唯一無二のアーティファクター

るっち

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第1章 始まりの街

第23話 クロシェと謎の生命反応

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「よしっ、早速だけど聞いてみるか……」

 そう思い立った俺は、クロシェットに魔力減少の原因は何かを聞いてみることにする……が、俺の心の声を読んだであろうクロシェットが先に口を開く。

「……スズ」

「えっ、スズちゃんが原因!? 一体どういうーー」

 クロシェットの話では、2年前に街中でスズと偶然ぶつかり、その瞬間に魔力が吸い取られる感覚に陥ったことが始まりとのこと。
 その後は次第に自然回復も追いつかなくなり、徐々に魔力が減少して今に至るらしい。

「……なるほど、2年前か……もしかして、スズちゃんの魔力過多症も……?」

 関係があるのか定かではないが、限りなく怪しい。だが今は、クロシェットの件を優先せねばと考え直す。

(それにしても、触れただけなのに何故……?)

 原因は判明したが、何故そうなったのかを理解できずに悩む俺。しかし、少し経つと再びクロシェットが口を開く。

「……これ」

「……ん? これ?」

 クロシェットがゆっくりと瞳を閉じると、突如全身が眩いほど白く光り輝き出す。
 その白い光はやはり『再生』の光と酷似しており、唯一違う箇所といえば光の強さくらいのものだろう。
 もし同一のものであるなら『再生』も精霊に何か関係があるのか? そう考えている間にクロシェットの姿が徐々に変化していき……
 

「……なっ!? せ、精霊だ……」

 クロシェットの変わる姿に驚いた挙句に絶句する。
 それは、光り輝きながらクロシェットが体長20cmほどの羽の生えた精霊と化したからである。
 だがその時の顔はスズと似てはいなく、今のが本来の顔なのかもしれない。
 精霊樹の枝を入手し、そのうえ精霊自身を拝めるとは思いもよらず、ただただ驚くしかなかった。
 すると次第に身体の光は消えていき、完全に姿が露わになった頃、三度クロシェットが口を開く。

「……スズに……チカラ……吸われた」

 その発言を聞き「まさか、スズちゃんが……?」と思わず呟いてしまったが、取り敢えずは会話を続けることに。

「それは、スズちゃんが魔力を盗んだってこと?」

「……ちがう……スズも……驚いてた」

「じゃあ、スズちゃんの意思じゃなくて、勝手に魔力が移ったってことかな?」

「……多分……そう」

「そっかぁ……あっ、そうだ、ありがとね!」

(うーん、スズちゃんには不思議なチカラでもあるのか……? ダメだ、さっぱり検討もつかん……てか、この件はまた後で考えることにして、今は先に進まないとだよなぁ……)

 結局は考えても分からないため、仕方なく先へ進むことにした。しかしそうなると、クロシェットに別れの挨拶をしなければならないわけで……


「……名残惜しいけど、もう行くね?」

「……うん」

 本当に名残惜しみながらクロシェットに手を振り、先へ進み出した……のだが……


「……はぁ、クロシェットちゃん元気にしてるかなぁ? 本当はクロシェットちゃんって呼ぶのは長いから、クロシェちゃんって呼びたかったんだけど……結局言えなかったなぁ……はぁ……」

 クロシェットのことばかりを考えながら、独り言を呟いてはため息を吐いて歩く。
 何故か無性に気になってしまい、それはスズと瓜二つの顔をしているからではなく、真にクロシェットが心配だからである。しかし「今更戻ることなんてできないよな……」と自分に言い聞かせ、進み続けることを選択。すると、急に耳元で囁く声が。

「……いいよ」

「うおぉぉぉっ!?」

 急な囁きに驚き、大声を上げながら右方へ飛び跳ねる俺。急いで振り向くと、そこには人の姿となったクロシェットが。
 察するに、別れを告げた後にそのまま付いてきていたのだろうが、まさか生命探知を掻い潜ってくるとは思いもよらず、その事実が余計に俺を驚かせていた。

「くっ、クロシェットちゃん!? なんでこんなところに!?」

「……クロシェでいい……あと……一緒に行く」

「えぇっ!? で、でも……はぁ、分かったよ。クロシェちゃん、一緒に行こう」

 こうして、クロシェを連れてダンジョンを攻略することになり、一抹の不安を抱えながらも再び先へ進み出した……



「……ん? あっ、そういえば……」

 クロシェと2人で歩く最中、ふと思ったことがある。
 それは、相変わらず無口だが特に嫌われているわけではなく、寧ろ好かれているのでは? というなんとも自意識過剰な思いであり、ただそれが事実であることはクロシェの行動を見ていればすぐに分かってしまう。
 何故なら、俺の右腕にがっしりとしがみついて離れないからだ。俺に少女嗜好はないが全然嫌ではなく、寧ろ嬉しい限りで鼻の下が勝手に伸びてしまう。

(……あれ? それって、今まで自覚が無かっただけ? もしそうなら俺ってロリコ……)

 そのあとは考えないようにした。
 しかし、クロシェは見逃してくれず……

「……ロリコン? ……それ……なに?」

「いぃっ!? あ、あぁ……ろ、ロリコンっていうのはーー」


「ーー……そう」

 クロシェの反応は良くも悪くもといった感じでよく分からなかった。だがそれよりも、何が悲しくて少女にロリコンの説明をしなければならないのか……ある意味拷問を受けた気分だ……はぁ……

 再度ため息を吐きながら歩いていると、発動したままの生命探知に反応が見られた。どうやら現在地から直進したところに少数だが魔物がいる様子。

(避けて通る? それとも直進する? どっちにするべきか……)

 腕組みしながら迷っていると、クロシェが指差しながら「……あっち」と言ってその方向へ誘導する。
 何故その方向へ誘導するのかは分からないが、精霊のお導きと考え、クロシェの指差す方向へ行くことに決めた。
 そうと決まればと、草葉を掻き分けながらクロシェの指差しを頼りに進んでいく。
 右へ、左へ、左へ、右へ……と不規則に誘導するクロシェ。この子にはきっと見えない何かが見えているのだろう。そう考えながら進む、進む、進む、進む、暫く進むが不思議と行く先々には魔力反応が見られない。

「……んん? クロシェちゃん……もしかしてさ、魔物を完全に避けて通ってる……?」
 
「……うん……だって……かわいそう」

「そ、そうだね……」

 それ以上は何も言えなかった、余りにも凄すぎて。
 クロシェが生命探知や魔力探知をしている様子は見受けられず、そもそも魔力を周囲に展開している気配が一切ない。
 どうやって魔物の存在を認識しているのかは分からないが、万が一俺が魔法を使えない時には大きな助けとなるだろう。ただまぁ、そんな事態にならないことが一番なのだが。

「……助ける」

 俺の心を読んだクロシェは、静かにそう呟きながらも内心では燃えている様子。
 その姿を微笑ましく思い、頭を優しく撫でてあげると、クロシェは口角だけ上げて微笑む。

「ーーっ!!」

 何かを感じ取ったのか、突如クロシェの表情が真顔に変わる。
 何事かと思った瞬間、なんの前触れもなく生命反応が出現した。
 だが突然その地点に現れたわけではなく、生命探知の有効範囲外からとてつもない速度で接近してきたのだ。
 その出現した生命反応は 、1000、800、600、400、200、そして50mほどまであっという間に迫ってきた。

「なっ、なんだこの速さは!? 一体何が迫ってきてるんだ!?」

 木々や草葉に遮られて視認は不可能だが、そこで息を潜めながら、こちらの様子を伺っているように感じる。
 少なくとも人ではない何かで、恐らく魔物だろうと推察し、警戒を強め強襲に備えることに。
 短杖を左手に持ち、右手でクロシェを後ろに下がらせ、瞳は真っ直ぐ生命反応のある地点を見据え、更には全神経を尖らせて相手の出方を待つ。


「……!! 来る!」
 
 生命反応に揺らぎが出たことにより、姿が見えずとも相手の動きをいち早く察知。
 即座に『ビーム』が撃てるよう短杖を前へ突き出し、集中力を高めるため一切の瞬目を禁じた。しかし……

「はやーー」

 次の瞬間、反応する間もなく体当たりされ、木々は次々と倒れていき、草葉は道を開けたかのように薙ぎ払われる。それも、物凄い速さで。
 ……漸く、太めな樹木に背中から衝突したところで吹き飛びは止まり、全身をズルズルと下に落とす。

「ーー痛ったぁ……くはないな。前も後ろもオートガードに守られたのか……にしても、この威力は反則だろ……」

 優に50mは吹き飛ばされたであろう俺は、無傷ではあるが勝率は微妙だと判断した。
 理由は、体当たりから俺を守った障壁が見事に砕け散ったから。もし次の攻撃が先程よりも強力ならきっと障壁は打ち破られてしまい、自身もただでは済まないと推察したのだ。
 とはいえ、このまま何もしないわけにはいかない。無論逃げることもしない。何故なら、クロシェを置いていけるわけがないのだから。

「はぁ、どうするか……せめてクロシェちゃんだけでも逃してあげなきゃな……」

 そう呟くと徐ろに立ち上がり、クロシェが待つ場所へと歩み出した……
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