俺は何もされてない……。危ないのはウェダルフのほうだ。あの女の人、ウェダルフに寄り添うようにピッタリくっ付いていて、俺はその恐ろしさに気を失ってしまったんだ……ッ!!」

 恐ろしさに顔を歪ませながらセズに訴えるが、いまいちピンとこないのか、セズははぁ……と一言いって何かを考え込んでしまう。暫く沈黙が続くが、その間中俺は身を震わせながらセズの見解を待っていた。

 「……ヒナタさん、私……思うのですがそれは幽霊ではなく、ウェダ君のお母様だったのではないでしょうか? どうして見えたのかは分かりかねますが、幽霊じゃないとおもいますよ」

 冷静にそう言われてそれもあったのにとなんで、と俺の顔は羞恥で染まる。普通に考えれば分かるのに、何故俺はあの時幽霊だと思い、あまつさえ気を失ってしまったんだ! やばい、マジで恥ずかしい!!

 「なにはともあれ、体調不良とかじゃなくて良かったです! アルグさんもすごく心配してたんですよ?」

 さっきの話はまるで無かったかのように、テンションを上げ話すセズに涙がこぼれそうになる。ありがとう、聞かなかったことにしてくれて。俺ももうこの出来事忘れる事にするよ……。


 その後、宿に帰ってきたアルグに同じ質問をされ、俺は二度目の恥をかき、アルグに大笑いされたのは言うまでもないだろう。
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