33 / 40
第17話 謝罪と感謝の言葉を心の声で
しおりを挟む「ふぅ……よしっ、んじゃ行こっか!」
勢いよく立ち上がる私。きちんと供養できてとても晴れやかな気持ち。
四種の丸い光改めヴァルガたち四人を見送った後、工房へと帰るために振り返る……とその矢先、イルズィオールに「ちょっと待て!」と何故か呼び止められた。
「ん? なに? なんかおかしかった?」
「いやいや、おかしすぎだろ。何故野郎どもの名前を知ってやがる。俺が口にしたのはヴァルガだけのはずだ……間違いなくな」
唐突に真顔で問うイルズィオール。額に汗を浮かばせつつ。
この真剣かつ困惑した表情は……本気だ。
そう強く感じ取った私は、先程の出来事を包み隠さず話した。特段、隠すようなことでもなかったし。
……
……
……うん、みんな無言。
話している途中からみんなの表情が驚きに変わっていくのは見ていて分かった。
私自身も話しているうちに、あれ? これ普通じゃないな? と思ったくらいなので当然と言えば当然だ。
でも、なんで私だけ……? そう不思議がっていたら、ティナちゃんが納得の回答を。
「……魂、ではないでしょうか……」
イルズィオールを除く全員がハッするなか、彼女は続けて話す。
「お姉様は魂に干渉できるスキルをお持ちです。なれば、魂を認識されてもなんらおかしくはないはず。それに、そう考えることであの不可解な事象にも合点がいきます」
「ふむふむ……なるほど、言われてみれば確かに……うんっ、ティナちゃん凄いし偉い!」
天使の推理に間違いなし! と頭を撫でてご褒美を。
素直に嬉しそうな表情を浮かべるこの娘を見て、寧ろ私の方がご褒美をもらった気分に。
だがその最中にふと気づく。そういえば〝あの不可解な事象〟とはなんぞや……? と。
「ふふっ、もうお忘れですか? あの時、エタンの弓と会話をなされていたのでしょう?」
「あ……」
そういえばそうだった……で、ティナちゃんの推理によると、あの時点でエタンの弓には既に魂が宿っており、私はその魂と会話もとい念話していたと考えられる、とのこと。
彼女の知人に動物と念話できる人がいて、似たような光景を見たから間違いないらしい。あ~、私もそのスキル欲しい~!
「くっ、私もあのスキルが欲しかった……動物さんと意思疎通が取れるとはなんと羨ましい……ッ!!」
嘘でしょ!? まさかの同じ気持ち!? と思いきや、私以上に右拳を握り締めて悔しがるエタン……はさて置き、終始疑問符を浮かばせていたイルズィオールが最後の最後に口を開く。
「あぁ、あのマザロリコン王子のスキルか……ありゃ確かに便利だ。ソイツで情報収集してるようだしな」
「──!? 貴方、何故そのことを……いえっ、そもそも何故ジオスお兄様を知っているのですか!?」
「あん? 何故ってそりゃあ──」
「──あー、お腹空いたなー、早く帰ってご飯食べたいなー」
下手クソな演技で遮った。めっちゃ見られてるけど。
ヤっ、ヤバいっ、ヤバいヤバいヤバいっ! なんか線と線が繋がってきてる! いずれ分かることだけど今だけはダメっ! ティナちゃんの素性を知ってるのがバレちゃう! 知ってて隠してたのかって嫌われちゃう!
みんなから物凄く怪しまれているのも厭わず、「とっ、とにかく早く行こっ!」と強引に出発。早足で工房へと向いだした。
……道すがら、不意に気になったことを皆に聞いてみる。
「あのさ……みんなが強いのは見て分かるんだけど、ぶっちゃけどのくらい強いの?」
この質問に答えるのは難しい。例の鍛治力みたく数値化されているわけではないからだ。
けれど、どうしても今すぐ聞いておきたかった。もし次また似たような状況になっても焦らずに済むように。
「……ん? なんだ唐突に……まぁいい。筆頭従者であるこの私が直々に教えてやろう」
とても偉そうだけど、とても親切なエタン。だって、誰よりも先に教えてくれるんだもの。
それほど親切な筆頭従者様の話では、従者のみんなは〝冒険者ギルド〟に登録しており、フェルム・プラータ・エタンの三人は現在、FからSまである冒険者ランクの中でも上位戦力である〝Bランク〟なのだそう。
「なるへそ~、どうりで強いわけだぁ……って、あれ? ゴルトだけBランクじゃない……? ってことはまさか……Aランクなの!?」
予想に驚きつつも、期待に胸を膨らませて聞いてみた……が、エタンの口から出たのは「違う」の一言。
そうなれば、ゴルトの冒険者ランクは必然的に中位戦力の〝Cランク〟となるため、盗賊らを一人で連行していることに強い不安が。あわわっ、大丈夫かなぁ!?
「……ふむ、その不安そうな顔……お前、何か勘違いしているようだな」
「え……? 勘違い? それって……どゆこと?」
ちんぷんかんぷんの私に対し、エタンは少しだけ口角を上げてから答え合わせを。
「奴は、ゴルトはSランクだ。この世に十二人しか存在しない、な」
「え゙ぇ~っ!? エエエエSランクぅぅぅ~っ!?」
衝撃の事実に思わず立ち止まって叫んだ私。プラータが「はぁ……煩い」とぼやくほどの声量で。
特位戦力〝Sランク〟……それは、国を跨ぐ者。国内のみならず国外からの依頼をも請け負うことのできる、特殊にして特別なランクであり冒険者の頂点。
最上位戦力〝Aランク〟を【自国の守護者】とするならば、こちらは【世界の守護者】と云えるだろう……と、エタンがドヤ顔で教えてくれた。
てか、なんでドヤ顔? なんで自分のことみたく自慢げに話した? って感じの顔を見せるみんな。
私も同意見だが教えてもらった手前、顔には出さぬよう努めて「あはは……」と苦笑いで誤魔化す。
そんな折、イルズィオールだけは驚愕の表情を見せ、声を震わせながら大きな独り言を。
「ゴ、ゴルトだと……まさか【破界】の──ッ!? な、何故それほどの男がこんな田舎街に……」
んなっ!? いっ、田舎街で悪かったな! と腹を立てるも、気になるワードが出たのでつい口に。
「はかいの……?」
「あぁ、アイツの二つ名だ。世界を破壊できるほどの膂力を持つってんで付けられたっぽいぞ? 大袈裟だよなぁ……まっ、実際凄ぇ馬鹿力だけどよ」
フェルムの説明を聞くも、いまいちピンとこない私は「ふーん、よく分かんないや」と興味なさげに返しては再び歩を進め、程なくして工房の裏庭に到着。
そういえば裏庭見るの初めてだぁ~ワクワクっ! と興味津々で辺りを見渡した……が、この場にあるのは手付かずとなったものばかり。
例えば……あの砂埃に塗れた物置や井戸、無造作に生い茂った雑草群、あと枯れ果てた小さな薬草畑。
しかし、それだけでも分かる。充分すぎるほど伝わってきた。いかにこの小さな薬草畑を大事にしていたのかが。
物置の中に積まれた数多の肥料袋、井戸の軒先に吊るされたお洒落な如雨露、無造作といえど大事な所には草一本生えぬよう敷かれた厚めの防草布。どれもこれも見れば一目瞭然だ。そう、だから……
だからこそ悲しい。
大事にされていたはずなのに、理不尽にも枯れる運命を辿らされた薬草たちを想うと。
だからこそ苦しい。
生き甲斐ともいえる薬草たちが日に日に枯れていくさまを見て、その度に悲しみ嘆いたであろうあの人を想うと。
だからこそ憎い。
それほどまでに優しく慈愛に満ちた人を裏切り陥れた挙句、生き甲斐までをも奪った奴らの存在を想うと。
だからっ、だからこそっ、大変だろうけどっ、全部私がなんとかしなきゃ!! って、そう思ったんだ。
「……あれ? おかしいな……私、なんで泣いて……」
己の意思とは関係なく、自然と流れる涙。
突然泣き出した私を見て、唖然とするみんな。
ただ一人、この娘だけは違う。私と同じ。
きっと、私が抱いた負の感情を察して引き摺られてしまったからだ。
悲哀・苦悶・憎悪。それらが混ざり合うことで生まれたなんとも形容し難いこの感情と、そこから見出した勝手な使命感によって。だけど、それでも……
ごめんね、一緒に泣かせちゃって……
ありがとね、一緒に泣いてくれて……
謝罪と感謝の言葉を心の声で伝え、私は泣き笑った。
一緒に泣いてくれる人がいる。それがこんなにも幸せなことだって、知ってしまったから……──
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界大使館はじめます
あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?!
チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。
不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。
作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。
カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416
一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170
同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567
ニトナラ《ニート、奈落に挑む》
teikao
ファンタジー
冒険者達が集まる街、サンライズシティ。その近くにある巨大なダンジョンに冒険者は挑んでいく。
一説では「あの世」と言われ、全てを吸い込むはずのブラックホールから放たれた「人間の負の感情」が、地球に落下し誕生した大穴…通称【奈落】
そこにあるのは、
人智を遥かに超える秘宝
全てを断ち切るほどの武器
どんな病さえ治す秘薬
そして、
冒険者達を阻む数多のモンスター
負の感情の化身である【奈落六大将】
人々は命すら賭けて、それぞれの夢を追いかけて奈落に挑む。
私、作者のteikaoがカクヨムで執筆していた「ニート、奈落を旅して生計を立てる」の設定・ストーリーを再編した完全版になります。手に取っていただけたら幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
AI artが好きなのでたくさん載せて行きます!また、BlueskyでもAIイラストを載せて行きます。そちらもアカウント名はteikaoですので、興味のある方は是非ご覧ください(^^)

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
浜薔薇の耳掃除
Toki Jijyaku 時 自若
大衆娯楽
人気の地域紹介ブログ「コニーのおすすめ」にて紹介された浜薔薇の耳掃除、それをきっかけに新しい常連客は確かに増えた。
しかしこの先どうしようかと思う蘆根(ろこん)と、なるようにしかならねえよという職人気質のタモツ、その二人を中心にした耳かき、ひげ剃り、マッサージの話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる