【無才】のウェポンスミスは諦めない! 〜才能の欠片もないと工房をクビにされ捲った私が〝夢〟〝復讐〟〝助力〟を経て、武器職人の頂点に至るまで〜

るっち

文字の大きさ
上 下
17 / 40

第9話 事情と家族と紹介と

しおりを挟む

「……お姉様? 一体どうなされたので──いえ、妹であるわたくしは察しました。お姉様はイリア様をご存じ……違いますか?」

 名探偵ばりに得意げな表情で問いかけてきたティナちゃんに対し、更なる動揺を見せてしまう私。目が泳ぎすぎて最早痛い。
 別に隠す必要はないのだろうが、今のイリアさんにこれ以上の心労を掛けてはいけないと即座に考えてのこの動揺。
 そんなわけでティナちゃんたちには悪いけど、ここは誤魔化すしか──

「──お願いいたします、お姉様。どうかわたくしどもをイリア様の元へお導きください」

「──ッ!? ティナちゃん……」

 先程とは打って変わってあまりにも真剣な表情。
 それに、なんて真っ直ぐで澄んだ瞳をしているのだろう。
 もしここで誤魔化したりすれば、その瞬間から私はこのの姉ではいられなくなる……いや、いてはいけない。
 だから正直に話すことにしたよ……これからもずっと姉で居続けたいから。

「……分かった。みんなでイリアさんのとこへ行こっか」

「──!! はい!」

 ……とまぁ、そんな感じでみんなを連れてイリアさんの元へ帰ることとなった……が、その前に互いの事情を共有するために話し合いを続けることにした。
 因みに提案者は私。だって、理由も分からず連れて行くわけにはいかないもの。

「そ、それは……いえ、仰るとおりです。寧ろその提案はわたくしからするべきでした。お姉様、申し訳ございません」

「ううん、大丈夫っ! 私は全っ然気にしてないよ! それより教えてもらえる? どうしてイリアさんに会いたいのかをさ」

「はい……実は──」

 ティナちゃんの話によると、現在彼女の家では家督の後継者争いをしており、ここ最近でより一層激化してきたので元々深い親交のあったイリアさんに助力を求めるため会いに来たらしい。

 本来ならまだ動くつもりはなかったのだが、兄姉から刺客が送られてくるようになったことから動かざるを得ない状況へと変わり、ひと先ずはこのスラム街で身を隠しながらイリアさんに会う機会を窺っていた、とのこと。

 その話を聞いて合点がいった。
 あの時、チャラ男が往復ビンタで男Gを起こした理由……それは、男Gが兄姉から送られてきた刺客か否かを確認するためだ。
 でも結果はシロだったのだろう、すぐに男Gを解放して私たちの所へ戻ってきたのだから。
 ただその後に「くくくっ、あの野郎めっちゃションベン臭ぇwきっと俺にビビって漏らしたんだぜ?」とチャラ男が笑いながら自慢げに話してきた時は流石に二人して焦ったけど。


「なるほどねぇ……うん、みんなの事情はよく分かったよ! あとスッキリした! ……じゃあ、次は私が話す番だ」

 先程までの和かな笑顔から一転、私は真顔で〝ある事情〟を話し始める。

 その内容は〝今のイリアさんは心の病によって体調を崩しているためこれ以上の心労を掛けたくない〟というもの。
 続けて、病の原因や復讐については伏せつつ「そういうことだから助力を得られるか分からないよ?」とだけ伝えた。

「……そうでしたか……あのイリア様が……ふぅ、気になることはございますが承知いたしました。そちらで結構です。もし助力が不得の際はまた別の方法を考えますので問題ございません」

「そっか……なんかごめんね?」

 私が謝ることではないのだが、それでも何故か謝りたかった。その理由は多分、イリアさんやレオのことを家族のように思っているからだろう。

 そう……たとえ出逢ったばかりでも、たとえ血は繋がっていなくても、二人──ううん、三人は私にとって大切な人であり家族なんだ。

「い、いえ、お姉様が謝ることでは──」

「──ううん、イリアさんは家族だから……といっても自称だけどね。へへっ」

「家族……羨ましい限りです。わたくしの親兄弟は家族であって家族ではございませんから。……なので、わたくしもなれるでしょうか。誰かの家族に……」

「……無理だね」

「えっ? そ、そんな……何故そのような──」

「──だってもうなってるでしょ? 私の妹にさ。だから他の人と家族になるのはお姉ちゃんが許しません!」

「──ッ!! お姉様ぁぁぁ~っ!!」

 ティナちゃんは余程嬉しかったのか、涙を流しながら笑顔で私に抱きついてきた。それもギューっと力いっぱい。ヤバい……幸せすぎるぅ!

 そんな幸せ絶頂のなか、複数の視線にふと気づいたので顔を上げてみると、目の前で大の男三人が私たちを見て泣いていた。嬉しそうに「よかった、よかった」とか言いながら。
 しかも後ろからは「グスッ、グスッ」って音まで聞こえてくるし……なんなの? この泣き虫どもは。

「はぁ、折角の幸せタイムだったのになぁ……まっ、しゃあないか!」

 皆ティナちゃんを想っているからこそだと割り切り、やれやれと思いながらも下半身に伝わる柔らかな感触と心地よい温もりを味わうことにした……って、これじゃあ私っ、ただの変態じゃない!?

 唐突に気づいてしまった真理に愕然としていたところ、ティナちゃんは透かさず顔を見上げて「……お姉様、もしや何かおありですか?」と私の異変に感づいたかの如く言動を見せる。

 慌てて誤魔化そうとした私は「ななっ、なんでもないよ!? ……そっ、そうだ! みんなのこと知りたいから紹介してほしいなぁ~、なんてね!」と余計なことを口走ってしまい、結果的にはどうにか誤魔化せたものの男たちを紹介してもらう展開に。ナンデコウナッタ?


「それでは、出発前に紹介をさせていただきますね?」

 急遽、ティナちゃん仕切りのもと男従者四人の紹介が始まった。

 先ず一人目は、緑髪に切れ長の鋭い目が特徴的な筆頭従者『エタン』
 いつも冷静で地頭が良く思考の回転も速いので参謀的な立ち位置ではあるが、実は弓術の使い手で〝先読み撃ち〟を得意とする。トレードマークは特注のインテリ眼鏡。

 次に二人目は、茶髪に2メートルをも超える長身と鍛え抜かれた肉体を持つ無口な脳筋従者『ゴルト』
 頭を使う仕事はさっぱりだが戦闘ともなれば金色こんじきの戦斧を豪快に振るい一騎当千の活躍を見せてくれる頼もしき存在。トレードマークはやはり自慢の筋肉。

 続いて三人目は、白髪に童顔のなんだかのほほんとした空気を醸し出す癒し系従者『プラータ』
 普段は気だるそうにしているが暗躍する際は別人の如く俊敏に動く。トレードマーク……ではなく、チャームポイントは左目の斜め下にある3つの小さな泣きぼくろ。

 更に四人目は、知ってのとおり赤髪に数多のピアスを付けた従者らしからぬ格好のチンピラ従者『フェルム』
 喧嘩っ早くてなんでも拳で解決しようとする知性の欠片もない男だが、一方では義理堅く仲間想いの優しい一面を持っている……らしい。トレードマークはお気に入りのサムライヘア。

「最後に五人目ですが、名はラ──あ……」

「……ラ? 五人目?」

 この場にはいない五人目を口にしたティナちゃん。
 話の途中で何かを思い出すと、「いえ、なんでもございません……四人目で最後でした」と何やら不自然に紹介を終わらせた。

 今の感じから〝訳あり〟だと察した私は、何か情報を得られればと従者四人の顔を窺ってみる。

 ……うん、やっぱり訳ありだ。明らかに暗い顔してるもん、みんな。
 四人とも戸惑いながら何かを思い出してる……ううん、何かを思い出したからこそ戸惑ってるんだ、きっと。

 そんな彼らの姿に、これ以上踏み込んではいけない気がしたので「そっかぁ、てっきり私にだけ見えない五人目でもいるのかと思ったよぉ。あはは……」と苦し紛れの冗談を言ってみた。
 すると、一斉に私を見るなりみんなの口元に力が入る。

 あ、あれぇ……? 私っ、余計なこと言っちゃった!? と冷や汗を掻き始めたその時、急にチャラ男が「はははっ! なんだよ見えない五人目って幽霊かよ! ガキじゃあるまいし!」と言ってまさかの大笑い。
 その笑いを皮切りに、みんなも笑いだしたことで暗い顔は鳴りを潜め、それ以降は明るい雰囲気で出発準備に取り掛かることができた。

「はぁ~、よかったぁ……まっ、結果オーライってやつかな!」

 ……されど、心の中にしこりができてしまった。〝五人目の従者〟という大きなしこりが……──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

ナンパなんてしてないでクエスト行ってこい!

直哉 酒虎
ファンタジー
ある日異世界転生してしまった芹澤恵莉奈。 異世界にきたのでセリナと名前を変えて、大好きだったアニメやゲームのような異世界にテンションが上がる。 そして冒険者になろうとしたのだが、初めてのクエストで命の危機を感じてすぐ断念。 助けられた冒険者におすすめされ、冒険者協会の受付嬢になることを決意する。 受付嬢になって一年半、元の世界でのオタク知識が役に立ち、セリナは優秀な成績を収めるが毎日波乱万丈。 今日もクエストを受注に来た担当冒険者は一体何をやらかすのやら…

闇属性転移者の冒険録

三日月新
ファンタジー
 異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。ところが、闇属性だからと草原へ強制転移されてしまう。  頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険がスタートした。  強力な魔物や敵国と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指していく。 ※週に三話ほど投稿していきます。 (再確認や編集作業で一旦投稿を中断することもあります) ※一話3,000字〜4,000字となっています。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...