【無才】のウェポンスミスは諦めない! 〜才能の欠片もないと工房をクビにされ捲った私が〝夢〟〝復讐〟〝助力〟を経て、武器職人の頂点に至るまで〜

るっち

文字の大きさ
上 下
37 / 40

第19話 チグハグ

しおりを挟む

「──!? あ、貴方は……!?」

 まるであり得ないものでも見たかのようにイリアさんは目を見張り、そして声を震わせた。

「お久しぶりです。イリア様」

 逆にティナちゃんは大人顔負けの毅然とした態度で挨拶を……ってそういえば、確かみんなは顔見知りなんだよね。イリアさんが〝王家御用達〟の武器職人だった頃からの。

「第二王女様っ!? なっ、何故ここに──あっ」

 驚きのあまりイリアさんは転倒し、更にはティーカップごとトレイを落としてしまう……が、透かさずイリアさんはフェルムが抱き止め、それ以外はプラータが空中で元どおりに。

「おぉ~っ!!」

 二人の凄さに歓声を上げる私とティナちゃん……と、エタン。
 ていうかなんでこっち側なの? 普通に考えてあっち側でしょうが、アンタは。

「うむ、よくやったお前たち。筆頭従者である私も鼻が高いぞ」

 何が「うむ」だ! だからアンタはあっち側だっての! あと鼻が高くなっていいのはティナちゃんの方っ! いい加減気づけ!

 ……という一幕があったものの、取り敢えずは食事を摂りながらの説明となり、各々が様子を見合って食卓の椅子に座っていく。

 しかし、ここで問題勃発。
 昨夜同様、イリアさんの相対席に座れてホッとしたのも束の間、そこがまさかの右端の席。
 つまりそう。私の隣は左側のみとなるため、その席に座ろうとしたレオとティナちゃんが口喧嘩を始めた次第なのだ。

「──違う! ここは僕が座るんだ! 昨日の夜もそうだったもん!」

「いいえ。こちらの席はわたくしが座らせていただきます。それに、昨夜お姉様と共にしたのなら譲ってくださってもよろしいのでは?」

「ヤダっ! 絶対ヤダっ! お姉ちゃんの隣はこれからもずっとずっとず~っと僕なんだ! プリティナちゃんには絶対譲らない!」

「くっ、未だに間違えたままとは……コホンッ、いいですか? わたくしの名はプリティナではなくプラティナです。2年前にも訂正したはずですが、もしやわざとでしょうか?」

「そんなことどうだっていいやい! それより早くあっち座ってよ! じゅーしゃさんたちも困ってる!」

「──ッ!! そっ、そそそっ、そんなことですってぇぇぇ~っ!?」

 年相応に可愛らしくムキになるティナちゃん。
 いつもの冷静さはどこへやら。まぁ、姉としては寧ろ喜ばしい限りだけどね。
 そんな彼女がレオに何かを言い返す直前、見兼ねたフェルムが口を挟む。

「まぁまぁ二人とも。何もそんな熱くならなくてもいいんじゃねぇか? 大体よぉ、席なんてどこも一緒──」

「──じゃないもん!!」

 フェルムどんまい。とか思ってたら、次はプラータが余計すぎる一言を。

「はぁ……前から思ってたけど二人って息ピッタリだしさ、実は何気に仲良し──」

「──じゃないもん!!」

 うん、息ピッタリ。絶対仲良しだよね、キミたち。
 けど口に出したら100パー怒られるからやめとこ。あとプラータお疲れ様。

「ゔゔゔゔゔぅ~っ!!」

 威嚇し合う犬のように唸る二人。
 ここだけ見れば険悪そうに思えるが、次の展開が容易に予測できるくらいには仲良しなのでは? と、私が考えていると──

「──ふんっだ!!」

 あ、やっぱこうなったか。息ピッタリな二人のことだからどうせこうなると予測してたんだよねぇ。
 この〝互いにそっぽを向く〟っていう仲良しだけが起こせるイベントをさ……って、エタンも予測済み!? 満足げに頷いてるし間違いなくない!? てかアンタは何も言わんのかい!

 ……というまさかのもう一幕がありつつも、無事に食事を始めることができ、先ずは他愛もない雑談に興じる運びとなった。
 因みに先程の〝席取り問題〟を解決したのは私。
 といっても、ただ単に一つ左に席を移しただけなのだが。
 それにしても、こんなに大勢で食を囲むのなんて初めてだから新鮮だしなんか感激。
 まぁ尤も、結局は情報収集の場と化しちゃってるけども。

 その中でも主な話題として上がったのは以下の三つ。


 この街【スクラプス】の冒険者事情。

 王都【サンジュエル】で流行中の武器やその傾向。

 【森人エルフ】【地人ドワーフ】【獣人ビーム】などの種族遺伝について。


 それらの話は全て知らない内容だったからか、ただ聞いているだけでもとても楽しかったし凄く勉強になった。
 勿論、他の話もある。例えば子の髪色は両親の遺伝により──


「──つーかよ、お前ってどう考えてもチグハグだよな?」

「えっ? 何? チグハグ? なによ急に……あっ、でもめっちゃ気になるかも!」

 回想中、唐突にフェルムからチグハグ宣告を言い渡されてしまい面を食らうも、私自身も知らぬことなので興味津々に。
 この話題にはみんなも大変興味があるらしく、気づけばフェルム以外は誰一人として喋ってはいなかった。

「だってよ、戦える術は持ってるのに今まで戦ったことなかったんだろ?」

「うん」

「でもスキルは沢山使えるんだよな?」

「うん」

「けどスキルを最も活かせる冒険者にはならなかった」

「うん」

「負けず嫌いなのに?」

「うん」

「大好きな武器を思う存分振るえるのに?」

「うん」

「だけど超強ぇ武器を持ってる」

「うん」

「しかも超凄ぇスキルまで持ってる」

「うん」

「だがそのスキルみたいな武器を造る才能はない」

「うん……」

 ……あ、ヤバい。なんだか無性に泣きたくなってきた。
 目の前でフェルムがティナちゃんに怒られてるみたいだけど話の内容が全然耳に入ってこないや。
 それくらい事実を言われたのがショックだったんだ、私。
 まぁ、才能の欠片もないって散々言われ続けてきたから今更といえばそれまでだけどね。
 たださ、なんで神様は武器を愛すであろう私に武器造りの才能をくれなかったんだろ?
 だって神様なら事前に知っててもおかしくないのに……うんっ、絶対おかしいよ! 怠慢だよ! 不公平だよ!
 もし神様に逢えるのなら文句の1個や2個……いや、10個くらい言ってやりたい!
 そう思ったら今度は無性にムカついてきた! だから言ってやる! 夢を叶えて神様に「ざまぁ!」って言ってやるんだ! 絶対に!


「そう絶対に!!」

 食事中にも拘らず、我を忘れて立ち上がる私。
 ふと我に返って周囲を見渡すと、みんながこちらを見て目を丸くしていることを知って思わず赤面。

 あわっ、あわわわわっ!? またやっちゃった! それも奇行の定番みたいなやつ! ゔぅっ、これはもうどうしようもないよね。だからここは正直に言うしか……いやタンマ。まだイケる。まだ誤魔化せる。私ならやれる! そう私なら!!

 ベタな奇行によって羞恥心に駆られてしまったものの、ここは敢えて平静を装って涼しい顔で着席──

「──いやなんか言えよッ!!(×3)」

 めっちゃツッコまれた。それも仲良し三人組トリオに。

「ぷふっ」

 あ、ティナちゃんが吹いた。また私の思ったことを察したんだ……ってか、やっぱ固有スキル? それとも私みたいに別のスキル持ち? う~ん、どっちかだとは思うんだけど……

 などと考え事に耽っていたところ、「それでは皆さん、本題に入りましょうか」とイリアさんの方から話を切り出され、同時に場の空気が一変、和やかなものから重苦しいものに。

「あっ、それじゃあ私が──」

 事の経緯を簡単に説明。但し、改変しつつ。

 ランニングのために外出したこと。
 気づくとスラム街に辿り着いていたこと。
 そこでティナちゃんたちと出逢ったこと。
 私の潜在スキルが開花したこと。
 ティナちゃんが〝何者か〟に狙われていること。
 運悪く〝ゆきずり〟の盗賊に襲われたこと。
 ティナちゃんが抱える〝ある事情〟の──

「──お待ちくださいお姉様。その件につきましてはわたくしの方から説明いたします」

「……分かった。頑張ってね」

「──ッ!! はいっ」

 このの意思を尊重してバトンタッチ。私は静観に徹することにした。
 すると彼女は神妙な面持ちで〝ある事情〟を語りだし、助力を得るために説得を試みる。その声は重々しく力強い。

 ここが正念場だと理解しているのだ。額に浮かぶ汗を見れば分かる。あれは……決死の汗。彼女が魂を燃やして臨んでいる証。

《だからどうかっ、どうかこのの助けになってあげてください! イリアさん……ッ!!》

 大切な妹のため、一心にそう願って……ーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...