25 / 40
第13話 出発
しおりを挟む「……まぁ落ち着け。気持ちは分かるが今はどうにもならん。その怒りは然るべき時が来るまで取っておけ」
激怒する私を冷静に諫めるエタン。
流石は眼鏡を掛けているだけあって冷静さがダンチだ。
確かに彼の言うとおり……悔しいが今はどうすることもできない。
今の私にできることといえば、みんなをイリアさんの元へ連れて行くことだけ。
だがその前に、先程エタンから聞いたティナちゃんの家族構成と各人の特徴を再確認のため私なりにまとめてみた。
父親『ディアモンド』凄く偉い人。けど優柔不断。
母親『ルビーア』派手好き。しかも強欲。
長兄『サフィアス』紳士。でも女好き。
長姉『エメラルダ』派手好き2号。あと面食い。
次兄『アレクサンドル』陰険。そのうえ陰キャ。
三兄『トパジオス』マザコン。そしてロリコン。
天使『ティナ』最高に可愛い! 天使しか勝たん!
改めて考えると碌なやついないなぁ……って、やっぱ納得いかない! なんでティナちゃんだけ宝石に因んだ名前じゃないの!? 私が蹴り飛ばす相手は父親!? それとも母親!? はたまたどっちも!? てか、どうせならティナちゃん以外の奴ら全員を蹴り飛ばしてやりたいよ!!
再確認のつもりが怒りのボルテージを更に跳ね上げる結果となり、何かでこの鬱憤を晴らねば気が収まらぬ状態となったため、あ゙ーも゙ーっ! こうなったらひたすら武器を造ってやる!! と苛立ちつつ思い立ち、「早く行こ!!」と怒り口調で皆を急かした。
「なぁおい、なんであんなキレてんだ? アイツ」
「さぁな。余程腹に据えかねているのではないか?」
「ふーん、よく分かんねぇやつ。……あっ、まさか生r──」
「──そこ煩い! くっちゃべってる暇があったらさっさと動く!」
「ひぃ!?(×2)」
急かしたにも拘らずフェルムとエタンがコソコソと何かを喋っていたので一喝すると、二人は慌ててリュックを背負い、駆け足で玄関へと向かった。
先に外へ出た二人は周囲を警戒。異常がないことを確認してから私たちに合図を送る。
因みに刺客の姿もないらしく、恐らくは住人の餌食となったのだろう。可哀想だが自業自得だ。
数時間ぶりの外。雲一つない空を見上げて少しだけ気が晴れた。
でもやっぱり武器造りで憂さ晴らしを……ううん、単純に武器を造りたいだけかも。だって、私は武器職人なんだから。
それにさ、今なら昨日よりもっと上手く造れる気がするんだ。根拠はないけど、確かに。
こうして謎の自信を得た私は四人の仲間、そして一人の家族と共にイリアさんとレオが待つ工房へと歩みだした。
尤も、普通に街中を移動するだけなので魔物は出ずのうえに例の刺客も既にやっつけてあるため特段気にすることもないのだが。
とはいえ、気になることはある。それは進化した手裏剣と弓の能力について。
十六人もの刺客を倒せたのもきっと能力を使ったからに違いない。
うーん、もし仮に魔物か刺客が出てきてくれたら能力を見れたりするのかなぁ……いやいや、不謹慎すぎるから今のはナシで! と考え事をしつつ首を横に振っていたところ、この奇行とも取れる姿を見ていたフェルムから急に話しかけられることに。
「なぁ、さっきから何してんだ? ひょっとして気になることでもあんのか?」
「ふぇっ!? あぁ、うん、なんか能力ってのを見てみたいなぁって。えへへ……」
「はぁ……なんだそんなことかよ」
「──ッ!? そそっ、そんなことだとぉ!?」
フェルムの言い草にカチンときて、やっぱコイツ嫌い! と強く思い直し、武器が能力を得たという事実がどれだけあり得ないことなのかを捲し立てるように喋りだした……が、当のコイツはその話を完全に無視。それどころかエタンとプラータに声をかけるなり話し始める始末。
「あい──をみてぇ──ねぇか?」
「ふむ──やりたい──かしいな」
「おれ──きなくも──どくさい」
会話がよく聞き取れないので内容はさっぱり分からず。
だがそれよりも、無視されたことで腹立たしさではなく寂しさと悲しさに苛まれ、自分でも驚くほど落ち込んでは無意識に呟く。「幾ら私のことが嫌いだからって、何も無視することないのに……」と。
初めての出逢いが最悪だったし、こうなるのも当然かぁ……はぁ……と後悔のため息を吐いてすぐ、いつの間にか隣に来ていたプラータが驚きの一言を告げる。
「ねぇ、めんどくさいけど見せてあげる」
……ん? 見せる? 何を? ……はっ! まさかち○ちん!? ──って、そんなわけないかぁ。それじゃあ一体何を……あっ。
この時、全てを理解した。
プラータが何を見せようとしているのか、何故急に見せようとしてきたのか、その答えは私とフェルムのやり取りにあったのだ。
そう気づくと、よく聞き取れなかったはずの会話の内容もまるでパズルの如く次々と当て嵌まっていく。
【アイツが武器の能力見てぇっつってんだけどよ、なんとかなんねぇか?】
【ふむ……見せてやりたいのは山々だが、私の場合は標的がないと難しいな】
【俺はまぁ、できなくもないけど……うーん、正直めんどくさい】
……うん、こんな感じ。
それ以降は落ち込んでいたので全く分からぬが、最終的にはプラータが能力を見せてくれるかたちで落ち着いたのだろうと推測される。
「そっかぁ……えへへっ、そっかそっかぁ」
フェルムに嫌われていないことを知り、またそれ以上に私のことを気に掛けてくれていた事実につい頬が緩んでしまうと、先程まで落ち込んでいたのが嘘のように心が弾み、そのままの勢いで「是非っ!」とプラータに返答した。
「ふふっ、よかったですね……フェルム。もしもお姉様の瞳から涙が零れていたら、即刻貴方を亡き者にするところでした」
突如聞こえてきた天使の告白により、フェルムのみならずみんなの顔が真っ青となる。
ひぇっ!? こっ、これって聞こえないフリの方がいいの!? ねぇどうなの!? と内心ドギマギしていると、私が敢えて取らずにいた作戦〝別の話題〟をプラータが取ってきたため、その勇気を讃えて作戦に乗ることにした。
「あーそーいえばー、能力を見せるんだったー、キミも早く見たいよねー」
「下手クソかよ……じゃなくてそだねー、私早く見たいなー、あー見たくて見たくて堪らないなー」
「はぁ、そうなのですね……?」
「くっ、殺せ!」
「えっ!? 何故です!?」
だってだって、自分の芝居が壊滅的に下手クソだったの忘れてたんだもん! うわぁぁぁ~ん!
……とまぁ、そんなこんなで精神的ダメージを負いながらもスラム街を抜け出し、人通りのない場所に着いてから芝居どおり手裏剣の能力『風遁』をプラータに披露してもらう運びとなった。
因みに捕らえていた二人の刺客は逃がしてあげたみたいで、それを後で聞いてホッとしたのを覚えている。殺生ダメ絶対。
「はぁ……仕方ない。じゃ、いくよ」
ため息を吐き、面倒がりながらも素早く〝印〟を結ぶプラータ。
うん、めっちゃ器用だねキミ。
なんて思っている間に〝印〟を結び終えたプラータが「風遁……疾風の早駆け」と小声で術名を唱えた。すると……
「ひゃっ!? えっ、なにっ!? もしかして風を纏ってるのコレっ!?」
急に柔らかな風が全身を覆い、不思議な浮遊感に思わずビックリ。
その拍子に周りを見ると、どうやらみんなも風を纏ったらしく、各々が私と同様の反応を見せる。
初めての感覚に戸惑いつつも、溢れ出す好奇心には逆らえずに一歩を踏み出s──
──軽っ! 何コレ軽っ! あり得ないくらい軽いんですけど!?
あまりの軽さに一歩どころか走りだす私。
それも風を切って……いや違う、風になりきっての全力疾走で。
「あははははっ!! 私は風よ! 風になったのよ!」
好奇心が溢れすぎて最早自分が何を口走っているのかすらも分からぬ状態ではあるものの、ただ唯一分かることといえば疾走中は常に追い風ブーストが掛かるということ。
これなら身体の負担や疲労も少なく済むし、何よりめっちゃ速く走れて気持ちがいい。ランニング好きの私にはもってこいのやつだ。
……結局、そのままランニングハイに突入した私は工房の近くまで独り走り続けてしまい……──
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
我儘女に転生したよ
B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。
性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。
夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。
でも、息子は超可愛いです。
魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる現代暗躍復讐譚~
三十三太郎
ファンタジー
10月31日 23:00 虹のように光る流星が夜空に流れる。異世界との世界間接続魔法による魔力流入の光を、人々が流星と錯覚したのだ。こうして異世界と繋がった平行世界の日本にて、魔法により居場所を得た男、墨谷七郎。仲間、かけがえのない友、その全てをある長い夜の中失ってしまう。後悔と憎悪を引きずりながら、狂気的な方法で失ったモノを取り戻そうとする七郎。その彼を慕う少女や彼に許しを請う者、彼女達が突き放され「もう手遅れだった。愛されない。許されない」と理解させられてゆく。明けない夜の中、幽かな光に縋りついた男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる