24 / 26
第1章 始まりの街
第23話 クロシェと謎の生命反応
しおりを挟む「よしっ、早速だけど聞いてみるか……」
そう思い立った俺は、クロシェットに魔力減少の原因は何かを聞いてみることにする……が、俺の心の声を読んだであろうクロシェットが先に口を開く。
「……スズ」
「えっ、スズちゃんが原因!? 一体どういうーー」
クロシェットの話では、2年前に街中でスズと偶然ぶつかり、その瞬間に魔力が吸い取られる感覚に陥ったことが始まりとのこと。
その後は次第に自然回復も追いつかなくなり、徐々に魔力が減少して今に至るらしい。
「……なるほど、2年前か……もしかして、スズちゃんの魔力過多症も……?」
関係があるのか定かではないが、限りなく怪しい。だが今は、クロシェットの件を優先せねばと考え直す。
(それにしても、触れただけなのに何故……?)
原因は判明したが、何故そうなったのかを理解できずに悩む俺。しかし、少し経つと再びクロシェットが口を開く。
「……これ」
「……ん? これ?」
クロシェットがゆっくりと瞳を閉じると、突如全身が眩いほど白く光り輝き出す。
その白い光はやはり『再生』の光と酷似しており、唯一違う箇所といえば光の強さくらいのものだろう。
もし同一のものであるなら『再生』も精霊に何か関係があるのか? そう考えている間にクロシェットの姿が徐々に変化していき……
「……なっ!? せ、精霊だ……」
クロシェットの変わる姿に驚いた挙句に絶句する。
それは、光り輝きながらクロシェットが体長20cmほどの羽の生えた精霊と化したからである。
だがその時の顔はスズと似てはいなく、今のが本来の顔なのかもしれない。
精霊樹の枝を入手し、そのうえ精霊自身を拝めるとは思いもよらず、ただただ驚くしかなかった。
すると次第に身体の光は消えていき、完全に姿が露わになった頃、三度クロシェットが口を開く。
「……スズに……チカラ……吸われた」
その発言を聞き「まさか、スズちゃんが……?」と思わず呟いてしまったが、取り敢えずは会話を続けることに。
「それは、スズちゃんが魔力を盗んだってこと?」
「……ちがう……スズも……驚いてた」
「じゃあ、スズちゃんの意思じゃなくて、勝手に魔力が移ったってことかな?」
「……多分……そう」
「そっかぁ……あっ、そうだ、ありがとね!」
(うーん、スズちゃんには不思議なチカラでもあるのか……? ダメだ、さっぱり検討もつかん……てか、この件はまた後で考えることにして、今は先に進まないとだよなぁ……)
結局は考えても分からないため、仕方なく先へ進むことにした。しかしそうなると、クロシェットに別れの挨拶をしなければならないわけで……
「……名残惜しいけど、もう行くね?」
「……うん」
本当に名残惜しみながらクロシェットに手を振り、先へ進み出した……のだが……
「……はぁ、クロシェットちゃん元気にしてるかなぁ? 本当はクロシェットちゃんって呼ぶのは長いから、クロシェちゃんって呼びたかったんだけど……結局言えなかったなぁ……はぁ……」
クロシェットのことばかりを考えながら、独り言を呟いてはため息を吐いて歩く。
何故か無性に気になってしまい、それはスズと瓜二つの顔をしているからではなく、真にクロシェットが心配だからである。しかし「今更戻ることなんてできないよな……」と自分に言い聞かせ、進み続けることを選択。すると、急に耳元で囁く声が。
「……いいよ」
「うおぉぉぉっ!?」
急な囁きに驚き、大声を上げながら右方へ飛び跳ねる俺。急いで振り向くと、そこには人の姿となったクロシェットが。
察するに、別れを告げた後にそのまま付いてきていたのだろうが、まさか生命探知を掻い潜ってくるとは思いもよらず、その事実が余計に俺を驚かせていた。
「くっ、クロシェットちゃん!? なんでこんなところに!?」
「……クロシェでいい……あと……一緒に行く」
「えぇっ!? で、でも……はぁ、分かったよ。クロシェちゃん、一緒に行こう」
こうして、クロシェを連れてダンジョンを攻略することになり、一抹の不安を抱えながらも再び先へ進み出した……
「……ん? あっ、そういえば……」
クロシェと2人で歩く最中、ふと思ったことがある。
それは、相変わらず無口だが特に嫌われているわけではなく、寧ろ好かれているのでは? というなんとも自意識過剰な思いであり、ただそれが事実であることはクロシェの行動を見ていればすぐに分かってしまう。
何故なら、俺の右腕にがっしりとしがみついて離れないからだ。俺に少女嗜好はないが全然嫌ではなく、寧ろ嬉しい限りで鼻の下が勝手に伸びてしまう。
(……あれ? それって、今まで自覚が無かっただけ? もしそうなら俺ってロリコ……)
そのあとは考えないようにした。
しかし、クロシェは見逃してくれず……
「……ロリコン? ……それ……なに?」
「いぃっ!? あ、あぁ……ろ、ロリコンっていうのはーー」
「ーー……そう」
クロシェの反応は良くも悪くもといった感じでよく分からなかった。だがそれよりも、何が悲しくて少女にロリコンの説明をしなければならないのか……ある意味拷問を受けた気分だ……はぁ……
再度ため息を吐きながら歩いていると、発動したままの生命探知に反応が見られた。どうやら現在地から直進したところに少数だが魔物がいる様子。
(避けて通る? それとも直進する? どっちにするべきか……)
腕組みしながら迷っていると、クロシェが指差しながら「……あっち」と言ってその方向へ誘導する。
何故その方向へ誘導するのかは分からないが、精霊のお導きと考え、クロシェの指差す方向へ行くことに決めた。
そうと決まればと、草葉を掻き分けながらクロシェの指差しを頼りに進んでいく。
右へ、左へ、左へ、右へ……と不規則に誘導するクロシェ。この子にはきっと見えない何かが見えているのだろう。そう考えながら進む、進む、進む、進む、暫く進むが不思議と行く先々には魔力反応が見られない。
「……んん? クロシェちゃん……もしかしてさ、魔物を完全に避けて通ってる……?」
「……うん……だって……かわいそう」
「そ、そうだね……」
それ以上は何も言えなかった、余りにも凄すぎて。
クロシェが生命探知や魔力探知をしている様子は見受けられず、そもそも魔力を周囲に展開している気配が一切ない。
どうやって魔物の存在を認識しているのかは分からないが、万が一俺が魔法を使えない時には大きな助けとなるだろう。ただまぁ、そんな事態にならないことが一番なのだが。
「……助ける」
俺の心を読んだクロシェは、静かにそう呟きながらも内心では燃えている様子。
その姿を微笑ましく思い、頭を優しく撫でてあげると、クロシェは口角だけ上げて微笑む。
「ーーっ!!」
何かを感じ取ったのか、突如クロシェの表情が真顔に変わる。
何事かと思った瞬間、なんの前触れもなく生命反応が出現した。
だが突然その地点に現れたわけではなく、生命探知の有効範囲外からとてつもない速度で接近してきたのだ。
その出現した生命反応は 、1000、800、600、400、200、そして50mほどまであっという間に迫ってきた。
「なっ、なんだこの速さは!? 一体何が迫ってきてるんだ!?」
木々や草葉に遮られて視認は不可能だが、そこで息を潜めながら、こちらの様子を伺っているように感じる。
少なくとも人ではない何かで、恐らく魔物だろうと推察し、警戒を強め強襲に備えることに。
短杖を左手に持ち、右手でクロシェを後ろに下がらせ、瞳は真っ直ぐ生命反応のある地点を見据え、更には全神経を尖らせて相手の出方を待つ。
「……!! 来る!」
生命反応に揺らぎが出たことにより、姿が見えずとも相手の動きをいち早く察知。
即座に『ビーム』が撃てるよう短杖を前へ突き出し、集中力を高めるため一切の瞬目を禁じた。しかし……
「はやーー」
次の瞬間、反応する間もなく体当たりされ、木々は次々と倒れていき、草葉は道を開けたかのように薙ぎ払われる。それも、物凄い速さで。
……漸く、太めな樹木に背中から衝突したところで吹き飛びは止まり、全身をズルズルと下に落とす。
「ーー痛ったぁ……くはないな。前も後ろもオートガードに守られたのか……にしても、この威力は反則だろ……」
優に50mは吹き飛ばされたであろう俺は、無傷ではあるが勝率は微妙だと判断した。
理由は、体当たりから俺を守った障壁が見事に砕け散ったから。もし次の攻撃が先程よりも強力ならきっと障壁は打ち破られてしまい、自身もただでは済まないと推察したのだ。
とはいえ、このまま何もしないわけにはいかない。無論逃げることもしない。何故なら、クロシェを置いていけるわけがないのだから。
「はぁ、どうするか……せめてクロシェちゃんだけでも逃してあげなきゃな……」
そう呟くと徐ろに立ち上がり、クロシェが待つ場所へと歩み出した……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる